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O plus E 2022年Webページ専用記事#2
 
第94回アカデミー賞の予想
   
   
 
今年は1ヶ月遅れ,いずれの部門も大接戦の模様

 (2022年3月7日記)

 
 

 今年もオスカー祭りの時期になった。例年2月最終日曜日の夜に開催のアカデミー賞授賞式が,昨年はコロナ禍の影響で約2ヶ月遅れの4月25日(日)(日本時間で4月26日の午前中)であった。冬期五輪開催年は1週間遅れが定番だったが,今回の北京五輪の閉会式が2月20日であったため,従来通りの2月27日にやるのかと思ったが,やはりコロナ禍のためか,1ヶ月遅れの3月27日の夜(日本時間3月28日午前中)の開催予定である。ノミネート作品は2月8日に発表されている。
 11月末にオスカー有力作はと見回したところ,これはという候補作は僅かであった。前年に「対象作品のレベルは高くない」と書いていたが,今年も同程度で終わるのか,本命作のない混戦模様かと思った。ところが,12月に入って眺め始めた話題のネット配信作は,さすがと思える力作揃いであった。とりわけ,『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は間違いなく有力候補だと感じた。そうこうする内に,ゴールデングローブ賞(以下,GG賞)のノミネート作の発表があり,勢力分布も頭に入った。続いて完成披露試写会で観た『ウエスト・サイド・ストーリー』は,さすが巨匠のリメイク作と感心する出来映えで,この1本の存在だけでオスカーレースのレベルはアップすると思われた。昨年好評だったので,この時点で「第79回ゴールデングローブ賞ノミネート作品(+受賞結果)」(22年Web専用#1)を設けることにした。
 1月9日(日本時間)のGG賞発表で,上記2本がそれぞれドラマ部門とミュージカル/コメディ部門の作品賞受賞作となり,俄然盛り上がってきた。国内マスコミは,濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が「非英語映画賞」を受賞したことを大きく報じていた。「カンヌ国際映画祭」や前哨戦の「全米映画批評家協会賞」等の結果からすれば,当然予想できた受賞と思ったが,一般マスコミにとっては中身が何であれ,海外での優勝や受賞は格好の記事ネタである。この分ではアカデミー賞も,との予想が出回ったが,果たせるかな,作品賞,監督賞,脚色賞,国際長編映画賞の4部門にノミネートされた。まだ候補に入っただけなのに,「歴史的快挙」との報道だ。北京五輪の金メダルより上,ノーベル賞受賞級の扱いである(こういう経過を本ページに書いているのは記録を残すためである。同作に関する筆者の感想は,後述する)。
 今年のノミネート全体に関する出来事としては,作品賞候補作が過去10年以上,8〜9作品であったのが,今年から「10作品固定」にルール改正された。その反面,授賞式では「編集賞」「作曲賞」「美術賞」等の8部門は現地会場のステージで発表・表彰はせず,放送開始1時間前に事前収録した映像を流すという。受賞者が延々と感激の言葉を述べて放映時間が長くなることの予防策のようだ。
 ノミネート数では,『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が最多の11部門,12ノミネートとトップであり,続いて『DUNE/デューン 砂の惑星』が10部門,『ベルファスト』『ウエスト・サイド・ストーリー』が7部門,『ドリームプラン』が6部門……となっている。上位2本は数の上では拮抗しているが,候補部門の傾向がかなり違う。『パワー・オブ…』は作品賞の他に,監督賞,個人演技賞4部門の所謂主要6部門で7ノミネートであるのに対して,『DUNE…』は作品賞,脚色賞以外,すべて技術系部門でのノミネートである。前者は俳優の演技や演出の評価が高いのに対して,後者は映像作品としての完成度の高さが選考委員にアピールしたようだ。
 昨年コロナ禍で大躍進したネット配信映画に関しては,Amazon Prime,Apple TV+,Disney+での独占配信作品もあるものの,やはりNetflixが圧倒的に強い。昨年の18作品ノミネートよりは少ないものの,オリジナル作の合計10作品・27部門のノミネートは立派な成績だ。
 さて,例年通りの余興として,今年も個人的予想の印をつける。今年は的中率が下がりそうだと感じるのは,監督賞は勿論,脚色賞,撮影賞,美術賞,編集賞,音響賞,作曲賞の各5候補枠が,作品賞とそれに準じる演技賞部門のノミネート作に席捲されていて,しかも図抜けた作品がないためだ。撮影賞,美術賞,音響賞に値する単独のノミネート作があってもしかるべきだと思うのだが,そうはならず,主要候補作品の中からばかり選ばれている。それでも,例年は各部門で突出した候補作があり,単勝1本買いの感覚で予想できるのだが,今年はそうはならずに混戦模様だ。5分の1の予想的中はなかなか難しく,今年は大半の部門で,本命◎,対抗○の2点予想をすることにした。
 今年も個人的な好みも含めて予想し,下記の印をつける。多少表現は変えたが,印の種類は昨年までと同様の4種類で,「予想的中」の曖昧さを避けるため,各部門には◎と★を同時には入れていない。
 さて,映画業界の一大祭典であるので,例年通りの余興として,今年も個人的な好みも含めて予想し,下記の印をつける。多少表現は変えたが,印の種類はこれまでと同じだ。昨年と同様,「予想的中」の曖昧さを避けるため,各部門には◎と★を同時には入れていない。

