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O plus E 2019年Webページ専用記事#3
 
 
X-MEN:ダーク・フェニックス』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月21日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年6月7日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  予想はしていたが,やはり本作で打ち切りとは…  
  マーベルコミックを原作とする人気シリーズの7作目で,ウルヴァリン=ローガンだけを主役にしたスピンオフ3本を入れれば10作目になる。2度目の3部作が3年前に終わったので,いよいよ新章に突入である……。と書きたかったのだが,本作にてシリーズは打ち切りとのことだ。ディズニーが本シリーズの配給元の20世紀フォックスを買収し,傘下に収めたので,いずれそうなるとは思っていたのだが,「やっぱりか」の思いである。監督のサイモン・キンバーグが,昨年暮のインタビューで「続編でも最終作でもなく,新章です」と発言していたので,継続を期待していたのだが……。
 メディア産業としてのディズニー・エンタープライゼズの買収意欲は凄まじい。1996年に三大ネットワークの1つのABCとスポーツ専門チャンネルのESPNを入手した後,2006年にピクサー,2009年にマーベル,2012年にルーカス・フィルムを買収し,長い伝統を誇る20世紀フォックスまで傘下に収めてしまった。これによって,同時にネット配信サービスのHuluの事実上のオーナーにもなった。
 Fox社の膨大な映像資産を配信する権利やリメイク権も得たことになる。普通の劇映画はFoxブランドで製作し,ディズニー本体はファミリー向きのディズニーブランドに徹するのかも知れない。「スター・ウォーズ」シリーズがディズニー配給網というのは,何か違和感がある。元のFoxブランドに戻すならば,SWフリーク達は喜ぶことだろう。
 では,「X-MEN」シリーズはと言えば,当欄で何度も触れたように,これまでFoxに独占製作&配給権があったために,ディズニー傘下にマーベル作品とのクロスオーバーはなされていなかった。同様な権利を有していたソニー/コロンビア映画の「スパイダーマン」シリーズが,既に「アベンジャーズ」シリーズと相互の乗り入れを果たしているので,マーベル・ファンとしては「X-MEN」シリーズにも同じことを期待していたに違いない。
 ところが,乗り入れどころか,丸ごとシリーズ終了である。図らずも 『LOGAN/ローガン』でシリーズの顔であったヒュー・ジャックマンとパトリック・スチュワートを引退させてしまった。加えて「アベンジャーズ」シリーズも一旦完結させた以上,両方ともリセットした方が今後の企画を立てやすいということだろう。何年かしたら,アベンジャーズ・チームも新メンバーを入れ,X-MENとクロスさせるに違いない。原作コミックがそうなのだから,十分あり得る話だ。その時には,演じる俳優も一新するだろう。アイアンマン,キャプテン・アメリカ,ウルヴァリンらが,若返って再登場するというのも楽しみではないか。ということにしておこう。
 
 
  当欄と共に歩んだ20年弱を振り返る  
  映像技術の最先端を語る「コンピュータ・イメージ・フロンティア」の付録でたまに映画評を書いていたのを,当欄に衣替えして,連載し始めたのは1999年の後半からである。丁度20年だ。Fox版の『X-MEN』シリーズの第1作公開が2000年だったから,ほぼ全期間を共にし,VFXの発展を見てきたことになる。
 既に各誌で特集号が組まれているし,ムックも出ているが,当欄としてもシリーズを振り返ってみよう。過去9作品は3つに大別できる。さらに,デッドプールが主役の2作品もこのシリーズに加えることもある(以下,題名前の記号番号で言及する)。

【旧3部作】
 A-1『X-メン』(00年10月号)☆☆
 A-2『X-MEN2』(03年6月号)☆☆+
 A-3『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06年9月号) ☆☆+
【新3部作】
 B-1『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年7月号)☆☆☆
 B-2『X-MEN:フューチャー&パスト』(14年Web専用)☆☆☆
 B-3『X-MEN:アポカリプス』(16年8月号)☆☆
【ウルヴァリン3部作】
 C-1『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号)☆☆+
 C-2『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年10月号)☆☆
 C-3『LOGAN/ローガン』(17年6月号)☆☆☆
【デッドプール2部作】
 D-1『デッドプール』(16年6月号)☆☆+
 D-2『デッドプール2』(18年Web専用#3)☆☆☆

 11作品中で,☆☆☆評価が4作,☆☆+評価が4作であるから,当VFX映画評のメイン欄に相応しい力作を生み出して来たことが分かる。旧3部の設定年時は,2002年,2003年,2006年で,ほぼ公開年と同じであった。物語の構図は,プロフェッサーX(P・スチュワート)率いるX-MEN集団とマグニートー(イアン・マッケラン)率いるテロ集団に別れたミュータント達の戦いである。1作ごとに新登場のミュータントも増え,CG/VFXを駆使した超能力発揮がセールスポイントだった。
 新3部作では一転して,若き日のプロフェッサーX(ジェームズ・マカヴォイ)とマグニートー(マイケル・ファスベンダー)が登場する。B-1は彼らの少年時代の1944年に始まるが,物語の中心は1962年であった。B-2は1973年と2023年との間で時間を往き来するダイナミックな展開であった。B-3の舞台となる1983年は,B-2で時間別れした時空間であり,旧3部作とは別世界であるとされている。
 
