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O plus E 2021年9・10月号掲載
 
 
レミニセンス』
(ワーナー・ブラザース映画 )
      (C) 2021 Warner Bros. Entertainment Inc.
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月17日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2021年8月30日 ワーナー試写室(内幸町)
       
   
 
DUNE/デューン 砂の惑星』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C)2020 Legendary and WBEI
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月15日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2021年9月7日 大手広告試写室(大阪)
2021年10月17日 TOHOシネマズ二条(IMAX)
 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  WBがこの秋に送り出すSF大作2本  
  隔月刊の狭間の「21年Web専用#4」で,久々にVFX多用作2本をまとめて論じた。本号でもそうしてみよう。今回は単に配給会社が同じというだけでなく,共にVFXをたっぷり使ったSF映画の大作である。
 ただし,両作の性格はかなり異なる。一方は,オリジナル脚本の全くの新作で,時代は現代に近い近未来,場所は地球上で,しかも米国のマイアミ市と特定されている。大スターのヒュー・ジャックマンの主演作だ。
 もう一方は,原作がSF史に残る大河小説「砂の惑星」で,1984年にデヴィッド・リンチ監督で映画化されている。本作はそのリメイク作だが,時代は西暦10191年,宇宙空間の4つの惑星が舞台というから,構想は壮大だ。登場人物は多彩だが,名前だけで集客力がある大スターは起用されていない。という風に,全く対照的な2作であるが,ここでは公開順に論じよう。
 
 
  「新感覚SFサスペンス超大作」は, かなりの無駄遣い  
  題名の「Reminiscence」は心理学用語で,「回想」「追憶」の意味らしい。本作の字幕では「記憶潜入」と訳されている。H・ジャックマン演じるニック・バニスターの職業は「記憶潜入エージェント」だ。依頼人に巧みに語りかけ,意識の中での時空間移動を誘導し,目的とする過去の記憶を呼び起こす「心の私立探偵」である。本作の描写では,頭部に多数の電極を設置し,依頼人がバスタブのような浅い水槽に横たわると,頭に浮んだ光景が大型3Dホログラムスクリーン上に投影される。それを見ながら,彼は膨大な記憶の中から依頼された過去を探し出すという仕組みである。
 詳しくは後述するが,このホログラム投影装置が多少新しく感じるだけで,人間の記憶に潜入する描写はSF映画では昔から何度も登場している。ビジュアル的に斬新だったのは,クリトファー・ノーラン監督の『インセプション』(10年8月号)で,他人の潜在意識下に入り込み,アイディアを盗み出していた。時間軸移動は同監督の得意技で,『メメント』(01年10月号)『TENET テネット』(20年9・10月号)等も同系列の作品と言える。
 この天才監督のブレインが弟ジョナサンで,<もう一人の天才>が原案を提示し,『ダークナイト』(08) 『ダークナイト ライジング(12)『インターステラー』(14)等の脚本も手がけていたという。弟の存在は初めて知ったが,本作はこのJ・ノーランの着想で,「兄と極めた時間軸マジックをさらに進化させた」をセールストークにしている。ただし,彼は製作陣の1人に過ぎず,監督・脚本は配偶者のリサ・ジョイである。この夫婦コンビでTVシリーズ『ウエストワールド』をヒットさせたというが,彼女にとっては,これが劇場用長編映画の監督デビュー作である。
 H・ジャックマンが1枚看板だが,助演陣には,彼を心を奪われる女性メイにレベッカ・ファーガソン,その逆に彼に想いを寄せる相棒ワッツにタンディ・ニュートンが配されている。他にダニエル・ウー,クリフ・カーティスらがの名があるが,知名度は低い。「新感覚SFサスペンス超大作」と謳っているが,サスペンス度は高くなく,映画としての出来映えはC・ノーラン作品とは雲泥の差であった。記憶を辿るたびに物語は二転三転し,一々ニックが大仰に驚いた顔をする。麻薬取引等も絡めてあるが,所詮は行方不明になった女性を追う未練たらしい男の物語だ。ひたすらカッコいいH・ジャックマンにこんな役を演じさせたことを怒るファンも少なくないはずだ。演出はプア,監督の自己満足で,観客無視の脚本と言いたくなる。
 CG/VFXの見どころは大別して2つで,以下それだけを論じておこう。
 ■ 映画冒頭から水没した町の光景が登場する」(写真1)。マイアミ市の大半が冠水しているので,ハリケーンがもたらした大洪水かと思いきや,世界中の主要都市も同じ状態らしい。物語自体にこの水没状態は関係なく,近未来はディストピアだと言いたいだけらしい。ニューオーリングの廃業した遊園地跡地にかなり大きなオープンセットを作り,その中に水の町を作り上げたという」(写真2)。なるほど,その中で多少のアクションシーンはあるが,」写真3などはどう見てもCGで生成した水の合成だ。富裕層が暮す「ドライゾーン」もCG/VFXの産物だろう」(写真4)。出来映えは悪くない。だとすると,実物の水の町の制作は全くの無駄遣いだ。本作のCG/VFXの主担当はRISE Visual Effect Studios, 副担当はScanline VFXである。
 
