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O plus E誌 2008年4月号掲載
 
 
 
つぐない』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
      (C)2007 Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [4月12日より新宿テアトルタイムズスクエアほか全国順次公開予定]   2008年2月28日 東宝東和試写室(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  こちらが陰のオスカー受賞作だと感じさせる佳作  
   アカデミー賞の話題から入ろう。先月号で『ノーカントリー』の監督賞,助演男優賞,脚色賞を予測しながらも,作品賞とは想定できなかった。実をいうと,今年は対象作品の本邦公開が遅く,他の4作品の試写をまだ観ていなかったから,優劣の論じようがなかったのである。もう1つは,この『つぐない』がゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞を獲得していたので,こちらが本命かと思ったためである。
 いい邦題だ。原題は『Atonement』である。カタカナ名氾濫の洋画の中でこういう題がつくのは,原作の邦訳本の題を踏襲したのかと思ったら,そちらは『贖罪』(新潮文庫)と訳されていた。キーラ・ナイトレイの凛とした美しさを前面に打ち出したこの映画には,ひらがなの題名がよく似合う(写真1)。ただし,贖罪意識をもって生きるのは,彼女が演じる英国政府高官タリス家の娘セシーリアではなく,妹のブライオニーである。時代は1930年代後半,妹がついたひとつの嘘が,姉とその恋人の人生を破壊する。
 監督は,前作『プライドと偏見』(05年12月号)でもキーラ・ナイトレイを起用したジョー・ライトだ。英文学の最高峰ジェーン・オースティン作品の映画化で成功したので,1990年以降の人気作家イアン・マキューアンのベストセラーで2匹目の泥鰌を狙ったのだろう。K・ナイトレイの恋人ボビー役は,『ラストキング・オブ・スコットランド』(07年3月号)のジェームズ・マカヴォイだが,この悲恋物語も見事に演じている。
 原作は年代別の三部構成だが,物語の主役ブライオニーは,その各部を演じる俳優が異なる。13歳と18歳がまるで似ていないのが残念だが,18歳役と老女役の顔立ちが似ているのが嬉しい(写真2)。第二部から第三部への展開は意外性があるだけに,イメージが繋がる俳優の起用は,本作品の重要なポイントだ。     
 
   
 
 

写真1 この凛とした美しさ。どう見ても女性上位の映画。

   
 
 
 

写真2 18歳のブライオニーと77歳のブライオニーはよく似ている

 
     
 

  この監督は,純文学を映画化させたら相当にうまい。K・ナイトレイの美貌は,男性よりも,女性の憧れだろう。痩身に緑のドレス姿は,ファンション雑誌から抜け出したような出で立ちで,女性観客の目を意識した撮り方だ(写真3)。少女ブライオニーの目を通した描写,時間を行きつ戻りつする映画表現も印象的だ。

 
   
 
 
 

写真3 このグリーンのドレス姿には息を飲む

 
     
    さて,VFXは英国のDouble Negative社が担当で,ロンドン市街地や北フランスの光景等の背景でデジタル処理が目立たないように使われていた。むしろ,映像として圧巻だったのは,ボビーが志願兵として赴いた「ダンケルクの戦い」のレッドカー浜辺のシーンである。観覧車,破壊されたビル,古い帆船等を配した壮大なロケ地で,約2000人のエキストラを兵士として配した光景は圧巻だ(写真4)。ミニチュアを使って綿密にデザインし,設営されたという。その中でボビーをステディカムで追う長回しは,6,7分もあっただろうか。これも見事の一言に尽きる(これは本当に1ショットだったのだろうか? 途中で巧みについであった気もする)。
  いまこの原稿は,米国に向かう機内で書いている。機内映画として,本作品を再見し,同じく作品賞にノミネートされていた『フィクサー』も観ることができた。私ならば,本作品にオスカーを与える。7部門にノミネートされ,作曲賞1つであったのは,残念至極だ。アカデミー会員が『ノーカントリー』に票を投じたのは,監督も原作も英国製であるこの映画より,純米国製の作品に肩入れしたかったからと想像する。もし,アカデミー賞が男性映画部門と女性映画部門に分けられていたならば,後者の栄冠はこの映画に輝いたに違いない。
 
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写真4 レッドカーの浜辺の壮大な光景
(C)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
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