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O plus E誌 2017年4月号掲載
 
 
purasu
パッセンジャー』
(コロンビア映画 /SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月24日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2017年3月2日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  さすが美術賞ノミネートと納得する絶品のビジュアル  
  レイアウトの便宜上,3本目に入れてしまったが,当欄としては,トップ記事で語りたい作品である。一時期,チープなSF映画ばかり作られていたが,この数年VFXの威力を存分に発揮した秀作が続々と作られている。ディストーピアものは余り好きになれないが,宇宙ものこそCG/VFXの活躍の場である。ちょっと振り返っただけでも,『プロメテウス』(12年9月号)『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)『インターステラー』(14年12月号)『オデッセイ』(16年2月号)とほぼ毎年のように意欲作が登場している。本作もその範疇に入る一作であるが,とりわけ大型宇宙船の外観と船内のデザインが素晴らしい。さるアカデミー賞では,視覚効果賞部門でなく,美術賞部門にノミネートされていた。
 舞台となるのは,258人の乗務員と5,000人の乗客を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号で,人類の移住先の星まで120年の航行を続けている。その間,全員冬眠ポッドで眠っているが,なぜか乗客の1人ジム(クリス・プラット)だけが,90年も早く目覚めてしまった。彼は寂しさに堪えかね,逡巡した挙句に,別の乗客のオーロラ(ジェニファー・ローレンス)の冬眠装置を解除し,彼女を目覚めさせてしまう。後で目覚める乗務員のガス(ローレンス・フィッシュバーン),アンドロイドのバーテンダーのアーサー(マイケル・シーン)の4人だけが,主な登場人物である。
 監督は,『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(15年3月号)のモルテン・ティルドゥム。脚本は『プロメテウス』のジョン・スペイツ。美術担当は『インセプション』(10年8月号)のガイ・ヘンドリックス・ディアスというから,ほぼ完璧な布陣だ。  では,ビジュアルの見どころを1つずつ見て行こう。
 ■ まず注目は,アヴァロン号の外観だ。重力を発生させるために回転しているが,いわゆる円形や円筒形のシンプルなデザインではなく,捻じれた3本のブレードをもつユニークな形状が採用された(写真1)。早々に隕石と衝突して,壊れたかと思いきや,相当な衝撃に耐え得るという設定になっている(写真2)。ミニチュア・モデルも作られたが,ほとんどがCGによる描写だ。
 
 
 
 
 
写真1 5千人の乗客を乗せた豪華宇宙船の外観
 
 
 
 
 
写真2 これだけの衝突でびくともしない強靱さ
 
 
  ■ 3つのブレードの船内は,各々5,000人分の冬眠エリア,娯楽エリアのグランドコンコース,巨大な格納エリアという設定だ。早く目覚めたジムが,船内を探索する冒頭30分が見ものである。これまでの宇宙船や宇宙ステーションとはまるで違う別世界だ。とりわけ,目を引くのはグランドコンコースだ(写真3)。豪華客船を思わせるゴージャスなレストラン,アールデコ調のバーがあるかと思えば,ホログラム状の対話エージェント,4連の小型ロボット,未来型のカフェテリア等,嬉しくなるような事物が登場する。アヴァロン号の船内は巨大セットを組んで撮影されたようだが,勿論,随所でCG/VFXの力を借りて描き加えられている(写真4)
 
 
 
 
 
写真3 これが娯楽エリアのグランドコンコース
 
 
 
 
 
 
 
写真4 船内の実物大セットを作り(上),それをVFX加工(下)
 
 
  ■ 冬眠ポッドも宇宙服も,奇抜過ぎず,それでいて新しさを感じる良いデザインだ。冬眠ポッドは,32台実物大のポッドが作られ,エリア全体を描写するのにはCGが使われている。パノラマ・ルームもお洒落で,宇宙空間に没入するシーンは壮大かつ魅力的だ(写真5)。医療装置は,デザインだけでなく,何でも自動診断してしまう機能に感心した。あちこちに登場する各種モニタ画面も,デザイン的にかなり力が入っていると感じた。
 
 
 
 
 
写真5 パノラマ・ルーム体験は,ぐっと魅力的
 
 
  ■ もう2つCG/VFXの威力を感じたシーンを挙げておこう。1つ目は,重力異常が生じ,プールの水が跳ね上がり,やがて塊りとなってオーロラを飲み込んでしまうシーンだ(写真6)。もう1つは,宇宙服を着て,船外活動するシーンである。写真7のような角度で船外に出るパターンは珍しく,このシーンでのアヴァロン号の外観も好い出来映えだ。2人で宇宙遊泳するデート・シーンもロマンチックで,まさに「遊泳」という言葉がぴったりくる。CG/VFXの担当は,飛ぶ鳥を落とす勢いのMPCで,ほぼ1社で全体を請け負っている。プレビスは,MPCの同部門とThird Floorで,相当しっかりと事前デザインしていたものと思われる。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 重力異常で,プールの水が上昇し,オーロラを飲むこむ
 
 
 
 
 
 
 
写真7 宇宙服を着て,船外に向かうシーンも秀逸
(上:原画像,下:VFX加工結果)
 
 
  ■ 美術部門ばかりに目が行ったが,トーマス・ニューマンが担当した音楽もいい味を出していた。アカデミー賞には,美術賞に加えて,作曲賞部門でもノミネートされていたことを付記しておこう。    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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