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O plus E誌 2011年1月号掲載
 
 
 
 
『ソーシャル・ネットワーク』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
 
     

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [1月15日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2010年10月29日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  猛スピードで展開するスマートな新感覚作品  
   何としても取り上げたかった作品だ。完成披露試写を見終った直後にそう感じたのだが,いざ書き出すとなると,どう紹介し,何を論じるべきかに,迷う映画でもある。学生たちが創業したIT企業が巨万の富を築く過程を描いているが,単なるサクセス・ストーリーではない。野心ある若者たちの言動や生活が克明に描かれているが,楽しい青春群像ドラマではない。ビジネス上の成功を巡って,反目や裏切りが相次ぐが,内部告発調の社会派ドラマではない。民事裁判のシーンが大きなウエイトを占めるが,検察と弁護側がやり合う,いわゆる法廷ものでもない。これまでの映画評論の枠にははまらないジャンル不明の作品であり,新しいタッチの映画でもある。何よりも,実話であるこの映画のテーマそのものが,評者にとって最大の関心事であったと言える。
 表題は極めてストレートで,SNS(Social Network Service)と呼ばれるインターネット上の人的交流をサポートするサイトの成り立ちがテーマだ。日本では,mixi,GREE等が有名だが,この映画は世界最大の会員数を誇るFacebookが実名で登場し,その設立時からの様子や,成長過程での様々な出来事が描かれている。当初,ハーバード大学の学生間の交流サイトであったFacebookは,たちまち米国各地の大学を巻き込み,巨大SNSサイトとして一大社会現象を引き起こす。創業者の学生たちや関係者もすべて実名で登場するので,ハリウッド映画ならこの実話をリアリティ高く描いてあるだろうと期待したが,その期待に十二分に応えるだけの作品に仕上がっていた。
 監督は,鬼才デヴィッド・フィンチャー。あまり好きな監督ではなかったが,前作『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(09年2月号)で見直すことになり,本作で一気にお気に入り監督の1人になりそうだ。実話を元にした社会派ドラマとしては『ゾディアック』(07年6月号) に通じるものがあるが,本作の方が遥かに知的で繊細で,その上テンポがいい。
 創業者マーク・ザッカーバーグを演じるのは,『ゾンビランド』(10年8月号)のジェシー・アイゼンバーグ。『トランスフォーマー』(07年8月号) のシャイア・ラブーフも候補に挙がっていたという。彼の方が実在の人物に似ているが,既に顔が売れ過ぎている。朴訥で不器用そうに見えるJ・アイゼンバーグ(写真1)を選んだことで,この物語の人物設定に深みが増したと思う。一方,共同経営者のエドゥアルド・サベリン役のアンドリュー・ガーフィールドは,対照的に切れ者で繊細なインテリ学生に見える。新『スパイダーマン』シリーズの主役に抜擢され,ピーター・パーカーの高校生時代からを演じるというから,楽しみな存在だ。
 
   
 
写真1 右が主人公のマーク・ザッカーバーグ。ハーバートの秀才には見えない。
 
   
   少し雰囲気があったのは冒頭シーンだけで,その後,物凄いスピードで物語が展開する。なるほどドッグ・イヤーと言われるIT業界の進化を描くには,このタッチが必要なのかと納得する。飛び交うセリフの量も尋常ではない。日本語字幕担当者はさぞかし苦労したことだろう。字幕翻訳のギャラは,映画の上映時間だけで決まるというから,最も割に合わない仕事だったはずだ。
 演出もさることながら,脚本が素晴らしい。3つの視点からの主張を描いた上に,時代を行きつ戻りつ,魔法のような物語を描き,少しほろ苦い結末を用意している。これが実話でなかったら,人間関係の顛末はきっと異なったものになっていただろうなとも感じさせる。
 さて,本欄の主題のCG/VFXである。実を言うと,メイン欄に取り上げたかっただけで,VFX的には大作でも何でもない。強いて該当シーンを探せば,チャールズ川で繰り広げられるレガッタのシーンだろうか。ボートを必死に漕ぐ全シーンが,実際に川の上で撮影されたとは思えないから,グリーンバックで撮ってデジタル合成されたのだと思われる。
 主要VFXカットはこれだけだと思ったのだが,もっと重要なハイテク利用があった! アイデアの発端を巡ってマークと対立する双子のウィンクルボス兄弟は,デジタル産物だった(写真2)。スプリット・スクリーンによる合成には見えなかったので,てっきり本物の双子を起用したのかと思ったが,エンドロールを観て,アーミー・ハマーなる俳優が1人で演じていたことを知った。この種の映画にこんな最新のハイテクが使われていたとは予想しなかったのだが,それも浅い考えだった。D・フィンチャー監督は,『ベンジャミン……』でとっくに顔面すり替えの技法を経験済みだったではないか。
 
   
 
 
 
写真2 上:別の俳優(中)がマーカーをつけて撮影
   下:顔面部分だけを差し替えた完成映像
 
   
   企画・脚本が監督の力量を向上させ,新技術が映画の描き方までを変える典型例だろう。次回作は,本欄が☆☆☆をつけた『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(10年2月号)のハリウッド・リメイクだという。大いに楽しみで,完成・公開が待ち遠しい。      
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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