 ◎:世評を考慮した比較的素直な予想での「本命」
 ○:同上の意味での「対抗」となる作品
 ★:好きな映画ではないが,アカデミー会員ならこれを選ぶと想像する変則の「予想」
 ☆:個人的な好みで,これが選ばれれば嬉しいという「願望」

 
 
部門毎の予想と個人的願望

 
 

 ●作品賞部門:2009年に一挙に倍増して10本がノミネートされた。その後8〜9本ノミネートが続いていたが,前述のように今年から「10本固定」となった。この予想記事執筆の前に10本全部観ておきたかったのだが,今年後半公開予定の『リコリス・ピザ』だけが未見である。よって,残る9本の中から,世評も含めた総合予想として,素直に『パワー・オブ…』を本命,『ウエスト・サイド…』を対抗とする。(ここでは述べないが)作品賞だけが特殊な評価方式のため,Netflix配信の前者が最終的な過半数を得ることができず,巨匠の『ウエスト・サイド…』の逆転もあり得ると見る。総裁選の決選投票で2位,3位連合が勝利する,あのパターンである。ただし,個人的に一番好きなのは『コーダ あいのうた』なので,同作に☆をつける。さらに比較的最近試写を観た『ベルファスト』もお気に入りの1つとなり,自分がアカデミー会員なら,この映画を作品賞の最上位として投票すると思う。という訳で,今年は異例で4本に印をつけてしまった。
 ●監督賞部門:上記と同様素直に『パワー・オブ…』のジェーン・カンピオンが本命だ。女性監督の先駆者で,1994年の『ピアノ・レッスン』(93)以来,28年ぶり2度目の監督賞ノミネートというのも有利に働くと思う。彼女が大本命で,かなり差がある対抗馬は『ベルファスト』のケネス・ブラナーとしておこう。
 ●主演男優賞部門:勢いで『パワー・オブ…』のベネディクト・カンバーバッチが本命だ。作品賞を外した場合も,監督賞とこの主演男優賞を獲ると予想する。『ドリームプラン』のウィル・スミスの演技を高く評価する予想も多いが,GG賞のページで述べたように,筆者はこの映画の彼の演技を全く評価しない。むしろ,嫌いな部類に入る。印的には★でもおかしくないが,◎と両方をつけないルールなので,同作は無印だ。気がつけば,『ドリームプラン』は他部門のどこにも入れていない。作品賞ノミネート作は何か1つ受賞するという予想にも反するが,止むを得ない。
 ●主演女優賞部門:結論を先に言えば,この部門には予想印はつけない。例年,作品賞との相関が高くない部門で,今年も5本中の3本しか観ていない。男性主人公はいても,ヒロインは添え物の助演女優止まりの映画が多いこともあるのだろう。既に観たのは,『愛すべき夫妻の秘密』『タミー・フェイの瞳』『ロスト・ドーター』の3本で,その中では『タミー…』のジェシカ・チャスティンが頭1つリードだと感じる。未見の『パラレル・マザーズ』のペネロペ・クルス,『スペンサー ダイアナの決意』のクリステン・スチュワートも有力候補というので,簡単に印がつけられない。意外だったのは,『ハウス・オブ・グッチ』のレディー・ガガがノミネートされなかったことだ。華も迫力もあり,1作毎に成長するあの演技を評価しないとは,憤りすら感じる。抗議の意味を込めた「棄権」で,この部門の予想をしないことにした。
 ●助演男優賞部門:2人ノミネートされているだけあって,『パワー・オブ…』の継父役のジェシー・プレモンスも連れ子役のコディ・スミット=マクフィーも好演であり,後者の世評が高いことも頷ける。ただし,筆者が個人的に推したいのは,『コーダ…』の父親役のトロイ・コッツァーだ。聾者俳優で,手話中心のセリフとなるハンデを考えると,この映画で果たした役割はとてつもなく大きいと思うのだが…。
 ●助演女優賞部門:例年,実力派俳優が揃う難関部門だが,今年は『ウエスト・サイド…』のアリアナ・デボーズが大本命だ。経歴は舞台ミュージカルが中心で,本作が実質的な映画デビューだが,ダンスでも歌唱でも存在感抜群だった。文字通り,物語の行方を決定づける重要な役柄を見事にこなしていた。
 ●脚本賞部門:本命◎は『ベルファスト』。GG賞の脚本賞受賞作で,ケネス・ブラナー監督の自伝的映画となれば,他馬を2馬身以上離している。作品賞,監督賞を逃しても,この部門でオスカーをゲットすると思う。対抗○は『ドント・ルック・アップ』。こちらは他部門で何も獲れなかった場合という,かなり消極的な抑え予想だ。
 ●脚色賞部門:筆者の最も気に入り作ゆえ,『コーダ…』をここで本命◎にする。同じように考えて投票するアカデミー会員も少なくないはずだ。旧作を見事に蘇らせたのに,監督賞にノミネートされなかった埋め合わせも込めて『DUNE…』を対抗○とする。
