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O plus E誌 2009年10月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』 :いい映画だが,副題が良くない。主演がハリソン・フォードなら,悪人と対決する正義の捜査官を想像してしまうではないか。H・フォードとアシュレイ・ジャッドだけがやたらいい人で,甘っちょろいヒューマンドラマかと思いきや,結構骨太の社会派ドラマだった。米国LA地区に滞在する不法滞在者たちの人間模様を描いている。メキシコ,南ア,豪州,イラン等々から来た家族のそれぞれの「事情」を語る脚本は,女性たちの描き方が秀逸だった。H・フォードも,1人だけ浮いてしまわないよう,抑えた渋い演技を見せてくれる。それでもやはり,この主人公はもう少し無名の俳優の方が良かった。
 ■『あの日,欲望の大地で』 :これも見応えがある佳作だ。『21グラム』『バベル』等の脚本家ギジェルモ・アリアガの初監督作品で,演技派に転じた美人女優シャーリーズ・セロン,キム・ベイシンガーの共演,その上この邦題とくれば,かなり重厚な人間ドラマだと想像できる。その期待を裏切らない。荒野でトレーラーハウスが炎上するシーンで始まり,その秘密を解き明かすかのように緻密な構成の展開が観客を魅了する。何よりも脚本がいいし,希望を与えてくれるエンディングも上手い。強いて欠点を探せば,C・セロンも彼女の若き日を演じるジェニファー・ローレンスもかなりの好演だが,2人の顔立ちがあまり似ていないのが残念だった。
 ■『ロボゲイシャ』:表題からしていかにもキワモノだ。その予想に違わず,中身もB級,いやC級かD級と言っても失礼にならないタッチの作品だ。何しろ「冴えない芸者が富豪の客に拉致され,殺人芸者マシーンに仕立てられてしまう」というから,キャッチコピー通りに「全世界唖然!」の設定である。冒頭から下品さとあまり馬鹿馬鹿しさに,笑いこけ,涙が出て来る。ずっと最後までこの調子かと思いきや,中盤以降はストーリー性も増し,姉妹愛を描いたドラマと化す。レベルは高くないもののCGやVFXも満載だ。画面一杯に登場する富士山の姿が実に美しく,そこに奇妙な「城ロボット」が登って行く。フジヤマ,ゲイシャ,シロ……,そーか,この映画は徹底して国際市場を目指しているのだ。日本映画の代表作品のつもりなのだ。盛り上げ方も結末のつけ方もハリウッド流映画作りの文法に従っている。何やら「大作映画といっても,この程度のものだろう。ほら,CGだってふんだんに入れて見せたぞ」と嘲笑うかのようだ。パロディもここまで来ればアッパレだ。少し☆の数を増やしておこう。でも,誰が入場料を払ってこの映画を観るのだろう?
 ■『私の中のあなた』:白血病の姉ケイトへのドナーとして遺伝子操作で作られた妹アナという設定も衝撃的ならば,そのアナが両親を相手に臓器提供不同意の訴訟を起こすというのも驚きだ。彼女の行為の裏には驚くべき真相があったというから,映画を観る前からそれが何なのか想像してみたくなる。ミステリーではなく,家族愛や尊厳死を巡るシリアスドラマなのだが,この時点でこの映画は成功している。筆者の場合は,想像した3つの解のうち,3番目が当たっていた。アナを演じる名子役アビゲイル・ブレスリンも,初の母親役に挑んだキャメロン・ディアスも見事な演技を見せてくれる。
 ■『引き出しの中のラブレター』:いいタイトルだ。この題だけで,しんみりと人生を振り返る感動系のドラマだと想像できる。ところが,脚本も演出も雑なため,出演者の半分以上が未熟な演技のように思えてしまう。TV屋が作った邦画のこのかったるいペースに,もっと早く話を進めろよと前半は苛立ちすら覚えた。それでも,クライマックスではしっかり涙腺を刺激し,いい物語だなと感じさせる。終わり良ければすべて良しだから,少しずるい。ラジオ・パーソナリティを演じる常盤貴子の語りがいい。彼女の魅力を最大限に引き出しているが,その恋人役が萩原聖人では釣り合わない。
