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O plus E誌 2016年5月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『太陽』:シンプルな題名だが,深遠なテーマを描いた中身の濃い映画だ。劇団イキウメで上演された舞台劇の映画化作品で,SF仕立ての異色ドラマである。バイオテロで人類が減少した近未来に,夜だけ生きられる進化した新人類・ノクスと,取り残された貧しい旧人類・キュリオが存在するという設定だ。監督は入江悠で,主演の男女は神木隆之介と門脇麦。家族,友情,過疎,貧困,自由と管理,人間の葛藤,色々な素材が詰まっている。原作者・前川知大が脚本を担当しているので,練りに練られたセリフの連続で,見せ場もしっかりしている。ただし,舞台劇としては通用しても,映画としては今イチだ。感心はするが,観て楽しい映画ではない。納得はするが,感動はしない。情よりも理が勝ち過ぎているためだろう。ノクス側の生活の描写が少なく,制作費をケチったという印象も強い。筆者は,半世紀近く前によく見た学生劇団の演劇を思い出した。
 『フィフス・ウェイブ』:筆者のお気に入り,クロエ・グレース・モレッツ主演のSFミステリーで,表題は地球外生命体による侵略攻撃の第5波を意味している。Cinefex誌に掲載予定ならば,当然 CG/VFXはハイレベルに違いなく,メイン欄で語るつもりだった。知的生命体アザーズが残った人類の体内に侵入し,寄生するといえば,ある種のゾンビもので,上述の『アイアムアヒーロー』とペアにして紹介するつもりだった。試写を観て,その予定は無惨に打ち砕かれた。CG/VFXは,冒頭で定番の大津波や都市破壊が登場するだけで,残りは語るに値しない。クロエちゃんは少し大人になり,色っぽくなったが,その彼女を観るためだけの映画だ。2人のイケメン男性に好かれる設定は『トワイライト』シリーズ以来のヤングアダルト路線だが,中身はもっとプアだった。ソニー・ピクチャーズの不振を象徴するような凡作で,激励を込めて「喝!」を進呈したい。
 『追憶の森』:マシュー・マコノヒー演じる主人公は米国人男性だが,死に場所を求めて日本にやって来る。自殺の名所である富士山麓の青木ヶ原樹海の中で,外傷を負った日本人男性(渡辺謙)と邂逅する。2人は生きることを決意し,手を携えて,樹海からの脱出を試みる……。樹海内の描写も興味深く,青木ヶ原はこんなに広大だったのかと感心する。数年前から,マッチョ体形のM・マコノヒーが,本作では眼鏡1つで知的で繊細な感じに見える。ジョニー・デップにも似ている。回想シーンで登場する,彼の死んだ妻役のナオミ・ワッツも好いキャスティングだ。比較的単純なサバイバル劇かと思ったのだが,終盤,思わぬひねりが利かせてあった。最後の種明かしが,日本人にだけ一足先に分かるのは特別サービスか,それともご愛嬌だったのか。
 『カルテル・ランド』:メキシコの麻薬カルテルの実態を描いた映画だ。先月の『ボーダーライン』は米国側のFBIの視点で描いたフィクションだが,こちらはメキシコ国内で,1人の心ある医師が作った自警団と行動を共にし,ある映像作家が命がけで撮った実録映像である。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート作品というので,ついついその視点で観てしまう。なるほど,縄張り争いや武力抗争を自分の目で捉えているので,報道としての価値は高いのだろうが,映画としては余り面白くない。密着取材とインタビュー中心だが,何か再現ドラマのような感じがする。即ち,現地取材に限界があったのか,真に迫った感がない。おそらく,遠く離れた東洋の島国の我々には,そう切迫感はないためだろう。本作はフィクションにして,ドラマとして盛り上げた方が,むしろ訴えるものがあったと感じた。
