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O plus E誌 2018年11・12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』:メキシコとの麻薬戦争を描いた前作は佳作だった。主要キャスト3人の内,FBI捜査官役のエミリー・ブラントは登場しないが,残る2人ベニチオ・デル・トロとジョシュ・ブローリンの2人で本作を引っ張る。続編というより,物語の連続性はない外伝的な内容だ。原題は『Sicario(暗殺者)』なのに,邦題を国境の意の『ボーダーライン』にし,本作でもそれを踏襲しているが,内容的に矛盾はない。やはり密入国を仕切る麻薬カルテルや彼らに骨抜きにされているメキシコ警察との攻防が中心となる。銃撃戦が大迫力で,緊張感の連続だ。甘っちょろいハッピーエンドでないのがいい。ただし,唯一残念なことがある。メキシコ政府との関係悪化を恐れた弱腰の大統領が作戦を中止し,現場は取り残される。現大統領なら,これは有り得ない。「倍返しにしろ」か「手向うメキシコ人は皆殺しだ」程度は言いかねない。
 『いろとりどりの親子』:6組の親子の喜怒哀楽を描いたドキュメンタリーである。過去の写真とビデオ,現在のインタビュー等で構成されているが,区切られた6話のオムニバス形式ではなく,同じ親子の日常が順繰りに何度も登場する。共通テーマは,親が望まない形に生まれた or 普通でなく育った子供に直面した親の苦悩と困惑で,それを乗り越える努力を描く。ダウン症,自閉症,低身長症(2組),ゲイ,幼児殺人犯と,まさに「いろとりどり」だが,必ずしも親が理解し,すべてを克服した訳でもない。長男の無慈悲な殺人に両親は驚愕し,苦悩する。それを見て育った弟妹は自らは子供をもたないと覚悟する。その一方で,低身長同士の夫妻は,同じ病のリスクを恐れず,我が子をもつことを選択する。同情,共感,感情移入して,予想通り感動したが,涙は出なかった。深く切り込み,感じ入ることが多々あるので,涙はなく,むしろ拍手を送りたくなった。
 『イット・カムズ・アット・ナイト』:地球上の人類の大半が死滅したと思われる状況下でのサスペンス・ホラーとなると,前号の『クワイエット・プレイス』に比肩し得る出来映えを期待してしまう。題名からすると,昼間は平気で,夜になると何かが出てくるようだ。ゾンビではなさそうだが,パンデミックなのか,またまた宇宙からの侵略者なのか,種明かしが楽しみだった。主人公が森の中に住む親子というのも似ているが,本作ではこの家族だけではなく,もう1組の家族が合流してくるのがミソだ。2家族が協力して警戒体制を敷くが,一向に「何か」は登場しない。語り口調は上手いのに,焦らし過ぎだ。そうこうする内に,互いに疑心暗鬼になり,2家族の間で悲劇的な出来事が生じる……。(ネタバレになるが)とうとう最後まで種明かしはなく,怖くもなく,後味は良くなかった。これじゃ,単なる『IT/イット』(17年11月号)の方がずっと怖かった。
 『ギャングース』:ここから邦画が数本続く。週刊モーニング連載の人気コミックの映画化作品で,少年院で出会った3人の少年が,社会で生きて行く様を描いている。同誌を毎週購読していながら,殆ど読んでいなかった。絵が汚く,好きになれなかったからだ。映画の方が成功するのではと思っていたが,まさにその通り,予想外の良作だった。悪徳業者や犯罪者のみを狙う「タタキ」稼業というのが興味深い。過酷な現実を描く暴力クライム・ムービーなのだが,意外に見やすい。『闇金ウシジマくん』シリーズ同様,裏社会の実態が把握できるだけでなく,人情味もある。監督・脚本は『22年目の告白 - 私が殺人犯です-』(17)の入江悠。リーダー格のサイケ役の高杉真宙は,この役には少し線が細いと感じたが,カズキ役の加藤諒が絶品だった。日頃,濃い顔立ちでウザイとしか感じなかったが,初めて好感をもった。彼の孤児の少女との絡みは,心を和ませてくれる。
