O plus E VFX映画時評 2026年5月号
(注:本映画時評の評点は,上から![]()
![]()
,![]()
,
,
の順で,その中間に
をつけています)
『スター・ウォーズ』シリーズの劇場公開作はこれで13作目である。過去12作は,SWサーガ正史がEP3本×3シリーズで9作,スピンオフが3作であった。最後の『SW/スカイウォーカーの夜明け 』(19年Web専用#6)から6年半も経つが,さほど待ち遠しくはなかった。MCUと同様,粗製乱造で食傷気味であり,すっかり興味をなくしていたからである。さりとて,SFX史に名を残すこのシリーズの新作を無視する訳には行かない。CG/VFX担当が老舗ILMなのは自明なので,文字だけの論評欄で済ますことも憚られる。Lucasfilmがディズニー傘下に入ってからのスピンオフ2作は,
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(17年1月号)
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18年Web専用#3)
であったのに対して,本作は原題も邦題も「SW」を題名の最初に入れているから,正史に近い扱いの意欲作であることが期待された。正史のEP7〜9が不評であったので,迷走するディズニー配給網としては,何とかシリーズ全体を活性化する起爆剤にしたかったのだろうと思う。
『マンダロリアン』は2019年に始まったTVシリーズ(Disney+でネット配信中)で,3シーズンで計24話が作られた。全部観たのはよほどのSWマニアだろう。駄作だらけのTVシリーズの中では,比較的好評だったと言われている。それゆえ,これを劇場版にして起死回生を図ろうとしたと考えられる。「ベビー・ヨーダ」の「グローグー」の名前を本作の題名に入れたのは,(筆者と同様に)劇場版しか観ない観客層にその愛らしさをアピールし,まずは映画館に足を運ばせる営業戦略なのだろう。
東京ではプレミア上映会があったようだが,大阪ではいつもの完成披露試写会がなかった。そのため,一般観客も有料入場できる公開日前日の「前夜祭」しか機会がなかった。既に座席は確保できていたが,当日昼前に混み具合を確認したところ,チケットは「完売」であった。今でもそこまで人気があるのかと,少し驚いた。それに相応しく,開演30分前から会場の熱気は凄かった。ただし,男性客ばかりで,MCUや他のアクション映画と競べても女性客比率が低い。LED発光のライトセーバー模造品を持参しているオタクファンがあちこちにいた。さすがにそれは若者だけで,熟年者は大人しくじっとしていた。
若者ファンが第1作EP4の公開時から同時体験しているはず訳はない。前史の『SSW エピソード1/ファントムメナス』(99年9月号)からでも,既に27年も経つ。彼らが,いつ頃から,どうやってSWファンになったのかが興味深かった。抜群の知名度があると,それだけでファンになりやすい。音楽で言えば,BeatlesやQueen級がそれに当たる。同世代の中で,マニアックなファンだと公言することが誇らしいのだろう。全作制覇したことを吹聴し,仲間と論じ合うことも楽しみなのに違いない。それだけの価値のあるシリーズなのかと思う。
いや,状況は少し違う。BeatlesやQueenは解散していて,既に何名かは鬼籍に入っているので,再結成は有り得ない。今から駄作が登場する心配はなく,平均クオリティが落ちることもない。一方,SWシリーズは,知名度抜群でも,新作が面白いとは限らない。その分,過去作の不評分を補うだけの意欲作が欲しいのは,製作側もファン側も同じだ。それゆえ,当欄は本作を混迷を続けるシリーズの救済作になるかどうかの視点で観ることにした。
前夜祭で観ておきながら,既にかなり日数が経っている。すぐに「概要と感想」を書かなかったことから,賢明な読者は当欄の評価が,シリーズ再浮上の「起爆剤」や「救済作」でなかったことを察しておられるだろう。既にSNS上には膨大な数の投稿があり,賛否両論である。その中で,当欄の評価がどのレベルなのかを気にして下さる長年の読者がおられる。それに対する責任感と記録を残しておくという意味から,ようやくこの稿を書き始めた。
