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O plus E 2022年Webページ専用記事#1
 
第79回ゴールデングローブ賞ノミネート作品
(+受賞結果)
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
 
◆今年もGG賞ノミネート作をまとめて紹介
 
 

 余興としてのアカデミー賞予想はもう10年以上続けている。例年なら,2月の最終日曜日の夜(現地時間),冬季五輪開催年はその翌週と決まっているのに,昨年はコロナ禍で候補作発表も,授賞式も約2ヶ月遅れとなった。
 つまらないな,手持無沙汰だな,と思っていたところに,前哨戦と言われるゴールデングローブ賞(以下,GG賞)も約1.5ヶ月遅れとなり,丁度,例年のアカデミー賞の週に授賞式があることを知った。それならと候補作を調べ,特別企画として,当欄で未紹介だった映画をまとめて9本紹介した。授賞予想はせず,どの部門のノミネート作であるかだけを記しておいた(後日,受賞結果も付記した)。
 これが常連の愛読者から好評であったため,今年も同じように掲載してみようと考えた。昨年の12月13日(現地時間)のノミネート作の発表があり,対象作品は35本であった。最多ノミネートは『ベルファスト』と『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の7件である。各作品の国内での公開時期,ネット配信時期を調べ,このWebページでの紹介作品と本誌誌上での掲載計画を立てた。
 実際にマスコミ試写会やネット配信で視聴を始め,年明けまでの12本までは見終えた(計画は15本)。昨年同様,授賞式前に見終えた作品をまとめて紹介したかったのだが,残念ながら早めにこれは断念した。昨年とは違ってGG賞の授賞式が例年通りだと,本誌1・2月号の締切時期に近く, Web掲載分の紹介記事を優先すると,両立できず,本来の本誌VFX映画時評欄に穴をあけてしまうからである。このため,1月9日(現地時間)に授賞結果が判明するのを待つことにした。その結果を添えて,その時点までに書き終えている記事と今後の紹介予定を記すことにした次第である。
 元々,今年もどの作品がGG賞を受賞するかの予想をする気はなかった。それはアカデミー賞にとっておき,読者諸兄もこの紹介記事とGG賞の結果から,一緒にアカデミー賞予想を楽しんでもらうつもりだからである。