 『ハード・コア』:こちらも原作はコミックで,1990年代に発表された「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」だが,さほどメジャーな作品ではない。主演の山田孝之と交流が深い山下敦弘監督が共に同作を愛読していたことから,映画化にこぎつけた。都会で底辺の生活を送る不器用な男・権藤右近が主人公で,エリート社員の弟・左近(佐藤健),右近が唯一心を許す友人・牛山(荒川良々)のトリオが織りなす物語である。私淑する右翼活動家の命により,群馬県の山奥で埋蔵金発掘の日々の一方,偶然見つけた古いロボットが量子コンピュータと最新AIを備えたマシンだった……。意図的に奇妙な取り合わせを選んでいるのだろうが,極端な描写は連載コミックでは通用しても,映画だと映像としての弱さが露呈する。脚本が練れていれば,同じ原作者のコミックが海外で『オールド・ボーイ』(04)として成功したように,映画としても通用する素材だと思う。惜しい。
 『えちてつ物語~わたし,故郷に帰ってきました。~』:福井県が舞台だというので,「えちてつ」が「越前鉄道」の略であることはすぐ分かったが,2つ誤解していた。「今度は九州だと聞いていたが,また北陸か」と「何だ,架空の鉄道会社を扱うのか」と思ったのである。前者は次項の『RAILWAYS』シリーズ最新作との混同だ。後者は,度重なる列車衝突事故で京福電鉄越前本線が廃止になった後,第3セクターの「えちぜん鉄道」として再建されたのを知らなかったからだ。運行再開時より,女性客室乗務員(アテンダント)を配しているのがウリのようだ。お笑い芸人を目指していた女性(横澤夏子)が,夢を諦めて故郷に戻り,このアテンダントとして正規雇用されるまでの奮闘を描いている。鉄道の広報兼地域振興の観光映画なので,物語は他愛もないが,好感はもてた。九頭竜川に沿って走る姿が美しい。次の金沢出張の際は,福井で途中下車して乗ってみたい。
 『かぞくいろ−RAILWAYS わたしたちの出発−』:こちらが本家『RAILWAYS』シリーズの3作目だが,上記映画とは相似形だ。予定通り熊本県が舞台で,同じく第3セクター経営の「肥薩おれんじ鉄道」は,元はJR九州・鹿児島本線の一部である。本作も女性が主人公で,運転士を目指すシングルマザーを有村架純が演じる。夫の急逝により,彼の連れ子と共に,義父の住む実家に転がり込み,共同生活を始めた彼女の奮闘譚を描いている。全く鉄道の知識がないのに,運転士試験を目指す勉強ぶりは,出世作『映画 ビリギャル』(15)を思い出す。義父役の國村隼の味のあるセリフと抑えた演技が光っていた。松竹らしい,ほのぼのとした人間ドラマで,喜怒哀楽を使い分けた音楽もマッチしていた。鉄ちゃんを喜ばせるシーンも満載なのに,残念なのは,列車に轢かれる鹿のCGのお粗末さだ。少し予算をかければリアルに描けたのに,これじゃ登場させない方がマシだ。
 『Merry Christmas!~ロンドンに奇跡を起こした男~』:原題は直訳すれば「クリスマスを創った男」で,英国の作家チャールズ・ディケンズのことである。本作は,売れない作家だった彼が苦心の末,1843年の大ベストセラー「クリスマス・キャロル」を生み出すまでの過程を描いている。創作に没頭するあまり,現実と小説世界の区別がつかなくなった彼が,スクルージなる老人と出会い,幻想の中で彼と物語を作り上げる……という仕掛けだ。主演は『美女と野獣』(17)のダン・スティーヴンス,スクルージに名優のクリストファー・プラマーを配している。19世紀のロンドンは,美術セットも衣装もいかにもそれらしい装飾で,全く違和感はない。音楽もしかりだ。結末は大成功と分かっているので安心して見ていられたが,最大の弱点は日本語吹替だと感じた。「分かりやすい!を極めた」との触れ込みの吹替版だが,わざとらしさ,作り物感が強く,興醒めしてしまった。
