O plus E VFX映画時評 2026年5月号

『グランド・イリュージョン/ダイヤモンド・ミッション』

(ライオンズ・ゲート/KADOKAWA配給)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[2026年5月8日より全国ロードショー公開中]

(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc.


2026年5月5日 オンライン試写を視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


10年ぶりのシリーズ3作目で,新メンバーの活躍が期待

 画像集めに手間取り,完成版の掲載が遅くなった。本作はシリーズの3作目だが,前2作はマジシャン(イリュージョニスト)の4人組「フォー・ホースメン」が,得意のマジックを駆使して犯罪組織から大金を奪う痛快映画だった。奪った金を民衆に分け与えるというから集団義賊である。プロの指導を得て俳優がマジックを披露したり,VFXも駆使して本物らしく見せているシーンもあり,当欄では絶賛した。観客に大仕掛けのマジックの種明かしをしてくれているのも嬉しかった。1作目『グランド・イリュージョン』(13年11月号)の後,2作目『同 見破られたトリック』(16年9月号)は約3年後だったが,3作目の本作までは約10年も経っている。
 もう作らないと思っていたので,再登場は素直に嬉しいが,どれだけ新機軸を打ち出しているか,マジックのスケールもさらに大きくなっていることを期待した。いい加減な続編なら許さないぞ,騙されないぞとの思いだった。予備知識なしにいきなり観たのだが,10年も経っていると,顔を覚えていない俳優もいたし,見覚えはあってもどんな役割だったかをすぐには思い出せなかった。ましてや,初めて本作を見る観客には分かりにくいと思う。前2作を見終えてからの観賞が望ましいが,その余裕のない読者は,せめて前2作の当欄の紹介記事を一瞥して頂きたい。当時は最後のサプライズを書けなかったので,せめてそれを頭に入れて頂けるよう,次項を用意した。

【本シリーズの要点整理】
グランド・イリュージョン(13年11月号)
[原題]Now You See Me,[監督]ルイ・レテリエ
[主な登場場所]米国:ラスベガス,ニューオーリンズ,NY, フランス:パリ
[標的]パリのクレディ・レピュブリカン銀行の金庫,NYエルクホーン警備会社の金庫
[概要]マジシャンの4人(ダニエル,メリット,ヘンリー,ジャック)が,正体不明の組織に集められて「フォー・ホースメン」を結成。保険会社の大物アーサーの支援を得て,多数の観客相手のマジックショーをラスベガスで開催し,パリの銀行の金庫室から盗んだ札束を会場に振り撒く。FBI捜査官ディアスと仏インターポールの刑事アルマが,元マジジャンのサディアスの協力を得て4人の正体を暴き,逮捕しようとするが,ニューオーリンズのショーで返り討ちに会う。彼らはアーサーの口座の金を会場の観客にばらまいた。最終決戦はNYで,警備会社の金庫から盗まれた金はサディアスの車のトランクにあった。サディアスに罪を着せ,彼を刑務所送りにすることが目的だった。一連のマジックは,伝説の魔術師集団の秘密結社「アイ」への4人の入会審査試験であった。
[サプライズ]首謀者はFBI捜査官ディランだった。30年前のディアスの父の死の復讐作戦として,欠陥のある金庫製造会社,保険金未払いのアーサー,父を陥れたサディアスをまとめて罠に嵌めた。

グランド・イリュージョン 見破られたトリック(16年9月号)
[原題]Now You See Me 2,[監督]ジョン・M・チュウ
[主な登場場所]米国:NY市内,中国:マカオ,英国:ロンドン市内,グリニッジ天文台 [目標]IT企業オクタ社の悪業暴露,マカオ科学センターへの潜入,アーサー父子への反撃 [概要]時代設定は前作から18ヶ月後。紅一点のヘンリーの代わりにルーラが参加。フォー・ホースメンはNYでIT企業主催のイベントを乗っ取るが,逆に謎の男ウォルターにディアスと4人の共謀を暴露され,マカオに移送された。ウォルターはアーサーの息子の天才エンジニアだった。彼が作った暗号解読チップをオクタ社から奪還することに4人は同意する。ディランは前作で収監したサディアスを釈放し,4人の後を追わせる。彼らとアーサー父子の攻防が続くが,大晦日のロンドン,ダニエルの大トリックでアーサー父子らを捉える。4人組は「アイ」の秘密基地に案内される。
[サプライズ]サディアスはディランの父の敵ではなく,良き相棒だった。一連の出来事は,ディランを自らの後継者として「アイ」の幹部にするための試練だった。

