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O plus E誌 2003年2月号掲載
 
 
『007/ダイ・アナザー・デイ』
(MGM映画/20世紀フォックス配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2002年12月20日 ヤマハ・ホール(完成披露試写会)  
  [3月上旬より全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  サービス精神たっぷり,VFXもドッサリ  
   好評5代目ボンド,ピアース・ブロスナンの第4作目は,007シリーズの20作目,第1作から40周年に当たるそうだ。当時筆者はまだ高校1年生で,『007は殺しの番号』(その後『ドクター・ノオ』と改題)に登場した初代ボンド,ショーン・コネリーのクールさ,凛々しさにしびれた。2作目の『007/危機一発』(その後『ロシアより愛をこめて』と改題)は流行語にもなった。
 ブロスナン・シリーズでは毎回監督が変わっているが,本作の監督はリー・タマホリだ。あまり馴染みがないが,ニュージーランド出身でCM製作の経験が長く,ハリウッドではこれが第4作目の長編映画となる。あまりギャラの高くない監督を起用して出世作とさせるのは,製作費を他に回す意味でも,趣向を変える意味でも効果的に働いている。
 ボンド・ガールは,『チョコレート』(01)で昨年初めて黒人初のアカデミー賞主演女優賞に輝いたハル・ベリー。本欄の読者には,『X-メン』(00)や『ソードフィッシュ』(01)での活躍の方が印象的だろう。もう1人は,これが映画デビューとなる英国女優のロザムンド・バイク。少し冷たい感じの美人で,新人と思えぬほど堂々としていた。知名度は逆だが,ボンドを巡るこの2人の役どころは,前作『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のデニス・リチャーズとソフィー・マルソーの関係と相似形だ。
 今回の敵は,北朝鮮軍の危険人物ムーン大佐とその部下のザオ。冷戦がなくなり,無理に敵役を作るために北朝鮮に設定しただけで,目くじらを立てるほどではない。北朝鮮や韓国からの抗議が話題になり,かえって宣伝効果を発揮している。北朝鮮がどんなに悪く描かれているか楽しみに見る日本人は期待外れに終わるだろう。
 政治的意図はなく,いつもの007映画を求めるファンには,前作以上のアクション満載,秘密兵器の小道具も車載装備もばっちりで期待を裏切らない。マドンナの主題歌も上々のデキで,サービス精神満点だ。CGを使った視覚効果の利用も目覚ましい。前作の3倍以上で,もちろんシリーズ最多である。以下,その要点と見どころである。
 ■本シリーズの主題歌が流れるタイトルバックは,いつもハイセンスだ。ここに登場するさそりはCGだろうし,その後につづくモダンアート調の映像はもちろんデジタル技術あっての作品だ。
 ■氷の宮殿は外観はシドニーのオペラハウスに似ているが,むしろ内装や調度類が素晴らしい。多分大半は透明のプラスティックを使っていて,本物の氷はわずかだろう。ここにはCGはないと見た。
 ■前作完成の直後にQ役のデズモンド・リューウェンが亡くなったが,3年も前だっただけに後継者R(ジョン・クリース)がQに昇格していたのはごく自然に感じられた。ボンドとの掛け合いで,いつもにもまして秘密兵器が紹介される下りも楽しい。ボンド・カーのアストン・マーティン V12ヴァンキッシュが迷彩機能で透明になるというのが面白い。変化途中やうっすらと見えるシーンは,CGが使えるゆえに実現できるアイデアだ。
 ■対する敵のザオのクルマはジャガーXKR。この2台の特殊装備カーの氷上チェイス・シーンは圧巻だ(写真1)。迫力あるシーンを捕らえるのに,ラジコン・ヘリ等も使って撮影しているようだ。氷上ヨットにジェット・エンジンを搭載したアイス・ドラッグスター(写真2)も大活躍するが,こちらはCGでの出番も多い。
 
     
 
写真1 アイスランド湖上でのチェイス・シーン。ボン ド・カーのアストン・マーティンが消えるのが見もの。   写真2 猛スピードで滑走できるアイス・ドラッグスター。これは本物だが,CGも多用されている。
 