 ●撮影賞部門:視覚効果賞にも通じるが,スケールの大きな映像でワクワクした『DUNE…』が本命◎,冒頭の工事現場やダンスシーンを見事なカメラワークで捉えた『ウエスト・サイド…』が対抗○だ。
 ●美術賞部門:1930年代から40年代の「カーニバル」を描いた『ナイトメア・アリー』の美術セットが見事で,これが本命◎だ。作品賞,撮影賞,衣装デザイン賞も併せて4部門にノミネートされているが,この部門の受賞確率が最も高いと思う。技術系部門の大半で評価が高い『DUNE…』が,この部門でも高い点数がつくと思う。
 ●編集賞部門:ここも多彩な映像表現を駆使しつつ質の高い作品に仕上げた『DUNE…』が本命で,対抗は他の受賞候補部門が少ない『ドント・ルック…』としておこう。ただし,予想としての確信度は低い。
 ●メイキャップ&ヘアスタイリング賞部門: 全くJ・チャステインだと見えないように特殊メイクを施した『タミー…』が断トツの本命◎だ。それに比べると,レディー・ガガを22歳に見せるメイクは驚くに値しないが,他のどの部門にも登場しないので『ハウス・オブ…』を☆にしておこう。同作は下記「衣装デザイン賞」にノミネートされてしかるべきだったと思うのだが。
 ●衣装デザイン賞部門: 当部門にだけノミネートされた『クルエラ』が大本命◎だ。エマ・ストーン演じる主人公の奇抜なコスチュームは圧巻だった。差のある対抗○としては,1940年前後のファッションを再現した『ナイトメア…』を挙げておく。
 ●音響賞部門:素晴らしいサウンドでミュージカル映画の金字塔を蘇らせてくれた『ウエスト・サイド…』だが,「作曲賞 (Original Score)」には該当しないので,この部門に投票しておこうという会員が多いはずだ。差のある2番手としては,『ベルファスト』を挙げたい。ヴァン・モリソンの名曲の数々を,テイストが異なる北アイルランド闘争を描いた映画に織り込んだ手口は見事だった。『ウエスト・サイド…』同様,こちらも「作曲賞」扱いできないので,同じ理由でこの部門で推しておきたい。
 ●主題歌賞部門:今年は本命視できる突出した佳曲が見当たらなかった。上記ヴァン・モリソンが映画のために書いた新曲“Down to Joy”は,さほどの出来映えだと感じなかった。GG賞受賞の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌が受賞してもおかしくはないが,歴代のシリーズの主題歌と比べて,特に優れているという気がしない。消去法で,筆者にとっては『ミラベルと魔法だらけの家』の主題歌「2匹のオルギータス」が最も好ましかった。ディズニーソングとして生き残るラテン系の名曲だと思う。
 ●作曲賞部門:劇伴のOriginal Scoreとしては,『DUNE…』が断然の本命◎で,さすがハンス・ジマーと思わせる出来映えだった。対抗○は『ミラベルと…』で,ディズニーアニメのミュージカルだけあって,トータルな完成度が高い。
 ●国際長編映画賞部門:個人的な少し嫌い(後述)は別として,ここまで実績が伴えば,『ドライブ・マイ…』が受賞すると予想せざるを得ない。
 ●ファン投票部門:今年から新設された部門(Favorite 2021 Film)で,映画ファンなら誰でも「お気に入り映画」をtwitterで投票できる。オスカー授与はないが,授賞式当日にファン投票第1位が発表されるという。期限は3月3日(現地時間)だったので,既に投票は締め切られているが,その2日前に発表されたベスト10(中間発表)を見ると,アカデミー会員によるノミネート作とはかなり違う。作品賞10本の中からランクインしているのは,『パワー・オブ…』『DUNE…』の2強だけだ。他の部門を入れても4作品だけで,残る6作品は全くどの部門にもノミネートされていない映画ばかりだ。例えば,日本を舞台にした地味な社会派映画『MINAMATA -ミナマタ-』があるかと思えば,当欄で激賞したホラー映画『マリグナント 狂暴な悪夢』がランクインしている。この新部門のNo.1予想としては,大ヒット作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が断トツの本命だと思う。対抗で,筆者好みの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党, 集結』が上位入賞することを期待しておきたい。

