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一昨年は,近年大本命をことごとく外す「ひねくれ投票」の結果と授賞式の茶番劇で呆れてしまい,もう当欄での「予想」は止めようかと書いてしまった。そのくせ,昨年は熱心な読者から宥められて,「長編アニメ賞」「視覚効果賞」以外は「予想」ではなく,候補作の「感想」と「願望」を述べることにした。例年通り,受賞結果を振り返った後,最後に「来年はどうするかと言えば……。その時期になって考えることにしよう」と書いておいた。 | ||||||||||||||||||||
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●作品賞部門:規程は10本以内で,9本のことが多いのだが,今年は8本しかノミネートされなかった。『ブラック・クランズマン』(3月22日公開)だけが未見で,他の7本は見終えている。前哨戦と言われるゴールデングローブ賞(以下,GG賞)では,ミュージカル/コメディ部門で『グリーンブック』が,ドラマ部門で『ボヘミアン・ラプソディ』が本命視されていた『アリー/スター誕生』を破って受賞した(何で,ぎんぎんの音楽映画の両作品がドラマ部門なのか,理解できない)。筆者も昨年秋に試写を観た時点では『アリー…』に決まりだと思い,年間ベスト10でも最高位にしたのだが,その後『グリーンブック』『ROMA/ローマ』を観て,浮気したくなった。やっぱり賞獲りレースは「じゃんけん後出し」が随分有利だ。個人的には『バイス』(19年3・4月号掲載予定)も『女王陛下のお気に入り』も大好きである。Netflix作品の『ROMA/ローマ』はGG賞では対象外だったが,アカデミー賞は対象であり,見事ノミネートを果たした。しかし,ネット配信は正統派の映画と見なさない頑迷なアカデミー会員が少なからずいると見て,作品賞予想での評価は下げておく。男性スタッフへのセクハラ問題で撮影終盤に監督交替したのに,またブライアン・シンガーが監督にクレジットされている『ボヘミアン…』は絶対に選ばれないだろう。降板した監督が壇上に上がっても,上がらなくても興醒めで,メディアの餌食になるだけだ。当欄にとっては,アメコミ作品の『ブラックパンサー』がノミネートされたのは嬉しいが,話題作りだけで,ノミネート止まりだろう。これも『ボヘミアン…』も,その見返りに音関連の技術賞を獲るかも知れないが…。 ●監督賞部門:対象5作品の内,『COLD WAR あの歌,2つの心』(6月28日公開)だけが未見だが,ここはアルフォンソ・キュアロン監督個人の体験に基づく『ROMA…』で決まりだろう。『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)で既に受賞しているが,そんなハンデはものともしないパワーがある。 ●主演男優賞部門:ここは『永遠の門 ゴッホの見た未来』だけが未見だが,他の4人も激戦だ。ここはGG賞受賞した『バイス』のクリスチャン・ベールと,『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセンの一騎打ちと見る。前者は,メイクで政治家に化けさせて…というのが昨年のゲイリー・オールドマンと同じパターンなので,それが若干ハンデだが,やはり最有力と見る。『ボヘミアン…』が監督の醜聞で作品賞や監督賞を獲れない分,もう1人のGG賞受賞者のラミ・マレックに,この個人賞部門で同情票が集中するらしい。筆者は元々彼の演技をさほど評価していない。映画でのパフォーマンスが光ったのは,コンサートライブの盛り上げ方,描き方が巧みであっただけで,彼の演技は可もなく不可もなくの平均点に過ぎない。 ●主演女優賞部門:この部門は,世評通りの予想としておこう。本命◎は『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズ,対抗○は『女王陛下の…』のオリビア・コールマンである。個人的願望では,『アリー…』のレディー・ガガに獲らせたいのだが,無理だろうな……。 ●助演男優賞部門:候補作5本中,3本しか観ていないが,自信をもって『グリーンブック』のマハーシャラ・アリを大本命とする。2人とも主演でおかしくないくらいで,存在感も抜群だった。こちらも『ムーンライト』(16)でオスカーを得ているが,びくともしないだろう。対抗はなしだ。 ●助演女優賞部門:GG賞受賞者は,『ビール・ストリートの恋人たち』(2月22日公開)のレジーナ・キングだが,同作を未見のため,評価できない。個人的には,『バイス』のエイミー・アダムスか,『女王陛下の…』のレイチェル・ワイズのどちらかに獲らせたい。 ●脚本賞部門:作品賞と同じ2本の争いだろうが,ここは『グリーンブック』の方が頭1つ抜けていると思う。『バイス』の脚本も捨て難いのだが,どうしてもそっくりショーに目が行ってしまって,脚本の良さは印象に残らないかと思う。 ●脚色賞部門:全くの大穴,個人的願望でコーエン兄弟の『バスターのバラード』を推薦しておきたい。オスカーの常連かつNetflix作品なので,票は集めにくいかもしれないが。 ●撮影賞部門:監督自らがカメラをもって長回しし,モノクロであの美しい映像を見せられては,ここでも『ROMA…』が断然だと思う。獲らせたいと念じなくても,獲るだろう。 ●衣装デザイン賞部門:作品賞,監督賞の他に3女優が個人演技賞部門に揃い踏みした『女王陛下の…』は,主要部門は外しても,ここと次の美術賞は本命だ。『メリー・ポピンズ リターンズ』は,メリーもバンクス家の面々も,派手ではないが,ハイセンスな衣装だったので対抗にしておこう。 ●美術賞部門:上記の『女王陛下の…』が本命だろうが,他では,願望として『ファースト・マン』の宇宙船内や月面の美術演出に票が集まって欲しい。 ●メイキャップ&ヘアスタイリング賞部門:3作品しかノミネートがないが,見事なメイクの『バイス』しかないだろう。主演のチェイニー副大統領ほど大掛かりではないが,ブッシュ大統領(サム・ロックウェル)やパウエル長官(タイラー・ペリー)等も,髪形・眉・頬などでかなり似せていた。 ●主題歌賞部門:『アリー…』から2曲がノミネートされると思ったのだが,筆者が推したエンドソングの“I'll Never Love Again”は選に漏れた。となると,主演男女優のデュエット曲“Shallow”で仕方がない。ぶっちぎりの逃げ切りで,対抗馬はいない。 ●作曲賞部門:映画全体のオリジナルスコアを競う部門で,5作品全部のサントラ盤音源をもっているが,どれが作曲能力として上だったのか,さっぱり分からない。異色という意味で,鳴り響く和太鼓の音が印象的だった『犬ヶ島』を挙げておこう。 ●音響編集賞部門:専門でないので,技術的には分からないが,ロケットの打ち上げ,宇宙船内,宇宙空間でのドッキング等,見事な音響効果を出していた『ファースト・マン』に◎を,音を立てては行けない設定下で,僅かな音で恐怖心を駆り立てた『 クワイエット・プレイス』に○をつけておきたい。何かと話題の『ボヘミアン…』が獲っても不思議ではない。 ●録音賞部門:さすがにここは,両音楽映画が本命と対抗だろう。 ●外国語映画賞:競馬で言えば,ROMA…』が100円元返しの大本命で,対抗も単穴もない。 日本の『万引き家族』は,複勝か3連複馬券があれば,3着狙いで買えるのだが,アカデミー賞には単勝馬券しかないので,今回は出走手当(参加賞)だけだ。 | |||||||||||||||||||
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●長編アニメ賞部門:昨年末までは,結構混戦だが筆者が年間ベスト5で総合1位に選んだ『インクレディブル・ファミリー』が1馬身以上リードしていると思っていた。歴代のピクサー受賞作と比べても遜色ない出来映えだったからだ。ところが,とんでもない伏兵がいた。『スパイダーマン:スパイダーバース』である。何がどう凄いのか,どう新しいのかは,別項の紹介記事を読んで頂きたい。まさにディープインパクト並みの追い込みで,GG賞とアカデミー賞を連勝してしまうことだろう。一応,敬意を表して,『インクレディブル…』にも○をつけておくが,敬意だけである。馬連,馬単馬券を買えても,このレースは買わない。単勝1点買いの勝負である。我が国の『未来のミライ』は,世界のアニメ文化,アニメ産業への貢献度を評価して,日本代表として選ばれただけであって,最初からノミネート止まりである。 ●視覚効果賞部門:昨年は混戦で迷ったが,結果的には消去法の変な形で予想は的中した。今年は,当欄の読者であれば,『ファースト・マン』が一押しであることは読み取っておられることだろう。迷うことなく,同作が本命◎である。他はドングリの背比べだが,『プーと大人になった僕』だけは,なぜこれが候補作になったのか理解できない。多分,ディズニー配給網内での派閥力学によるで,(マーベルやルーカスでない)ディズニー本家の枠なのだろう。マーベル軍団からは『ブラックパンサー』か『アントマン・アンド・ワスプ』がノミネートされても不思議はなかったと思うが,前者は作品賞,監督賞等,9部門の候補作なので,ここは『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』を代表選手にしたのだろう。よって,他3作品の中では,物量作戦と同軍団のVFX分野への貢献に敬意を表して,『アベンジャーズ…』に○を付しておこう。 | |||||||||||||||||||