  『ハウス・オブ・グッチ』 :まずは最も印象に残った映画からだ。何といっても,主演のレディー・ガガの印象が強烈で,ドラマ部門の主演女優賞にノミネートされている。ファッションブランドのGUCCIの創業者一族内の権力闘争や3代目社長の殺人事件を描いた実話ベースのドラマで,サラ・ゲイ・フォーデンの同名ノンフィクション小説の映画化作品である。監督は老匠のリドリー・スコットで,創業者の孫で暗殺される社長のマウリツィオ・グッチをアダム・ドライバー,その妻パトリツィアをレディー・ガガが演じている。グッチ家の御曹司とパーティーで知り合った女性が積極的に彼にアプローチし,父親から勘当されながらも2人は結婚にこぎ着ける。伯父の支援を受け,NYに移り住んで彼らが成功する前半は気持ちがいい。ガガが演じるパトリツィアは22歳や25歳には見えないものの,魅力溢れる女性で,伯父ならずとも応援したくなる。助演陣もマウリツィオの父ロドルフォにジェレミー・アイアンズ,その兄でグッチ家のトップのアルドにアル・パチーノ,その息子パオロにジャレッド・レト,パトリツィアが頼る占い師ピーナにサルマ・ハエック,という豪華キャストである。その中で最も印象に残ったのは,伯父アルド役のアル・パチーノだ。本作ではマフィア役ではないのだが,彼がイタリア人を演じるだけで,そう感じてしまう。禿頭で,およそ知的でない役柄で登場するJ・レトも,『スーサイド・スクワッド』(16年9月号)のジョーカー役と同じ俳優と思えない変身ぶりだった。中盤以降,彼らが織りなす愛憎劇は,脱税,著作権侵害,経営権を巡る確執,不倫から,殺人事件にまで至ってしまう。これが現実世界だ,お伽話では済まないと実感させられる。報道では,財産目当てで結婚し,グッチ家を支配した稀代の悪女と扱われているパトリツィアだが,本作ではレディー・ガガの演技に魅せられ,彼女に同情的に見てしまう。ガガの演技力は『アリー/スター誕生』(18年11・12月号)よりも数段レベルアップし,俳優としても一流になったと感じる。全編を通じて,ファッションも店舗の装飾も見ものだ。ガガの豊かな胸を強調したドレスにも,ハイセンスなスキーウェアにも息を呑む。アダム・ドライバーも相変わらず上手い。彼が主演男優賞,映画も作品賞にノミネートされても不思議でないと思ったのだが,ガガ1人のノミネートはちょっと意外だった。
 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』 :ここから先はすべてネット配信で観られる映画である。まずは,Netflix独占配信映画で,ドラマ部門の作品賞,主演男優賞の候補作で,他に助演男優賞,助演女優賞,監督賞,脚本賞,作曲賞の計7部門ノミネートされている。これは『ベルファスト』と最多タイで,今年の作品賞の本命作品だ。ヴェネツィア国際映画祭では銀熊賞(監督賞)を受賞している。時代は1925年,舞台は米国のモンタナ州の牧場地帯で.まさに西部劇の舞台である。多数の牛やいかにもカウボーイ姿の人物が登場するが,拳銃の撃ち合いはない。大牧場を経営する兄弟を巡るヒューマンドラマで,複雑な三角関係の映画でもある。監督・脚本は,『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン。同作で世界的名声を得たニュージーランド出身の女性監督だから,なるほど西部劇をそのように描くのかと納得する。主演はベネディクト・カンバーバッチで,威圧的で冷酷な牧場主フィル・バーバンク役に配されている。弟が先に未亡人と結婚したのが気にくわず,威張りちらし,新婚夫婦をことあるごとにいびりまくる。元々の容貌からして,こういう性格の悪い男がよく似合う。顔もスタイルも,見かけは悪いが心優しい弟ジョージ役は,脇役俳優のジェシー・プレモンス。マット・デイモンやフィリップ・シーモア・ホフマンと顔立ちが似ていることから,彼らの幼少時代や息子役を演じてきた。本作のジョージは,彼のキャリア中で最も重い役であったに違いない。彼と再婚する未亡人ローズ・ゴードン役はキルステン・ダンスト。子役出身だが,大人になってからは,トビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』3部作 (02, 04, 07)で,ピーター・パーカーの恋人メリー・ジェ―ンを演じていたのが印象に残っている。この2人が,ぎこちない恋心を抱き,心を寄せ合う過程の描写が見事だ。未亡人が初婚のこういう男性を受け容れる様子は,女性監督ならではの演出力だと感じた。2人が実の夫婦というのが,キャスティングの味噌である。TVシリーズ『FARGO/ファーゴ』で夫婦役を演じた後に婚約し,2児をもうけている。実生活では2人とも初婚だが,女性が6歳年上であるから,子連れの未亡人と純朴な弟の結婚に通じるものがある。原作小説があるので,脚本の人物設定が先だったのだろうが,キャスティングが先で2人の関係を書き換えたのかとまで思ってしまった。映像としては,大自然,荒野,牛の群れのシーンは圧巻だった。「憂鬱,孤独,苦痛,嫉妬,恨みなどが,音として響き渡り…」という「The Hollywood Reporter」の評は,まさにその通りだと実感した。堂々たるドラマだが,結末は少し意外だった。ラストシーンも少し凝っている。[注:7部門ノミネート中,作品賞助演男優賞監督賞の3つの受賞を果たした。]