 
 
 
 
 
 

写真1 映画の冒頭からマイアミ市が冠水した光景で始まる

 
 
 
 
 
写真2 遊園地跡の実物セットでの撮影風景
 
 
 
 
 
 
 

写真3 さすがにこの市街地の水はCG合成だろう

 
 
 
 
 
写真4 富裕層は堤防で護られたドライゾーンに住む
 
 
  ■ 「ホロメッシュ」と称する円筒型の立体映像投影装置がニックとワッツの仕事場に配置されていて,可視化された記憶が表示される」(写真5)。全く斬新なホログラム装置を作り上げたような紹介記事があったが,そんなことはない。光の干渉を記録した純然たるホログラムではなく,メッシュスクリーンに撮影済みの映像を投影する擬似ホログラムディスプレイに過ぎない。既にこの方式の製品が市販されていて,それを導入しただけだ。俳優が演技する上では,目の前にあった方が便利だが,CG/VFXで描けば,ホログラム風に見せることは難しくなく,かつもっと斬新な記憶の見せ方ができたはずだ。監督が,こうしたこの種の装置を撮影現場に導入したかっただけのことだろう」(写真6)。既に実用化されているとはいえ,この大きさとなると特注であり,この「ホロメッシュ」の設置も無駄遣いと言わざるを得ない。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 (上)メッシュ状の円筒型投影スクリーンをスタジオ内に設置
(下)そこに過去の記憶がホログラム風に映し出される
 
 
 
写真6 この装置を導入してご満悦の監督(左)と表示例(右)
(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
 
 
  スケールが大きく, 格調高いSF大河物語の序章  
  2本目は,まず個人的体験から入ろう。毎月「SFマガジン」を精読していた学生時代,ヒューゴー賞,ネビュラ賞をW受賞したフランク・ハーバート作の「砂の惑星」は大きな話題だった。後に全6話の大河シリーズになるが,その第1話「砂の惑星」だけで,ハヤカワ文庫で4巻もあった。全巻買っておきながら,1冊目の終わり辺りで挫折してしまった。途方もない遠い未来の設定でありながら,中身が中世の貴族社会を思わせる古めかしい構図であったのに興味が持てず,退屈したからである。
 1984年末に米国で公開された映画の本邦公開は翌年3月だが,監督の意に反して137分に圧縮された劇場上映版の評判が悪く,映画館に足を運ばなかった。TV放映を見た記憶があるが,これも途中で寝てしまった。後にTV上映用に189分の長尺版が作られ,DVD化されているというので,この長尺版を熟視し終えてから,本作の試写会に臨んだ。本作を論評するのに,物語の骨格や過去作品の予習は不可欠と思ったからである。
 本作の注目ポイントの1つは,監督・脚本が鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴであることだ。『メッセージ』(17年5月号)『ブレードランナー 2049』(17年11月号)とすっかりSFづいて,これで3作連続である。後者が『ブレードランナー』(82)が描いた2019年の30年後の世界を扱った続編であり,本作は1984年版のリメイクという違いはあるが,ゆったりとした語り口,丁寧な絵作り,格調の高い音楽の劇伴は本作にも受け継がれている。まるで,「SF映画史上に残る問題作の後始末は,自分に任せろ」と言わんばかりの自信が感じられる。
 人類が地球以外の他の惑星に移住し,宇宙帝国を築いている遠い未来の物語である。この帝国を統括する皇帝から,公爵や男爵などが,領土として与えられた各惑星を統治している。通称デューンと呼ばれる惑星アラキスが本作の舞台だ。砂漠ばかりで不毛の星に見えるが,宇宙を支配する鍵となる貴重な香料メランジが採掘できる星というのが大きな特長である。このメランジを巡って複雑な物語が展開し,登場人物も多彩で,とても書き切れない。以下,個別項目毎に論評する。

