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O plus E 2021年Webページ専用記事#3
 
 
クルエラ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2021 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [5月27日より全国映画館で公開,5月28日よりDisney+プレミアアクセスで配信中]   2021年5月17日 大手広告試写室(大阪) 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  個性的な女性ディズニーヴィランの誕生秘話  
  3月5日公開の『ラーヤと龍の王国』(21年Web専用#1)に続くウォルト・ディズニー配給網からの劇場公開作品である。緊急事態宣言下の都市での映画館は休業要請されているため,今回もDisney+での配信も並行して行われている。多数の大作(『ジャングル・クルーズ』『ナイル殺人事件』『キングスマン ファースト・エージェント』等々)がまだ公開延期中であるのに,本作は世界的にも当初予定通りの公開となった。将棋倒し的にどんどん先送りになる印象の悪さを避け,ここらで新作を予定通りにリリースしてみようという営業戦略なのだろう。
 その上,以前から公言されていた5月28日公開が,直前になって,劇場公開だけ1日早まった。Disney+での視聴に高額のプレミアアクセス料金を徴収するだけでなく,映画館だけ公開日を早めたのは,ネット配信に押され気味の劇場経営への配慮だと思われる。何であれ,予告編や試写会までやっておきながら公開延期ばかり続いた中で,フレッシュな新作が予定通り観られたのは喜ばしい限りだ。映画内容も,それに値する佳作である。
『ラーヤと龍の王国』がフルCGアニメで,新しいディズニープリンセス映画であったのに対して,本作はかつての名作アニメ『101匹わんちゃん(大行進)』(61)の悪役を主人公にした実写映画である。この企画は,アニメ映画『眠れる森の美女』(59)から実写映画『マレフィセント』(14年7月号)とその続編『マレフィセント2』(19年Web専用#5)を生み出したのと同路線だと言える。ただし,『マレフィセント』は少女時代のオーロラ姫から始まっていたが,彼女を我が子のように育てる魔女のマレフィセントは,当然のことながら,アニメ版と同じような大人の魔法使いであった。本作の主人公クルエラの描き方は,それとは異なっている。クルエラの少女時代から始まり,大人になって悪役的存在になるまでを描いているオリジナルストーリーである。
 このアニメの実写化と女性ヴィラン(悪役)のことを,もう少し詳しく書いておこう。1961年製作のアニメは,最近の実写化ブームよりもかなり早い時期に,ほぼ同じ登場人物&動物設定で実写化され,『101』(96)が生まれた。さらに,102匹目の仔犬を加えた続編の『102』(01年3月号)も作られている。一方,アニメ版の続編としては,別途ビデオ作品『101匹わんちゃんII パッチのはじめての冒険』(02)が発売されている。この4作でヴィラン女性は同一人物であり,そのフルネームの英語表記は「Cruella de Vil」である。「残忍な」の意の「Cruel」と悪魔の「Devil」を合成して作った名前だ。面倒なことに,日本語表記は各作品で不統一であり,再上映時の字幕でも「クルエラ・ド・ヴィル」と「クルエラ・デ・ビル」が入り乱れている。ややこしいので,以下では単に「クルエラ」で通すことにする。
 一貫しているのは,クルエラはアニメ版の女性主人公のアニータの学友であり,髪の毛が白黒半々の個性的なルックスであることだ。アニータもクルエラもファッションデザイナーであり,クルエラは犬を殺して,その毛皮でコートを作るという残虐な毛皮マニアである。『101』では,ファッション会社「House of DeVil」を経営する女社長になっている。『101』『102』で,この悪女をベテラン女優のグレン・クローズが演じていて,主演とも言える存在であった(写真1)。こうした実写版の前作が既にあるので,若き日のクルエラを描く前日譚が企画されたのだろう。
 
 
 
 
 
写真1 『101』と『102』でクルエラを演じたのはグレン・クローズ
 
 
 「ディズニープリンセス」に対して,既存アニメの悪役たちを集めた「ディズニーヴィランズ」なる言葉も生まれている。プリンセスほど定義や構成メンバーは明確でないが,既に写真2のような集合写真もある。この中には『ピーターパン』(53)のフック船長しかいないが,他に『アラジン』(92)の邪悪な大臣のジャファーや『プリンセスと魔法のキス』(10年3月号)の魔術師ドクター・ファシリエ等の男性陣も含まれるようだ。とはいえ,新しい実写映画の主人公に据えるなら,若い女性の方がいい。しかも,存在感も才能もある個性的な女性主人公が望ましい。そうした観点から,本作の若き日のクルエラが選ばれたようだ。
 
 
 
 
 
写真2 プリンセスたちに負けじとディズニーヴィランズを結成
 
 
  余談だが,写真2でのクルエラを見て,研ナオコに似ているなと感じた。そうしたら,何と何と,ネット上には写真3右がアップされていた。アニメ版の続編でクルエラの日本語吹替を担当したことから,研ナオコ自身がクルエラのコスプレ写真を投稿したらしい。「完成度が高すぎ」とのコメントがあったが,なるほど,これはまさにアニメから抜け出して来たかのようなルックスだ。
 
 
 
 
写真3 声優を務めた研ナオコのコスプレ。恐ろしいくらいソックリ!
 