 『マクベス』:言うまでもなく,シェイクスピアの四大悲劇の1つの映画化作品だ。平均的日本人は題名は知っていても,英文科出身かよほどの教養人でない限り,精読したことはないのが普通だろう。その平均的日本人の視点で,本作をしっかり評価しようとしたが,少し無理があった。原作を熟知していないので,忠実な映画化なのか,どこが新解釈なのかが分からない。3人の魔女の予言通り,スコットランド王になるマクベスとその夫人を演じるのは,マイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤール。当代の2大スターが話す古風な英語は,威厳と歴史を感じる正統派の作りで,英国の荒野や城を壮大な映像で描く手法は,最近のダークな映画の影響だと感じた。とりわけ,最後のマクダフとの対決からエンドロールの前半まで,空を真っ赤に染めた描写は,独自の表現だろう。この『マクベス』の存在を思い出させるのに有効な,印象的で美しいシーンだ。
 『殿,利息でござる!』:時代は江戸中期で,舞台は仙台藩吉岡宿である。スマッシュヒットなったと松竹の『武士の家計簿』(10)『武士の献立』(13)に続く,実話ベースの時代劇で,最初は『武士の投資術』ともいうべき内容を想像した。阿部サダヲ主演でこの題だと,『超高速!参勤交代』(14)同様のギャグ満載のコメディで,年貢米の運用を任された勘定方でも演じるのかなと…。この予想は見事に外れた。前半は随所で笑いを誘うが,中盤以降は,むしろ涙を誘うヒューマンドラマだった。主人公は武士ではなく,商人たちだった。「宿場再生計画」がテーマで,これがフィクションなら誇張し過ぎ,クサいと感じるが,実話だと知ると,むしろ感動に変わる。山崎努演じる浅野屋甚内(先代)の「無私の心」には,魂を揺さぶられる。あらゆる政治家や市民運動家は,この「心」を見習って欲しい。阿部サダヲと妻夫木聡の対比が見事だ。冷酷無比な藩の高官役の松田龍平は,ハマリ役の無表情な演技で,この映画を盛り上げていた。
 『海よりもまだ深く』:『そして父になる』(13年10月号)『海街diary』(15年6月号)に続く是枝裕和監督作品だが,今やすっかり売れっ子監督で,ストーリーテリングにも余裕を感じる。本作はオリジナル脚本で,特に「海」は出て来ない。各俳優の個性を引き出し,現代の市民生活をリアルに描く腕は,山田洋次監督の域に近づいて来たなと感じる。「なりたかった大人になれなかった大人」の物語で,小説家になる夢を諦め切れない中年男を阿部寛が,愛想をつかして別れた妻を真木よう子が,2人の復縁を望む母親を樹木希林が演じている。小林聡美,リリー・フランキーら助演陣の中では,池松壮亮が好演だった。探偵事務所の相棒で,ダメ男の主人公との掛け合いは,寅さん(渥美清)と舎弟・登(津坂匡章)のコンビを思い出す。力作ではあるが,余り倖せな気分にはなれない。能天気なハッピーエンドは困るが,スッキリしない,やるせなさが残った。
 『君がくれたグッドライフ』:題名から人生賛歌の映画だと分かるが,「グッドライフ」ではドイツ映画だとは想像できなかった。セリフもドイツ語だ。3組6人の仲の良い男女が,年に1度,長距離の自転車旅行をする。今年の当番のハンネス夫婦が選んだ旅先は,ベルギーだった。各夫婦の諸問題をほぼ均等に描く群像劇かと思ったら,そうではなかった。音楽が軽快なので,明るく楽しいロードムービーかと想像したら,それも違っていた。筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症したハンネスと妻のキキが中心の物語で,道中も彼の病状悪化が顕著になって来る。目的地にベルギーを選んだのは,「尊厳死」が認められている国で,この地で人生を終わらせるという理由からだった……。シリアスなテーマで,人生の意義を真面目に描いた好い映画のはずだが,筆者は今一つ感情移入できなかった。多分,家族ぐるみで自転車旅行をするような友人を持たないので,彼らの道中の会話も,素直に理解できなかったためだろう。
 
   
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