 
 
当欄にとっての主要2部門の予想

 

 
  ●長編アニメ賞部門  2011年にこの予想を始めて以降,この部門は10勝1敗で,予想を外したのは2015年の第87回だけだ。例年と同じ基準で素直に選べば,ディズニー&ピクサー組の3本『ラーヤと龍の王国』『あの夏のルカ』『ミラベルと…』の内,完成度の高さから『ミラベルと…』が本命ということになる。
 他の2本は未見だったが,『ミッチェル家とマシンの反乱』はこのノミネートで初めて存在を知った。Netflixでとっくに配信済みであることを知り,早速観たところ,これは強力な対抗馬だと感じた。ディズニー系3本で票が割れた場合は,十分に逆転もあり得る。
 残る1本の『FLEE フリー』は,国際長編映画賞,長編ドキュメンタリー賞の計3部門にノミネートされている異色作である。本邦で6月公開が決まっているが,まだ試写を観る機会がない。予告編だけ観たところ,アニメの映像品質は高くなく,長編ドキュメンタリー賞の有力候補だろう。
 ●視覚効果賞部門  上記部門よりも外している印象だったが,調べてみると,過去11年間の成績は7勝3敗,1不戦敗(日本での未公開作品が受賞)であった。3敗の内の2敗は,甲乙つけ難い2作品を挙げ,強く推した方が外れて結果が逆になっただけだから,的中率はさほど悪くない。
 今年は自信をもって,本命◎は『DUNE…』,対抗○は『スパイダーマン…』と予想しておく。使われているCG/VFXの技術レベルや分量は後者の方が上だが,VFXのスケールが大きく,映画のクオリティを上げたという意味では,前者の方が有力だ。このVFXなしでは,壮大な「砂の惑星」は描けなかったと,アカデミー会員なら分かるはずだ。
 