 『ドント・ルック・アップ』 :次もNetflix配信映画で,こちらはミュージカル・コメディ部門の作品賞候補作である。同部門での主演男優賞,主演女優賞,そして脚本賞の計4つのノミネートを果たしている。こちらもかなりの豪華キャストで,ジャンルはSF風刺コメディだ。地球滅亡ものだが,その原因は巨大彗星の地球衝突である。彗星が燃え尽きずに隕石となることは多いが,ちょっとやそっとの大きさではなく,直径約10kmというからエヴェレストの高さ以上だ。衝突確率は99.78%,広島の原爆の10億倍規模の爆発が起き,数kmの高さの津波が発生して,世界人類は滅亡してしまうという。直径10kmで津波が数kmなのか,そうだとしても地球が破壊される訳ではないと思うが,環境激変で人類が生存できなくなるということなのだと理解した。この彗星を発見したのは博士課程の女子学生ケイト・ディビアスキーで,『ハンガー・ゲーム』シリーズ(12〜15)『パッセンジャー』(17年4月号)のジェニファー・ローレンスが演じている。彼女の指導教官で天文学者のランドール・ミンディ博士役が,GG賞常連のレオナルド・ディカプリオだ。何と主演男優賞で10度目のノミネートで,過去に3回も受賞している。この師弟2人が必死で彗星衝突の危機を訴えるのに,大統領(メリル・ストリープ)や人気TVキャスター(ケイト・ブランシェットとタイラー・ペリー)が彼らを虚仮にし,まともに取り合ってくれない。これほどの危機でも,為政者は自分の権力維持が最優先事項で,マスメディアは下世話な芸能ネタに明け暮れている。アメリカ社会の愚かさを皮肉っている壮大な風刺劇である。彼らに加えて,大統領の息子の主席秘書官にジョナ・ヒル,スマホ会社の創業者にマーク・ライアンス,危機回避のため宇宙に行くことを志願する軍人にロン・パールマン等が配されている。音楽バンドのヴォーカル役にアリアナ・グランデを起用し,劇中のライヴで歌わせるというサービスまで盛り込まれている。バカバカしいやり取りがあった後,それなりに科学的根拠がありそうな衝突回避策がいくつか登場するが,ことごとく失敗に終わる。果たして,地球人類はこの危機を乗り越えられるのか……。ネタバレになるのでキチンと書けないが,壮大なラストシーンだった。ロケットの打上げや失敗,大統領へのプレゼン,彗星内部の鉱物採集をするドローン・ロボットなど,VFXシーンもしっかり登場する。主担当はFramestoreで,Scanline VFX, Instinctual, Lola VFXも参加し,PreVis担当は Day for Nite社だった。監督・脚本・製作は,『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(16年3月号)『バイス』(19年3・4月号)のアダム・マッケイ。ウィル・フィレルのコメディ映画の監督経験もあり,本作もミッドクレジットに至るまで皮肉とギャグに徹しているのは評価できるが,やはりこの監督は硬派の社会派映画の方が似合う。
 『愛すべき夫妻の秘密』: 今度はAmazon Prime Videoでの配信作品で,ドラマ部門の主演男優賞,主演女優賞,そして脚本賞の3部門の候補作である。描かれているのは,往年の人気TV番組『アイ・ラブ・ルーシー』の主演の男女の物語で,その収録風景も登場する。「シットコム」と呼ばれる連続TVドラマの最初の成功例と言われている。劇中で夫婦であり,私生活でも実の夫婦であったルシル・ボールとデジ・アーナズ夫妻の危機の1週間を描いている。本作の原題の『Being the Ricardos』の「Ricardo」とは,劇中の2人の姓である。回想シーンで,2人の出会いやハリウッドでの出来事も登場する。夫婦関係の危機を描きながら,当時のTV番組制作の舞台裏を描き,台本の読み合わせやカメリハの様子がよく分かる。米国のベビーブーマーなら,ひたすら懐かしいはずだ。同番組は米国では1951〜57年代に放映され,日本ではNHKが字幕放送していたそうだが,筆者が中学生時代に毎週見ていたのは,1960年代初めにフジテレビが吹き替え放送していたもののようだ。