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O plus E誌 2010年4月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『花のあと』 :爽やかな映画だ。原作は,お馴染み東北の小藩「海坂藩」の下級武士を描いた藤沢周平の短編小説。『蝉しぐれ』(05)『山桜』(08)等と同様のゆったりとした味わい深い作品を想像して,その期待に違わない。本作の主人公は剣の達人の女性で,一度だけ竹刀を交えて,秘かに想いを寄せた武士の自害を知り,彼の敵討ちを果たそうとする……。「凛とした」という形容がぴったりくるヒロインを北川景子が演じ,初めての殺陣も器用にこなしている。茫洋とした許婚者を演じる甲本雅裕が良い味を出し,市川亀治郎,國村隼といった助演陣のキャスティングもはまっている。
 ■『TEKKEN 鉄拳』:メガヒット格闘ゲーム「鉄拳」の実写映画化作品。日系人も多少登場するが,米国人監督が米国人俳優を使って撮った日本資本のハリウッド作品である。勿論,日本のゲーマーが主ターゲットのはずだ。通常この手の映画はパスするのだが,結構良い評判が聞こえてきたので,ダメモトと思って試写会に臨んだ。やっぱり,開映後20分で後悔した。いかにもいかにもの作りで,ゲームの世界そのものだ。ここまで一般映画ファンの目を無視して徹底できるというのも立派である。終了後,若い観客が「そのままだな」とつぶやいていたから,特定顧客の満足度は高いのだろう。
 ■『シェルター』 :解離性同一性障害(多重人格)者が引き起こす事件を扱ったサイコスリラー。途中から『エクソシスト』風のオカルトホラーの様相も登場し,結構怖い。題材も,怖がらせ方も,結末も,それぞれは特段新しくもないが,全体のまとめ方が上手い。ホラーファンの期待水準を十分クリアしている仕上げだ。成功要因は,主人公の精神分析医にジュリアン・ムーアをキャスティングしたことだろう。『フォーガットン』(05年6月号)『ブラインドネス』(08年12月号)もよく似た役柄だったが,彼女が出て来るだけで何やら不気味だ。この種の映画は,定番の方が楽しめる。
 ■『半分の月がのぼる空』:橋本紡作の人気ライトノベルの映画化作品。先天性心臓疾患をもつ美少女と病院内で出会った純朴な少年との純愛物語だ。あまりにストレートで,捻りのないラブストーリーを呆気にとられて観ていた。演技は拙いが,ヒロインの忽那汐里の美少女ぶりだけが救いだった。ところが,ラスト30分,観客の99%が想像していた結末と全く異なる物語が待っていた。いやぁ,騙された。『今度は愛妻家』も意外だったが,こちらも見事な伏線の張り方だった。期待したシーンを最後までとっておく焦らしも上手い。会場は感動の涙,涙,涙……。その後がいけない。エンドロールに流れる能天気な歌は何だ! いっぺんに興醒めだ。
 ■『誘拐ラプソディー』:借金苦の冴えない主人公が,金持ちだと思って誘拐した子供の父親は,何とヤクザの組長だった。という笑えない設定で始まる逃避行の主役は,『特命係長 只野仁』シリーズの高橋克典。美女のヒロインも登場せず,助演陣も特筆に値しない低予算映画で,誘拐犯と子供の間に芽生える友情劇もありきたりだ。別段映画館で観るほどの映画でもないと,期待せずに見始めると,これが結構楽しいロードムービーに仕上がっていた。天真爛漫で純朴な少年の演技とヤクザの幹部たちの描写が,なかなかのものだった。
 ■『獄(ひとや)に咲く花』:直木賞作家・古川薫作「野山獄相聞抄」の映画化作品で,長州藩・吉田松陰の獄中での生活と淡い恋愛を描いている。最近の幕末ブームに乗じての企画だろう。維新の志士たちの精神的支柱となった人物であるが,あまり主役級で描かれることがないので,興味深く観た。なるほど,スケールの大きな魅力的人物に描かれている。不覚にも「獄」を「ひとや」と読むとは知らなかった。この訓読みの題名に相応しく,女囚の久との楚々としたラブストーリーが甘酸っぱい。ヒロインの存在感が大きいなと感じたが,近衛はなの初主演作品で,松陰=寅次郎(前田倫良)の方が添え物だった。牢役人を演じる目黒祐樹が時代劇らしい風格ある演技で脇を固めているが,よく考えたら実の父親だった。保護者同伴の初主演作という訳か。
 ■『月に囚われた男』:嬉しくなるような本格的SF映画の登場である。エネルギー源ヘリウム3を採掘して地球に送るため,月の裏側でたった1人で働く男の物語だ。主演のサム・ロックウェルが,全編をほぼ1人で演じている。インディー作品で,製作費はたったの500万ドル,撮影日数33日の低予算だという。そう聞いていたため,この短評欄に10数行の枠を残し,締切前日に試写を観て最後に書こうとしたのが間違いだった。本来ならメイン欄の1つで取り上げるべき作品だったのに,もはや手遅れだ。月面の模様,基地内部,掘削車,月面移動車,宇宙服など,まるでアポロ計画時代のレトロなデザインで描かれている。Cinesite担当のCG/VFXが,この低予算に収まったというのも驚きだ。  
 ■『17歳の肖像』:さすが今年のオスカー候補作品だけのことはある。キュートでチャーミングな映画だ。まもなく17歳という女子高生が主人公で,ワクワクするような導入部,映画でしかあり得ないような出来事が続き,誰もが心配した通りの展開へ……。これをどう締めくくるのかが見どころだが,原題の『An Education』の意味をしっかりと理解させてくれる。日々の勉学の意義を理解しない不埒な高校生や大学生には,百万言の説教より,この映画1本観せる方が良い。ヒロイン(キャリー・マリガン)は『アメリ』のオドレイ・トトゥに似ているが,相手役の男性(ピーター・サースガード)は表情も言動も「三浦和義」そっくりだ。  
 
   
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