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O plus E 2022年Webページ専用記事#2
 
 
ミッチェル家とマシンの反乱』
(コロンビア映画 /Netflix配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2021年4月30日よりNetflixで配信中]   2022年2月13日 Netflix映像配信を視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  ノミネート後に知ったが,ギャグアニメの逸品だった  
  第94回アカデミー賞の長編アニメーション部門のノミネート作品である。全部門の候補作品の発表があった2月9日(日本時間)まで,このアニメ作品を全く知らなかった。候補5作品の内4本はゴールデングローブ賞の同部門と同じだったが,1本だけ聞いたこともないアニメ作品が入っていた訳である。GG賞の候補でなく,アカデミー賞の候補になるとは,ギリギリ滑り込んできた最近の作かなとも想像した。
 この部門には,米国のメジャースタジオの作品の他に,知名度は低いが,芸術性やメッセージ性の高い欧州系のアニメ映画が候補作に名を連ねることがしばしばある。そうした場合,表題は原語のままで,日本公開予定が全くないことが多いが,本作は既に邦題がついていた。その題名からすると,どう考えても芸術系の作品ではない。SFかアクション系の題名である。調べてみると,既に昨年の4月30日からNetflixで世界中に配信している作品だった。勿論,急いで観ることにした。さほど期待していなかったのだが,予想以上の逸品だった。
 宣伝文句では,『スパイダーマン:スパイダーバース』(19年Web専用#1)のフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビの作品であることが強調されていた。彼らのデビュー作は『くもりときどきミートボール』(09年10月号)で,監督・脚本を担当し,続編の『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』(14年1月号)では製作総指揮を務めている。それならどうしてソニー・ピクチャーズ (SPE)配給じゃないのかと,少し疑問に思った。調べると,やはりSony Pictures Animation (SPA)製作の作品であり,一昨年の1月に公開予定だったのが,何度も公開延期になり,劇場公開を断念したSPEが配給権をNetflixに売却したとのことだ。製作元としての権利はSPEが保持しているようで,オープニングロゴはお馴染みのコロンビア映画の女神像であり,それがアニメキャラになっていた。米国で昨年4月23日に限定劇場公開され,1週間後にNetflixから独占配信されている。詳しいルールは知らないが,GG賞では対象外であったが,アカデミー賞ではぎりぎり対象作品扱いということなのかも知れない。
 さらに調べると,ロード&ミラーのコンビは『 LEGO(R)ムービー』(14年4月号)の監督・脚本を担当し,同シリーズ計4本の製作に関わっている。同じワーナー作品の『スモールフット』(18年Web専用#5)の製作総指揮でもあるから,既にCGアニメ界ではかなり力のあるプロデューサーコンビとして知られているようだ。
 彼らの本作での役目は製作だけであり,監督・共同脚本はマイケル・リアンダに託している。彼はアニメ作家兼声優で,これが長編の監督デビュー作であるが,ミッチェル家の姉弟の弟アーロンの声も担当している。
 物語設定は,現代の平均的な米国家庭であるミッチェル家の親子関係を描いたファミリームービーであると同時に,最新AI機能を備えたロボットが人間に対して反乱を起こすSFアクションコメディの性格を併せもっている。AIの進化による「シンギュラリティ=技術的特異点」の到来により,人間社会に迫る危機を平凡なミッチェル家の面々が救うという物語という訳だ。
 主人公は長女のケイティで,周囲に馴染めない変わり者だが,映画製作に情熱をもち,加州の映画専門大学への入学が決まっている。弟のアーロンは超のつく恐竜オタクだが,姉弟2人とも何かと口煩い父親のリックをウザい存在と感じ,無視する態度を取っている(写真1)。母親のリンダは険悪になりがちな父子関係の仲をとりもつしっかり者だ。この家族構成は『 Mr. インクレディブル』のパー家を思い出す。冒頭のナレーションで,「スーパーヒーローじゃないけれど…」と言っていたように,インクレディブル親子のことを意識し,そのパロディと思えるシーンも登場する。厳密には,パー家は乳児の次男がいたので5人家族だが,ミッチェル家の場合,その役目は愛犬であるパグのモンチが担っている(写真2)。ギャグアニメにはかかせないハチャメチャな行動をする愛すべきキャラである。
 
 
 
 
 
写真1 親子4人のミッチェル家。食事中もスマホやタブレットをいじっている標準的家庭。
 
 
 
 
 