『グランド・イリュージョン/ダイヤモンド・ミッション』(本作) [原題]Now You See Me: Now You Don't,[監督]ルーベン・フライシャー [主な登場場所]米国:NYブルックリン,ベルギー:アントワープ,フランス:ロワール地方のルシヨン城,UAE:アブダビ
[標的]ダイモンド取引最大手ヴァンダーバーグ社が保有する史上最大のハートのダイヤ [概要]次項を参照

【本作の物語展開】
 時代設定は前作から10年後。3人の若手マジシャンの3人チャーリー・ギース(ジャスティス・スミス),ボスコ・ルロイ(ドミニク・セッサ),ジューン・ルクレア(アリアナ・グリーンブラット)は,憧れの「ホースメン」に成りすましたマジックショーを開く。手口も真似て,不正な暗号試算取引会社のオーナーから大金を盗み出し,その場で会場の観客にばらまいた。3人が集まっているところに,本物のJ・ダニエル・アトラスが現われ,秘密結社「アイ」から指令された任務を手伝うよう要請する(写真1)


写真1 左から, ジューン, チャーリー, ボスコの若手3人組

 その任務は,南アフリカのダイヤモンド取引会社の経営者ヴェロニカ・ヴァンダーバーグ(ロザムンド・パイク)が保有する史上最高額のハート型のダイヤを盗み出すことだった。ヴァンダーバーグ社は武器商人や犯罪者の資金洗浄にも手を染めていた。アントワープで開かれた同社主催のパーティの目玉として,四半世紀ぶりにハートのダイヤが展示された(写真2)。会場に潜入した4人は見事なトリックで,あっさりとダイヤを盗み出す(写真3)。警察に追われる途中,かつて「ホースメン」のメンバーだったメリット,ヘンリー,ジャックも応援にかけつけ,脱出に成功した。ある強盗事件が失敗し,リーダーのディランはロシアの刑務所に収監され,チームは崩壊したが,彼らにも「アイ」からのカードが届いていたのだった。


写真2 世界最高額のダイヤの四半世紀ぶりのお披露

写真3 所有者のヴェロニカが手にした途端に破裂し, いつの間にかダニエルの手に

 計7人は,「アイ」から得た地図を解読し,フランスの「ルシヨン城(Château de Roussillon)」に向かった(写真4)。ここは「アイ」のマジシャンたちの「隠れ家」ともいうべき場所だった。幹部のサディアス(モーガン・フリーマン)がこの古城に姿を見せ,本来の目的は城の中に隠されていると告げる(写真5)。絵画の裏からヴァンダーバーグ社の顧客リストと違法行為の証拠が見つかった。そこにヴェロニカが買収した警察が急襲する。ダニエル,ヘンリー,チャーリー,ボスコはトンネルを通って脱出できたが,サディアスは致命傷を負い,メリット,ジャック,ジューンは警察に捕まった。2作目に登場したルーラの助けで,ジャックとジューンは脱出できたが,メリットだけは逃げ出せず,ヴェロニカに引き渡された。


写真4 新旧の7人が, フランスの古城にやって来た

写真5 待ち受けていたのは, 「アイ」の幹部のサディアス(左)

 終盤の舞台は一転してUAEのアブダビに移る(写真6)。ヴェロニカが,人質のメリットと交換に,F1アブダビGPのパーティ会場でダイヤを持って来ることを要求したのだった。残るメンバーたちは,果たしてどんなトリックでヴェロニカを騙し,メリットを救出することができるのか……。