 
  クルエラは,元々デザイナーであって,魔女ではないから,本作は魔法映画やアクション映画ではなく,むしろファッション映画のようになっている。しかも,主人公が一気に若返るので,若い女性のコスプレ対象として人気を博すことだろう。今秋のハロウィンでは一気に多数のクルエラが登場することと思われる。
 
  オスカー女優のエマ2人が対決するファッション映画  
  本編の大半は1970年代のパンク・ムーブメントが吹き荒れるロンドンに設定されているが,物語はクルエラの子供時代の1964年から始まる。彼女の本名はエステラで,生まれつき髪は白黒2色に分かれている。いじめっ子には倍返しでやり返す強い性格から,学校教師から「クルエラ」と呼ばれてしまう。デザイナーになることを夢見る少女が,優しい母を亡くしたことから,ますます反骨精神が強くなり,やがて文字通り,知性と美意識と狂気を兼ね備えた「クルエラ」へと変身する過程が描かれている。
 大人になった1970年代のエステラ=クルエラを演じる女優が注目だったが,エマ・ストーンが選ばれた。『ラ・ラ・ランド』(17年3月号)でオスカー女優となり,今や人気と実力を兼ね備えたトップ女優である。出世作となった『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(12年4月号)の作家志望のスキーター役はデザイナー志望のエステラに通じるものがある。一方,『女王陛下のお気に入り』(19年1・2月号)の女王の侍女アビゲイルは,従姉のサラを追い落とす狂気の行動をとる。まさにクルエラを想像するではないか。本作の1970年代のエステラは,アニメ版で手下として登場するジャスパーとホーレスと共同生活をしていて,2匹の小型犬バディとウインクを飼っている。
 もう1人,エステラが憧れる大きな存在がカリスマ的ファッションデザイナーで女男爵のバロネスだ。その名誉欲や傲慢な性格は,まるで『101』『102』のクルエラであり,本作の実質的なヴィランである。このバロネスに配されたのは,英国のベテラン女優のエマ・トンプソン。『ナニー・マクフィー』シリーズの善良な魔法使いの印象が強いが,『ハリー・ポッター』シリーズで生徒達の嫌われ者のシビル・トレローニー先生を演じる等,そこそこ悪役でも登場している。彼女も『ハワーズ・エンド』(92)でアカデミー賞主演女優賞を得ているから,本作はエマ対決,オスカー女優対決である。
 監督は,豪州出身のクレイグ・ギレスピーで,これが長編7作目という中堅監督だ。あまり記憶になかったのだが,調べてみると,当欄では2作目から6作目までの連続5作を取り上げていた。即ち,『ラースと,その彼女』(08年12月号)『フライトナイト/恐怖の夜』(12年1月号)『ミリオンダラー・アーム』(14年10月号)『ザ・ブリザード』(16年3月号)『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(18年3・4月号)の5本で,内4本が短評欄での紹介だった。名前が前面には出ないが,地味ながら,しっかり役割を果たす監督のようだ。イラストやグラフィックデザインをマンハッタン視覚芸術学校で学んだというから,デザイン・センスがあり,視覚効果にも通暁していると思われる。
 その地味な監督が初めてメガホンを取った大作であるが,なかなか見事な出来映えだった。大作揃いのディズニー配給作品の中で,最近最も面白かったのは,ネット配信専用では『ワンダヴィジョン』(21年3・4月号),劇場公開作品では本作である。細部に渡って眺めてそのファッション・センスに感心し,ワクワクしながら物語展開も楽しんだ。
 バロネスとエステラの上下関係は,『プラダを着た悪魔』(06年11月号)のメリル・ストリープとアン・ハサウェイを彷彿とさせる。同作ではファッション誌の編集長と新入社員だったが,本作は人気ファッションデザイナーとその弟子で,ファッション界との関わりも1段階アップしている。加えて,バロネスの側近のジョンを演じるマーク・ストロングのスキンヘッドは,ファッション・ライター役だったスタンリー・トゥッチを思い出す。ここまで来ると,オマージュのレベルを超えて,そっくり同じ印象を与えようとしていると感じる。ならばいっそM・ストリープとS・トゥッチを起用したら大きなサプライズだったと思うが,NYでなく,ロンドンが舞台なので,本場の英語を語れる英国出身のE・トンプソンとM・ストロングを配したのだろう。
 復讐心に燃え,狂気を帯び始めてからのクルエラは,DCヴィランの「ハーレイ・クイン」に似ていると感じた。女ピエロのハーレイも十分にパンクしているが,クルエラの方がずっとファッショナブルだ。筆者は70年代のパンク・ムーブメントでのファッションに詳しくないが,本作でクルエラとバロネスが身に付ける衣装の1つ1つが目を惹いた(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真4 アクションよりもファッションがウリだけのことはある

