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O plus E誌 2013年2月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』:東京では昨年末公開だが,まだこれから全国順次公開だから,取り上げておこう。ダイアナは,長年ファッション誌「Harper's BAZAAR」「VOGUE」の編集長を務め,20世紀の同業界に君臨した女帝だそうだ。1903年パリ生まれのアメリカ人で,既に1989年に逝去しているが,生前の記録映像,当人の語りと,50人近い関係者の証言で綴られるドキュメンタリーだ。さして美人でもない,嗄れ声の婆さんだが,なるほど世界のセレブに影響を与え,新しいカルチャーを生み出してきた辣腕振りが感じられる。たった86分の作品ながら,数多くの映像と証言に圧倒され,所詮は別世界の話だと,最後は疲れ,記憶も怪しくなってしまった。
 ■『東ベルリンから来た女』:冷戦時代,ベルリンの壁崩壊前の東独の様子を描いた社会派映画で,今尚こんな時代を描く必要があるのかという思いと,映画として記録しておく意義への共感が錯綜する。表題は少し誤解を招きかねない。てっきり壁を越えて西ベルリン,西ドイツへと逃亡した女性か思ってしまった。実際は,東ベルリンの大病院から左遷され,バルト海沿岸の小都市にやって来て,秘密警察の監視下で必死に働く女医の姿を描いている。2人の男性の愛,自由と使命の間で揺れ動く彼女の心を描くのは,いかにも女性監督(クリスティアン・ペッツォルト)らしい描写だ。医師としての真摯な態度を描いた作品に外れはない。見終った後,何か救われた気持ちになる美しい映画だ。
 ■『明日の空の向こうに』:同じく女性監督(ドロタ・ケンジェジャフスカ)の脚本・演出による作品だが,こちらはポーランド映画である。時代設定は現代で,ソ連邦崩壊後も貧しさの残るロシアの小さな村が舞台となっている。ポーランドに行けば貧しさから解放されるとの夢をもって,越境を試みる3人の孤児少年たちの旅を描く。『禁じられた遊び』(52)『汚れなき悪戯』(55)『ポネット』(96)等,欧州の名作子供映画の系譜をひくとのことだが,なるほど純粋無垢な主人公のあどけなさ,貧しさ,暗さは共通している。その一方で,鉄道線路を歩くシーンは『スタンド・バイ・ミー』(86)を彷彿とさせるものがあり,ロード・ムービーとしての見せ場も十分だ。それでいて,上記『東ベルリン…』ほどの爽快感がないのは,やるせない結末のせいだろうか。
 ■『みなさん、さようなら』:味のあるヒューマン・ドラマが得意な中村義洋監督が,常連の濱田岳を主演に据えての新作だ。小学校6年生からの17年間,団地から一歩も出ずに生活する青年の青春物語だが,今回は定番の仙台市内という訳ではなく,団地の場所は特定されていない。あちこちで笑いを誘う作り,ほのぼのした味付けは,濱田岳の個性を活かした演出で,ほぼ予想通りの出来映えだ。終盤のアクション・シーンは少し意外だったが,母の愛で締めてメデタシメデタシである。前作『ポテチ』(12)よりは数段良いが,もう1ランク上を期待して,評点は平凡にした。日本の高度成長を支えた古い昔の団地の姿が懐かしい。
 ■『塀の中のジュリアス・シーザー』(評点なし):ベルリン映画祭の金熊賞受賞作にして,今年のアカデミー賞外国語映画部門ノミネート作品と聞くと,ついつい構えてしまう。ただし,この映画は構えた上に,予習してから観た方が良い。監督・脚本は,映画祭常連の巨匠パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟で,たった76分の作品だが,只者ではない。刑務所内で囚人たちがシェイクスピア劇の「ジュリアス・シーザー」を演じる様子を,本当の刑務所で本当に服役中の囚人たちを使って撮っている。劇中劇はモノクロで,その練習風景や日常生活はカラーでと使い分けているが,どこまでこの映画のための演技で,どれが自然の出来事なのか区別がつかない。恐ろしいほど異色の企画で,力強い映画だが,さりとて面白い訳ではない。筆者には,この映画を評価する自信がない。それゆえ,かつて一度だけ使った「評点なし」の禁じ手を使って,逃げを打つ。
