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O plus E誌 非掲載
 
 
ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション』
(ライオンズゲート/ KADOKAWA配給 )
      Credit Murray Close/TM&(C)2015 LIONS GATE FILMS INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月20日よりTOHOシネマズみゆき座他全国ロードショー公開中]   2015年11月20日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  シリーズ完結編は,終盤意外な展開に  
  シリーズ4作目にして,最終章の後編で,これが完結編である。スーザン・コリンズ著のヤングアダルト小説が原作で,全3巻の最終巻を映画では一挙に撮影し,それを前後編に分けている。2作目以降,米国では毎年,秋シーズンのドル箱である11月下旬の感謝祭休暇に公開され,いずれもメガヒットとなった。3作目の最終章前編は,日本では半年遅れで今年5月に公開されたが,マスコミ試写のタイミングが悪く,O plus E誌6月号締切には間に合わず,本Webサイト上だけでの紹介にならざるを得なかった。この後編は,タイムラグなく全世界一斉公開となったため,本誌12月号に間に合わないだけでなく,試写会すらなかった。止むなく公開当日の夕,映画館で観ることにした次第である。
 公開直後に映画館で観るのは,観客層やその反応を把握することができ,それもまた楽しみの1つだ。今回は金曜日公開の初日の18:10開始の回を選んだが,近くのシネコンでは日本語吹替版しかなかった。中サイズのシアター内に,観客はわずか20名余しかいなかった。映画通には不人気の吹替版であることを考慮しても,これは酷い。米国の若い女性に人気のこのメガヒット・シリーズも,我が国での興行成績は芳しくないと聞いていたが,この閑散振りは驚きだった(翌日からの3連休には混んだのかも知れないが)。
 さらに驚いたのは,観客の構成である。若いカップルは1組で,女子学生の2人連れも1組だけだった。残りは老夫婦か,熟年/初老の男性が何人も1人で来ている。即ち,本邦では,若者はデートムービーには他愛もない邦画を好み,(同じく他愛もない若者向けの)この種の洋画には見向きもしないということらしい。シリーズの出来不出来とは関係なく,所詮,映画の人気というのは,その程度のものなのだろう。色々話題に上り,周りの噂に煽られて観たくなるものである。今の内向き指向の日本の若者たちが,世界レベルのヒット作よりも,身近なTVドラマやコミックの映画化作品に走るのも理解はできる。
 さて,一気に撮影して,2つに分けた後編だから,監督フランシス・ローレンスも主要登場人物も変わりはない。シリーズの完結に向けて,後は主人公で反乱軍のシンボルであるカットニス(ジェニファー・ローレンス)が,独裁国家パネムのスノー大統領(ドナルド・サザーランド)を倒して自由と平和を勝ち取る,という単純明快な物語である。見どころは,どのようにして最終決戦を迎えるか,何度か危機に直面しながら,宿敵をどんな倒し方をするかである。さらに言うなら,女性ファンには,想いを寄せてくれる男性2人,ピータ(ジョシュ・ハッチャーソン)とゲイル(リアム・ヘムズワース)の内,カットニスは最終的にどちらを選ぶかが関心事であるはずだ(その結末は,伏せておこう)。
 第13地区の反乱軍がスノー大統領暗殺作戦を実行に移し,カットニスが仲間たちと第2地区を経由して,キャピタルへと向かう展開は予想通りだった。彼らの動きを察知した大統領側の迎撃をくぐり抜けながら,1つ1つ関門を突破して行く様子は,まるでゲームの各ステージをクリアして行く感覚である。仲間の1人ずつ命を落とし,いよいよ最終決戦と思った時,この物語は思わぬ展開を見せる(写真1)。大ドンデン返しという程ではないが,これが原作者のメッセージなのだろう。独裁国家を倒しても,所詮クーデターは別の権力者か政治的混乱を生むだけという,諦めにも似た無常観が垣間見える。
 
 
 
 
 
写真1 クライマックスで,この矢が狙う先は?
 
 
  すべての戦いが終わった後のカットニスの後日談も,ファンには意外な結末だったようだ。これも作者のメッセージである。単純明快なバトルと恋物語のはずが,何やら哲学めいた色に染まって行くが,最終章は意図的にそうした重厚さを前面に出したかったようだ。
 さてさて,当欄の関心事はCG/VFXの使われ方である。結論を先に言えば,さしたる新味もなく,可もなく不可もない話題性に欠ける質と量であった。それでも,CG/VFXの利用され方を同時代記録として残しておくのが当欄の信条であるから,ざっとメモしておこう。
 ■ 『トワイライト』シリーズ同様,1作目は美術デザインもCG/VFXもプアで,粗製乱造,納期重視の粗悪品だったが,メガヒット後はしっかりVFXにも制作費をかけるようになったことは,既に何度も述べた。本作は完結編らしく,CG/VFX担当はDouble Negative, Weta Digital, MPCといった一流スタジオを起用し,The Embassy VFX,Cantina,Lola VFXといった中堅どころの名前も並ぶ。時代は近未来で,架空の都市が舞台であるから,いたるところにVFXで加工したシーンが登場する。パネムの首都のデザインは美的センスがなく,感心しないと2作目で書いたが,基本設計は変える訳に行かなかったのだろう。完結編では,その首都の光景をかなり充実した形で登場させている(写真2)。斬新さはないが,これなら独裁者が住む場所としての威厳は保っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 パネムの首都の中心部は,色々なアングルから描かれている
 
 
  ■ お馴染みのホログラム型ディスプレイに関しては,第1作目でも登場していたが,今回は大型会議用ではなく,もっとハンディなタイプだ(写真3)。CGでの描画は簡単だが,センスは悪くない。反乱軍の制圧には,真っ黒な波や多数の瓦礫が押し寄せる。勿論,CGでの表現だが,その他の爆発シーンも含めて,まずまずの出来映えだった。
 
 
 
 
 
写真3 本作では,ハンディなホログラム・ディスプレイが登場
 
 
  ■ 完結編のVFXで最も頑張ったのは,地下の抜け道で遭遇する正体不明の魔物だ(写真4)。目鼻がなく,体表面は濡れていて,ゾンビの一種のようで,これが多数体一気に登場する。生身の人間が演じ,顔だけすげ替えている風に見える場面もあったが,最近の技術をもってすれば,激しい動きを含めて,全身をフルCGで描くのはそう難しくない。Weta Digitalが参加しているから,同社が担当し,ゴラムで培った技術を転用して描いたのだろう。
 
 
 
 
 
写真4 Weta Digital社製と思われる地下の魔物
 
 
  ■ カットニスを演じるJ・ローレンスは,このシリーズの間にすっかり大人の女優になり,既にオスカーまで得てしまったことは既に書いた。今後は,こんなヤングアダルト路線の映画にはもう出演しないかと思われる。その意味では,貴重な完結編だとも言える。俳優陣の演技の中で残念だったのは,これが遺作となったフィリップ・シーモア・ホフマンだ(写真5)。単に反乱軍のコイン首相(ジュリアン・ムーア)の参謀として座っているだけで,ほとんどセリフもない。前後編併せて,逝去前に彼の出演場面は撮り終えていたというから仕方がないが,もう少し存在感のある演技で締めて欲しかったのに,それだけが残念だ。
 
 
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写真5 名優F・S・ホフマンの登場場面が少ないのが残念
Credit Murray Close/TM&(C)2015 LIONS GATE FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
   
   
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