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O plus E 2022年Webページ専用記事#1
 
 
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
(コロンビア映画/SPE配給)
      (C)2021 CTMG. (C) & TM 2021 MARVEL.
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [1月7日より全国の映画館でロードショー公開中]   2022年1月15日 TOHOシネマズ二条(IMAX) 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  紹介の遅延とネタバレの言い訳から…  
  お待たせしました。新春の当欄を飾るに相応しいVFX快作を一向に掲載せず,TOPページで(工事中)表記をしてからも日数が経ってしまった。愛読者から,「『マトリックス レザレクションズ』(21年Web専用#6)を中々書く気になれなかったのは認めるとしても,世評の高いこの映画を,公開後3週間も放っておくのは理解できない」とお叱りを受ければ,全くその通りだとお詫びするしかない。まずは,その言い訳と今回のネタバレ記事の正当化から語らせて頂きたい。
 最大の原因は,全くの個人的な事情により,昨年の本誌11・12月号の校了後,本業の超多忙時期に入ってしまったからである。ライフワークの1つと言える書籍原稿の入稿期限が迫り,余技の映画評に割ける時間が限られてしまった。それでも,試写案内が届くと,21Web専用#6や2022年1・2月号での掲載分の視聴時間は確保せざるを得ない。恒例の「2021年度ベスト5&10」も書いておきたいし,ゴールデングローブ賞の候補作発表や受賞作発表があれば,それも気になった。それらに時間を使ってしまうと,カラー画像を入手し,手間がかかる(本来は一番大事なはずの)「メイン記事」の執筆に割ける絶対時間がなくなってしまったという訳である。
 本作の欧州での公開は昨年12月15日,米国公開は17日(いずれも現地時間)で,本邦公開は1月7日であるから,どうやっても隔月刊の本誌掲載の狭間にならざるを得ない。マスコミ試写会の機会もあったのだが,最初から公開後に映画館で観ようと決めた。1回の観賞時間しか割けないなら,配給会社の狭い試写室よりも,シネコンの大きなIMAXスクリーンで観て,かつ一般観客の反応も感じ取りたかったからである。その場合でも,大抵は公開日初日か翌日には映画館に駆け付けるのだが,本作はそれも見送って,公開後1週間以上経ってから観ることにした。本誌1・2月号の締切が迫っていたので,本作を早く観ても,この記事を書く時間は全くなかったからである。
 では,1・2月号校了後に観て,なぜ直ぐに書かなかったかと言えば,評判通りの素晴らしい出来映えで,アメコミの実写映画化作品の傑作であったため,ネタバレを含む形で書いておかねばと考えたからである。『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(22年1・2月号)のように,マスコミ試写会で観てしまうと,配給会社の箝口令に従わざるを得ない(だから,肝心なことは書けなかった)。その点,自分で入場料を払って観たとなると,その拘束はなくなる。即ち,SNS投稿並みに,何を書こうと勝手である。それでも,結末を気にする読者の興味はそぎたくなく,未見の読者が減り,ネタバレ記事が出揃うまで待つべきだと考えた。
 改めて断っておくと,当欄のこの記事の第一義は,映画におけるCG/VFX利用を同時代進行で記録しておき,後で筆者自らが振り返るためのものである。次に,その趣旨を理解する愛読者が,自らの観賞後に当欄はどう評価しているかを点検されることを想定している。さらに,未見であっても,様々な記事を事前に読んで予備知識を仕入れておき,ネタバレなどモノともしない豪胆な読者が読んで下さるのだろうと解釈している。
 
 
  第3シリーズの最終章で,過去作のおさらいを  
  本作は,マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の27作目であり,トム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズの3作目で,最終章であるとされている。当初から3部作の契約なら仕方がないが,彼は歴代のスパイダーマンの中でも,ピーター・パーカー役に似合っていた。現在25歳で,そろそろ男子高生は苦しい年齢だが,小柄で童顔なため,今でも若々しく見える(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 スーツ姿で素顔を見せているのは,正体がバレたから?
後半には,もっと別の意味もある。
 
