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O plus E誌 2011年6月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』:副題どおり,2008年にリーマンショックで引き起こされた世界経済危機の原因を徹底究明する。金融業界関係者,政治家,ジャーナリストへの取材で真相に迫る手際は,さすがアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作だと感心する。ただし,悪徳経営者や政治家に向けた正義の刃,告発の作品としては有意義でも,劇場で観て楽しいかというと疑問符がつく。延々と続く証言と生真面目な編集には,CMのないNHKスペシャルのようで,少し眠気を誘う。これならマイケル・ムーアの突撃インタビューの方がずっと印象に残る。どこかで聴いた声だと思ったら,ナレーターはマット・デイモンだった。こんなところにも出ていたとは……。
 ■『手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく』:表題に「手塚治虫」の冠があるように,同氏の名作コミックの劇場映画化作品で,仏教の開祖・釈迦の生涯を描いている。原作は,創価学会系・潮出版社の少年漫画雑誌に連載され,横山光輝の「三国志」と共に好評を得た歴史的記念碑だ。本作は全3部作の第1部で,釈迦族の王子ゴーダマ・シッダールタの誕生から僧となるまでが語られる。すばり言って,つまらない。原作の世界観は国際的評価も高いというので,必死で我慢して観たが,楽しくないし,ワクワクもしない。手塚治虫の原画を活かすには,この画法となるのは止むを得ないが,もはやセル調2Dアニメでは表現力不足だ。絵はキレイだが,映画らしい大作感,躍動感がない。原作を漫画で読んだ方がずっと良い。アジア諸国への輸出も計算済みなのだろうが,残り2作で挽回できるのだろうか?
 ■『マイ・バック・ページ』:理想に燃える若い週刊誌記者(妻夫木聡)と反戦運動の闘士(松山ケンイチ)の交流と事件を描いた青春映画で,原作は評論家・川本三郎が自らの体験を著した同名のノンフィクションである。時代は1969年から1972年で,モデルは「朝日ジャーナル」だとすぐ分かる。同誌をむさぼり読み,全共闘活動の端っこにいた筆者は,この映画の隅々まで丹念に眺めた。2人の主演男優は比較的好きな部類で,彼らの熱演は認めても,この映画から感じるものは何もなかった。脚本家(向井康介)も監督(山下敦弘)も全くこの時代を理解していない。生まれていなかった時代だから正しく描けないというなら,プロではない。フィクション化に失敗した作品だと言える。
 ■『プリンセス トヨトミ』:5月28日の公開作品。GW前後から大阪の街には多数のポスターが貼られていた。キャッチコピー「その日大阪が全停止した」も刺激的だった。大阪の地下に独立国が存在し,豊臣家の末裔(王女)を守り続けているという設定も,関西人なら「これは観に行かなくては!」と思わせるものだった。全国のタイガース・ファンの半数以上も,そう思ったに違いない。関西出身の作家・万城目学の長編3作目であり,映画化は2作目である。前作『鴨川ホルモー』(09年5月号)が松竹配給の低予算映画であったのに対して,本作がフジテレビ製作,東宝配給作品というので,少し嫌な予感がした。案の定,人気タレントを起用し,中途半端にスケールアップし,全国のシネコン来場者向けの個性のない邦画大作になってしまっている。父と子の物語の描写はハリウッド風で,大阪らしくない。大阪に乗り込んだ会計監査院チーム(堤真一,綾瀬はるか,岡田将生)も大阪国総理大臣(中井貴一)もそれぞれは好きな俳優だが,少し都会的過ぎる。もっとコテコテの関西風味付けが欲しかった。現在,分厚い原作本を読んでいるが,こちらの方が断然面白い。大阪全停止や大群衆のVFX処理は悪くないのだが,大坂城のCG描写は安っぽかった。時代劇部分の制作が東映京都撮影所の担当だけあって,その衣装や美術セットの丁寧な作りが,せめてもの救いだった。
 ■『軽蔑』:かなりの力作だ。中上健次の最後の長編純愛小説を映画化しようという意気込みだけで褒められる。中途半端な脚本や演出なら吹っ飛んでしまうところを,堂々と真正面から取り組んでいる。主演男女は,高良健吾と鈴木杏。先月号の『まほろ駅前多田便利軒』でチンピラと娼婦を演じていた2人が,そのイメージを残しつつ,さらに強烈な役を見事に演じる。特筆すべきは鈴木杏で,あの『ジュブナイル』(00)のあどけない少女が,全裸セックスシーンの体当たり演技まで見せる女優に成長したのが驚きだった。不器用な男女の壮絶な愛の物語だが,少し長過ぎる。後半をテンポアップすれば満点だった。もう1つの欠点はエンディングで,こんな状態の男女を平気で乗せるタクシーが田舎にある訳はないじゃないかと感じてしまった。
 ■『奇跡』:邦画の話題作が続く。是枝裕和監督の最新作は,「九州新幹線の一番列車がすれ違う時,奇跡が起きる」がテーマだ。3月12日の全線開通はもっと話題を呼んでいいはずだったのに,前日に大震災が起きたのが不運だった。この映画はそれ以前に取り終えていたはずだが,何かもう1つピリっとしない。題名から想像するサプライズもない。両親の離婚で離れ離れになった兄弟を,小学生お笑いコンビ「まえだまえだ」の2人(前田航基・旺志郎)が演じる。実の兄弟だと,こうも息が合うものか。役者としても成功するに違いない。これだけの兄弟を配したならば,もっと素晴らしい映画が作れたはずだ。脚本も演出も,もう一頑張り欲しかった。
 ■『127時間』:全編をほぼ1人で演じ切る主人公は,ジェームズ・フランコ。『スパイダーマン』のピーター・パーカーの親友ハリー役というより,今や今年のアカデミー賞授賞式司会者と言った方が分かりやすいだろう。自らオスカー候補の1人でもあったが,受賞は逃したものの,この主演の印象は強烈だ。監督は,『スラムドッグ$ミリオネア』(08年4月号)でオスカー(作品賞,監督賞)を得たダニー・ボイル。それがフロックでなかったことが本作で証明された。一瞬の隙もない緊迫感。思わず岩を持ち上げたくなり,身をよじり,右手が硬直してくる。同配給会社の[リミット](10年11月号)に求めたものが,すべてここに詰まっている。全く予備知識なく,結末を知らずに観た方が,感動は3倍増する。
 
   
   
  (上記のうち,『プリンセス トヨトミ』はO plus E誌には非掲載です)  
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