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O plus E誌 2014年12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ザ・レイド GOKUDO』:2年前に紹介したインドネシア製のアクション映画『ザ・レイド』(12年11月号)の続編だが,前作未見でも問題はない。前作で,麻薬王や汚職警官たちと戦って生き残った新人警官のラマ(イコ・ウワイス)は,本作では日本ヤクザとの抗争や凄腕の殺し屋たちとのバトルに巻き込まれる。格闘術「シラット」の魅力満載のアクションは健在で,バット,鎌,ハンマー等を使った肉弾戦からカーチェイスまでも取り込んだノンストップ・バイオレンスが繰り広げられる。嬉しくなるのは,日本人ヤクザの描き方とキャスティングだ。組長を演じる遠藤憲一のド迫力,その息子役の松田龍平の飄々とした演技を引き出すとは,英国人監督ギャレス・エヴァンスはかなりの日本通らしい。少し残念だったのは,さらなる続編を暗示するラストシーンの唐突さだ。次作も見たくなること必定だが,これじゃ余りに物足りない。
 『オオカミは嘘をつく』:イスラエル製のサスペンス・スリラーだが,「監督にしてやられた!見事に騙された!」と感じる逸品だ。見事な脚本・演出で,クエンティン・タランティーノが絶賛しただけのことはある。少女暴行,猟奇殺人事件の容疑者に対して,暴力刑事の拷問や,それを上回る被害者の父親や祖父の残虐な私刑が延々と続く。これは,つらい。そして,意味あり気なラストシーンに,しばし戸惑い,やがてその1シーンに込められた深い意味に驚愕し,もう一度最初から観たくなる。困ったのは,紹介者泣かせで,何を書いてもネタバレになってしまうことだ。こう書けば書いたで,映画通の観客は,穿った見方で物語を追い,ひねった展開や結末を予想するだろうが,それをも覆すラストである。ネタバレを恐れずに一つだけ書くなら,邦題も絶妙で,そこにヒントが隠されている。
 『日々ロック』:原作は「週刊ヤングジャンプ」に不定期掲載中の人気コミック。「金なし風呂なし彼女なし,童貞ヘタレロッカー」なる主人公の下品極まりない表情と,「史上最強のロックバカ」なるキャッチコピーに,見識ある映画ファンなら,食指は動かないのが普通だ。案外音楽映画としては優れているかもとの想いと,最近の若者の音楽嗜好も理解しておかねばとの義務感から,試写室に足を運んだ。ところが,脚本はお粗末,がなり合うだけの演技は稚拙以前,気味の悪い主演男優……。ヒロインの二階堂ふみのブス,音痴ぶりも際立っていて,誰も魅力的でない。せめて音楽だけでも良ければ許せるが,楽曲も酷い。何一つ救いがない。
 『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』:例によって英単語を冠したお手軽邦画で,他愛もない若者のラブストーリーだが,救い難い上記作の直後に観ただけに,こちらは結構楽しめた。主演の男女はおよそ美男・美女とは言い難いが,助演の韓国人女優(ハン・ヒョジュ)の美形ぶりにうっとりしてしまう。演技はお粗末で,物語も凡庸だが,彼女の美しさにすべて許してしまいたくなる。それよりも綺麗なのが,市中のイルミネーションで,予想通り,クリスマス・イブに山下達郎の歌をバックに,プロジェクション・マッピングが全開となる。達郎・まりや夫妻で計4曲,その他の挿入曲もご機嫌だ。さすが,達郎の選曲だけのことはある。2組のカップル全員がクリエーター職で,世の中そんなに甘くないぞと中高年は思うだろうが,若者のデートムービーは,ま,これでいいんじゃないかなと……。
 『フューリー』:久々の本格的な戦争映画だ。脚本も演技も上々,映画の骨組みがしっかり出来ている。第2次世界大戦末期,ドイツ国内に侵攻した連合軍の戦車隊の物語で,『戦火の馬』(12年3月号)のような軟弱さはない。戦車同士の戦いの描写が秀逸で,隊長の指揮の適確さは,かわぐちかいじ作のコミック 「沈黙の艦隊」を思い出した。荒んだ戦場,市街戦など描写がリアルだが,クライマックスの十字路を守る攻防の迫力も,素晴らしい出来映えだ。少し前まで有望若手俳優の代表格だったシャイア・ラブーフは,もうすっかりオヤジ面になった。代わっての重要な新兵役を好演するのは,『パーシー・ジャクソン』シリーズのローガン・ラーマンだ。そして,勇敢で有能な隊長役はブラッド・ピット。製作者を兼ねる特権とはいえ,『それでも夜は明ける』(13)に続いて,オイシイ,いい役をやり過ぎだが,戦争映画史に残る一作だと評価できる。