写真2 愛犬のモンチ。犬種はパグだが,ロボットは豚か犬か識別できず,混乱する。
 
 
  一方,人間に敵対するAIを生み出したのは,巨大IT企業のPAL社である。創業者がジーンズ&スニーカーのカジュアルな姿で新製品発表するのは,当然,故スティーヴ・ジョブズがモデルだろう。看板商品のスマートアシスタントPALは,スマホや家電製品に組み込まれたAIソフトで,人間の問いかけに答えてくれる忠実な助言者であったが,新製品PAL Maxは手足のあるロボットで,介護や重労働も代行してくれる,より便利なアシスタントである。その新製品を強調するあまり,創業者が旧製品PALを時代遅れの不要物扱いしたため,裏切られたと感じた彼女(女性という扱い)が新製品のPAL Max全台数を洗脳して反乱を起こし,地球上の人間を宇宙のかなたに追いやろうとする。家族旅行に出かけて難を逃れたミッチェル家が,途中で壊れて人間の味方をするようになった2台のロボットの協力を得て,この反乱を鎮める役目を担うことになる……。
 前半はテンポのいいギャグアニメで,後半はスーパーヒーロー顔負けのアクション映画であった。以下,当欄の視点からの感想とコメントである。
 ■ 「『スパイダーマン:スパイダーバース』に似たアニメーションスタイルを使用」との報道があったが,画調もカメラワークも全く似ているとは感じなかった。同作の紹介記事では,「一見して,全体がこれまでに見たどのフルCGアニメとも違うタッチだと感じる」と書いている。その理由として,「手書きアニメの要素の盛り込み方」と「演じている俳優のルックスを生かしているように見える」を挙げていた。製作会社はSPAでも,実質はSony Pictures Imageworks (SPIW)がCG描画を担当する関係は同じだから,同じタッチに仕上げることは可能だったはずだ。そうしなかったのは,作品の位置づけ自体が違っていたからだろう。各キャラクターの顔は,かなり漫画的なルックスで,目も眼鏡も大きい。そこに,派手なギャグ・アクションに相応しい大袈裟な表情が付けられている。技術力を誇るような写実的な背景も登場しない。CGのレベルとしては平凡なもので,特筆すべきものはない。それでも,手書きでは無理で,3D-CGあってのデザインだと感じられるシーンは随所にあった。
 ■ ロボットPAL Maxのデザインも,全く平凡で,いかにもいかにものロボットだ(写真3)。意図的に斬新にせず,色も形も『スター・ウォーズ』シリーズのストームトゥルーパーズ風にしているのだろう。PALという名前自体が,『2001年宇宙の旅』(68)で反乱を起こすHALのもじりであることは明らかだ。このPAL Maxが一斉に飛び立って,世界の主要都市を襲う(写真4)。パリはエッフェル塔,インドはタージマハル,米国は金門橋と,定番のアイコン的な光景が登場するが,東京はネオン輝く下品な街だった(写真5)。これは新宿・歌舞伎町なのか,それとも渋谷・センター街なのか…(多分,背景の高層ビルの位置からして,渋谷なのだろう)。これが世界から見た日本のイメージなのかと,笑ってしまった。
 
 
 
 
 
写真3 IT企業PAL社が開発した最新のPAL Maxロボット
 
 
 
 
 
写真4 旧型PALの煽動で一斉に蜂起し,世界主要都市を襲う
 
 
 
 
 
写真5 日本というと,こういうイメージらしい
 
 
  ■ AIの反乱としては,中盤のショッピングセンターでのアクションシーンが出色だった。各家電製品が知能をもつとこういう振る舞いをするのかと,感心する。棚にあったファービー人形も反乱に加わり,最後は破壊光線を出すボスキャラが登場する(写真6)。この縫いぐるみ人形をよく知らず,『グレムリン』(84)のギズモかと思って観ていた。元々その類似性を追求する指摘はあったが,訴訟沙汰にはならなかったようだ。ギャグだけに留まらず,パロディ精神,風刺精神もたっぷりで,この種の映画は,どのシーンが何をもじっているのかを探す愉しみもある。
 
 
 
 
 

写真6 破壊光線を出す巨大なファービー。グレムリンに似ている。

 
 
  ■ 終盤はさすがにメジャー系の劇場用映画として企画されただけあって,スケールの大きなアクションシーンが展開する。ノーテンキなミッチェル家も家族一丸となり,インクレディブル・ファミリー並みの活躍だ(写真7)。地球の危機の緊迫感はないが,わざとらしいヒューマニズムが前面に出て来ないのに,好感がもてる。前半は,ハリウッド流のベタベタした家族ものでなく,父親を馬鹿にしたような描写がむしろ新鮮だった。さすがにラストはファミリー映画らしい落とし所となっているが,前半の印象が強かったので,許せるレベルだ。あるサイトでは,「このコンビはイルミネーション映画のようなバカバカしさとディズニー/ピクサー映画のようなメッセージ性の中道」だと位置づけていたが,そうだろうか? ギャグセンスは前者に近く,ブラックユーモアはDWA (DreamWorks Animation)作品に近いと感じた。そもそもデビュー作の『くもりときどきミートボール』が,ギャグセンスもアクションセンスもある優れた作品だった。知名度が上がらなかったのは,SPEがマーケティング下手ゆえに,興行的に苦戦していたに過ぎない。本作も優れたCGアニメであることは当欄が保証するが,アカデミー賞で本家ディズニー・アニメーションの牙城を崩せるかどうか,今年の注目部門の1つである。
 
 
 
 
 

写真7 ノーテンキなミッチェル家も終盤はしっかり戦闘モードに

 
 
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