大人気番組であった。本作の主演は,ニコール・キッドマンとハビエル・バルデム。写真を見ても,バルデムはデジ・アーナズに全く似ていない。一方,キッドマンは髪形,話し方など,ルシル・ボールに,いや劇中のルーシーにかなり似せようとしているのが感じられる。そう言えば,この映画は『奥さまは魔女』(05年9月号)とイメージがダブる。元のTV番組自体もシットコムの人気番組で,『アイ・ラブ・ルーシー』と同じような人気を博していた。夫役のデジ・アーナズとダーリン役のディック・ヨークを比べると,両者は結構似ている。日本では,両人とも声の出演はボードビリアンの柳澤愼一であった。即ち,日米どちらでも視聴者にとって,両番組のイメージは同じで,言わば後継番組のような位置づけだったと思われる。N・キッドマンは魔女サマンサを演じたエリザベス・モンゴメリーにそっくりで,映画版での起用も当然ということは以前にも書いた。となると,同じイメージを醸し出すために,本作での彼女の起用も計算ずくなのだと思われる。では,作品の出来映えばと言えば,本作の方がずっと上だった。リハーサルシーンには迫力があるし,夫婦もののドラマとして,1週間の結末は感動的だった。若い世代には,こういうTV創世記の舞台裏と時代を超越した素晴らしい夫婦関係を見せたかったのだろう。本作で,ルシル・ボールは存在感のある先進的な女性として描かれている。それを演じ切ったN・キッドマンには,是非主演女優賞を獲らせたい。[注:見事,彼女が主演女優賞に輝いたが,主演男優賞,脚本賞は逃した。]
 『ドリームプラン』:ここからは,試写は見終えていたが,記事の執筆は授賞結果発表後になった作品である。本作は,ドラマ部門の作品賞と主演男優賞,そして助演女優賞と主題歌賞の4部門ノミネートされていた作品で,ウィル・スミスが主演男優賞を得ている。原題は『King Richard』で,女子テニス界の伝説的存在ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を計画的に育てた父リチャードの物語である。姉妹と異父姉のイーシャも製作総指揮に名前を連ねている。Kingがつくだけあって,相当強烈な個性の人物である。その彼をウィル・スミスが,強烈な演技で演じて見せている。とにかく,ウィル・スミス演じる父リチャードの出番が多く,がなり声が凄い。ウザイ存在で辟易した。きっと実物の彼もそうなのだろう。その一方で,母オラシーンの存在もしっかり描かれている。アーンジャニュー・エリスも好演で,助演女優賞にノミネートされていたのも当然だと感じた。いくら計画的出産,育児,指導とはいえ,テニスに無縁だった両親がコーチなど務まるのかと思うのだが,女子テニス界で最も成功した姉妹を生み出したのだから,結果がすべてを物語っている。ただし,父リチャードの個性ばかりが目立ち,プロとしての姉妹の育成方法,練習方法は分からなかった。姉妹を演じるのは普通の俳優で、テニス選手ではない。特訓もしたのだろうが,少女期の姉妹が凄い選手に見えないのが欠点だ。プロ選手のプレイをVFXで置き換えたり,顔のすげ替え,ボールの軌跡等,もっとCG/VFXを駆使して,彼女らの教育課程と天才の片鱗を見せ始めるところを描いて欲しかった。GG受賞以前から,「ウィル・スミス史上最高の演技」の宣伝文句が出回り,既に「アカデミー賞最有力」が喧伝されている。筆者の評価はと言えば,『ALI アリ』(01)や『幸せのちから』(07年2月号)での演技の方が優れていて,本作では大仰で騒々しいだけだと感じた。
 『tick, tick… BOOM! : チック,チック…ブーン!』: 昨年11月19日からNetflixで独占配信されている映画で,GG賞ではM/C部門の作品賞と主演男優賞にノミネートされ,アンドリュー・ガーフィールドが主演男優賞を受賞している。ユニークな題名だが,これ自体がブロードウェイ・ミュージカルの題名である。そのミュージカルの映画化版ではなく,原作者であり作曲家,脚本家のジョナサン・ラーソンの伝記映画である。彼の作品としては12年間ロングランした「レント」が最大のヒット作で,当欄では,映画化版の『 RENT/レント』(06年5月号)を紹介している。若き天才で,35歳で早逝しているが,この映画は彼の30歳前後からの生き様を描いている。A・ガーフィールド演じるジョナサンからは,彼の音楽にかける生き方がひしひしと伝わってくる。プールの中で曲を思い付くシーンがユニークで,まるでミュージックビデオだ。監督は,自身がミュージカル作家のリン=マニュエル・ミランダで,彼が作詞・作曲したミュージカルでは『イン・ザ・ハイツ』(21年7・8月号)を紹介している。これが監督デビュー作だが,同業の天才ジョナサン・ラーソンを描きたかったのだろう。ブロードウェイ・ミュージカルをこよなく愛していることが感じられる。本作も正にミュージカルらしいミュージカル仕立てで,ネット配信でなく,本来はシアターで見たかった。