写真6 アラブ首長国連邦の首都アブダビ。夜景が美しい。

 前2作と同様,終盤に人間関係のサプライズがあると予想できたが,勿論,そのネタバレはここでは書けない。本作はオリジナルチームの4人だけでなく,サディアスやルーラも再登場させて,シリーズの継続性を保っていた。さらに若手3人の新加入で計9人となると,なかなか全員を把握するのは難しい。標的のハート型ダイヤの強奪がクライマックスと思いきや,早々に成功して,少し拍子抜けした。その後は,ヴェロニカ側の逆襲中心となり,アクション映画の印象が強くなっている。
 R・フライシャー監督の方針変更なのか,マジックの見せ方にも変化があり,映画の印象は前2作とかなり違っていた。大仕掛けでビジュアルに頼るマジックが少なく,小ネタの本物のマジックを見せることに徹している。従来もプロの指導でネタを考えていたが,本作ではそれを徹底させ,各俳優が練習を重ねたマジックを自演して披露する。それを好むファンもいるだろうが,個人的にはさほど感心しなかった。今や,YouTubeを見れば,種明かし動画は多数流れている。映画でそのレベルのマジックを見せられても感激しない。映画の大スクリーンで観るなら,物理的には実現不可能であっても,映画ならではの大トリックを見せて欲しかった。

【主要登場人物のキャスティング】
 10年後に再開したからには,さらに2〜3作製作すると思われる。となると,ダニエルと新メンバーの3人の4人組へと世代交代が進み,旧メンバーは徐々に出番が減るか,引退するかだろう。前2作では個々の俳優を紹介しなかったので,今回は全員を列挙しておこう。
 主演のダニエル役のジェシー・アイゼンバーグは,『ソーシャル・ネットワーク』(11年1月号)でFacebookの創始者マーク・ザッカーバーグ役でブレイクしたため,今でも知的な万年青年の印象が強い。その後,本シリーズの田に『ピザボーイ 史上最凶のご注文』(11年12月号)『嗤う分身』(14年11月号)『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』(21年7・8月号)等の主演で多彩な役をこなし,最近では『リアル・ペイン~心の旅』(25年1月号)『サスカッチ・サンセット』(同5月号)でも演技力の向上を感じさせる。
 メリット役のウディ・ハレルソンは,最も個性的な顔立ちなので,すぐに識別でき,一目見たら忘れない。脇役での出演が多く,『メッセンジャー』(09) 『スリー・ビルボード』(18年2月号)でアカデミー賞助演男優賞ノミネートされた。かつての『ソンビランド』シリーズでは,彼が主演で,上記J・アイゼンバーグが凖主演であった。女性マジシャンのヘンリー役のアイラ・フィッシャーはオーストラリアの女優だ。『華麗なるギャツビー』(13年7月号)『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』(25年4月号)に出ていたようだが,さして重い役でなかったのか,全く記憶に残っていない。ジャック役のデイヴ・フランコは,人気男優ジェームズ・フランコの弟で,1作目ではまだ若手だった。そのためか,『トゥギャザー』(26年2月号)の刺激的な夫婦の夫役が,この「ホースメン」のメンバーだと気付かなかった。2作目にヘイリーの代役で登場したルーラ役のリジー・キャプランも,同じく脇役女優である。出演歴を見ると『クローバーフィールド/HAKAISHA 』(08) 『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(09年10月号)『127時間』(11年6月号)に出ていたようだが,彼女も全く記憶にない。
 サディアス役の名優モーガン・フリーマンの経歴は今更語る必要はないだろう。この先,続編には登場しない。一方,ディラン役のマーク・ラファロは,MCU『アベンジャー』シリーズの超人ハルク役でお馴染みのはずだ。巨大化したハルクとしてのシーンが多いが,彼も個性的な顔立ちなので,すぐに識別できる。社会派映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(21年11・12月号)では主演,オスカー3部門受賞作『哀れなるものたち』(24年1月号)では凖主演で,共に弁護士役だったが,前者では大企業を告発する正義漢,後者では主人公との性的関係やギャンブルに溺れる過激な男と対照的な役を演じた。本作は「カメオ出演」と書かれていたが,一向に出て来ない。見逃すはずはないので,どこで登場するかは観てのお愉しみとしておこう。
 新登場の若手3人では,既に主演があるのはチャーリー役のジャスティス・スミスで,『名探偵ピカチュウ』(19年Web専用#2)で,ポケモンのピカチュウと一緒に父の死の真相を探る青年を演じていた。ボスコ役のドミニク・セッサは,『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(24年6月号)の凖主演を経験している。クリスマス休暇に自宅に戻れず,2週間以上を主人公の教師と過ごす高校生役で,出番も多く,印象的な好演だった。ジューン役のアリアナ・グリーンブラットは,まだ上記ほどの重い役は経験していない。せいぜい『ゴリラのアイヴァン』(21年Web専用#2)の子役が目立つ程度だ。個性的な顔立ちで,既に18歳になったので,これから出演作も増えることだろう。
 本作の最大の目玉は,悪役のヴェロニカを演じるロザムンド・パイクだ。映画デビュー作が『007/ダイ・アナザー・デイ』(03年2月号)でのボンドガールだった。その後,『プライドと偏見』(05年12月号)『17歳の肖像』(10年4月号)『タイタンの逆襲』(12年5月号)『アウトロー』(13年2月号)『ワールズ・エンド酔っぱらいが世界を救う!』(14年4月号)等の大作,話題作に出演していたが,主演作『ゴーン・ガール』(14年12月号)の悪妻役で,大ブレイクを果した。アカデミー賞はノミネート止まりだったが,他で13もの主演女優賞に輝いている。そうなると,主演作のオンパレードで,『プライベート・ウォー』(18)は戦場記者,『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』(22年9・10月号)はノーベル賞受賞者と硬派の役が続くかと思えば,GG賞主演女優賞受賞作『パーフェクト・ケア』(21年11・12月号)では,身寄りのない高齢者を搾取する狡猾な詐欺師役であった。本作のヴェロニカは強欲でプライドの高い女性であり,やっぱり悪役の方が似合う。その意味で貴重な中年女優である。

