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今年もオスカー祭りの時期になった。例年2月最終日曜日の夜に開催のアカデミー賞授賞式が,昨年はコロナ禍の影響で約2ヶ月遅れの4月25日(日)(日本時間で4月26日の午前中)であった。冬期五輪開催年は1週間遅れが定番だったが,今回の北京五輪の閉会式が2月20日であったため,従来通りの2月27日にやるのかと思ったが,やはりコロナ禍のためか,1ヶ月遅れの3月27日の夜(日本時間3月28日午前中)の開催予定である。ノミネート作品は2月8日に発表されている。 | ||||||||||||||||||||
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●作品賞部門:2009年に一挙に倍増して10本がノミネートされた。その後8〜9本ノミネートが続いていたが,前述のように今年から「10本固定」となった。この予想記事執筆の前に10本全部観ておきたかったのだが,今年後半公開予定の『リコリス・ピザ』だけが未見である。よって,残る9本の中から,世評も含めた総合予想として,素直に『パワー・オブ…』を本命,『ウエスト・サイド…』を対抗とする。(ここでは述べないが)作品賞だけが特殊な評価方式のため,Netflix配信の前者が最終的な過半数を得ることができず,巨匠の『ウエスト・サイド…』の逆転もあり得ると見る。総裁選の決選投票で2位,3位連合が勝利する,あのパターンである。ただし,個人的に一番好きなのは『コーダ あいのうた』なので,同作に☆をつける。さらに比較的最近試写を観た『ベルファスト』もお気に入りの1つとなり,自分がアカデミー会員なら,この映画を作品賞の最上位として投票すると思う。という訳で,今年は異例で4本に印をつけてしまった。 | |||||||||||||||||||
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●長編アニメ賞部門
2011年にこの予想を始めて以降,この部門は10勝1敗で,予想を外したのは2015年の第87回だけだ。例年と同じ基準で素直に選べば,ディズニー&ピクサー組の3本『ラーヤと龍の王国』『あの夏のルカ』『ミラベルと…』の内,完成度の高さから『ミラベルと…』が本命ということになる。 他の2本は未見だったが,『ミッチェル家とマシンの反乱』はこのノミネートで初めて存在を知った。Netflixでとっくに配信済みであることを知り,早速観たところ,これは強力な対抗馬だと感じた。ディズニー系3本で票が割れた場合は,十分に逆転もあり得る。 残る1本の『FLEE フリー』は,国際長編映画賞,長編ドキュメンタリー賞の計3部門にノミネートされている異色作である。本邦で6月公開が決まっているが,まだ試写を観る機会がない。予告編だけ観たところ,アニメの映像品質は高くなく,長編ドキュメンタリー賞の有力候補だろう。 ●視覚効果賞部門 上記部門よりも外している印象だったが,調べてみると,過去11年間の成績は7勝3敗,1不戦敗(日本での未公開作品が受賞)であった。3敗の内の2敗は,甲乙つけ難い2作品を挙げ,強く推した方が外れて結果が逆になっただけだから,的中率はさほど悪くない。 今年は自信をもって,本命◎は『DUNE…』,対抗○は『スパイダーマン…』と予想しておく。使われているCG/VFXの技術レベルや分量は後者の方が上だが,VFXのスケールが大きく,映画のクオリティを上げたという意味では,前者の方が有力だ。このVFXなしでは,壮大な「砂の惑星」は描けなかったと,アカデミー会員なら分かるはずだ。 | |||||||||||||||||||
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以上をまとめると,以下のようになる。