 『ロスト・ドーター』:Netflixで大晦日から配信されている映画で,筆者は「紅白歌合戦」などに目もくれず,本作を観ていた。一度観終わった後,メモを取りながら気になるシーンを再度点検していたら,既に新年になっていた。GG賞では,オリヴィア・コールマンがドラマ部門の主演女優賞にノミネートされていた。この受賞は逃したが,ヴェネツィア国際映画祭では脚本賞を得ている。監督・脚本はマギー・ギレンホールで,これが彼女の監督デビュー作となる。原作はイタリア人作家エレナ・フェッランテの小説「La figlia oscura」で,子育てで悩んだ経験のある女性の複雑な心境を描いている。この原作に惚れ込んだマギーが映画化権を獲得して,自らの監督第1作に選んだようだ。O・コールマン演じる中年女性レダ・カルーソは,大学教授も務める著名な翻訳家である。ギリシャの海岸での休暇中に,若い母親ニーナ(ダコタ・ジョンソン)と知り合い,自ら子育てに悩んだ日々を思い出す。若き日のレダはアイルランド人女優のジェシー・バックリーが演じている。この3人の女性の描き方が見事だ。レダがニーナの子供の人形を盗んで隠してしまう心理描写,そうとは知らずレダに親しみを感じて接近するニーナの心境,レダと昔嫌っていた娘との関係等々,きっと部分部分で共感する女性も多いことだろう。3人とも演技は見事だ。マギー・ギレンホールには,間違いなく監督・脚本の才能がある。将来が楽しみだ。ただし,この映画はマギー自身の主演で観たかった。
 『PASSING 白い黒人』:Netflix配信作が続く。少し驚いた題名で,一体どういう意味なのかと思ったが,肌が白く,白人として通用する2人の黒人女性の物語だった。映画の原題は『Passing』だが,ネラ・ラーセンの同名小説の邦訳が「白い黒人」なので,それを合わせた邦題となっている。監督・脚本は,レベッカ・ホール。こちらも主演級の女優の監督デビュー作である。舞台となるのは1920年代のNYで,勿論,黒人差別は当り前の時代だ。美しいモノクロ映像で,まるで昔の映画を観ているかのようなタッチで描かれていた。同郷で幼なじみのアイリーンとクレアだが,1人は黒人として生き,もう1人は白人だと偽って生きているという設定で,2人の心の葛藤を対比させて描いている。アイリーンはNYの医師の夫や子供達と裕福に暮らす黒人女性で,ある日,街で再会したクレアは,自らを白人と偽り,白人男性と結婚していた。本当に白人と偽れるほど白いのかは不明だが,モノクロ映像ゆえ,多少の化粧でかなり曖昧にできる。それでも,いかにも黒人的な顔立ちの女優(テッサ・トンプソン)をアイリーンに,白人でも通用しそうな女優(ルース・ネッガ)をクレアにキャスティングしているのが,物語にリアリティをもたせる配慮だろう。物語は,クレアの夫ジョンがアイリーンを黒人だと気付かず,黒人蔑視の発言を繰り返すこと,クレアがアイリーンの家族や黒人仲間と接して心の平穏を感じ始めること,アイリーンが夫とクレアの関係を怪しむこと,等々で展開する。核心となるのは,クレアの夫が妻の秘密をいつ知るかで,それを悟られまいとする彼女の演技が真に迫っている。GG賞では,そのクレアを演じたR・ネッガが助演女優賞にノミネートされていた(受賞は逃したが,他映画祭では6つも受賞している)。
 『The Hand of God』:ここまでがNetflix配信作品で,GG賞の映画部門には計5作品がノミネートされ,2作品で計4部門受賞という成績だ。本作は今年から名前が変わった「非英語映画賞」部門にノミネートされたが,邦画の『ドライブ・マイ・カー』に破れている。ヴェネツィア国際映画祭では,銀熊賞(審査員大賞)とマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したという話題作だ。当初は『Hand of God -神の手が触れた日-』のように副題がついていたが,なぜか最終的な配信開始時点ではそれが外れている。この「神の手」とは,アルゼンチンのサッカー選手ディエゴ・マラドーナが1986年のW杯のイングランド戦のゴール前の攻防で巧みに手を使ってゴールしたことを指している。サッカーファンなら誰でも知っている出来事だ。本作は,1980年代の激動のナポリを舞台に,少年ファビエット・スキーザ(フィリッポ・スコッティ)の成⻑を描く物語である。1984年スペインのFCバルセロナから,スター選手のマラドーナがイタリアのSSナポリに移籍し,大活躍したことは,イタリア人,とりわけナポリ在住の青少年には格別の大きな出来事であったことから,この題名がつけられている。