 『アース:アメイジング・デイ』:定評ある英国BBC製作のネイチャードキュメンタリーの最新作で,当欄でも激賞した『アース』(08年1月号)に続く第2弾だ。 もう10年以上経つのかと思う半面,まだ第2弾なのかとも感じる。この間にBBC Earth Films社が設立され,『ライフ −いのちをつなぐ物語−』(11)『ネイチャー』(14)等の類似作も公開されたからだろう。米国National Geographic製の『皇帝ペンギン』シリーズも健在である。そんな中でBBCが権威の象徴たる『アース』シリーズを名乗るには,新しい試みがある。元の副題は「One Amazing Day」で,「One」が入っている。同じ「ある1日」であるかのような設定で,「早朝」「午前中」「日中」「昼下がり」「夕方」「夜」に分けて,様々な動物たちの行動の違いを描き分けている。相変わらず,貴重な映像の連続だが,強いて欠点を挙げれば,佐々木蔵之介のナレーションが今イチだと感じた。
 『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』:時は1992年,キューバの大学教師のセルジオが,宇宙ステーション内のソ連の宇宙飛行士セルゲイとアマチュア無線で会話するという話である。冒頭に「Based on a True Story」と登場するが,本作での「真実」はごく僅かだった。ソ連崩壊により見放されたキューバが経済的に困窮するのと,帰還の計画が立たず,長期宇宙滞在を強いられた宇宙飛行士は本当だが,それ以外はフィクションである。セルジオのモデルは監督自身で,それを「最後のソビエト連邦国民」と言われるセルゲイ・クリカレフと組み合わせたアイデアが秀逸だ。セルジオには娘がいて,彼女の存在が印象的だが,大人になった彼女が本作のナレーターという設定である。終盤の緊迫感溢れる救出劇を期待したら,裏切られる。全編通じてコメディタッチで統一しているからだ。VFXシーンも登場するが,勿論稚拙だ。これは笑って許せる。
 『彼が愛したケーキ職人』:イスラエル映画で,ちょっと異色のラブストーリー,ヒューマンドラマだ。ゲイのパートナーと別れたドイツ人男性,夫を事故で亡くしたイスラエル人の女性が主人公で,2人は同一人物を愛していたという関係だ。物語はベルリンに始まり,イスラエルからの出張中のオーレンとケーキ職人のトーマスは男性同士の恋に落ちる。母国に帰ったきり戻って来ないオーレンの死を知ったトーマスは,エルサレムへと向かい,彼の妻アナトに接触し,彼女のカフェで働くようになる…。アナトが次第に美人に見えてくるのは,トーマスの心境の変化を表しているのだろう。2人が次第に惹かれ合う展開とトーマスのケーキ職人としての腕の披露が見事なバランスで描かれている。やがて,夫の行動と真実を知ったアナトの驚きと反発,この心の機微の描写が見事だ。ドイツ語,ヘブライ語,英語が入り交じる国際性が「大人の恋」の味わいを増している。
 『おとなの恋は,まわり道』:こちらの2人は,男性の異父兄と女性の元婚約者が同一人物なる関係だ。物語はもっと単純で,反発し合っていた相性最悪の2人が,やがて惹かれ合い,恋仲になる。主演はキアヌ・リーブスとウィノナ・ライダー。4度目の共演だけあって,呼吸はピッタリだ。画面に映る登場人物は多数いるが,セリフがあるのはこの2人だけだ。たった87分の短尺だが,セリフ量はたっぷり。とにかく,ずっと2人で話している。R・リンクレイター監督の『ビフォア』シリーズと似た展開で,カメラが2人に集中するのも同じだが,本作の方が徹底している。特に前半が無茶苦茶面白く,下ネタシーンも大爆笑だ。なるほど,その点は「おとなの…」だが,物語の骨格は当欄が嫌う邦画の若者映画と同じだと気付いた。会話に人生訓や社会問題が含まれている訳でもない。よって,本作に「洋もの中年キラキラムービー」なる称号を与えておこう。