 
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以上をまとめると,以下のようになる。      
・作品賞:

◎『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

○『ウエスト・サイド・ストーリー』

☆『コーダ あいのうた』

☆『ベルファスト』

・監督賞:

◎ジェーン・カンピオン ~『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

○ケネス・ブラナー ~『ベルファスト』

・主演男優賞:

◎ベネディクト・カンバーバッチ ~『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

・主演女優賞:

予想なし

・助演男優賞:

★コディ・スミット=マクフィー ~『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

☆トロイ・コッツァー ~『コーダ あいのうた』

・助演女優賞:

◎アリアナ・デボーズ ~『ウエスト・サイド・ストーリー』

・脚本賞:

◎『ベルファスト』

○『ドント・ルック・アップ』

・脚色賞:

◎『コーダ あいのうた』

○『DUNE/デューン 砂の惑星』

・撮影賞:

◎『DUNE/デューン 砂の惑星』

○『ウエスト・サイド・ストーリー』

・美術賞:

◎『ナイトメア・アリー』

○『DUNE/デューン 砂の惑星』

・編集賞:

◎『DUNE/デューン 砂の惑星』

○『ドント・ルック・アップ』

・メイキャップ&ヘアスタイリング賞:

◎『タミー・フェイの瞳』

☆『ハウス・オブ・グッチ』

・衣装デザイン賞:

◎『クルエラ』

○『ナイトメア・アリー』

・音響賞:

◎『ウエスト・サイド・ストーリー』

○『ベルファスト』

・主題歌賞:

☆『ミラベルと魔法だらけの家』

★『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

・作曲賞:

◎『DUNE/デューン 砂の惑星』

○『ミラベルと魔法だらけの家』

・国際長編映画賞:

★『ドライブ・マイ・カー』

・ファン投票:

◎『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

○『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党,集結』

・長編アニメ賞:

◎『ミラベルと魔法だらけの家』

○『ミッチェル家とマシンの反乱』

・視覚効果賞:

◎『DUNE/デューン 砂の惑星』

○『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

 
 
『ドライブ・マイ・カー』の複数部門ノミネートについて

 
  何しろ,「歴史的快挙」と大騒ぎである。前哨戦の実績からGG賞非英語映画賞受賞は十分予想できたし,そうなるとアカデミー賞でも「国際長編映画賞」ノミネートは確実だと思った。正直言って,作品賞を含む4部門ノミネートまでは予想しなかった。しかし,一昨年,韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』(19年Web専用#6)が6部門ノミネートで4部門受賞であったことを考えれば,マイノリティへの門戸開放を意識しているアカデミー賞なら,これくらいは不思議ではない。よって「歴史的快挙」と言うほど,大袈裟に騒ぐほどのものでもない。
 この映画を評価するか,好きかと問われれば,それは別問題だ。熱心な読者なら,筆者がこの映画に平均以下の評価しか与えていないことをご存知だろう。かつての『おくりびと』(08年9月号)は,全く注目されない時点で,試写を観てすぐに評価を与え,筆者の年間ベスト1にした後に「外国語映画賞部門」のオスカーを得たので,面目躍如であった。3年前の『万引き家族』(18年5・6月号)の評点はであったが,「映画賞を総なめにすることが予想される」と書いていたので,カンヌのパルムドールもアカデミー賞ノミネートも,不思議でも何でもなかった。
 それに比べて,評価の映画がここまで大躍進したのは予想大外れではないかと問われれば,「それは違う」と反論しておこう。初見での「評点」と世評や実績も考慮した「予想」とは別物である。この映画は長過ぎて,筆者には退屈で,あまり好きになれない映画だった。その思いは今も変わらない。むしろ,苦手なジャンルの映画に属している。さりとて,最低評価を与えた訳ではなく,この監督の力量は低くないと感じていた。本誌上の紹介記事は「海外映画祭狙いとしか思えなかった」と書いて結んでいる。「狙って,いくつも賞を獲っている」のだから,立派なものである。それを見抜いていたのだから,「予想」としても外れではない。ただ,個人的な好みとして,この映画が好きでないだけだ。
 