 
  VFXシーンの殆どを画像で紹介できないのが残念無念  
  以下は,CG/VFXを中心としたビジュアル面に関する感想と論評である。
 ■ 全編でVFXシーンは1,850もあるというのに,メイキング映像も公開されなければ,プレスシートにはプロダクションノートも付されていない。それらしきスチル画像も殆ど提供されないという八方塞がりなので,以下は記憶と想像での解説となる。まず気になるのは,犬たちが本物なのか,CGなのかだ。本作で登場するダルメシアン犬は,101匹どころか,たった3匹で,これはバロネスが所有している(写真5)。それにエステラ所有の2匹の小型犬を加えた計5匹が対象だ。随所で犬の表情が豊かだと感じた。高い所から地上に着地したり,車に飛び乗ったりなども危険で,本物の犬を使う訳にはいかない。長回しのシーンや人間と複雑に絡み合うシーンも,犬たちに脚本通りの演技を期待するのは無理だろう。既に2001年製作の『102』で,本物としか見えない犬をフルCGで描いていたのだから,本作で,たった5匹の犬をすべてCGで描くことなど何でもないだろう。CG/VFXの主担当が,動物描写が得意中の得意のMPCとなれば,犬は100%CGだろう。いや,人間の俳優は実物を前にした方が演技しやすかっただろうから,本物の犬を配し,顔だけすげ替えたシーンもあり得る。よって,95〜99%がCGだと予想しておこう。むしろ,たった5匹ではなく,本作には,様々な犬種で,あっと驚く数のCG犬を登場させて欲しかったところだ。
 
 
 
 
 
 
 

写真5 登場するダルメシアンはたったの3匹。心なしか表情が豊かに感じる。

 
  ■ 男爵であるバロネスの邸宅は,門から屋敷の玄関までかなりの距離がある。その上,急峻な崖の上に位置していて,これが物語に大きい影響を与えている。当然,その外観や炎上するシーンもすべてCGだろう。1964年,1970年代のロンドンはさほど印象的ではなかったが,今から50〜60年前となると,あちこちをVFX加工して復元する必要があったと思われる。ロンドンが本拠のMPC社にとっては何でもないことだ。VFX副担当のSSVFXの本社はアイルランドのダブリンだが,LAとロンドンにも支社があるので,ロンドンの描写も守備範囲の内に違いない。その他では,ネズミや多数の蛾もCGだろうが,特筆するレベルのことではない。
 ■ エステラ/クルエラのツートンカラーの髪は,染めても,鬘着用でも実現できるので,髪をVFX加工するほどのことではない。次々と登場するファッションは当然本作のウリであり,多くのデザイナーが参加して,腕によりをかけたことだろう。1つだけ印象的なシーンを挙げるなら,予告編に登場するバロネス邸でのパーティでのエステラの変身場面だ。エステラが自らの白いガウンに火をつけると,それが燃え尽きて,中から赤いドレス姿が現れる(写真6)。普通にガウンを脱げばいいだけの話だが,火炎のVFXで繋いでいるだけで,まるで魔法のように感じてしまう。技術的には何でもないが,巧みな演出だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真6 白いガウンに火をつけると,まるでマジックのように中から赤いドレスが
(C)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 
  ■ むしろ特筆すべきは,音楽だろう。パンク・ロック一辺倒かと想像したが,そんなことはなかった。オリジナル・スコア以外に,多数のRockやPopsの既存曲が流れる。本編映像とは同期せず,脈絡もなく,何曲も挿入されるが,全体として調和がとれていて,映画のテーマにあった雰囲気を醸し出していた。個々の楽曲については,別ページのサントラ盤ガイドを見て頂きたい。
 
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