 『パッドマン 5億人の女性を救った男』:副題がなければ,新しいアメコミのスーパーヒーローかと思ってしまう。安全で安価な生理用品の開発と普及に奔走した男の物語で,勿論実話ベースである。ある意味での英雄なので,意図的にこの愛称で呼ばれているのだろう。インド映画で,時代は21世紀の初頭だ。物語がどんどん進行するので,137分の中身はぎっしりだった。大企業の高価な生理用ナプキンを買えない大衆女性のために,低コストで大量生産できる製造機を発明し,女性達が製造や販売に従事する職も開拓する。インド社会で貧富の差が大きいことは知っていたが,21世紀でもまだこれだけの陋習や偏見があることに驚いた。誤解と中傷に耐えての大成功はインド版「プロジェクトX」だ。先進的な女性パリーとの恋物語や国連本部での大演説は,映画用にかなり脚色されているのだと思うが,演説終了時には思わず試写会場で拍手したくなってしまった。
 『暁に祈れ』:タイの刑務所を舞台にしたバイオレンス・アクション映画だが,監獄内の過激な暴力描写の生々しさに驚いた。人生の再スタートを期してタイに渡った英国人ボクサーのビリー・ムーアは,自堕落な生活を送り,麻薬中毒者となって逮捕され,収監される。悪名高き刑務所内で,殴られ,蹴られ,レイプされる描写が凄まじい。原作は本人の自伝で,本物の刑務所で撮影し,主要キャスト以外の囚人は元服役囚が演じ,彼らのタトゥはすべて本物だというから,リアリティが高いのも当然だ。1人称視点で描かれるシーンが多いため,自分だったらどうしようと感情移入してしまう。死を覚悟する日々の中で,ビリーはタイ式格闘技「ムエタイ」のチームに加わり,そこでのし上がることで生きる気力を繋いで行く……。監督はジャン=ステファーヌ・ソヴェールで,主演は若手有望株のジョー・コール。「監獄版の"あしたのジョー"」とは言い得て妙だ。
 『メアリーの総て』:今年がゴシック小説の金字塔「フランケンシュタイン」が生まれて200周年だという。この小説を生んだ女流作家メアリー・シェリーの半生を描いた映画である。主演は,エル・ファニング。前作『パーティで女の子に話しかけるには』(17)では異星人役だったが,一転,本作では小説家を夢見る19世紀の少女を演じる。芯の強い女性役がよく似合う。監督は『少女は自転車に乗って』(12)のハイファ・アル=マンスール。観始めてすぐに女性監督の作だと分かった。登場するのは,ロクでもない男ばかりだからだ。周りはすぐ分かるのに,そんな男にころり騙され,蹂躙される女たちが哀れだ。改めて,英国の貴族や文化人たちは,こんな愚かな生活をし,暇を弄んでいたのかと感じた。救いのない映画だと思っていたら,終盤に物語が急旋回した。そうだ「フランケンシュタイン」の作者の話だった。最後に救いがある。終わりよければ「総て」よしだ。
 『アリー/スター誕生』:3度目のリメイク作だ。2作目までは映画業界が舞台で,バーブラ・ストライサンド主演の3作目から,新人歌手が音楽界のスターを目指す物語になった。彼女を見出した人気男性歌手との恋愛,結婚,確執,破綻と,物語の基本骨格は同じだが,登場人物名も場所も,挿入歌も異なっている。当初計画はC・イーストウッド監督がビヨンセ主演で撮ると伝えられていた。それが,ブラッドリー・クーパーが監督兼主演になり,女性歌手役には人気絶頂の歌姫レディー・ガガが抜擢された。もうそれだけで,興味津々だ。歌とギターの特訓を積んだB・クーパーの熱唱も印象的だが,主役はやはりレディー・ガガの演技と歌だ。映画初出演と思えぬ堂々たる演技を披露する。日頃は奇抜なメイクと派手な衣装の彼女が,本作ではほぼ素顔で登場するので,初々しく,可愛く感じてしまう。歌は勿論絶品で,本物のコンサート会場で収録したというライブシーンに痺れた。来年度のアカデミー賞は,主題歌賞の大本命で,作品賞にもノミネートされることだろう。