 
  こんな形で最終作とは,少し無念で,成仏できない  
  前置きが長くなったが,ようやく最終作の本作の中身に移ろう。時代設定は1992年で,出演者もB-3からほぼ継承されている。監督は新章と言ったが,B-3の素直な続編であり,B-4と呼んでもよい設定になっている。
 監督・脚本のサイモン・キンバーグは,これが監督デビュー作だが,ハリウッドでは名の知れた脚本家であり,本シリーズでは,A-1, A-2, C-1を除く全作品に脚本か製作で名を連ねている。即ち,本シリーズの物語を支えてきた人物であり,この最終作の落とし所を考えるのに最適な起用だと言える。
 本作の主役は,副題にある「ダーク・フェニックス」で,強力なテレパシーとサイコキネシスをもつジーン・グレイのことで,前作に引き続きソフィー・ターナーが演じている。潜在能力ではX-MEN中で最強パワーを有していることをプロフェッサーXが見抜き,B-3では少女ジーンの内なるフェニックス・パワーを目覚めさせ,アポカリプスを消滅させた。その少女が10年後の本作では,プロフェッサーXの右腕的存在に成長していた。ところが,宇宙でのミッション中に大量の熱線を浴びたことから,秘められていたダークサイドが増幅され,強大なパワーを自己制御できない恐ろしい存在になる……,という設定である。新しい登場人物としては,ダーク・フェニックスの巨大なパワーを利用しようとする「謎の女」役でジェシカ・チャステインが配されている。
 原作コミックでは,1980年に登場した「ダーク・フェニックス・サーガ」なる長編エピソードがあり,シリーズ中でも屈指の人気を博したという。監督のS・キンバーグとしては,このサーガを基に複数本作りたかったのだろう。それが最終作1本になってしまった訳だ。
 ちなみに,過去作では,A-1, A-2, A-3, C-2, B-3でファムケ・ヤンセン演じるジーン・グレイが登場していた。A-3でウルヴァリンに殺され,C-2で彼の回想シーンに登場するが,B-2では別の未来で復活している。本作でのジーン・グレイ=ダーク・フェニックスは,それとは別の時間軸での出来事という位置づけである。
 さて,映画全体で出来映えだが,やはり強引に打ち切って1本に収めたためか,バランスが悪い。個々の人間描写は悪くないのだが,シリーズを知らない観客にはさっぱり理解できないだろう。公開予定も数ヶ月延びたようで,この間に結末がかなり書き換えられたものと想像する。
 以下,当欄の視点からの論評である。
 ■ 映画の冒頭は,特命を帯びたX-MEN達の宇宙空間でのスペースシャトル救出作戦である。オープニング・シーケンスとしてはかなり長めだが,かなり見応えがあった。超能力をもつミュータントたちとはいえ,全員が直ちに宇宙空間には移動できないようで,彼ら専用のシャトルでNASA乗務員救出に向かう(写真1)。この宇宙空間での活動の描写が素晴らしい。宇宙ものなど何本も観てきたはずだが,地球とシャトルの姿がかなり美しく感じた(写真2)。ミュータントならでは救出行動も手際よく,拍手喝采ものだった(写真3)。地球に帰還し,人々から大きな称賛を受けるのもむべなるかなである。スーパーヒーローものとして,ユニークな活躍シーンであった。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 (上)扉の向こうに見えるのはX-MEN専用のスペースシャトル,
(下)宇宙に向かうミュータント達も緊張の面持ち
 
 
 
 
 
 
 
写真2 地球をバックにした救出飛行が美しい
 
 
 
 
 
写真3 念力パワーを活用した宇宙での救出作業 
 
 
  ■ 上記ミッション中にジーンが太陽フレアの熱放射を受ける。その後,自己制御ができなくなってから,ひたすらダークな物語となる(写真4)。さっぱり面白くない。かつて,能天気なヒーロー映画が続いた頃には,『ダークナイト』シリーズの登場は新鮮であったし,大作らしい風格もあった。その大ヒットを真似て,ヒーロー達の精神的葛藤や苦悩ばかり描くダーク路線が多過ぎる。ウルヴァリンの引退を告げるC-3はシリアスドラマとして成功したが,2作続きのダーク作戦は失敗だ。CG/VFXの利用シーンは多々あったが,上記の宇宙シーン以外は魅力に欠ける(写真5)。強いて言えば,ジーンの顔で血管が金色に化したかのように見える描写だけが,少し新しく感じられた(写真6)
 
 
 
 
 
写真4 自己制御できず孤立したジーンに駆け寄る恋人のサイクロップス
 
 
 
 
 
 
 
写真5 こんなVFXシーンの連続で,魅力がない
 
 
 
 
 
写真6 ダーク・フェニックスと化したジーン・グレイ
(C) 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
 
  ■ 地球制覇を目論む「謎の女」の野望と対決するラストバトルは,列車内の戦いが中心だが,長いだけでしつこく感じた。CG/VFXの主担当は,Legacy Effect社で,他にMPC,SOHO VFX,Scanline VFX, Rising Sun Pictures, RODEO FX, Mels VFXが参加している。残念ながら,全く大団円感のない凡作でシリーズが終わってしまった。C-3『LOGAN/ローガン』で2人を死なせたところでシリーズの終えるべきだったのに,余計な1作だった。共に約20年を過してきた当欄としては,ちょっと口惜しい。
 
 
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