 ■『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』:洒脱かつ人生の機微を感じさせる佳作だ。快適な老後生活を送るため,英国からインドに移住して来た初老の男女7人が,異文化の中での想定外の生活に戸惑い,前向きに生きて行こうとする様を描く。いわゆるグランドホテル形式の群像ドラマに,弘兼憲史の「黄昏流星群」(ビッグコミックオリジナル誌連載)のテイストを振りかけた感じである。対比的に登場する若いインド人カップルのラブロマンスもいい。監督は,『恋におちたシェイクスピア』(98)のジョン・マッデン。ベテラン俳優陣の中でも,ジュディ・デンチとビル・ナイを中心に据えたキャスティングが正解だ。既に続編の製作が決まっているという。そうか,007シリーズのM役が終わったから,スケジュール調整も楽な訳だ。何作か作って,チャーミングなシルバー生活の模様を描いて欲しいものだ。
 ■『アウトロー』:原題は『Jack Reacher』。英国人作家リー・チャイルドのハードボイルド小説シリーズの主人公の名前である。元陸軍秘密捜査官で,孤高の男をトム・クルーズが演じ,無差別殺人事件を解決するアクション大作だ。完全無敵で,破壊的な戦闘能力をもった男とはいえ,航空機や高層ビルから飛び降りたり,荒唐無稽な新兵器が登場する訳ではなく,生身の格闘や普通の銃で戦うのがいい。監督・脚本はクリストファー・マッカリー。ヒロインは,弁護士役のボンド・ガールのロザムンド・パイクだが,知的で魅力的だ。後半登場する助演のロバート・デュヴァルの使い方も上手い。娯楽作品としての緊迫度,完成度は高いが,唯一の欠点は邦題だろう。当然『ミッション:インポッシブル』と並ぶシリーズに育てるのだろうが,『アウトロー2』『アウトロー3』では,どうにも様にならない。
 ■『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』:「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した蛭田亜紗子の小説の実写映画化とのことだ。ならば当然,女性監督かと思いきや,あの竹中直人の監督第7作目である。自縛マニアのOLが主人公で,この監督なら,さぞかし奇妙な話だろうと想像したが,全く予想通りだった。文学賞を受賞するからには,同世代だけでなく,上の世代の女性の共感も得られるような題材なのだろう。あるいは,ネット世代なら男性も感情移入できるのだろうか? と思いつつ,我慢して最後まで観ていたが,やっぱり何一つ共感できなかった。勿論,女装緊縛マニアの中年男の心理状態など,筆者には全く理解できない。
 ■『きいろいゾウ』:観客の年齢・性別・映画ファン歴によって,好き嫌いが分かれる映画だろう。いかにも現代の若者,特に女性上位のカップルが好みそうなテーマだ。女性監督ではなかったが,作家・西加奈子のロングセラー小説の映画化作品だそうだ。古い農家に住む売れない小説家と天真爛漫な妻が,互いに「ツマ」「ムコ」と呼び合う設定も奇妙なら,その現実離れした会話にも,熟年観客はついて行けない。こんなイケメンで,優しく,知的な職業の男性を理想像としているなら,そんな該当者はいないぞ,婚期は遅れるぞとの苦言も出て来る(毎度のオヤジ発言だが)。救いは,初共演の向井理と宮崎あおいが,共にしっかりした演技を見せてくれたことだろうか。柄本明,リリー・フランキー等の助演陣はもっといい味を出している。