 
  3本でなく,もっと見たという記憶があるなら,それは正しく,「アベンジャーズ」チームに加わってMCUの3本にこのピーター・パーカー役で出演していた。即ち,彼もメイ叔母さんも,サノスの指パッチンで消滅し,次作で復活したという経験まであった訳である。そういえば,先月観た『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(21年Web専用#6)にもカメオ出演していたので,計7本にこの役で登場していることになる。主演作はこれで終りだが,ヴェノムの次回作にスパイダーマンが登場しそうな予告が付いていたから,後任のピーター・パーカー役ではなく,まだT・ホランドが演じるのかも知れない。
 この最終章のセールスポイントは「マルチバース」である。「マルチ・ユニバース」の略であり,パラレルワールドとして存在していた別の宇宙,別世界が多数存在することだが,本作ではそのマルチバースの扉が開き,別空間の登場人物が乱入して来て,物語が展開するという。SFではよくある手法,ある意味では狡い設定だが,本作のウリは,過去のシリーズで登場したヴィラン(悪役)たちがこの最終章の空間に集結し,しかも過去作品で演じた俳優がそのまま演じるという。これはネタバレでなく,早くから発表されていて,予告編でも登場していた。
 過去作と交錯するとなると,これまでの実写版『スパイダーマン』を,通し番号をつけ,監督や俳優名も含めて振り返っておこう。

●第1シリーズ 3作 監督:サム・ライミ
 ピーター役:トビー・マグワイア,恋人:MJ(キルスティン・ダンスト)
@『スパイダーマン』(02年6月号)
  ヴィラン:グリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)
A『スパイダーマン2』(04年8月号)
  ヴィラン:ドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)
B『スパイダーマン3』(07年5&6月号)
  ヴィラン:サンドマン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)

●第2シリーズ 2作 監督:マーク・ウェブ
 ピーター役:アンドリュー・ガーフィールド,恋人:グウェン・ステイシー(エマ・ストーン)
C『アメイジング・スパイダーマン』(12年7月号)
  ヴィラン:リザード(リス・エヴァンス)
D『アメイジング・スパイダーマン2』(14年5月号)
  ヴィラン:エレクトロ(ジェイミー・フォックス)

●第3シリーズ 3作 監督:ジョン・ワッツ
 ピーター役:トム・ホランド,恋人:MJ(ゼンデイヤ)
E『スパイダーマン:ホームカミング』(17年8月号)
  ヴィラン:バルチャー(マイケル・キートン)
F『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19年Web専用#3)
  ヴィラン:ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)
G『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年Web専用#1) 本作

 この他に,フルCGアニメのシリーズとして,下記がある。
H『スパイダーマン:スパイダーバース』(19年Web専用#1)
I『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース (パート1) 』[2022年公開予定]

 上記の内,E〜GがMCUシリーズとして製作されているが,上述のように,T・ホランド演じるスパイダーマンが登場した他のMCU作品として,下記の3本がある。
■『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)
■『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)
■『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)

 さて,第3シリーズの最終章の本作に登場するヴィランはと言えば,@〜Dの5人である。即ち,旧シリーズの全作から,ヴィランをそのままの姿で呼び寄せたという訳だ(写真2)。ここで,BのサンドマンとCのリザードは,過去の映像を再利用し,それぞれT・H・チャーチとR・エヴァンスは声の出演をするだけで,新たに顔を見せての演技はしていない。一方,@のW・デフォー,AのA・モリーナ,DのJ・フォックスは,カメオ出演レベルではなく,それぞれヴィランに変身しない状態での良心的な科学者ノーマン・オズボーン,オットー・オクタビアス博士,電気技師マックス・ディロンとしての役割もこなしている。
 
 
 
 
 