【総合評価】
 いつもと逆順で,総合評価から入る。1984年版と比較して,相当出来がいいなと感じた。語り口は見事で,大作感に溢れている。もう一度じっくり見直したいと思う観客は多いだろう。何もかも豪華で,スケールが大きい。とりわけ,ハンス・ジマーの音楽が秀逸で,これが本作の格調の高さ,風格を支えている。
 もっと見続けたいと思ったところで,物語は終わる。明らかにシリーズの序章なのだが,そうは明記されていない。エンドロール後に次回作の予告を期待したら,それも裏切られる。監督は,本作を引き受けた時から,とても1作では描けないので,最初からPart 1として作ったようだ。文庫本4冊分を137分に編集されてしまったデヴィッド・リンチ監督に対して。本作は序章だけで155分なのだから,ゆったりと描けたのは当然で,それゆえの成功作だと言える。まだPart 2の製作は確約されていないようだが,是非本作がヒットして,シリーズ化して欲しいものである。

【脚本と演出】
 1984年版は冒頭で,イラスト画で物語の背景,登場人物の関係や用語の説明が延々と続く。本作はそれをすべて廃し,いきなり物語から入る。途中のセリフである程度は分かるが,それでは説明不足で,本作が初見の観客には全体像が掴めないだろう。せめて,皇帝の陰謀,アトレイデス公爵とハルコンネン男爵の関係くらいは,早めにしっかりと述べておいて欲しい。アラキス星におけるフレメンの位置づけも同様だ。
「ベネ・ゲセリット」とその「教母」,「クウィサック・ハデラック」等々の難解な用語が,何の説明もなく,いきなりセリフ中に登場する。原作を読んだり,1984年版を観ていないと,とても理解できないだろう。しかもその日本語表記が,原作本や旧作とかなり違っている。それくらいしっかり合わせろよと言いたいが,ろくに準備せず,急ぎ字幕制作したためだろうか?
 主人公のポールには,夢の形で未来を視る能力がある。それくらいは説明がなくても,本編中で理解できるが,説明がないのは,彼や母や駆使する「ヴォイス」だ。SWシリーズの「フォース」に匹敵するユニークな超能力である。SF映画ファンなら泣いて喜ぶネタであり,もっと頻出させて欲しいと言うだろう。
 惑星アラキスは「香料メランジ」の主産地ゆえ,この大河ドラマが展開するのだが,「香料(スパイス)」と言及されるだけで,「メランジ」という言葉も殆ど登場せず,恐るべき力があることにも触れられていない。サンドワームが生み出すある種の麻薬であり,長寿の秘薬であるだけでなく,様々な超能力の引き出す素でもある。何と,遠く離れた惑星間を物理的移動する必要はなく,メランジを常用するだけで意識をテレポートできたり,事物を超高速移動できるという代物らしい。この辺りは,序章では言及せずに,シリーズ化した時に,徐々に明かして行くつもりかと思われる。
 かく左様に説明不足で,「砂の惑星」の愛読者には不満であっても,脚本全体は見事で,演出力も高いと感じた。『スター・ウォーズ』(77)『風の中のナウシカ』(84)『アバター』(10年2月号)は,この原作からインスピレーションを受けたとされているが,確かに映像を一見して,その類似性は感じられる。とりわけ,『スター・ウォーズ』シリーズでの銀河帝国の皇帝の存在,惑星タトゥイーンの描写は,本作と似ていると感じるだろう。原作「砂の惑星」はSF界の古典的存在であったから,各映画の脚本はそれに影響を受けたと思われる。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(01~03)とも影響を及ぼし合っているとの指摘もある。その原作J.R.R.トールキンの「指輪物語」の初刊は1954年であるから,1965年発行のF・ハーバートの「砂の惑星」の方が影響を受けているはずだ。また,上記3部作のCG/VFXは,3年連続でアカデミー賞視覚効果部門のオスカーを得る金字塔であるから,脚本や映像化に関しても,本作がその影響を受けているはずである。即ち,相互的でなく,影響は一方的である。
 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は,こうしたヒット作の脚本や映像を熟知した上で,じゃんけん後出しで本作を描いたのだと感じた。