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何しろ,「歴史的快挙」と大騒ぎである。前哨戦の実績からGG賞非英語映画賞受賞は十分予想できたし,そうなるとアカデミー賞でも「国際長編映画賞」ノミネートは確実だと思った。正直言って,作品賞を含む4部門ノミネートまでは予想しなかった。しかし,一昨年,韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』(19年Web専用#6)が6部門ノミネートで4部門受賞であったことを考えれば,マイノリティへの門戸開放を意識しているアカデミー賞なら,これくらいは不思議ではない。よって「歴史的快挙」と言うほど,大袈裟に騒ぐほどのものでもない。 この映画を評価するか,好きかと問われれば,それは別問題だ。熱心な読者なら,筆者がこの映画に平均以下の評価しか与えていないことをご存知だろう。かつての『おくりびと』(08年9月号)は,全く注目されない時点で,試写を観てすぐに評価を与え,筆者の年間ベスト1にした後に「外国語映画賞部門」のオスカーを得たので,面目躍如であった。3年前の『万引き家族』(18年5・6月号)の評点はであったが,「映画賞を総なめにすることが予想される」と書いていたので,カンヌのパルムドールもアカデミー賞ノミネートも,不思議でも何でもなかった。 それに比べて,評価の映画がここまで大躍進したのは予想大外れではないかと問われれば,「それは違う」と反論しておこう。初見での「評点」と世評や実績も考慮した「予想」とは別物である。この映画は長過ぎて,筆者には退屈で,あまり好きになれない映画だった。その思いは今も変わらない。むしろ,苦手なジャンルの映画に属している。さりとて,最低評価を与えた訳ではなく,この監督の力量は低くないと感じていた。本誌上の紹介記事は「海外映画祭狙いとしか思えなかった」と書いて結んでいる。「狙って,いくつも賞を獲っている」のだから,立派なものである。それを見抜いていたのだから,「予想」としても外れではない。ただ,個人的な好みとして,この映画が好きでないだけだ。 | |||||||||||||||||||
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■ 過去で2番目の的中率。その数字以上の満足感。 受賞作品の発表があったのは,日本時間で3月28日の午前9時前からだった。それから約3時間半,自らの予想と見比べつつ,速報結果を食い入るように眺めていた。的中しても配当金がある訳でもない。「ただの余興」と言いつつも,やはり結果は気になるものである。 まずは事前収録されていたビデオが流れるだけの8部門の発表からだった。冒頭の「音響賞」が外れで,幸先が悪かったが,(予想をしていない短編3部門の後の)「作曲賞」以降は絶好調で,ニヤニヤしながら眺めていた。(排他的に印をつけた)◎と★を的中とするなら,オスカー授与される18部門の予想は13勝5敗だった。一昨年,昨年は17部門予想で,的中はそれぞれ9部門,7部門であったから,今年はかなり好成績と言える。的中率だけで言えば,この12年間で2番目のスコアだが,この数字以上に自己満足度が高い結果であった。 すぐにこの稿を書こうかと思ったが,少し冷静になって,外れ部門の敗因分析を書きたいこともあり,1週間寝かせることにした。 既にご存知のように,作品賞受賞作は大方の予想を裏切って『コーダ あいのうた』だった。最も好きな作品と断っていたように,「願望」の☆印だったので,結果は(後述するように)大満足である。僅か3部門ノミネートでの作品賞受賞は珍しいらしいが,「助演男優賞」「脚色賞」でもオスカーを得て,見事な成績である。 最多受賞は,『DUNE/デューン 砂の惑星』の10部門ノミネート,6部門受賞だった。今年の好成績は,この映画の寄与が大きい。「私の選んだ2021年度ベスト5&10」(21年Web専用#6)での総合評価の第1位にした映画だったので,殊更嬉しい。 その一方で,11部門12ノミネートで,作品賞の大本命と言われていた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は「監督賞」の1冠だけに終わった。監督賞受賞作が,それだけで終わるのは珍しいようで,当欄の12年間の中でも初めてのことである。7部門ノミネートの『ベルファスト』『ウエスト・サイド・ストーリー』,6部門ノミネートの『ドリームプラン』,4部門ノミネートの『ドライブ・マイ・カー』も,それぞれ「脚本賞」「助演女優賞」「主演男優賞」「国際長編映画賞」の1冠に留まった。 では,作品賞候補作は必ず何かを受賞したかと言えば,さすがに10作品ノミネート固定となった今年は難しいだろうと思っていたが,『ドント・ルック・アップ』『リコリス・ピザ』『ナイトメア・アリー』の3作が無冠に終わってしまった。 ■ 予想印毎の結果1:敗因分析 (a) ☆が受賞:作品賞,助演男優賞 願望の☆印を定常的につけ始めたのは第91回からで,5〜6部門にこの印を入れていたのだが,この願望が叶ったのは過去3年間で第92回の「編集賞」だけだった。☆が受賞したのは,いずれもお気に入りの『コーダ…』で,作品賞で◎,助演男優賞で★の印をつけた『パワー・オブ…』が外れた訳だが,全く敗北感はない。 特殊な投票方式の作品賞部門ゆえ,『ウエスト・サイド・ストーリー』の逆転もあり得ると予想したのだが,そのポジションを得たのが,爽やかな印象を与え,多数の会員から上位支持を受けたこの映画だったようだ。投票方式を加味した予想も外れたことになるが,願望が叶ったことの方が嬉しい。 第91回の大本命の『ROMA/ローマ』(19年Web専用#1)と同様,またもNetflix作品が作品賞を獲れなかったことになる。アカデミー会員のストリーミング作品蔑視を崩せなかったのかと思ったが,その壁は破られたようだ。というのは,日本国内では『コーダ…』はギャガ配給の劇場公開作品であり,試写室で観たので,ネット配信の印象がなかった。ところが,米国内は劇場では限定公開であり,同日に開始したApple TV+経由の配信が主流だったようだ。 (b) ○が受賞:美術賞 作品賞ノミネート作品は,少なくとも1つはオスカーを獲るという経験則から,『ナイトメア・アリー』を本命◎としたのだが,これは外れてしまった。 部門名は「Award of Production Design」で,これを「美術賞」と呼ぶのは適切でないと思う。所謂「美術セット」では,『ナイトメア…』は間違いなく優れていたが,美術装飾よりも広い概念の「Production Design」となると,斬新な絵作りに様々な手法を駆使した『DUNE…』が文句なしに優れていた。言わば,何を重視するかの解釈の違いである。丁度,一昨年のこの部門で,その解釈の違いで外してしまったので,今回は逆にしたところ,裏目に出た訳である。 (c) 無印が受賞:音響賞,主演男優賞 さて,問題はこの項目だ。この予想印方式にした過去3年間は,5,5,7部門で「無印が受賞」であったから,今年のハズレは抜群に少なかった訳だが,それぞれが曰く付きである。 まず「音響賞」に関しては,大いに反省すべき予想であった。作品賞の候補作の内,リメイク作で楽曲は旧作を継承していた『ウエスト・サイド…』と,同じように既存曲の利用が大半だった『ベルファスト』が「作曲賞」の対象にならないため,その埋め合わせとして「音響賞」が与えられると読んだのだが,これは邪道の予想だった。かつての「録音賞」(Sound Recording)と「音響編集賞」(Sound Editing)が統合された部門であるので,それぞれの専門家を含む550人もの「音響技術者」がアカデミー会員となっている(2022年1月現在)。「音」のプロの彼らにとっては,オリジナルスコアの音楽性と,録音&音響編集技術とは全くの別の対象であるから,「埋め合わせ」などという不埒な考えで,投票行動を起こす訳はない。結果的には,作曲賞も音響賞も『DUNE…』が受賞したから,同作がいずれでも優れていたということになる。 もう1つの 「主演男優賞」は予想欄に書いたように,いくら世評が高くても,ウィル・スミスを支持したくなく,意図的に切り捨てたので,外れるべくして外れた訳だ。よって,全く悔しくなかった。そこに伝わって来たのが,例の壇上での「ビンタ事件」である。この事件には驚いた。当該作品中での独善的で,傲慢かつ強圧的な主人公が嫌だったゆえ,それになり切った演技も好きになれなかったのだが,そのまま壇上でやって見せた訳だ。それじゃ「外して正解だったね。虫の知らせか?」「ほら見たことか,の心境か?」と問われれば,そんなことはない。劇中ではなり切っていたとはいえ,演技は演技であり,俳優の人格とは別物である,と答えるしかない。とはいえ,全世界注目の式典の壇上で,自制心のない暴力行為は恥ずべきことであり,品位を穢した行動に弁護の余地はない。たかが余興の受賞作予想であったが,複雑な心境である。 (d) その他:長編ドキュメンタリー賞 予想しなかったこの部門にも触れておこう。