 
◆付記1:受賞結果を振り返って

 (2022年4月3日記)

 
 ■ 過去で2番目の的中率。その数字以上の満足感。
 受賞作品の発表があったのは,日本時間で3月28日の午前9時前からだった。それから約3時間半,自らの予想と見比べつつ,速報結果を食い入るように眺めていた。的中しても配当金がある訳でもない。「ただの余興」と言いつつも,やはり結果は気になるものである。
 まずは事前収録されていたビデオが流れるだけの8部門の発表からだった。冒頭の「音響賞」が外れで,幸先が悪かったが,(予想をしていない短編3部門の後の)「作曲賞」以降は絶好調で,ニヤニヤしながら眺めていた。(排他的に印をつけた)◎と★を的中とするなら,オスカー授与される18部門の予想は13勝5敗だった。一昨年,昨年は17部門予想で,的中はそれぞれ9部門,7部門であったから,今年はかなり好成績と言える。的中率だけで言えば,この12年間で2番目のスコアだが,この数字以上に自己満足度が高い結果であった。
 すぐにこの稿を書こうかと思ったが,少し冷静になって,外れ部門の敗因分析を書きたいこともあり,1週間寝かせることにした。
 既にご存知のように,作品賞受賞作は大方の予想を裏切って『コーダ あいのうた』だった。最も好きな作品と断っていたように,「願望」の☆印だったので,結果は(後述するように)大満足である。僅か3部門ノミネートでの作品賞受賞は珍しいらしいが,「助演男優賞」「脚色賞」でもオスカーを得て,見事な成績である。
 最多受賞は,『DUNE/デューン 砂の惑星』の10部門ノミネート,6部門受賞だった。今年の好成績は,この映画の寄与が大きい。「私の選んだ2021年度ベスト5&10」(21年Web専用#6)での総合評価の第1位にした映画だったので,殊更嬉しい。
 その一方で,11部門12ノミネートで,作品賞の大本命と言われていた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は「監督賞」の1冠だけに終わった。監督賞受賞作が,それだけで終わるのは珍しいようで,当欄の12年間の中でも初めてのことである。7部門ノミネートの『ベルファスト』『ウエスト・サイド・ストーリー』,6部門ノミネートの『ドリームプラン』,4部門ノミネートの『ドライブ・マイ・カー』も,それぞれ「脚本賞」「助演女優賞」「主演男優賞」「国際長編映画賞」の1冠に留まった。
 では,作品賞候補作は必ず何かを受賞したかと言えば,さすがに10作品ノミネート固定となった今年は難しいだろうと思っていたが,『ドント・ルック・アップ』『リコリス・ピザ』『ナイトメア・アリー』の3作が無冠に終わってしまった。