監督は,イタリアの名匠パオロ・ソレンティーノで,ナポリ出身のこの監督の思春期の自伝的内容だという。少年ファビエットにとってのミューズは美しい伯母のパトリツィア(ルイーザ・ラニエリ)で,その冒頭の登場場面だけで,彼がいかに心をときめかせたか想像できる。幻想的な逸話と素晴らしいナポリの光景を交えながら,この少年と家族と運命,喪失と旅立ち,そして美しき童貞喪失譚等々が描かれている。少年の人格形成期にマラドーナの存在が大きな影響を与え,彼の未来に関わる奇跡は「神の手」によってもたらされたと暗示していることから,本作の題名が決まったのだろう。Netflix配信で監督の自伝的映画となると,アルフォンソ・キュアロン監督の『 ROMA/ローマ』(19年Web専用#1)を思い出すが,明るいナポリの陽光の下で撮ったカラー映画だけに,本作の方が圧倒的に美しく,芸術的に仕上がっている。物語自体はさほど面白くなかった。芸術的過ぎたのと,筆者の人生体験とはあまりに違い過ぎて,感情移入しにくかったからである。2時間余の映画本編が終わると『The Hand of God: ソレンティーノの視点から』なる附属映像が流れ出した。W杯の「神の手」シーンは,この中で登場する。約8分間の監督の語りを収めたメイキング映像であるが,現在のナポリでの光景を含め,印象に残る映像と語りだった。併せて観ることを勧めたい。
 『僕を育ててくれたテンダー・バー』:再びAmazon Prime 配信作品で,監督はジョージ・クルーニー。既に何作か見た覚えがあるので,何作目だろうと数えたら,これが8作目だった。前作『 ミッドナイト・スカイ』(21年1・2月号)では自ら主演もしていたが,本作では監督・製作に徹している。クレジットでは先頭に名前があるベン・アフレックは主人公の伯父役の助演であり,GG賞では助演男優賞部門にノミネートされていた(受賞はしなかった)。ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストで作家のJ・R・モーリンガーが2005年に出版した同名の自伝の映画化作品である。物語は1973年に始まり,家庭を顧みない夫と別れた母(リリー・レーブ)が,息子のJRを連れ父母や兄が住む実家に帰って来る。この少年から観た祖父(クリストファー・ロイド)や伯父(B・アフレック)との生活が始まる。やがて,伯父チャーリーが経営するバー「The Dickens」に入り浸るようになり,そこでの常連客たちとの交流で得た人生訓が彼の成長を支える青春物語となっている。少年時代と大学受験時以降のエピソードが交互に登場し,時間軸を往き来するが,後者のJR役は,『X-Men』シリーズでサイクロップスを演じていた若手俳優のタイ・シェリダンで,当然印象はかなり異なる。自伝であり,実話であり,将来は作家になることは分かっているので,さほど驚くような出来事は登場しない。せいぜい暴力的な父親との何度かの交流,彼を手玉にとる女性との叶わぬ恋物語程度のアクセントだ。他愛もない物語だが,不思議な魅力がある。JRの少年時代と成年後の両方で登場するため,伯父や母親も若作りメイクと老けメイクの両方で演じている。B・アフレックの演技はさほどの出来とは思えなかったのだが,JRに大人になること,男の作法を教える伯父の姿が,アメリカ人男性の憧れなのだろう。さりげなく,古き良き時代の男の姿を演じていたという点では,好演の部類なのかも知れない。
 『マクベス』:A24製作映画で,Apple TV+から配信されている。言うまでもなく,シェイクスピア4代悲劇の1つで,今までに何度も映画化されていて,日本では黒澤明が時代劇に翻案した『蜘蛛巣城』(57)を撮っている。筆者は原作を原語で読んだことはなく,現代語訳の翻訳本も未読であるが,過去作は1本だけ観たことがあり,6年前にマイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤールが演じた『マクベス』(16年5月号)を紹介している。本作の監督・脚本は,コーエン兄弟の兄のジョエル・コーエン。今回は弟イーサンとの共同監督ではなく,単独でのメガホンである。主演はスコットランドの将軍で主君を殺して王位に就くマクベスを演じるデンゼル・ワシントンで,夫以上の野心家の妻をフランシス・マクドーマンドが演じている。ちょっと珍しい組合せだが,J・コーエン監督はこの難役には,オスカー3度受賞者で自らの妻のF・マクドーマンド以外に考えられなかったのだろう。J・コーエンが監督するからには,洒脱な現代劇に翻案しているのかと思ったが,時代はシェイクスピアが描いたと同じ11世紀のスコットランドで,ほぼ原作通りの物語展開である。