 ■『クヒオ大佐』:小粋で楽しい映画だ。純粋な日本人なのに,米空軍のパイロットと称して結婚詐欺を働く男の物語だ。実在の人物がモデルだという。主演は,いま売出し中の堺雅人。言葉巧みに女性に言い寄る表情を観ていたら,三浦和義を想い出した。3人の女性(松雪泰子,満島ひかり,中村優子)の描き分けがいい。鼻を高く見せる特殊メイクもよくできている。冒頭に出て来る湾岸戦争時の日本とどう繋がるのかが読めなかったが,物語の締めくくりが鮮やかだった。監督は,CMディレクター出身の吉田大八。この演出はあなどれない。今後もこの監督の作品は注目だ。
 ■『パンドラの匣』:太宰治生誕100年とあって,続々と代表作が映画化されている。新聞小説,書簡形式の文体で発表された原作は,青春小説,学園ものに当たる。学生時代,人並みに太宰をむさぼり読んだ筆者にも,この映画は太宰小説の香りを思い出させてくれる。まさに文芸映画,いい解釈だ。若い世代にこのテイストが通じるのかと訝ったが,34歳の冨永昌敬監督がこの脚本を書けるのだから,いつの時代も太宰は青年期の悩める心の代弁者なのだろう。竹さんを演じる芥川賞作家・川上未映子は,映画初出演とは思えぬ堂々たる演技だ。マア坊役の仲里依紗の金歯が可愛い。
 ■『あなたは私の婿になる』:原題は単に『The Proposal』。この意表をつく邦題には,男なら思わず引いてしまう。就労ビザの維持のため,40歳の辣腕編集長(サンドラ・ブロック)が28歳の男性アシスタント(ライアン・レイノルズ)に偽装結婚を迫るという設定である。ハイセンスなファッション,アラスカの美しい自然をたっぷり見せ,男女間のドタバタ騒動の後,予定調和のハッピーな結末に至る方程式通りのラブ・コメディだ。女性監督による独身女性対象の映画に,そのお手軽さを責めても仕方ない。この映画はこれでいい。ただし,ハイミスのキャリアウーマンが,こんなに都合良く年下のイケメン男と結ばれると思い込んでは困る。これは映画の中だけの話で,現実の婚活は甘くないぞ!
 ■『悪魔のエレベーター』:木下半太の人気小説「悪夢シリーズ」3部作の映画化作品第1弾。急停止したエレベーターに閉じ込められた男女4人が繰り広げるサスペンス・コメディだ。いきなり密室状態で始まり,次第にその背景にある秘密へと展開する構成は,まだまだ一ひねりも二ひねりもあるぞと期待させる。実際その通りで,面白くなくはないが,もっと面白くできたはずだと感じてしまう。内野聖陽,佐津川愛美の演技力を活かし切っていないし,もっと意外性を演出できたはずだ。単に監督(堀部圭亮)の経験不足なのか,エンドロールに流れる曲が余りにプアだったためだろうか。
 ■『エスター』:結構怖く,ひねりも利いていて良くできたサスペンス・ホラーだ。原題は『Orphan』。孤児院にいた9歳の少女エスターを養女にした夫妻に起こる恐怖の出来事を描いている。不思議な少女エスターは愛らしく天使のように見えるかと思えば,次第に悪魔の形相を見せる。そして「正体が暴かれる時,全世界の心臓が,止まる」とのキャッチコピーだが,なるほど驚愕の設定だ。種明かしは何か気になるが,まず誰にも当たるまい。エスターを演じる子役イザベル・ファーマンの演技がスゴイ。とにかくスゴイ。監督はジャウム・コレット=セラで,製作者の中にレオナルド・ディカプリオの名前がある。  
   
  (上記のうち,『ロボゲイシャ』と『エスター』はO plus E誌には非掲載です)  
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