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O plus E 2019年Webページ専用記事#2
 
 
名探偵ピカチュウ』
(ワーナー・ブラザース映画 /東宝配給 )
      (C) 2019 Legendary and Warner Bros. Entertainment, Inc.
(C) 2019 Pokemon.

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月3日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年5月6日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ポケットであっても,これもモンスター映画?  
  言うまでもなく,任天堂が世界に誇る人気ゲームキャラの「ポケットモンスター(ポケモン)」に関する新作映画だ。これがハリウッド進出の第1作,初の実写映画だという。数百種類もの可愛いモンスターがいることくらいは知っていたが,名前は「ピカチュウ」と「ミュウツー」くらいしか知らなかった。見かけたことのあるキャラが「イーブイ」「コダック」ということも,今回初めて知った。職業柄,スマホ用のARアプリ「ポケモンGO」は機能確認のため,試しに何度かプレイしたことはあるが,せっせとモンスターを集める気にはなれなかった。
 自分の子供に付き合って,お子様番組もそこそこ観て来たはずなのに,なぜそこまで知らないかと言えば,ゲームボーイ用ソフトとしてポケモン・シリーズが登場したのは1996年のことで,既に筆者の子供たちは社会人か大学生だったからだ。さすがに低年齢層対象のポケモンは,家庭内で全く話題にも上らなかった。今は孫のために,せっせと『きかんしゃトーマス』シリーズを録画して一緒に観ているので,大抵の機関車名を知っている(笑)。
 ゲームソフトから始まり,漫画,TVアニメに加えて,毎年夏に『劇場版ポケットモンスター』シリーズが公開されていることは知っているが,勿論,『映画ドラえもん』『名探偵コナン』『映画クレヨンしんちゃん』等と同様,いくらヒットしても当欄で取り上げるつもりはない。その基準からすれば,当然パスするジャンルのはずだったのだが,何とVFX専門誌Cinefexが6月号で取り上げるというではないか。季刊から隔月刊に増えたとはいえ,各号4本しか掲載しないCinefex誌の対象となるとは,CG/VFXのレベルはかなり高いはずだ。となると,当欄として無視する訳に行かず,10連休の最終日にシネコンに出向き,そのCG/VFXを評価することにした。
 日本ではアニメ版の配給権をもつ東宝の配給だが,製作会社はレジャンダリー・ピクチャーズで,米国を含む国際的な配給ルートは長年のパートナー,ワーナー・ブラザースである。即ち,『GODZILLA ゴジラ』(14年8月号)『キングコング:髑髏島の巨神』(17年4月号)等,同社が新機軸として打ち出している怪獣映画の「モンスターバース」シリーズと同じ構図なのである。今月末に公開予定の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は同シリーズの3作目に当たる。本作は同シリーズとしては扱われていないが,「ポケット」であっても「モンスター」である以上,同じマインドで製作されているとも言える。であれば,CG/VFXのレベルが高く,観客年齢層を通常のポケモン世界よりも上に設定していても全く不思議はない。
 予告編を見る限り,やはりお子様映画に思えたのだが,1つ驚いたことがある。何と,ポケモン1の人気キャラ「ピカチュウ」が言葉を話しているではないか! ポケモンたちは,奇声は発しても,人間の言葉など話さないはずではなかったのか!? それも女優を起用して少年っぽい声を出させているのではなく,どう聞いても中年男性の声だ。まさか『テッド』(13年2月号)に対抗したオヤジ・キャラで,下ネタ満載の映画にする気じゃないだろうが…。
 声の出演は『デッドプール』シリーズのライアン・レイノルズ,日本語吹替は西島秀俊だというから,完全に主役級の中年男優である。主人公の青年ティムだけにピカチュウの声が聴こえ,他の人間には「ピカピカ」という,いつもの声しか聴こえないという設定のようだ。
 この設定は本作が初めてではなく,2016年に発売されたニンテンドー3DS用ゲームソフト「名探偵ピカチュウ 〜新コンビ誕生〜」で採用されていたらしい。さらに,青年ティムが行方不明の父親ハリーを探すのに,パートナーのピカチュウが探偵役を務めるという役目も踏襲しているとのことだ。なるほど,いくらハリウッド進出,初の実写化とはいえ,いきなりポケモンファンが驚くような設定変更ではなく,既にゲームファンが許容していた世界観の中でクオリティアップを図って来た訳だ。探偵もの,バディものという位置づけも,ハリウッド映画には受け容れられやすい企画である。