【キャスティング】
 主役はアトレイデス公爵の息子のポールで,若手有望株のティモシー・シャラメが演じる。その母で公爵の愛妾レディ・ジェシカ役として,『レミニセンス』のR・ファーガソンがここでも登場する。ポールの夢に出て来るフレメンの女性チャニには,歌手兼ダンサーのゼンデイヤが配されている。それぞれ悪くないキャスティングだと思うが,この3人のイケメン,美形度の合計は,1984年版の方が上だと感じた。
 一方,旧作のハルコンネン男爵は醜悪かつ滑稽な存在であったが,本作のステラン・スカルスガルドは悪役として風格がある。その他,ハビエル・バルデム,ジョシュ・ブローリン,オスカー・アイザック,シャーロット・ランプリング等の実力派が,重要な役柄で顔を揃えている。その点でも大河ドラマ風の重厚さで,『レミニセンス』は比べものにならない。

【CG/VFXの充実度】
 1984年版はかなり特撮を駆使していたが,まだCGが広く使われている時代ではなかった。本作は勿論全編でかなりのVFXシーンが使われている。その品質も高いのに,公開されているスチル画像が僅かなのが残念だ。特に説明もなく,空に飛行物体が登場するシーン」(写真7)は序の口で,敵の襲撃で炎上するシーンもスケールが大きい」(写真8)予告編にも登場するように,宇宙空間,多数の戦士,激しい戦闘シーンの描写にCG/VFXが多用されていることは明らかだ。
 
 
 
 
 
写真7 空には不思議な飛行物体があるが,説明はなし 
 
 
 
 
 
写真8 こうした敵の襲撃もスケール感たっぷり
 
 
 アラキス星の主要な場面は,ヨルダンとイスラエルの国境地帯の砂漠で撮影したそうだが,生の映像にかなりのVFX加工がされていると感じられた。ただし,ロケ地で撮影した生の映像なのか,CGで描き加えているのかは,簡単には見分けられない(写真9)。さすがに,巨大なサンドワームの登場場面」(写真10),砂嵐や蟻地獄のような陥没シーン」(写真11),大きな建造物」(写真12)はすぐにCGだと分かるが,いずれもいい出来映えで,魅了された。
 
 
 
 
 
 
 

写真9 これがロケ現場そのままか,VFX加工されたものかは判別できない

 
 
 
 
 
写真10 これが本作に登場するサンドワームの頭部
 
 
 
 
 
写真11 何でも飲み込むサンドワームは,さながら蟻地獄
 
 
 
 
 
写真12 砂の惑星上の巨大な建造物に圧倒される
(C)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
 
 
  全く画像が公開されず,当欄で見せられないのが残念なのは,6枚羽根のトンボのようなユニークな形状の飛行機だ。この種の羽ばたき飛行機は「オーニソプター」と呼ばれていて,レオナルド・ダ・ヴィンチが提唱したそうだ。デザインも翼が高速で動く様子も見ものだ。これは1984年版の前作には登場しない。原作に登場しているのかは知らないが,あったとしても本作のオリジナル解釈だろう。
 本作のCG/VFXの大半を担当したのはDNEGで,他にWylie VFX, Rodeo FX等も参加している。プレビズを重視し,複数社に発注するのも最近の傾向だが,本作でも,最大手のThe Third Floorの他にDigital DomainやMPCのプレビズ部門を起用している。
 