【本作の概要と感想】
監督・脚本・製作は,TVシリーズと同じジョン・ファヴローだ。もっとも,全24話中の20話の脚本を書いたが,監督は1話しか担当していない。ただし,監督歴は長く,『ザスーラ』(05年12月号) 『アイアンマン』(08年10月号)『同 2』(10年6月号),実写リメイク版の『ジャングル・ブック』(16年8月号)『ライオン・キング』(19年Web専用#4)等を生み出しているので,腕は確かで,CG/VFXにも精通している。
本作はTVシリーズの要約編ではなく,全24話後の物語であり,SWサーガの時間軸ではEP6とEP7の間に位置している。タイトルキャラクターの「マンダロリアン」は,正確には個人名ではなく,惑星マンダロア出身の戦士集団名である。常時,金属製戦闘服で登場する主人公は,その中の1人のディン・ジャリンで,ペドロ・パスカルが演じている。他にこの種族は登場しないので,劇中では「マンダロリアン」で通用し,仲間からは「マンドー」とも呼ばれている。彼は凄腕の賞金稼ぎという位置づけである。
彼の養子かつ弟子である「グローグー」は,ヨーダの種族でフォースが使える。既に50歳であるが,800〜900歳まで生きるという種族なので,まだ赤子だ。マンドーがグローグーは連れ歩く姿は,どう見ても「SW版 子連れ狼」である(写真1)。一目でそう感じたので,自分で付けたこの表現を気に入っていたのだが,どの解説記事を見ても,同じように書いているではないか。今度は,SWファンの若者たちに,「子連れ狼」と言って通用するのかが気になった。
映画が始まった。冒頭は宇宙らしき映像だったが,お馴染みのオープニングクロールではなかった。即ち「遠い昔 はるかかなたの銀河系で…」のテキストで始まり,ジョン・ウィリアムズの主題曲と共に,遠近法を使った文字列が遠方に消えて行く,あのシーケンスが出て来ないのだ。スピンオフの『ローグ・ワン…』『ハン・ソロ…』も違っていたので,正史以外には使わせないのだろう。本作はSWを冠している以上,正史並みの扱いを期待したのだが,やはりダメだった。念のため,Disney+でアニメ版の『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(08年9月号)を確認したら,「遠い昔…」のテキストと主題曲の冒頭は入っていた。ということは,本作はシリーズの傍流作品に過ぎないことを認めているのである。熱烈ファンには,これだけでかなりの減点であるに違いない。
EP6で帝国は崩壊し,新共和国が宇宙の平和を維持していたが,帝国の残党が勢力を伸ばしつつあった。新共和国の司令官ウォード大佐(シガーニー・ウィーバー)(写真2)は帝国の残党との戦争を避けるため,賞金稼ぎのマンドーことディン・ジャリンに謎の男コインの捜索を依頼した。ジャリンは気乗りがしなかったが,見返りとして新型宇宙船「レイザー・クレスト号」(写真3)を与えると提案され,しぶしぶ引き受けた。
物語は二転三転するので詳細は省くが,目玉となる大きな存在は,かつての犯罪王ジャバ・ザ・ハットの息子のロッタ・ザ・ハットである。この息子は『…クローン・ウォーズ』にも登場していた。彼をジャヌ卿が率いる犯罪組織から救出することが手始めだった。彼を双子の従兄姉のハット・ツインズのもとに送り届けたが,この双子が真の敵であり,ハット・カルテルを乗っ取ろうとしていた。ジャリンとグローグが双子の宮殿に乗り込んでロッタを自由にするというのが物語の大筋であった。
前半は少し退屈だったが,後半に入り,致命的な毒に侵されたマンドーが瀕死状態になる。彼をいかにして復活させるのか辺りから,一気に展開が面白くなる。本作はSF正史とはほぼ無縁であり,独立した物語として楽しめた。それでも,SWシリーズの基本コンセプトである「宇宙が舞台の西部劇」の規範は守っているので,SWファンの大半が満足できるレベルに達していた。ただし, SWシリーズのイメージは壊れないものの,あくまでこれは番外編であり,人気回復への救済作品とはならず,さほど大きな起爆剤でもない。見て損はないが,本作を飛ばしても問題はないというのが,当欄の評価である。