 
 
  初のハリウッド進出作,それに見合うだけのCG/VFX  
  さて,映画本編である。まず最も印象的だったのは,ピカチュウの体毛がフサフサしていたことだ。元々ゲーム用だから,ポケモン・キャラはいずれも3D-CGでデザインされ,モデリングされているが,ピカチュウには体毛はなかったはずだ。すっきりした無地の皮膚で,グッズ販売では光沢感のあるものすらある(写真1)。頭部はさほどではなく,胴体部での体毛にモフモフ感がある(写真2)。このデザインは秀逸だ。ピカチュウの可愛さはキープしていて全く違和感はなく,その上でメジャー系の実写映画ならではの高級感まで醸し出している。ピカチュウほどではないが,コダックの皮膚にも体毛がある(写真3)。「イーブイ」「ヤンチャ厶」はやや多く,いずれも縫いぐるみ市場で人気を博すことだろう。


 
 
 
 
写真1 普通のアニメ版ピカチュウ(左)と光沢のあるグッズ(右)
 
 
 
 
 
写真2 探偵帽をかぶり,モフモフ感のある本作のピカチュウ 
 
 
 
 
 
写真3 剽軽者のコダック。縫いぐるみ市場で人気しそうだ。 
 
 
  本作の監督・(共同)脚本は,ロブ・レターマン。フルCGアニメの『シャーク・テイル』(05年3月号) 『モンスターVSエイリアン』(09年7月号),実写映画のVFX多用作 の『ガリバー旅行記』(11年5月号)等の監督経験がある。CG/VFXの使い方は完全に理解していると考えてよい。
 青年ティム役はジャスティス・スミス,ヒロインの新米記者ルーシー役にはキャスリン・ニュートンが起用されている。C・ニュートンは普通の美形の白人若手女優だが,J・スミスはイタリア系と黒人のハーフである。およそイケメンとは言い難いルックスで(写真4),元のゲームソフトのティムのイメージとも全く違う(写真5)。何でこんな2流の脇役男優を使うのだろう? 意図的に黒人やヒスパニック系を起用することが免罪符と思っているのか,あるいは営業戦術なのか,ハリウッド映画のいやらしさを感じてしまう。

 
 
 
 
 
写真4 ティム役のジャスティス・スミス。イケメンとはほど遠い。 
 
 
 
 
 
写真5 ゲームソフトでの登場キャラたち。赤いジャケット姿がティム。
 
 
  助演陣では,ハワード・クリフォード役のビル・ナイが相変わらず存在感のある演技だった。我らが渡辺謙がヒデ・ヨシダ警部補役で登場する(写真6)。字幕版では英語で話しているが,日本語吹替版では勿論本人が吹替えている。
 
 
 
 
 
