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O plus E誌 2014年11月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『イコライザー』:実に爽快な映画だ。『ボーン…』シリーズや『96時間』(08)のファンなら,絶対に気に入るはずだ。元CIA工作員という共通項だけでなく,デンゼル・ワシントン演じる主人公が目茶苦茶強い。警察が手出しできない社会的不正を個人的に始末するという設定は,我が国の『必殺…』シリーズをも思い出す。些細な小道具を使って敵を抹殺する様が,治療鍼や三味線の蔓で「仕事」する手口に似ているとも言えるが,予め用意した得意の必殺道具でなく,その場にある適当な物品であることが,本作のアクションを余計に面白くしている。当然のことながら,是非シリーズ化して欲しいところだ。どうせなら,3人でチームを組んでの揃い踏みも観たいが,映画会社が異なるので,それは無理だろう。不満は,始めて娼婦役を演じたクロエ・グレース・モレッツの出番が少な過ぎることだ。上映後,「もっとクロエちゃんを出せ!」の声が相次いでいた。
 『小野寺の弟・小野寺の姉』:表題も気を引くが,「弟:向井理,姉:片桐はいり」という組合せが気になった。いや,弟役は少しとぼけた味が出せるイケメン男優なら誰でも良いが,姉役の超個性派女優・片桐はいりの魅力を最大限に引き出した映画だと言える。よく出来た脚本で,随所で笑いを誘うが,いずれも上品な笑いだ。人情の機微をわきまえたペーソスがあり,緩急のつけ方も上手い。監督は,これがデビュー作となる西田征史。原作小説,脚本,舞台演出もすべて自分で手がけていることを考慮しても,とても新人とは思えぬ巧みさだ。ほのぼのとしたヒューマンドラマを,そのまま単純なハッピーエンドにせず,落とし所も心得ている。これは,まるで女・寅さんの姉弟だ。まさか,『女はつらいよ』と名乗る訳には行かないだろうが,せめてこの組合せでシリーズ化し,数作は観たいものだ。
 『マダム・マロリーと魔法のスパイス』:題名からもスチル画像からも,いかにも美味しそうに感じる料理映画だ。ミシュランでの高級レストランを経営するマダム・マロリー役は,英国女優のへレン・ミレン。デイムの名誉称号をもつ名女優とはいえ,味音痴の英国が舞台の料理映画なんて……。と思ったが,案ずるなかれ,舞台は南フランスで,格式あるフレンチレストランのオーナー役の彼女も,しっかり仏語を話す。新興インド料理店との競争を描いた楽しい物語だが,真の主人公は天才的な舌をもつインド人青年のハッサン(マニッシュ・ダヤル)である。老カップルと若いカップルのラブロマンスが勝ち過ぎていて,料理人修行の成功譚の描写が甘い。こんなに苦労なしのトントン拍子では,感動も少ない。それでも,美しい南仏の景観も堪能でき,デートムービーとしては最適だと評価しておこう。
 『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』:盛りを過ぎたアクション・スターを集めた「消耗品軍団」が主役を張る戦闘映画は,懐かしい顔ぶれと単純明快な娯楽作品として意外なヒットとなった。味をしめての3作目ともなると,さすがに食傷気味だろうと思ったが,新しい趣向を凝らして,結構楽しめるように仕上げている。お馴染みのメンバーに加えて,本作でゲスト出演する往年の大スターは,ハリソン・フォードとメル・ギブソン。それぞれ,新ミッションの依頼役と宿敵の悪役として好い味を出している。マンネリ防止の工夫としては,お馴染み軍団を外し,若手新チームを結成するに当たっての人選過程の楽しさだ。それでいて,肝心なところで旧チームも合流させる筋書きは,全く予想通りの展開である。この勢いで,まだシリーズは続くだろう。次作には,どんな懐かしの名優が登場するか楽しみだし,新人アクション俳優の登竜門にもなりそうだ。