【クリーチャーとCG/VFXについて】
予告編を観ただけで分かるように,様々な怪物系のクリーチャーが登場する。CG/VFXの主担当は勿論ILMだが,他にImage Engine Design, Tippett Studio, SDFX Studios, Important Looking Pirates, Hybride等も参加している。TVシリーズからして,全編ほぼCG描画であるので,その利用法に関しては,特筆に値する新規性はなかった。それでも,印象的なシーンのいくつかには言及しておこう。
■ 看板にするだけあって,グルーグーは表情も仕草も可愛い(写真4)。グルーグーの仲間で小さな種族の「アンゼラン」のルックスも動作もよくできたデザインだ(写真5)。一方,ロッタ・ザ・ハットは,鈍重そうな父親には似合わず筋骨隆々で,俊敏な動きで格闘技に長けていた(写真6)。双子のハット・ツインズはいかにも悪役らしく,ジャバ・ザ・ハットの甥姪らしいルックスだ(写真7)。双子に雇われた賞金稼ぎの「エンボ」は金属製の傘を被っていた(写真8)。まるで,股旅映画の三度笠だ。これも日本映画の影響を受けたのだろうか。「子連れ狼」に対する「木枯し紋次郎」といったところで,「あっしにはかかわりのねえことでござんす」とばかりに,エンボは危機が迫るとさっさと逃げ出してしまった。
■ 怪物系のクリーチャーは多数登場するが,一々名前も過去作に登場したかも調べていない(写真9)。出来映えは可もなく不可もなく,CG製クリーチャーの平均レベルだった。唯一,出色だったのは,地下牢に住む大蛇のようなドラゴン・スネークだ(写真10)。マンドーとこの大蛇との戦いの描写は秀逸だった。公式サイトで名前が判明しているのは,新共和国戦士の「ガラゼブ・オレリオス」(通称:ゼブ)(写真11)とフードトラック店主の「ヒューゴー」(写真12)だった。後者は手が4本ある猿のような生物だが,名匠マーティン・スコセッシ監督がその声の出演をしているというのに驚いた。
■ CG/VFXの使い方に新規性はないものの,CGオブジェクトと背景と一体感はハイレベルだった(写真13)。森も崖もほぼすべてCG描画であるから,「実写+CG」よりも調整しやすいと言えるが,ライティングや色調の統一感は賞賛に値する。本作で特に力を入れた訳ではなく,数年前からこのレベルなのかも知れないが,10年前と競べるとVFXスタジオのレベルアップが感じられる。動き表現が見事だったのは,マンドーがグローグーを二足歩行型戦闘ビークル「AT-RT」に乗せて,雪の崖を走って降下するシーンであった(写真14)。金属製の足が2本あるが,竹馬を思わせるような形状である。CG描写なら如何ようにも表現できるはずだが,まるで誰かが本当に駆け降りているかと感じる足の運び,雪煙の描写に,リアリティの高さを感じた。それに続くのは,お馴染みの巨大四足歩行型戦闘ビークル「AT-AT」の足元を擦り抜けて走るシーンである(写真15)。上部からの猛攻撃を躱しながらジグザク走行する動きデザインも,褒めたくなる出来映えだった。
■ 乗り物系では,前述の「レイザー・クレスト号」が精悍で,操縦席のデザインも悪くない(写真16)。マンドーがグローグーに操縦を学ばせようとし,その瞬間,ハイパースペースにワープする光景に嬉しくなる(写真17)。オープニングクロールは不満だったが,こちらには「これぞSW!」と感じたファンも多かったに違いない。同様に,ウォード大佐がXウィング部隊を率いて助けに来るシーン(写真18)でも,感涙にむせぶに違いない。最後にもう1つ,過去作へのオマージュと思われるビークルを挙げておこう。マンドーやゼブらが乗る青いランドスピーダーとグルーグーらが乗るサイドカータイプである(写真19)。まだCGがない第1作EP4の頃は,どうやって空中浮揚走行させているのかが不思議だった(実際は,ミラーを利用していた)。今ではCG/VFXで自在に描画できるが,「ランドスピーダー」を登場させてくれるだけで,SWファンは大喜びだろう。ただし,こうした小手先のファンサービスだけでなく,もっと本格的に感激する新シリーズを創って欲しいものだ。
(
)