写真6 渡辺謙演じるヨシダ警部補のパートナーは強面のブルー 
 
 
  自動車事故のシーンから始まり,ティムは行方不明だった父ハリーが事故死したとの知らせを受ける。探偵だった父の事務所で,子供時代に熱心なポケモン・トレーナーだったティムの前に現れたのがピカチュウで,記憶喪失しているが,かつてハリーのパートナーであったらしい。自分が生きている以上,ハリーも生きているはずだと言う……。それ以上の物語は述べないが,ライアン・レイノルズが素顔で登場するシーンがあるとだけ言っておこう。
 お馴染みの(と思われる)ポケモンたちが続々と登場するので,お子様映画に思われがちだが,謎解き,終盤のアクションシーンは本格的で,大人の観賞に堪えるレベルだった。予告編とは随分印象が違う。観たのはGW最終日の昼間だったが,シネコンのシアター内は高校生か大学生の男女ばかりだった。子供いないし,筆者以外に中高年の観客も見かけなかった。彼らはポケモンで育った世代なのか,それともゲームソフト「名探偵ピカチュウ」のゲーマーなのだろうか?
 日本から1週間遅れで公開された欧米での観客層は,老若男女広い世代に渡っているらしい。ネット上の書き込みを見ると,「ポケモンGO」以降のトレーナーたちも少なくないようだ。
 以下,当欄の視点でのCG/VFXに関するコメントである。
 ■ 元々「洋ゲー」と言われる海外のゲームソフトは,日本製よりもCGに高画質を求める傾向がある。加えて,ハリウッドのメジャー系の実写映画化するとなると,各ポケモンのデザインを崩さない範囲で,CGレベルを上げてくることが当然予想された。前述のピカチュウ,コダック以外では,「ベロリンガ」の長い舌の質感が抜群だった(写真7)。ポケモン図鑑には「ながいしたは ねばねばしただえきでべっとり。どんなものでもくっついて とてもべんり」とある。この記述に従い,可愛さは捨てて,気味の悪さに徹したのだろう。翼竜の「リザードン」は,少し滑稽な顔立ちは残しながらも,皮膚表面や口から吐く火炎のリアルさは,他の怪獣映画に負けないクオリティに仕上げている(写真8)。一方,凶暴な人工ポケモンの「ミュウツー」は,物語では重要な役割を担っているが,さほど質感を上げていない(写真9)。この夏にCGアニメ『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』が公開予定なので,あまりイメージを変えたくないという配慮なのだろう。

 
 
 
 
 
写真7 ベロリンガの長い舌は,質感では最高点
 
 
 
 
 
写真8 リザードンも負けじとリアルさをアピール
 
 
 
 
 
写真9 質感よりも,存在感の大きさではミュウツー
 
 
  ■ 単独のポケモン・デザインだけでなく,実写背景中での使われ方,合成のレベルも上質だった,例えば,写真10でのピカチュウは一見何気ないが,複雑なライティング環境の中で,体毛部の陰影や床に落とした影は微妙に調整して描写されている。静止画でなく,動画だとこれがよく分かる。森に住むポケモンの「フシギダネ」が列をなして川を渡るシーンは,水面や木々の景観と絶妙に調和し,まさに逸品である(写真11)
 
 
 
 
 
写真10 複雑なライティング環境での陰影表現に注目
 
 
 
 
 
写真11 フシギダネの行進シーンは見どころの1つ
 
 
  ■ ポケモンと人間が共存して生活しているライムシティのデザインが目を惹いた。夜のネオン街は,ここは歌舞伎町か渋谷センター街かと思う雰囲気だが(写真12),昼はモダンな近未来都市である。その中で,町行く人々に混じって,ポケモンたちが歩く姿が実に自然だった。画質も歩行パターンも見事に融け合っている。CG/VFXの主担当はFramestoreで,副担当はImage Engine,その他Rodeo FX, ILMなども参加している。プレビズ担当はProofだが,本作ではポストビズも利用されていて,VFXの大手MPCがその作業を担当している。
 
 
 
 
 
写真12 夜のライムシティは,まるでセンター街
 
 
  ■ もう1点,特筆すべきは山間部の地形変化を描いたシーンだ(写真13)。上手く表現できないが,単なる崖崩れといったレベルではなく,山や谷が大きく変形して,地形・地勢があっという間に景観が変わってしまう。『ドクター・ストレンジ』(17年2月号)のように空間が反転して折り畳まれることはないが,『インセプション』(10年8月号)の市街地の激変を大げさにして,これを山間部に適用したと言えば分かるだろうか。このVFXは凄い。CG/VFX全体として評価すれば,当欄のメイン欄では「中の上」に位置するが,これまでに製作されたあらゆる邦画のVFXよりも上である。たかがお子様映画に,ここまでのCG/VFXパワーをかけるとは思わなかった。アクション演出もまたしかりである。この点では,さすがハリウッド・メジャーだ。
 
 
 
 
 
写真13 この山間部の地形がにょきにょきと動く
(C) 2019 Legendary and Warner Bros. Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
(C) 2019 Pokemon.
 
 
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