 
写真2 (左上)グリーン・ゴブリン, (右上)ドクター・オクトパス
(左下)エレクトロ, (右下)サンドマン
 
  まるで時空を超えた同窓会である。悪役でもかつて見た顔が勢揃いするのはいいものだ。その点ではマルチバースを巧みに使い,シリーズのファンを喜ばせる企画だと言える。
 
 
  マルチバースを活用した新種のオールスター映画  
  では最終章自体の中身を追ってみよう。冒頭のスパイダ−マンがMJを抱きかかえてNYの街をスパイダースウィングするシーン(写真3)は爽快感全開で,本シリーズの面目躍如だ。IMAXの大スクリーンも向いていたが,3D上映を意識したアングル,カメラワークであり,日本でIMAX 3D上映をしようとしないのが腹立たしい。
 
 
 
 
 
写真3 恋人のMJを抱えてNYの街でスパイダースウィング
 
 
  映画自体の出来映えとしては,前作Fも好い出来だったが,それを上回る大傑作だと評価できる。既に世界中で高く評価され大ヒットしていることは知っていたが,当欄の評価も文句なく☆☆☆である。大団円を迎えた『…/エンドゲーム』が別格のオールスター映画だとすれば,MCUの中でも単独ヒーロー映画のBest 1だろう。いや,少し違った意味での新種のオールスター映画だとも言える。以下,項目毎に概要と評価を述べよう。

【ストーリー展開と演出】
 ピーターは既に恋人MJや親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)に自分がスパイダーマンであることを告げていたが,前作Fで倒した敵ミステリオが遺した映像が一般公開されてしまい,スパイダーマンの正体が一気に町中に知れ渡ってしまう。おまけにミステリオ殺害犯の容疑者扱いされ,MJ,ネッドに加え,メイ叔母さん(マリサ・トメイ)まで警察の尋問を受けることになる。
 この嫌疑は晴れたものの,世間のピーターを見る目は悪人扱いだった。周囲に危害が及ぶことを懸念したピーターは,アベンジャーズの一員として共にサノスと戦ったドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)を訪ね,彼の魔術で時間を巻き戻すことを依頼する(写真4)。この依頼に対して,彼の逆提案は魔術で人々から彼がスパイダーマンであるという記憶を消してしまうことだった。その魔術を試みるが(写真5),ピーターの優柔不断によって呪文は失敗に終わり,マルチバースの扉が開いてしまう。
 
 
 
 
 
写真4 これがドクター・ストレンジの屋敷 
 
 
 
 
 
写真5 魔術の呪文で人々の記憶を消そうとするが…
 
 
  まず現れたのは,Aに登場したドクター・オクで,彼とスパイダーマンとの高速遠路上でのバトルが始まる……。このバトルが前半の見どころで,スピーディでアクションのキレも良く,快感を覚えた(写真6)。その後も続々とヴィラン達が登場するが,アクションシーンはくど過ぎず,物語も暗くならず,アメコミものの楽しさを満喫させてくれる。シリーズのファンなら笑える小ネタが多数鏤められているのも嬉しい限りだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 (上)まず異世界からドクター・オクが登場する
(下)対抗するには蜘蛛脚が付いたアイアン・スパイダー・スーツで
 