 
  付記:DUNE/デューン IMAX観賞記  
  小さな試写室で『DUNE/デューン 砂の惑星』のマスコミ試写を観た時から,改めて劇場公開後にIMAX上映を観るつもりだった。その後,「この映画は絶対IMAXで観るべき」「IMAX新規格のために作られたような映画」等の宣伝文句,応援記事を何件も目にするようになった。どうやらカナダのIMAX社が最近定めた「Filmed for IMAX」の条件に合うデジタルカメラで撮影し,広いダイナミックレンジの映像投影とシアター形状に合わせてチューニングされた大音響システムに相応しい映画に仕上がっているということらしい。
 この機会にちょっとおさらいしてみよう。元々のIMAXは,1950年代後半から1960年代にワイドスクリーン用の大作で盛んに使われた70mmフィルムを,通常の縦送りでなく,横送り15パーフォレーションで使い,より広いフレーム面積を稼ぐ方式であった。IMAX15/70と呼ばれていて,それに見合った専用の大型シアターを必要とするため,博覧会のパビリオンや科学博物館での導入がほとんどであった。
 カメラ側はIMAX 65mm/15パーフォレーションのフィルムカメラが使われるが,カメラの台数に限りがあり,一般の劇映画への採用は限られていた。21世紀に入り,通常のデジタルカメラで撮影した映像データをアップコンバートしてIMAX上映することが多くなった。IMAX DMRは,IMAXフィルムカメラ以外で撮影された映像をIMAXフォーマットにデジタルリマスタリングする技術である。
 映写側では,IMAX 15pフィルムに変わって,2台のDLPシネマプロジェクターで上映するIMAXデジタル・シアター・システムが登場し,普通のシネコンにも導入されるようになった。それでも,スクリーンは他のシアターよりかなり大きく,追加料金が徴収されるのが普通である。
 あえて「Filmed for IMAX」と言い始めたので,何か違うのかと思ったが,通常規格の映画データをIMAX化する従来のIMAX DMRに対して,これはIMAX社が認可したハイエンドカメラで撮影した高精細データを扱うものに限られるようだ。『DUNE/デューン 砂の惑星』の撮影に使用されたカメラはARRI ALEXA LFで,通常より大きなラージフォーマット(LF)を使用し,センサ全域のデータを収録するモードを使用したとのことである。
 さて,公開日の10月15日,大阪で1本の試写を観た後,本作のIMAX上映に行こうとしたが,何と大阪市内でIMAX上映している映画館がなかった。何度も行った「TOHOシネマズ なんば」のIMAXスクリーンは,工事中とのことだった。やむなくこの日は,普通の映画館で同日公開の『最後の決闘裁判』を観て過ごした。
 仕切り直しし,翌々日,京都で観ることにしたが,「TOHOシネマズ二条」でも9:30,17:30のたった2回しか上映回がなかった。他の時間帯は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21年Web専用#5)に取られてしまっていたからである。このため,日曜日の朝一の9:30という嬉しくない時間に出向いたが,驚いたことに,客席はかなり埋まっていた。このシネコンのIMAXスクリーンで,これだけの数の観客を見たのは初めてである。事前宣伝でIMAXの意義が浸透していたのか,ファンの意識が高いのか,少し嬉しい驚きであった。
 映像クオリティの高さもさることながら,筆者は,IMAXと通常シアターとの差は音響品質の方が大きいと感じている。本作の場合,まず各種飛行艇/飛行物体が発するカシャ,カシャという機械音が頗る心地よかった。砂嵐のシーンも,視覚的な壮大感に合わせて,音響的にも砂が激しく舞い散る様をIMAX音響で見事に表現していた。既にこのシーンは試写で観ていたはずだが,その時は音にまで注意が向かなかったと言った方が正しい。ハンス・ジマー担当の劇伴音楽は,重厚かつ繊細で,一層その輝きを増していたことは言うまでもない。
 この映画では,シーンによって画面のアスペクト比が切り替わる。通常,このシアターでは「1.90:1」のアスペクト比で上映されているのだが,本作はオリジナルのシネスコサイズに近い「2.39:1」から,見せ場のシーンで「1.90:1」に切り替わるのである。始まってしばらくは,この切り替わりに気が付かなかった。「2.39:1」の画面の上下は真っ黒のレターボックス投影になっているが,暗いシーンではこれが余り気にならない。それが一転明るいシーンで「1.90:1」に切り替わると,一段と画面の広さを意識させられてしまう。次第に,音楽の切り替わりに呼応していることに気付き,この画面切替えを楽しめるようになった。上手い演出である。
 ちなみにIMAX社は,写真13のような図でIMAXの大画面をアピールしている。この右側のアスペクト比は「1.43:1」で,IMAX開発当初からの比率だが,現在,この比率で上映できる映画館は,東京・池袋と大阪・エキスポランドの2ヶ所しかない。その他は,筆者の観た「1.90:1」が上限だが,それでも上記の画面切替えは効果的だったと報告しておこう。
 
 
 
 
写真13 通常のシネスコサイズとIMAXフルサイズの比較
 
 
  演出面で最大の見せ場は,母子2人がフレメンの居住地に向かう途中,トンボ形状のオーソニプターの翼が次々と破損し,胴体着陸するシーンだ。その直後に登場する明るい砂漠が輝くようで,頗る美しい。そこから30分のドラマも圧巻だ。夜の砂漠,空に2つの月の対比も見事で,ダイナミックレンジの広さを感じさせてくれた。なるほど,IMAXの品質の高さを十分に意識して作られたと言える。
 既に続編のPart Twoの製作が決定したと報道されている。トリロジーの計画もあるという。文句なしに今年のNo.1作品であり,映画史に残る大作ゆえ,当然のことだろう。
 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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