 『サボタージュ』:上記「消耗品軍団」常連のA・シュワルツェネッガーが,本作では麻薬取締局の特殊部隊のリーダーとして,屈強なはぐれ者達のチームを率いる。加州知事を2期8年も務め,既に老醜が目立つベテラン俳優が,こんなお軽い主演を引き受けるとは,多額の離婚慰謝料支払いのために,親友S・スタローンの成功の手口を真似ようとしているのか。何か訳アリの主人公,一旦解雇され再雇用される猛者たちのチーム,麻薬密売組織との対決……。これはお決まりのパターンの凡作かと思ったのだが,途中からチームメンバーが1人ずつ殺される猟奇殺人事件と化す。これで,何でこの表題なのかと思ったら,【サボタージュ】=破壊行為,なのだそうだ。監督も助演陣もB級ながら,先が読めない展開は十分楽しめる。老特殊部隊長と中年女刑事のメイクラブも,年齢相応の分をわきまえた演出だ。
 『花宵道中』:名子役として名をはせた安達祐実の主演作で,吉原の花魁を演じ,その生き様を体当たりで演じるという。TVドラマ『家なき子』の主人公のイメージが強いが,あれはもう20年も前だったのか。結婚,出産,離婚を経験した30代の女優が遊女を演じても何の不思議もないのだが,やはりどうにもピンと来ない。何となく,娘の学芸会を観ている父親の気分だった。原作は,宮木あや子作の「女による女のためのR-18文学賞」の大賞・読者賞受賞作だというが,物語に深味がない。R-18らしく,濡れ場でのヌード・シーンもたっぷりあるが,全く興奮しない。本格的な時代劇セット,豪華な衣装はしっかり用意されているのが,せめてもの救いか。東映京都撮影所のオープンセット(即ち,太秦映画村)での撮影が中心だが,そのせいか,貸衣装で花魁に扮装し,映画村内で記念撮影する娘を眺めている以上の気分になれなかった。
 『嗤う分身』:不思議な映画だ。というよりも,不思議さを強調した映画と言うべきか。主演は『ソーシャル・ネットワーク』(10)のジェシー・アイゼンバーグで,相手役は『アリス・イン・ワンダーランド』(10)のミア・ワシコウスカだ。ロシアの文豪ドストエフスキーの「分身(二重人格)」の映画化作品だというが,少々誇大広告で,二重人格をモチーフにしただけのようだ。向かいのアパートを双眼鏡で覗くシーンは,ヒッチコックの『裏窓』(54)のコピーだ。見た目はそっくりで,性格が正反対の男が登場し,周りは誰もそれを驚かない。この不条理さに主人公は当惑される。劇中で,坂本九の「上を向いて歩こう」とブルー・コメッツの「ブルー・シャトウ」「草原の輝き」が日本語の原曲のまま流れるのは,異次元,異国情緒を醸し出したかったからだろうか。監督・脚本は,英国人のリチャード・アイオアディ。93分間のこの映画は,少し策に溺れ過ぎだと感じた。
 『100歳の華麗なる冒険』:スウェーデン映画で,100歳の誕生日に老人ホームから脱走した老人の珍道中を描いている。道中でギャングの大金を横取りする形になり,警察とギャングの両方に追われることになる。彼は爆弾製作の専門家で,第二次世界大戦時から彼が関わった重大事件の回想シーンが何度も挿入される。原爆開発のオッペンハイマー博士,トルーマン,スターリン,レーガン,ゴルバチョフまで登場し,サービス精神満点だ。特殊メイクで25歳から100歳までを演じる主演男優は,ロバート・グスタフソン。実年齢は50歳で,さすがに100歳に見えないのは仕方ないだろう。この映画は,試写室内でなく,サンプルDVDで観た。邪道だと知りつつ告白するなら,時間がなかったので,かなりの部分を(音声は聞き取れ,字幕も見える)早送りモードで観た。後でノーマルモードで再確認したが,早送りの方がテンポも良く,実に面白かった。
 『ザ・ゲスト』:何の変哲もない題名だが,何と引き締まった映画だろう。すべては,脚本と演出力のなせる技だ。舞台はアメリカのある田舎町。かなり閑散とした,何の面白みもない所だ。イラク戦争で長男を亡くした家族の住居を,戦友だったと名乗る男が訪問する。歓待を受け,彼が数日この家に滞在する内に,不思議な事件がいくつも起こる。俳優は全員B級で,いかにも低予算映画なのだが,不思議な魅力に溢れている。少しホラーっぽい味つけで,音楽がスリラーらしさを盛り上げる。主人公の意図しない方向に物語は進行し,先が読めない意外な展開に,観客も巻き込まれる。オチもしっかりしていて,観客満足度は高い。監督はこれが2作目のアダム・ウィンガードで,脚本はサイモン・バレット。この2人の名前は,しっかり覚えておこう。