 【登場人物とネタバレ】
 鍵となるのは,ドクター・オクがスパイダーマンを追い詰め,マスクを剥ぎ取るシーンだ。中から出てきたピーターの顔を見て,ドクにはそれが誰だか分からない。即ち,彼の世界でのピーター・パーカーはトビー・マグワイアの顔をしていて,トム・ホランドではピーターでもスパイダーマンでもないということだ。
 もうここまでくれば,誰でもその先が想像できるだろう。その後,ネッドが再びマルチバースの扉を開けたことにより,まずA・ガーフィールドのスパイダーマンが,そしてT・マグワイアのスパイダーマンも,こちらの世界にやって来る。2人とも少し老けたなと感じるが,それぞれのバースで年月を経て,もはや男子高校生ではないとすれば,何の矛盾もない。写真1のピーターと同様,ここから先は3人のスパイダーマンは顔を出したままの登場シーンが少なくない。紛らわしくないようにとの配慮だ。この映画のエッセンスは,この3人揃っての共闘に尽きる。それゆえ,このネタバレなしで本作は語れないと断った次第である。
 軽いサプライズではあるが,他のバースからヴィラン達がやって来ると聞いた時から,十分予想できた出来事だ。それを一々隠そうとする配給会社の神経が理解できない。熱心なファンなら, IMDbの当該ページを観れば出演者欄に彼らの名前はあるし, Wikipedia日本語ページでは3人のスパイダーマンの登場が明記されている。ネタバレと称する投稿を見るまでもないことだ。『ゴーストバスターズ/アフターライフ』のオリジナルキャストの再登場に関しても同じだ。
 そもそもアニメ版のHは,題名からしてマルチバースもので,別世界のスパイダーマンが多数集結していた。続編のIはさらにそれを加速させているようだ。MCUシリーズ自体が,各スーパーヒーローの世界をクロスオーバーさせようという企画だから,歴代スパイダーマンの勢揃いくらいはあって当然だ。それでも,実写で懐かしい主演俳優の再登場はファンにとって嬉しい限りだから,同じ手口が今後も使われることだろう(やがて,飽きられるが)。
 よって,T・ホランド演じるピーター・パーカーはこれが最後でなく,平然と今後のMCUに出て来るかも知れない。リクエストに応じて,ロバート・ダウニーJr.のアイアンマンやクリス・エヴァンスのキャプテン・アメリカが復活しても不思議ではない。俳優自身が高齢化したり,故人となっても,今のCG技術なら彼らを難なく復元できるはずだ。もっとも,それが当り前になると愉しみではなくなってしまうが…。

【CG/VFXと未来情報機器】
 VFXシーンがたっぷりあることは言うまでもない。前作Fも高度だったので,レベル的は同程度かも知れないが,各ヴィランのオリジナル登場時よりは格段にCG描画力が向上している。ドクター・オクの金属製の触手はその典型だ(写真7)。グリーン・ゴブリンはさほど感じなかったが,サンドマンの砂の猛威もスケールアップしていた。
 
 
 
 
 
写真7 ドクター・オクの鋼鉄製蛸脚は格段にリアルに
 
 
   アクションシーンでのVFXの使い方も活き活きとしていた。中盤のドクター・ストレンジとスパイダーマンの諍いでは,スパイダーマンが子供扱いされる(写真8)。スパイダーマンの身体からピーターが分離されるシーン(写真9)に既視感があるのは,『ドクター・ストレンジ』(17年2月号)で彼が恩師から授かった幽体離脱の「アストラル体」の応用事例だからである。ピーターが映像幻覚の"Mirror Dimension"から抜け出すのに「アルキメデスの螺旋」を駆使して,「魔術よりも数学の方が強い」と口にするのも印象的だった。ピーター, MJ,ネッドの3人とも理系志望で,MIT入学を目指しているという設定ゆえのセリフである。
 
 
 
 
 
写真8 ドクター・ストレンジにとってはまるで子供扱い 
 
 
 
 
 
写真9 かつて恩師に教わった幽体離脱の術を披露
 
 
   ラストバトルもしっかりと描かれているが,特段目新しさはなく,むしろ随所に登場するハイテク機器の描写が斬新だった。ピーターが敵との戦いで使うスターク社製の「ファブリケーター」などはもっとじっくり見たかったが,ほんの僅かな時間しか登場しない。スチル写真もないのが残念だ。
 スパイダーマンの新スーツとしては,前掲の蜘蛛脚の「アイアン・スパイダー」の他に,トニー・スターク社長の直伝の技術で自ら開発した「ブラック&ゴールドのスーツ」(写真10)が見られることにも触れておこう。
 
 
 
 
 
写真10 新しい「ブラック&ゴールドのスーツ」も登場
(C)2021 CTMG. (C) & TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.
 
 
   本作のCG/VFXの主担当はDigital Domainで,副担当はSony Pictures ImageworksとFramestore,その他でLuma Pictures, Crafty Apes VFX, Cinesite, Folks VFX,Mr.X, SSVFX等々が参加していた。
 いずれにせよ,青春映画としても,アメコミ実写映画としても,大成功の部類であることは間違いない。
 
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