【マジックの演出とVFXの役割】
 R・フライシャー監督の本物志向には首を傾げたく点も多々あるのだが,その一方で,小道具の準備や屋内での仕掛けには感心するシーンもある。それらをいくつか点検し,当欄の感想と評価を述べる。全くCGを使っていないのではなく,担当のRodeo FX社からは「VFX Breakdown」が公開されている。さしてレベルは高くないが,折角だから,目立ったシーンを紹介しておく。
 ■ 本物志向の最たるものは,長回しのマジックシーンだ。ルシヨン城で仲間となった7人は,サディアスの前で順に一芸ずつを披露し合う(写真7)。これが110秒ワンカットのシーンで,訓練を積んだ各俳優がカメラの前で見せる本物のマジックである。いずれも初級から中級レベルのマジックで,何も感激しない。監督の歪んだ美意識と自己満足に過ぎない。それなら,リチャード・ターナーやデヴィッド・カッパーフィールドのようなプロのマジシャンの公演映像を観るほうがずっと良い。


写真7 (上から)「カードの浮揚」「ポットに入れたダイヤの消去」「演者が箱に入って脱出」「別人との入替り」


 ■ 類した平凡なマジックは,何もないステージ上での「空中浮揚」(写真8)や「人物の出現&消滅&瞬間移動」(写真9)で,映画の前半で登場する。勿論,プロとて種や仕掛けは必要で,それなりの準備と視点位置の制限はある。「空中浮揚」は,古典的には極細ワイヤーや死角から身体を支える油圧式アーム等が使われてきた。後者の「人物の…」は,古典的にはステージに仕掛けがあることが多いが,今もプロのマジシャンが新方式の知恵を競っている。目の前のステージで見たら,不思議がり,感激することも少なくないが,映画で見せられても,面白くもなければ,有難くもない。いずれも,デジタル処理のVFXに簡単できることは言うまでもない。