 『くるみ割り人形』:題名からすぐ分かるように,基はチャイコフスキー作曲の名作バレエで,ディズニー映画風の味付けをした人形アニメーションである。サンリオが1979年に製作・公開した2D映画を,擬似3D化し,CGを描き加え,デジタル色彩加工で生まれ変わった作品で,監督も声優陣も一新しての「極彩色ミュージカルエンターテインメント」だという。大いに期待したのだが,結果は,見るも無残な作品だった。まずは,その画質の劣悪さだ。高精細,極彩色だと感じるシーンも部分的にはあったので,大半は元が酷く,これが修復の限界だったということか。であれば,この企画自体を中止すべきだった。3D化も甘く,およそ立体感を感じない。そもそもの人形アニメの動きも表情もお粗末だ。主役の少女クララ役の有村架純の声が低く,可愛くない。せめて音楽だけでも豪華であれば救いはあったのに,これも凡庸で,何一つ取り柄はなかった。
 『チェイス!』:インド映画だが,なぜか舞台となるのは米国のシカゴだ。主演は,『きっと,うまくいく』(09)のアーミル・カーン。大ヒット作の青春劇では,ちょっと無理して大学生役を演じていたが,本作では,年齢相応の役柄(しかも,二役)で,歴代興行収入記録を塗りかえたという。ボリウッド作品らしく,歌って踊ってのミュージカル・シーンが何度か挿入されるが,基本は銀行への復讐から金庫破りを敢行する主人公の復讐劇だ。変形バイクで警察を煙に巻くチェイス・シーンも楽しい。サーカス(というより,マジック・ショー)に人生を捧げた主人公の秘密が,物語の別の軸となる。そのトリックを詳しく書く訳には行かないが,『プレステージ』(07年6月号)と同工異曲とだけ言っておこう。147分の長尺だが,ボリューム感溢れるエンタメで,最後はボリウッド作品らしく締めくくっている。
 『ゴーン・ガール』:今月の短評欄の紹介作品は,秀作,佳作から凡作,駄作までの触れ幅が大きい。本作は,その秀作側に属する。ベストセラー・ミステリーの映画化作品で,「5回目の結婚記念日に姿を消した妻」がテーマだ。無論,単純な誘拐や失踪ではない。大量の血痕と妻の日記から,殺人の嫌疑をかけられた夫が,辣腕弁護士を雇って反撃に出る……。主演の夫役は,最近,監督として進境が著しいベン・アフレック。ただし,本作は出演者に徹していて,監督は鬼才デヴィッド・フィンチャーが担当している。凡庸な夫役に彼を,セレブの妻役にボンド・ガールの英国人女優ロザムンド・パイクを配したのが,最大の成功要因だ。美しく,したたかな悪女ぶりに圧倒される。後半は裁判劇になるのかと思ったら,予想もしないクライム・スリラーへと物語が展開して行く。マスコミの過熱報道を揶揄するユーモアも愉快だ。原作者のギリアン・フリン自身に脚本を依頼したのが,もう一つの成功要因だと思う。
 『おやすみなさいを言いたくて』:今月は国際色豊かだ。本作はノルウェー映画で,監督も脚本家も撮影スタッフもノルウェー人である。主人公は,アイルランド在住で戦地に赴く女性報道カメラマンという設定で,セリフは英語だ。主演のレベッカ役は,フランス人女優で『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でオスカーを得たジュリエット・ビノシュ。取材先として,アフガニスタンの首都カブールやケニアの難民キャンプの様子が生々しく登場する。内容はフィクションだが,戦地での撮影風景,国際情勢の模様はドキュメンタリー・タッチだ。いや,それ以上に説得力のある映像だ。一流の報道写真家としての使命感と母としての「家庭の絆」の狭間で葛藤するレベッカの苦悩を見事に描いている。てっきり,この繊細さは女性監督による演出かと思ったら,監督のエーリク・ポッペは男性で,報道カメラマン出身だった。まさに実体験によるリアリティだ。
 『毛皮のヴィーナス』:『戦場のピアニスト』(02)の名匠ロマン・ポランスキー監督の最新作だ。前作『おとなのけんか』(11)と同様,見事なワンシチュエーション・ドラマで,丁々発止の会話を楽しむ作品であるが,登場人物は4人から2人に絞られている。オーディションを受けに来た女優と演出家が,舞台上で二人芝居を演じるが,元々戯曲だったものを実写映画化した作品だ。絶妙の語り口の逸品だが,余り予備知識を持たずに観た方がより楽しめるので,気になる読者は,以下は観賞後に読んで頂きたい。遅刻して来た野卑で下品な女優が,見事な演技を見せ,演出家が次第に彼女の虜になる様に(男性観客なら特に)感情移入できる。やがて,台本に書かれた主人公は,実は演出家自身なのだと気付く。そして,演出家役の主演男優マチュー・アマルリックは監督と容貌が似ていて,妖艶な魅力を振り撒く女優が監督夫人のエマニュエル・セニエだと知って,思わずニヤリとする。そうか,この演出家は監督自身で,かくして家庭内でSM関係になったのかと……。
 
   
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