 『トワイライト ささらさや』:「トワイライト」と言っても,ヴァンパイアと人間の女性の恋物語とは無関係の邦画である。原作小説の題「ささら さや」だけでは意味不明なので,無粋な冠をつけたのだろう。交通事故で落語家の夫を亡くした若い未亡人のサヤ(新垣結衣)が,乳児を抱えて,小さな町「ささら」に移り住む。即ち,ささら町のサヤさんなのだ。急死したが,妻と幼い息子が心配で成仏できない夫ユウタロウ(大泉洋)は,他人の身体に乗り移って,再三サヤの前に登場する。ならばいっそ,ベタに『ゴースト ささらさや』の方が分かりやすかったと思う。監督・脚本は,『60歳のラブレター』(09)の深川栄洋。筆者が注目する若手監督の1人だ。本作は,ユーモアとペーソスを織り交ぜたヒューマンドラマだが,お涙頂戴のシーンの登場が早過ぎ,かつ工夫がなかったように感じた。ただし,大泉洋が乗り移った場面での富司純子の演技は見事だった。同じくユウタロウが乗り移った少年(寺田心)も凄かった。よくぞ,あの長いセリフを覚えたものだ。
 『6才のボクが,大人になるまで。』:原題はただの『Boyhood』なのに,この邦題だけで,いい映画だと分かるから不思議だ。監督は『ビフォア…』シリーズのリチャード・リンクレイター。同じ俳優を起用して,何年も経ってからの後日譚を仕上げる手腕に定評があるが,本作は,何と4人の俳優を12年間も追って撮影したという。その点だけでも興味津々だ。両親が離婚し,母親に引き取られた8歳と6歳の姉弟のその後の成長を追う物語である。何でもない日常生活が,同じ家族を追う内に,次第に充実して来る。将来を見越して6歳の少年を主人公にしたのはリスクを伴っただろうが,15歳以降がいい。俳優として成長した分,彼を追う脚本も冴えている。脚本は予めどこまで用意してあったのか? 多分,年齢進行に同期して書き加えたのだろう。父親役は常連のイーサン・ホーク。この軽薄な父親に接する時に,子供たちが輝いている。結構いい父親だ。彼の好演は,この監督との相性がいいためだろう。きっと何年か後に続編を作るに違いない。今から,楽しみだ。
 『パワー・ゲーム』:題材は次世代スマホの開発競争で,主人公はその企画チームのリーダーだ。新提案がボツになった腹いせに多額の経費を使ったことから社長に弱みを握られ,ライバル社に潜入して機密を盗む産業スパイを命じられる。主演のリアム・ヘムズワースは,兄のクリス(『マイティ・ソー』の主演)ほどパワフルではないが,大物俳優ハリソン・フォードと名優ゲイリー・オールドマンがライバル両社の社長を演じて,しっかり脇を固めている。IT系のキーワードが次々飛び出し,ワクワクするようなスリリングな展開のはずなのだが,今一つ物語が薄っぺらだ。主人公とヒロインのラブロマンスも冴えない。企画や人物設定が悪い訳ではないのだから,すべては脚本が少しプアなだけだろう。それだけで,名優2人の演技もセリフも空々しい。H・フォードの使い方も,上述の単純な『エクスペンダブルズ3』の方がずっと良かった。
 『天才スピヴェット』:素直に面白く,期待通りの作品だ。『ヒューゴの不思議な発明』(11)ほどの大作感はないが,皮肉屋のジャン=ピエール・ジュネらしい好い味を出していた。この監督のビジュアル面での拘りが,セリフや物語のテンポの良さと見事に噛み合っている。『アメリ』(01)以来の傑作だ。10歳で発明家の天才少年T・S・スピヴェット君の弁舌に魅了される。モンタナ州の田舎からワシントンD.C.に向かう大陸横断はイタズラ心満載,スミソニアン博物館やTV出演の下りは皮肉たっぷりで,随所に登場する小道具も秀逸だ。そしてラストに向けて,彼の家族の描き方が一興である。普通のハリウッド映画の家族とは,一味も二味も違う。残念ながら,締切が迫っていて3D版を観る機会がなかったが,2D版からも,3D演出の工夫は十分感じられた。
 
   
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