     
   ■滝への転落シーン,人工衛星イカロスから地上への破壊光線,ボンドが緊急操縦しバラバラになる飛行機などは,当然CGフル活用のデジタル合成シーンだろう。VFXの担当は,いつものようにCinesite, CFC Frame Store, The Moving Pictures Co., Double Negative等の英国勢が中心だ。
 ■VFXの圧巻は,氷の断崖絶壁が割けて崩れ落ちる様,そこからパラグライダーでの脱出行シーンだろう。もちろん,ボンドはブルーバックを利用しての合成で,他は CGだろう。CGの氷の反射や屈折をリアルに見せるのに北極圏近くまで出かけて取材し,レンダリングにも新技術を用いたという。なるほど,氷はまずますだったが,その合成の自然さがイマイチで,少し安っぽいシーンになってしまったのが残念だ。
 
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  マンネリ回避の工夫と本物スタントの魅力  
 
さすが,007シリーズ。前日に『カンパニー・マン』を観ていただけに,同じスパイものでもお金のかけ方の違い,贅沢さが目立ちました。
比べちゃ可哀想ですよ。もとは英国製でも,ハリウッド資本が入ったこのシリーズだからできるお遊びの数々です。『ギャング・オブ・ニューヨーク』や『戦場のピアニスト』とも,映画としての性格がまるで違います。このシリーズの観客は,映画でしか見られない豪華さ,バカバカしさを期待しているのですから。
氷の宮殿内のデザイン,そこでのレセプションの参加者たちのファッションもお洒落でした。
ハル・ベリーのビキニのデザインにも息を飲みましたね(写真3)。プロポーションにもですが(笑)。第1作のアーシュラ・アンドレスを彷彿とさせ,007ファンの男性は必見です。
マンネリ防止で趣向を変えようとしているのを感じますが,ジェームズ・ボンドが捕まって拷問を受け,14ヶ月間も監禁されるのには驚きました。
いつも軽口を叩きながらすぐ脱出して来るのにね(笑)。北朝鮮に14ヶ月なんてしれてます。蓮池さんや地村さんは20数年間ですからね。
そんなこと言ったら抗議を受けますよ。韓国でもこの映画のボイコット運動が起こっているようです。
この娯楽映画に政治的解釈をする方が非常識でしょう。あの程度で極悪非道な国家として描かれているというなら,これまでアメリカ映画で描かれたソ連やドイツなんて,毎年何度も抗議しなくちゃなりません。むしろ,北朝鮮の将軍様は好戦的でなく温厚だったし,海外留学経験のある息子は知的でスマートでしたよ(笑)。
ハハハ。実態よりずっと好意的に描いてあると。
そう,映画好きの偉大なる首領様は,こっそり眺めて喜んでいるじゃないですか(笑)。
前作はドラマ性が高かったのに,今回はアクション重視に戻り,ちょっと長すぎたと感じました。
ホーバークラフトでの戦闘,フェンシングでの対決,氷上のカーチェイス等,どれも迫力あったけど。少しずつ短い方がテンポが良かったか知れませんね。
あのカーチェイスは本物ですよね?
冒頭のサーフィンもこのチェイスも本物です。本当にアイスランド・ロケをし,厚い氷の張った湖の上で2週間かかって撮影したそうです。一部はCGかも知れませんが,大半は実写のスタントでしょう。
全部本物に見えましたが,CGでそこまでクルマをリアルに描けるんですか?
今やTVコマーシャルや新車のパンフにあるクルマはほぼすべてCGだそうです。ボディへの映り込みなど,最近のCGはそこまでのレベルに達しています。
へぇー,知らなかった。
そうしたCGがあっても,本物のバトルを新しいカメラや撮影方法で撮ってしまうのがこの映画の魅力です。スタッフのクレジットに,他にない色々な職種があったことからもそれは伺えます。
 
     
 
 
 

写真3 オスカーの女優のビキニ姿もサービスの1つ

 
 

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