6年前の上記の映画より,一層原作に近い雰囲気を醸し出そうしているのだと感じた。モノクロ映像,スタンダードサイズというのは,この古典的な史劇を,よりそれらしく見せるための演出の1つである。奇をてらった演出はなく,極めてオーソドックスな映画作りだと感じた。既にかなりの名声を得ている監督が,今なぜこの映画を撮ろうとしたのか分からない。元は戯曲だけにセリフが多く,いかにも舞台劇である。そのセリフは,韻文であるシェイクスピアのオリジナルではないだろうが,格調高く,分かりやすく,少し大仰な演技とマッチしていた。英語と日本語の両方で再生してみたが,日本語吹替の方がより舞台劇風で,秀逸だった。「一切の余計なものをそぎ落とし,古典の神髄だけを抽出した作品」と評価されているが,まさにその通りの映画だった。J・コーエンは,こういう映画も撮れるという実力をアピールしたかったのだろうか。まさにその通り,この監督の映画人としての手腕の確かさを最認識した。GG賞では,D・ワシントンが主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされていた(受賞は逃した)。シンプルな古典劇であるが,城は古風なものを利用せず,外観はなし,城内も装飾なしで,壁面だけしかないという簡素な構成である。その半面,モノクロ映像で,VFXで霧や靄を多用して荘厳な雰囲気を盛り上げていた。カラスの大群はCGで描いたと思われる。
 『シラノ』:今回のGG企画ページ内でのトリは,ネット配信ではなく,音響効果の良い試写室で観た上質のミュージカル映画である。上記『マクベス』同様,名作戯曲の映画化作品で,実在の人物を戯曲の主役にしたという点でも同じだ。ただし,実在の主人公は17世紀の剣豪作家で,エドモン・ロスタンによるフランス語の韻文戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の初演は1897年12月28日というから,シェイクスピアの「マクベス」の初演よりも300年弱新しい。既に何度も映画化,舞台ミュージカル化されているので,物語の骨格はよく知られていることだろう。確か,ごく最近観たばかりだと思ったのだが,過去作の中に該当作品はなかった。調べ直したら,それは作者のエドモン・ロスタンを主人公にし,この戯曲の誕生の舞台裏を描いた『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』(20年Web専用#5)であった。美男だが,全く文才のない友人のために恋文を代筆するという設定が全く同じであったため,当の戯曲の映画化作品と思い込んでいた訳である。本作の監督は『プライドと偏見』(05年12月号)『つぐない』(08年4月号)のジョー・ライト。となると,文芸調の映画が得意なこの監督が,初のミュージカル映画をどう演出するかが楽しみだった。期待通り,文芸調の華麗な音楽映画とでも言うべき出来映えだった。ゴージャスな室内装飾,カラフルな衣装は,上記の『マクベス』とは真逆の作りである。雪山での戦争シーンも外連味たっぷりだ。過去作と比べての最大の相違点は,主人公のシラノは鼻が大きい醜男ではなく,低い身長に劣等感をもつという設定である。これは,2018年初演のミュージカル舞台劇を基にしているためだ。シラノを演じるピーター・ディンクレイジは身長132cmの小人俳優であり,美女ロクサーヌを演じる173cmのヘイリー・ベネットと並ぶと,その差が目立つ。主演のこの2人は舞台からの継続出演で,舞台劇の作家エリカ・シュミット自身が本作の脚本を担当しているから,正にミュージカル舞台の映像再現という路線を採用した訳である。そうと分かっていても,身長差と容姿を恥じてロクサーヌに愛の告白ができないシラノがいじらしかった。演じるP・ディンクレイジにとってこうした役柄は承知の上と思いつつも,身体的ハンディキャップを誇張した描き方は,個人の尊厳や人権へ配慮が足りなさ過ぎるのではないかと気に病みつつ観てしまった。観賞後,ある事実を知って安堵した。シラノ役のP・ディンクレイジと脚本担当のE・シュミットは,既に2児をもうけている実の夫婦だった。2人は2005年に結婚しているから,ミュージカル舞台で知り合ったのではなく,身長168cmの夫人が低身長の配偶者を主役にした舞台劇と映画の脚本を書いているのである。そうと知ってラストシーンを思い出すと,感慨も新たであり,シラノの恋が成就したと実感できた。本作は,GG賞ではM/C部門の作品賞と主演男優賞にノミネートされたが,受賞は逃した。同じ年に『ウエスト・サイド・ストーリー』(22年1・2月号)があったことが不運であった。アカデミー賞では,衣装デザイン賞部門にノミネートされている。
 