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未見であった『ビール・ストリートの恋人たち』を,公開日の今日の朝一,映画館で観てきた。『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督らしい映画だ。人間模様の描写も主人公の母親役のレジーナ・キングの演技も玄人好みだ。個人的には好きになれない映画だが,助演女優賞でも脚色賞でも有力候補で,票を入れるアカデミー会員は少なくないだろうなと感じた。 作品紹介は,少し後追いで「19年Web専用記事#1」に書くので,ご覧頂きたい。 | |||||||||||||||||||
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以上をまとめると,以下のようになる。(2019年2月22日改)
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ご存知のように日本時間で2/25(月)朝から次々と授賞作が発表された。例年月曜の午前は会議中が多く,内職でWebページ上での結果発表を覗き込んだり,各配給会社から電子メールで舞い込む受賞の報を眺めたりで,盛り上がりを感じていた。 色々独自の視点で考えたつもりだったが,上記の予想を再読すると,無難な予想になってしまったというのが実感だった。混戦と言いながら,終盤には,作品賞は『ROMA/ローマ』vs.『グリーンブック』の一騎打ちとするムードであり,筆者もその通りになってしまったからである。 それでも,本命の『グリーンブック』が勝ち,同作が助演男優書,脚本賞の3部門でオスカー獲得と予想した通りになったので,少々いい気分であった。 以下,もう少し詳しく分析してみよう。 ■ 19部門中の15部門が概ね的中で,まずまず満足な結果 「★が受賞」:主演男優賞,助演女優賞,作曲賞,音響編集賞 6部門にこの「穿った予想」の★をつけて,4部門が的中。脚色賞は後述のように不戦敗であり,録音賞は◎が受賞した。特に,主演男優賞のラミ・マレックは,「私は相応しくないと思うが,多分そうなるだろう」と思っていた。こうなると,このアカデミー賞会員の好みを読む予想は,本命◎より上で,強力とも言える。3部門に★と◎の両方をつけてしまった上に,いずれでも当たったというのはフェアでないので,次回からは★を付す場合は,◎や○はなしで,他は☆だけにしようかと思う。
「○が受賞」:主演女優賞 一応○は付したものの,◎や★も挙げているので,これは「外れ」同然だと思う。 「☆が受賞」:なし 5部門,6候補に,「無理だと思うが,獲らせたい」と思う☆を付けたが,この「願望」は全く実現しなかった。 「印なしが受賞」:脚色賞,衣装デザイン賞,美術賞 脚色賞は,未見の『ブラック・クランズマン』が受賞したので,これは不戦敗と言わざるを得ない。衣装デザイン賞,美術賞は『女王陛下の…』を推していたが,共に『ブラックパンサー』が受賞したので,こちらは完敗である。 ■ 万遍なくオスカーを配るとは,アカデミー賞も「忖度」の世界か? 完敗と書いた上記の『ブラックパンサー』の受賞は,当初から「これも『ボヘミアン…』も,その見返りに音関連の技術賞を獲るかも知れないが…」と消極的予想をしていたので,それが衣装や美術に回って来ただけで,(負け惜しみでなく)あまり外れた感じがしない。 『女王陛下の…』は主演&助演女優賞に3人もノミネートされていたので,それを外しても,衣装や美術で評価されるだろうと思ったのが,主演女優賞を獲ってしまった。それなら,衣装デザイン賞,美術賞まで与える必要はない……という訳ではないだろうが。 現在6千名以上と言われるアカデミー会員の投票方式は詳しく知らないが,作品賞は全員に投票資格があるとしても,確か他の各部門は専門別のはずである。となると部門間の調整は難しいし,事前投票であって,当日その場で審査する訳ではないから,他部門の受賞を見てからの調整はできない。 それとも,その投票段階で根回しが行われたり,空気を読んだ「忖度」があったり,最後の決定段階で大きな力が働いたりするのだろうか? 非白人や女性会員が少ないとの批判が相次いだため,会員構成も見直されたというが,所詮はショービジネス界の見世物である以上,そんな調整が行われていたとしても不思議はない。 今年は『ROMA…』と『ボヘミアン…』の扱い,上記の『女王陛下の…』と『ブラックパンサー』の関係を考えると,そうした調整の産物かなと思えてきた。結果をよく見ると,作品賞候補作8本は,少なくとも1つの部門で受賞しているのである。そう言えば,作品賞候補作8本で,混戦といわれた第87回(2015年)も同じことが起っている。そりゃ,そうした方が,各社に宣伝材料を与えることが出来て,好都合に違いがない。 目くじらを立てたり,公平さを求めて騒ぐほどのことでもないが,来年以降もそうした目でこの「お祭り」を見るのも一興だ。 | |||||||||||||||||||
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