 『私は,マリア・カラス』:音楽関連の映画が続く。こちらは実在のオペラ歌手の伝記映画で,本人が遺した未完の自叙伝と友人たちと交わした約400通の手紙からドキュメンタリーが構成されている。世界一のソプラノと言われ,1977年に心臓発作で急死したマリア・カラスがその人だ。直接歌声を聴いたことはなくても,名前だけは大抵の人が知っているだろう。未公開の8mm映像が多数あり,初めてカラー化,HD化された映像は鮮明だ。よく知られている曲も数々流れ,さすがに凄い美声だと,改めて感心した。勿論これは本人の歌唱で,過去の本人へのインタビューもあるが,この映画のために収録した手紙の朗読は当然別人の声だ。『永遠のマリア・カラス』(02)でカラスを演じたファニー・アルダンの声は,本人の語りかと思ってしまう。比較的素直な構成で,見やすく,伝記映画としては成功している。
 『家(うち)へ帰ろう』:素晴らしいロード・ムービーとして,ずっと印象に残る逸品だ。ホロコースト関係者の後日談の一種だが,忌まわしい過去のシーンは僅かで,心が和む結末に仕上げている。主人公は,ポーランド出身のユダヤ人で,難を逃れてブエノスアイレスに移り住み,88歳まで仕立て屋として生きてきた。老人ホームに入る前夜,彼が作った「最後のスーツ」を70年前に彼を救ってくれた旧友に届けようと思い立ち,深夜に欧州へと旅立つ。マドリッドからワルシャワへと向かう道中,強盗に遭って無一文になりながら,スペイン人,ドイツ人,ポーランド人の3人の女性に助けられ,目的地を目指す。彼女らを殊更善意の人物に描いているのは,何度か登場する70年前の過酷な出来事との対比なのだろう。絶縁していた末娘とマドリッドで再会する下りは,「リア王」にヒントを得たエピソードだ。そして,故郷の地では……。映画の結末はかくありたい。
 『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』:不治の病の筋ジストロフィー患者と介護ボランティア達が織りなすヒューマンドラマで,心に滲みる好い映画だ。原作は2003年刊の大宅賞等の受賞作で,この難病の闘病や介護の実態を描いた社会派ノンフィクションだった。本作は,実在の多数のボランティアを数人に凝縮し,若い男女が自分を見つめ直す物語を加えてドラマ化している。主演は大泉洋。10kg減量してこの役に臨み,一見我が侭放題に見えながら,「ボラ」を惹き付ける魅力ある人物になり切っている。天然に見える高畑充希と呼吸も絶妙だ。その彼氏役は三浦春馬。竜雷太と綾戸智恵,韓英恵,原田美枝子,佐藤浩市まで登場する助演陣が厚い。ボランティアはここまで献身的にやるのかと感じ入った。強いて難を言えば,気管切開後に言葉が戻って以降の会話が滑らかすぎる。もう少したどたどしく,かろうじて絞り出す声の方が良かったのではと感じた。
 『それだけが,僕の世界』:主演はイ・ビョンホン。めっきり本邦での公開本数が減った韓国映画だが,彼の主演作だけは健在だ。本作では,元ボクサーの冴えない男役で,『北の国から』の草太兄ちゃん(岩城滉一)に感じが似ている。数十年ぶりに,彼を捨てて逃げた母親と自閉症の弟に再会する。3人暮らしの生活は中盤までやや退屈な映画だったが,弟ジンテ(パク・ジョンミン)と事故で右脚をなくした美人ピアニストの「ハンガリー舞曲 第5番」のピアノ連弾シーンで目が覚めた。ここから物語は急旋回し,兄は脇役で弟が主役となる。病床の母と息子の会話はよくあるハートフルドラマだが,弟が天才的なピアノ演奏力を発揮する物語とのバランスが絶妙だ。音は別収録だろうが,代役なしで演奏する指使いは見事だった。クライマックスは「チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番」で,こちらは試写会場で思わずスタンディング・オベーションしたくなった。
     
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