■ 予想印毎の結果1:敗因分析
(a) ☆が受賞:作品賞,助演男優賞
 願望の☆印を定常的につけ始めたのは第91回からで,5〜6部門にこの印を入れていたのだが,この願望が叶ったのは過去3年間で第92回の「編集賞」だけだった。☆が受賞したのは,いずれもお気に入りの『コーダ…』で,作品賞で◎,助演男優賞で★の印をつけた『パワー・オブ…』が外れた訳だが,全く敗北感はない。
 特殊な投票方式の作品賞部門ゆえ,『ウエスト・サイド・ストーリー』の逆転もあり得ると予想したのだが,そのポジションを得たのが,爽やかな印象を与え,多数の会員から上位支持を受けたこの映画だったようだ。投票方式を加味した予想も外れたことになるが,願望が叶ったことの方が嬉しい。
 第91回の大本命の『ROMA/ローマ』(19年Web専用#1)と同様,またもNetflix作品が作品賞を獲れなかったことになる。アカデミー会員のストリーミング作品蔑視を崩せなかったのかと思ったが,その壁は破られたようだ。というのは,日本国内では『コーダ…』はギャガ配給の劇場公開作品であり,試写室で観たので,ネット配信の印象がなかった。ところが,米国内は劇場では限定公開であり,同日に開始したApple TV+経由の配信が主流だったようだ。

(b) ○が受賞:美術賞
 作品賞ノミネート作品は,少なくとも1つはオスカーを獲るという経験則から,『ナイトメア・アリー』を本命◎としたのだが,これは外れてしまった。
 部門名は「Award of Production Design」で,これを「美術賞」と呼ぶのは適切でないと思う。所謂「美術セット」では,『ナイトメア…』は間違いなく優れていたが,美術装飾よりも広い概念の「Production Design」となると,斬新な絵作りに様々な手法を駆使した『DUNE…』が文句なしに優れていた。言わば,何を重視するかの解釈の違いである。丁度,一昨年のこの部門で,その解釈の違いで外してしまったので,今回は逆にしたところ,裏目に出た訳である。

(c) 無印が受賞:音響賞,主演男優賞
 さて,問題はこの項目だ。この予想印方式にした過去3年間は,5,5,7部門で「無印が受賞」であったから,今年のハズレは抜群に少なかった訳だが,それぞれが曰く付きである。
 まず「音響賞」に関しては,大いに反省すべき予想であった。作品賞の候補作の内,リメイク作で楽曲は旧作を継承していた『ウエスト・サイド…』と,同じように既存曲の利用が大半だった『ベルファスト』が「作曲賞」の対象にならないため,その埋め合わせとして「音響賞」が与えられると読んだのだが,これは邪道の予想だった。かつての「録音賞」(Sound Recording)と「音響編集賞」(Sound Editing)が統合された部門であるので,それぞれの専門家を含む550人もの「音響技術者」がアカデミー会員となっている(2022年1月現在)。「音」のプロの彼らにとっては,オリジナルスコアの音楽性と,録音&音響編集技術とは全くの別の対象であるから,「埋め合わせ」などという不埒な考えで,投票行動を起こす訳はない。結果的には,作曲賞も音響賞も『DUNE…』が受賞したから,同作がいずれでも優れていたということになる。
 もう1つの 「主演男優賞」は予想欄に書いたように,いくら世評が高くても,ウィル・スミスを支持したくなく,意図的に切り捨てたので,外れるべくして外れた訳だ。よって,全く悔しくなかった。そこに伝わって来たのが,例の壇上での「ビンタ事件」である。この事件には驚いた。当該作品中での独善的で,傲慢かつ強圧的な主人公が嫌だったゆえ,それになり切った演技も好きになれなかったのだが,そのまま壇上でやって見せた訳だ。それじゃ「外して正解だったね。虫の知らせか?」「ほら見たことか,の心境か?」と問われれば,そんなことはない。劇中ではなり切っていたとはいえ,演技は演技であり,俳優の人格とは別物である,と答えるしかない。とはいえ,全世界注目の式典の壇上で,自制心のない暴力行為は恥ずべきことであり,品位を穢した行動に弁護の余地はない。たかが余興の受賞作予想であったが,複雑な心境である。