5作品の内,試写を観て,紹介記事を書いたのは1作品だけであったが,その『サマー・オブ・ソウル(あるいは,革命がテレビ放映されなかった時)』(21年7・8月号)が受賞した。伝説の音楽コンサートのライヴ記録で,50年以上も地下室に眠っていた映像に当時の世相や黒人解放運動の模様を重ね合わせた作品で,まさにこの賞に相応しい。短評欄で評価を与えていたので,妥当な受賞作だと胸を張れる。 その一方で,未見で3部門ノミネートの『FLEE フリー』のことを,「長編ドキュメンタリー賞の有力候補だろう」と書いてしまった。「長編アニメ賞」「国際長編映画賞」は獲れないだろうと思うゆえの発言であったが,これは迂闊な予想であった。後日,試写を観たところ,魂を揺さぶる映画であったが,すべて実話ではあってもドラマ性が高く,所謂ドキュメンタリー映画とは異なるものだと感じた。 ■ 予想印毎の結果2:確信をもってつけた◎の大半が的中 (e) ★が受賞:主題歌賞,国際長編映画賞 予想としては当たったことになるが,「主題歌賞」には思い入れはなく,GG賞等の結果から,そうなるだろうと感じたに過ぎない。もう一方の『ドライブ・マイ・カー』の「国際長編映画賞」は確信犯の★予想であり,当然の結果である。他部門での受賞はないと思っていたし,退屈な映画と思う評価は今も変わらない。 (f) ◎が受賞:監督賞,助演女優賞,脚本賞,脚色賞,撮影賞,編集賞,メイキャップ&ヘアスタイリング賞,衣装デザイン賞,作曲賞,長編アニメ賞,視覚効果賞 15部門に◎予想を入れ,内11部門で本命印作品が受賞したのは,気分がいい。誰もが予想できた「監督賞」「助演女優賞」は当然として,他の部門でも「他馬を2馬身以上離している」「断トツの本命だ」「…が大本命◎だ」「断然の本命◎で」等々の表現を使っていた。「脚本賞」「脚色賞」の両方をしっかり的中させたのも,当欄の重要部門「長編アニメ賞」「視覚効果賞」を無事クリアできたのも,今年は面目躍如であったかと思う。 5候補作品中,3作品しか観ていなかった「主演女優賞部門」は,別の理由もあって「予想なし」としたのだが,「その中では『タミー…』のジェシカ・チャスティンが頭1つリードだと感じる」と書いていたのだから,これも的中に近いと考えていいだろう。 | |||||||||||||||||||
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授賞式当日の速報サイトではファン投票部門の結果が分からず,上記の集計に入れられなかったのだが,その後,判明したのは以下の結果で,この部門は見事なハズレだった。 ・第1位『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年5月21日よりNetflixで配信) ・第2位『シンデレラ』(2021年9月3日よりAmazon Primeで配信) ・第3位『MINAMATA—ミナマタ—』(2021年9月23日公開) ・第4位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 ・第5位『tick, tick…BOOM!:チック,チック…ブーン!』 中間発表からも大きく順位が変動しており,かなり意外な結果であった。第1〜3位はアカデミー賞のどの部門の事前候補リストにも載らなかった,言わばほぼ無縁の作品である。当欄でもこの3作は紹介していないが,筆者は個人的に第3位『MINAMATA』を観ている。批評家筋の評価が高い硬派の社会派映画で,とても米国人の一般観客の人気が高かったと思えない。Top2は筆者も未見だが,一般観客の評価も批評家の評価もさほど高くなく,興行成績も余り芳しくない。 では,なぜそれらがファン投票で高順位になったかと言えば,『アーミー…』にはカルト的人気があり,『シンデレラ』は主演のカミラ・カベロの,『MINAMATA』はジョニー・デップの熱狂的なファンからの集団票ではないかと噂されている。 ファンの人気投票に厳しい制約を設ける訳には行かず,所詮ファン投票はその程度のものだとも言える。もう少し真面目な議論としかるべき投票行動が担保されるまで,来年度以降,この部門の予想は休眠させておくつもりだ。 | |||||||||||||||||||
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