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O plus E誌 2011年12月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『指輪をはめたい』:芥川賞作家・伊藤たかみの同名小説の映画化作品で,監督・脚本は『檸檬のころ』(07)の岩田ユキ。主演の山田孝之は,演技力は一級品と思いながらも,これまで何本観ても好きになれなかった。本作を素直に観られたのは,製薬会社の営業マンという役柄上,すっきりとした髪形で,いつもの汚らしい長髪や髭面でなかったからだろう。スケートリンクで転んで頭部を強打し,婚約指輪を渡す相手が分からなくなる主人公は,3人の魅力的な美女にモテまくる羨ましい役柄だ。きっと何かの間違いで,後半どんでん返しが待っているなと予想できるが,展開は観てのお楽しみにしておこう。後半の脚本が少し弱いと感じるが,この監督のコメディセンスとビジュアルセンスは買える。薬品会社の薄汚いオフィスや従業員の描写などは絶品だ。
 ■『ラブ・アゲイン』:25年も連れ添った愛妻(ジュリアン・ムーア)が不倫に走り,突然離婚をもちかけられた中年男を,荒井注似のスティーヴ・カレルが演じる。いかにもアメリカ流のラブ・コメディだが,表題からして,最後は元の鞘に収まる展開だろうし,お決まりの父と息子の絆や家族第一主義の連呼だろうと予想できた。Rotten Tomatoesの評価は上々で,配給会社の担当者もこの秋のイチオシだと言うので,少なからず期待した。ただし,やはりジョークはさほど笑えないし,日本人には合わないかなと思いつつ観ていたが,残り30分余でホロ苦い見せ場がある。次にサプライズがあり,ここからは俄然物語が引き締まる。終わり良ければ,すべて良し。映画のツボを心得た,巧みな脚本だ。
 ■『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』:音楽ものにも定評あるマーティン・スコセッシ監督による良質のドキュメンタリーだ。8月号の『ジョン・レノン,ニューヨーク』に続いて,こんな貴重な未公開映像がどっさり観られるなんて,往年のビートルズ・ファンにとっては嬉しい限りだ。ましてや,あまり脚光を浴びることがなかったジョージに関して,こんな立派な映画が作られるとは,感激ものである。ただし,全編3時間半は立派過ぎて,少し疲れる。幼年期の映像から始まり,「While My Guitar Gently Weeps」誕生までを描くPart 1が95分。ビートルズの貴重な映像を堪能しながら,これはあっという間だった。その後の人生を描くPart 2の115分が長過ぎる。オリヴィア未亡人の企画・依頼により製作された作品だから仕方がないとはいえ,やはり精神世界に走る人生後半は少々退屈だ。ポール,リンゴは勿論,ジョージ・マーティン,エリック・クラプトン,フィル・スペクター,テリー・ギリアムら,多数の友人たちの貴重なインタビューが,ジョージ作の名曲に花を添える。改めて,ビートルズとは,2人の類い稀なるシンガー・ソングライターが,名演奏者2人を得て輝いた素晴らしい演奏チームだったと感じた。巷間,ジョージを,ジョンとポールの陰に隠れて,才能を発露できなかった遅咲きの天才のように語る向きがあるが,本当にそうか? 音楽的には,ジョンを父とし,ポールを母として育ち,耳が肥えたゆえの才能開花ではないか。その証拠に,「Give Me Love」はジョンの,「Long, Long, Long」はポールの作品だと言われても,そのまま通用する気がした。
 ■『50/50 フィフティ・フィフティ』:どんな種類の映画かと気になるこの表題は,癌に冒され,5年生存率が50%という意味だった。突然悪性腫瘍だと診断され,お先真っ暗になる27歳主人公を『 (500)日のサマー』(09)のジョセフ・ゴードン=レヴィットが好演する。難病もので,人間関係を見つめ直すヒューマンドラマだが,お涙頂戴の暗さはなく,むしろ下品な悪友(セス・ローゲン)とのやり取りは全くのコメディタッチだ。主人公が恋する新米セラピストのお相手役は,アナ・ケンドリック。『マイレージ,マイライフ』(09)でジョージ・クルーニーと一緒に出張していた若い小柄な女性で,さほど美人ではないが,男心をくすぐる。主人公がラジオ番組制作者役だけあって,挿入曲はハイセンスだった。
 ■『ピザボーイ 史上最凶のご注文』:上記作品と立て続けに観たが,気弱そうな主人公とその親友が織りなすコメディという点ではそっくりなのだが,本作の方がギャクの度合いは数段上だった。こちらの主人公は,『ソーシャル・ネットワーク』(11)の主演が記憶に新しいジェシー・アイゼンバーグ。彼を『ゾンビランド』(10年8月号)でも起用したルーベン・フライシャー監督が本作でもメガホンをとる。しがないピザ屋の店員が罠に落ち,銀行強盗を強要される破目になるという設定だが,少々おふざけが過ぎると感じた。いくらギャグ映画とはいえ,父親殺しを画策,殺し屋を雇うために銀行強盗を計画,という設定は酷過ぎる。ゾンビを倒しまくるのとは訳が違う。大仰なカーチェイスや火炎放射器が撒き散らす炎の威力を観ても,何か空虚さが残った。
 ■『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』:49歳で電車運転手を志した男,島根県出雲地方の一畑電車を描いた前作から,シリーズ2作目は,富山地方鉄道で1か月後に定年を迎える運転士が主人公である。鉄道ファンを楽しませる描写と熟年夫婦の心の危機を描くバランスが絶妙だ。役柄と実年齢が近い三浦友和と余貴美子の起用も,助演陣の個性を活かした脚本も冴えている。これが監督第1作となる蔵方政俊の演出も巧みだが,阿部秀司プロデューサーの企画そのものが秀逸だ。本シリーズを松竹作品とし,背伸びし過ぎないドラマに仕立てた腕に感心する。様々な鉄道マンを描きながら,今後も全国のローカル鉄道を巡り,心暖まる人間模様を描いてくれることだろう。応援したい。
 ■『灼熱の魂』:まさに衝撃の事実とは,このことだ。カナダ・フランス合作で,フランス語で語られ,アカデミー賞外国語映画賞のノミネート作品である。母親の謎めいた遺言状で父と兄を探すことを託された双子の姉弟が,母のルーツと秘密を探り当てる展開だ。レバノンと思しき中東の一国の内戦が物語の底流となり,憎しみと愛が織りなす壮絶な物語である。母と娘が似ている上に,過去と現代を往復するので最初少し混乱するが,最後に待っていたのは,まさに驚きの真実だった。元はレバノン出身の作家による戯曲らしいが,ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画化は巧みで,映像も美しい。
 ■『サラの鍵』:前半はこの映画を観に来たことを後悔した。8月号の『黄色い星の子供たち』と同じヴェルディヴ事件を扱っている。フランス人の贖罪意識は分かるが,この悲惨な事実を2度も観るのはつらかった。1942年と2009年が交互に登場する以外は,ユダヤ人一斉検挙,屋内競輪場,臨時収容所,脱走,まではほぼ同じだった。アメリカ人記者ジュリアが1人の少女のその後の人生を追う後半は全く別の展開となる。サラを匿った老夫婦の想い,ジュリアに過去の出来事を告げる義父,父から母の最期を知らされるウィリアム……。どのシーンを思い出しても胸を打たれる。名優クリスティン・スコット・トーマスのフランス語が流暢なのに驚いたが,少女時代のサラを演じたメリュジーヌ・マヤンスも将来名女優になるだろうと確信した。
 
   
   
   
  (上記のうち,『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』はO plus E誌には非掲載です)  
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