 
 
◆2022年1・2月号掲載予定作品と対象部門
 
  ■『コーダ あいのうた 作品賞(D),助演男優賞,助演女優賞
■『ウエスト・サイド・ストーリー 作品賞(M/C) 主演女優賞(M/C) 助演女優賞,監督賞
■『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ,カンザス・イヴニング・サン別冊 作曲賞
 
 
◆紹介済みのノミネート作と対象部門
 
  ■『ラーヤと龍の王国』(2021年Web専用#1) アニメーション賞
■『あの夏のルカ』(2021年Web専用#3) アニメーション賞
■『クルエラ』(2021年Web専用#3) 主演女優賞(D)
■『イン・ザ・ハイツ』(2021年7・8月号) 主演男優賞(M/C)
■『ドライブ・マイ・カー』(同上)  非英語映画賞
■『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年9・10月号) 作品賞(D),監督賞,作曲賞
■『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年Web専用#5) 主題歌賞
■『リスペクト』(同上) 主題歌賞
■『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年11・12月号) 作曲賞,主題歌賞,アニメーション賞
 
 
◆今後紹介予定のノミネート作と対象部門
 
  ■『スワン・ソング』(2022年Web専用#2) 主演男優賞(D)
■『タミー・フェイの瞳』(同上) 主演女優賞(D)
■『ベルファスト』(2022年3・4月号) 作品賞(D),助演男優賞,助演男優賞,助演女優賞,監督賞,脚本賞,主題歌賞
■『アネット』(同上) 主演女優賞(M/C)
■『英雄の証明』(同上) 非英語映画賞
■『FLEE フリー』(2022年5・6月号) アニメーション賞
■『リコリス・ピザ』(未定) 作品賞(M/C),主演男優賞(M/C),主演女優賞(M/C),脚本賞


[注]太字:受賞作
   (D):ドラマ部門
   (M/C):ミュージカル・コメディ部門


 アカデミー賞のノミネート作品は2月8日(現地時間)に発表されるので,3月上旬には恒例の予想記事を掲載する予定である。楽しみにして下さい。
 
 
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