(d) その他:長編ドキュメンタリー賞
 予想しなかったこの部門にも触れておこう。5作品の内,試写を観て,紹介記事を書いたのは1作品だけであったが,その『サマー・オブ・ソウル(あるいは,革命がテレビ放映されなかった時)』(21年7・8月号)が受賞した。伝説の音楽コンサートのライヴ記録で,50年以上も地下室に眠っていた映像に当時の世相や黒人解放運動の模様を重ね合わせた作品で,まさにこの賞に相応しい。短評欄で評価を与えていたので,妥当な受賞作だと胸を張れる。
 その一方で,未見で3部門ノミネートの『FLEE フリー』のことを,「長編ドキュメンタリー賞の有力候補だろう」と書いてしまった。「長編アニメ賞」「国際長編映画賞」は獲れないだろうと思うゆえの発言であったが,これは迂闊な予想であった。後日,試写を観たところ,魂を揺さぶる映画であったが,すべて実話ではあってもドラマ性が高く,所謂ドキュメンタリー映画とは異なるものだと感じた。

■ 予想印毎の結果2:確信をもってつけた◎の大半が的中
(e) ★が受賞:主題歌賞,国際長編映画賞
 予想としては当たったことになるが,「主題歌賞」には思い入れはなく,GG賞等の結果から,そうなるだろうと感じたに過ぎない。もう一方の『ドライブ・マイ・カー』の「国際長編映画賞」は確信犯の★予想であり,当然の結果である。他部門での受賞はないと思っていたし,退屈な映画と思う評価は今も変わらない。

(f) ◎が受賞:監督賞,助演女優賞,脚本賞,脚色賞,撮影賞,編集賞,メイキャップ&ヘアスタイリング賞,衣装デザイン賞,作曲賞,長編アニメ賞,視覚効果賞
 15部門に◎予想を入れ,内11部門で本命印作品が受賞したのは,気分がいい。誰もが予想できた「監督賞」「助演女優賞」は当然として,他の部門でも「他馬を2馬身以上離している」「断トツの本命だ」「…が大本命◎だ」「断然の本命◎で」等々の表現を使っていた。「脚本賞」「脚色賞」の両方をしっかり的中させたのも,当欄の重要部門「長編アニメ賞」「視覚効果賞」を無事クリアできたのも,今年は面目躍如であったかと思う。
 5候補作品中,3作品しか観ていなかった「主演女優賞部門」は,別の理由もあって「予想なし」としたのだが,「その中では『タミー…』のジェシカ・チャスティンが頭1つリードだと感じる」と書いていたのだから,これも的中に近いと考えていいだろう。
 
 
 
◆付記2:「お気に入り映画」のファン投票結果

 (2022年4月5日記)

 
  授賞式当日の速報サイトではファン投票部門の結果が分からず,上記の集計に入れられなかったのだが,その後,判明したのは以下の結果で,この部門は見事なハズレだった。

・第1位『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年5月21日よりNetflixで配信)
・第2位『シンデレラ』(2021年9月3日よりAmazon Primeで配信)
・第3位『MINAMATA—ミナマタ—』(2021年9月23日公開)
・第4位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
・第5位『tick, tick…BOOM!:チック,チック…ブーン!』

 中間発表からも大きく順位が変動しており,かなり意外な結果であった。第1〜3位はアカデミー賞のどの部門の事前候補リストにも載らなかった,言わばほぼ無縁の作品である。当欄でもこの3作は紹介していないが,筆者は個人的に第3位『MINAMATA』を観ている。批評家筋の評価が高い硬派の社会派映画で,とても米国人の一般観客の人気が高かったと思えない。Top2は筆者も未見だが,一般観客の評価も批評家の評価もさほど高くなく,興行成績も余り芳しくない。
 では,なぜそれらがファン投票で高順位になったかと言えば,『アーミー…』にはカルト的人気があり,『シンデレラ』は主演のカミラ・カベロの,『MINAMATA』はジョニー・デップの熱狂的なファンからの集団票ではないかと噂されている。
 ファンの人気投票に厳しい制約を設ける訳には行かず,所詮ファン投票はその程度のものだとも言える。もう少し真面目な議論としかるべき投票行動が担保されるまで,来年度以降,この部門の予想は休眠させておくつもりだ。

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