 ■『ムーンライズ・キングダム』:個性派ウェス・アンダーソン監督の練りに練った脚本は,何が面白いのか,全く解せない時がある。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)は○,『ライフ・アクアティック』(05)は×,『ダージリン急行』(07)は○,『ファンタスティックMr.FOX』(09)は×だったので,そろそろ当たりかと思ったが,予想以上の◎だった。時代は1960年代,ある島でのボーイスカウト活動をバックに,少年少女の恋の逃避行と彼らを追う大人たちの様子をコメディ・タッチで描いている。例によって,5分先が読めない展開で観客を翻弄するが,本作はそのテンポが快調だ。この監督なら,ビル・マーレイ,フランシス・マクドーマンドらの起用は妥当だが,ブルース・ウィリス,エドワード・ノートン,ティルダ・スウィントンの顔ぶれは,単館系作品とは思えぬ豪華さだ。とりわけ,島の警官役のB・ウィリスが渋い。最近,出演作が目白押しだが,本作の翌週に出世シリーズ『ダイ・ハード/ラスト・デイ』も公開となる。比べて観るのも楽しみだ。
 ■『奪命金』:マネーゲームに翻弄される人々,3人の男女の運命が交錯する物語で,それを時間軸を巧みに交差させて語るストーリー展開,終盤は手に汗握るサスペンスとのことだが,誇大広告ではない。これがハリウッド映画なら,当代の人気俳優と多彩な助演俳優を配して,緊迫感溢れるビジネスストーリーか,金銭強奪のサスペンス大作にしたことだろう。あるいは,フランス製のフィルム・ノワールなら,カットバックを多用し,クールなセリフで,ジャズ系の音楽が静かに流れる小粋な描写を想像する。ところが,本作のような香港映画となると,様相は全く異なり,猥雑な町と気さくな庶民が登場する映画になってしまう。中国語の響きは何やら滑稽で,緊張感さえ薄めてしまう。時代設定は,ギリシャの債務問題に端を発する欧州通貨危機の頃なのだが,何やら我が国のバブル期の市井の様子を思い出す。中盤まではそうした印象だったのだが,終盤の物語展開は一気に緊迫感を増す。なるほど,ジョニー・トー監督は香港ノワールの名手と言われるだけのことはある。
 ■『ジャッジ・ドレッド』:英国製人気コミックの映画化作品だが,核戦争後の荒廃した米国の大都市メガワン・シティが舞台である。既に1995年にシルベスター・スタローン主演でハリウッド作品として映画化されている。このリメイク作は,英・南アの共同製作で,撮影も南アで行われている。凶悪犯罪が頻発する都市で,裁判官兼刑執行人の権限を与えられたジャッジのドレッドが,200階建ての高層ビルに乗り込み,75,000人もの敵と戦う。話は単純で,ひねりも何もないが,テンポが良く,爽快だ。見どころは2つある。新人女性ジャッジ役のオリヴィア・サールビーは,まるでゲーム・キャラ風の美形で,男性ゲーマーを魅了することだろう。CGで描いたメガワン・シティのビル群の描写は上質で,上空からのショットを多用していた。試写は2Dだったが,3D上映での効果大と想像できた。
 ■『王になった男』:表題からはショーン・コネリー主演の『王になろうとした男』(75)を思い出すが,物語は全く関係なく,こちらは17世紀の朝鮮王朝・第15代王(光海)を描いた歴史大作である。絢爛豪華な宮廷内の様子,宦官制度からは,朝鮮王朝が中国文化の影響を大きく受けていたことが分かる。監督のチュ・チャンミンにとって初の時代劇というが,素晴らしい脚本・撮影・編集だ。韓国で大ヒットしたというのも頷ける。王とその影武者を,主演男優が一人二役で演じるスタイルは定番だが,イ・ビョンホンはその両方を見事に演じ分けている。前作『悪魔を見た』(11年3月号)の刑事役も良かったが,本作も好演で,もはや単なるイケメン男優ではない。今月号は☆☆☆が多いが,これだけの意欲作ならば仕方がない。
 
   
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