写真8 ワイヤーやアームを使わずに空中浮揚

写真9 布や箱を使わずに, 人物を自在に出したり, 消したり…

 ■ 上記の長回し以外に,中盤のルシアン城ではビジュアル的な面白さがあった。まず,「アイ」から届いたタロットカードを組み合わせると,地図と城の外観になり,それが実物の城の姿にすり替わるのは,些細なご愛嬌だ(写真10)。ただし,フランスにこの名前のシャトーが存在している訳ではない。こういう出現のさせ方ならば,CGで描いた古城かと思ったが,CG嫌いの監督はそんなことはしない。ルシヨン城はフランスに実在する城ではなく,ハンガリーのブダペスト近郊に実在する「ナーダシュディ城」の外観と庭園を借用し,シャトー内はすべて映画スタジオ内での撮影だという。まず,玄関扉がまるで大型金庫風で,簡単には開かない。金庫解錠が得意なジューンが手を出すと,「アイ」のシンボルの「目」が現われ,扉が開いた(写真11)。この扉は映画用に本当に製作したのだろう。上空から俯瞰した玄関前の庭園や円周道路(写真12)は本物かと思ったら,中心部だけはCGで描いたらしい。上空から見ると「目」のように見えるという仕掛けなのである。CG嫌いの監督も,ここは妥協せざるを得なかったようだ。


写真10 (上)アイから届いたタロットカード4枚の裏面
(中)(下)カードに描かれていたルシヨン城に到着

写真11 玄関の扉はまるで厳重な金庫のよう。ジューンは簡単に解錠してしまう。

写真12 空から見ると庭園の中央部分は「アイ」のシンボルの目玉のよう

 ■ 本物志向だけあって,古城内の調度類や書庫は古風であり,風格があった。それでいて,この邸内でもしっかりマジックネタを振り撒いている。一見,普通の壁面と窓枠だけの空き部屋が,カーテンを開けると隠し部屋が出現するというトリックを描いている(写真13)。これは純然たるVFXである。「本物であることが,観客にマジックショーを見ている感覚を与える」というのがフライシャー監督のモットーだが,このカーテンに描かれた部屋は映画でだけ通用するフェイクに過ぎない。


写真13 カーテンを開けると奥に隠し部屋があった

 ■ 科学館や遊園地で体験できるトリックアートの部屋もこのシャトー内に準備されていた。写真14は錯視を利用した有名な「エイムズの部屋」で,右側のテーブルの向こうと手前とで,大きさがかなり違って見えることがよく分かる。警察の追跡を混乱させるのに使われていた。写真15は鏡を利用したエッシャー風の「無限階段」だ。いずれもセット内に実物を設置して俳優に体験させているが,映画内で描くだけなら,CGでも簡単に実現できる。残るは,垂直平面内で360度回転する部屋で,中にいる人間が完全に上下反対になる(写真16)。これも回転できる実物を作ってたというが,どう眺めても写真16はおかしい。足は輪に固定したとしても,重力があるので,衣服はこうはならない。これは部屋は固定のままで,カメラを回転させたトリック撮影だろう。俳優が実際に回転部屋に入ったら,写真17のようになってしまう。


写真14 錯視で人の大きさが異なって見える「エイムスズの部屋」

写真15 どこまでも続いて見える「無限階段」

写真16 回転する部屋。このシーンは, 部屋は固定し, カメラを回転して撮影した。

写真17 本当に回転させると人は立っていられない

 ■ 屋外の景観にデジタル処理で地名を重畳表示するシーンは何度か登場する。最初の例は,NYブルックリンのブッシュウィック地区の景観で,立体文字で書かれた地名がうねるようにして登場する(写真18)。映画の冒頭に登場するシーンで,並んで入って行くのは偽ホースメンのショーを見に来た人々である。ストリートアートで有名な地域に相応しい演出だ。写真19は,終盤に登場する「ルーブル・アブダビ美術館」前の海面や空中に描いた文字である。いずれもCGでの重畳描画である。本物志向であるなら,最新のプロジェクションマッピングを駆使して,現地に描くべきだと思うのだが,フライシャー監督は思いつかなかったのだろうか?


写真18 ブルックリンのブッシュウィック地区の倉庫群。
ホースメンのマジック公演があると聴いた人々がやって来た。

写真19 ルーブル・アブダビ美術館前の海面や空にか書かれた魔法の文字

 ■ パリのルーブル美術館の分室扱いのこのミュージアムはアブダビ市街地に隣接する「サディヤット島」に作られていて,半分は海に浮かぶ形になっている。観光名所であるこの建物を見られただけで眼福であった。写真20は,この美術館の実写シーンで始まり,次第に建物の1階内部に入り,最後はダニエルが待つ部屋に至るシーケンスである。どこからが3D-CGモデルで,どこから実物セットに切り替わるかは,容易には識別できない。おそらく,最新のマルチカメラを利用して「すり抜け効果」に見えるよう工夫し,まるでワンカメラでの移動のように思わせている。監督は,これもマジックの1種だと言いたいのかも知れない。本作のVFXシーンの中では,最も特筆に値する出来映えである。


写真20 美術館外から中の部屋までのシームレスなデジタルトランジション。

 ■ Rodeo FX社のBreakdown映像には,まだいくつか事例があった。カーチェイスシーンで登場する写真21は市内高速道路の縁を紅く塗り,照明を付している。ルックスは良くなったが,上記に比べ,VFX処理としては取るに足りない。壁面をスクリーンのように使い,大きなルーラの映像が登場する写真22は,プロジェクションマッピングと思わせておいて,実はCG/VFXで描いている。彼女が放つ鳩は勿論CG製だ。写真23は最後に「ホースメン」の8人が勢揃いするシーンだが,背景は実写でも「浮き舞台」はCG製,人物はスタジオ撮影の映像合成かと想像したのだが,これはすべて実物で,現場撮影していたようだ。ここは本物志向である。


写真21 市内フリーウェイの高架部分をデジタル加工している

写真22 大きな壁面へのプロジェクションでルーラが登場する

写真23 浮き舞台も観衆もすべて本物を現地撮影した

 ■ この監督にして,なぜCG/VFX利用なのか理解できないシーンもあった。アブダビで,ホースメンの何人かがヴェロニカに捕まり,キューブ状のガラス牢に閉じ込められて水攻めに遇う。ヘンリーがダイヤの結婚指輪を使ってガラスを割り,間一髪で脱出に成功するが,この時流れ出す水がCG描写なのである(写真24)。本物志向であるなら,これしきの水の流出は実物でいいと思うのだが,監督の価値観が理解できない。最大の理解不能はF1カーである。ヴェロニカのヴァンダーバーグ社が,F1コンストラクターのオーナーという設定で,彼女が主催するパーティにF1カーが展示されていた(写真25)。ヴェロニカを混乱させるため,ボスコとチャーリーはこのF1カーを盗んで会場を抜け出し,追って来たパトカーと公道でチェイスバトルを繰り広げる(写真26)。このF1カーがCG製だという。本物のF1カーで展示会場内や公道を走行させるのは危険であり,破損した場合に損害額が莫大という言い訳だが,何も本物を使う必要はない。車体は似せたレプリカで十分で,エンジンやシャシーは市販カーレベルでいいではないか。もっとも追跡する警察車両には,ランボルギーニやフェラーリを使ったと言うから,平凡な市販カーのエンジンでは遅過ぎて,逃亡劇にならなかったのかも知れない。


写真24 ガラス壁面が壊れて流れ出る水流はCG描写

写真25 F1アブダビGPに参戦するレーシングカーの展示(これは実車?)

写真26 ボスコが盗み出し, 会場を出て, 公道を走るF1カーはCG製
(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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