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O plus E 2020年Webページ専用記事#1
 
第92回アカデミー賞の予想
   
   
 
今年は2週間早まった。ノミネートは有力作に集中傾向。
 

(2020年1月28日記)

 
 
 

 2004年(第76回)以降は,現地時間で2月最終日曜日の夜(日本時間で翌月曜日昼)(ただし,冬季五輪開催年は1週間遅れ)に開催されていた授賞式が,(理由は知らないが)今年は2週間も早まった。即ち,2月9日夜(日本時間 2月10日昼)に受賞作が発表される訳である。
 O plus E誌の隔月刊化に伴い,一昨年から本誌掲載を断念してWeb専用ページで載せることにしたので,紙幅を気にせずに書けるようになった。同時に,駄文のへぼ予想が有料読者の目に触れるのは申し訳ないという気持ちもなくなったので,好き放題,毒舌を交えて書くことにした。今年も同様である。
 1月12日に発表された候補作一覧を見ると,2桁ノミネート作品が4本もある。
 ・11部門 『ジョーカー』(19年9・10月号)
 ・10部門 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(同Web専用#4)
 ・10部門 『1917 命をかけた伝令』(20年Web専用#1)
 ・9部門(10候補)『アイリッシュマン』(20年1・2月号)[助演男優賞部門に2人]
である。これに続いて,6部門ノミネートも4本ある。ここまで多数ノミネートが揃うのはちょっと珍しい。その原因は,監督賞,演技賞部門のみならず,技術賞部門の大半も「作品賞」ノミネート作品で席捲されているからである。即ち,撮影,美術,衣装,録音,音響編集等々の部門でも,ある特定の点だけが優れている作品は選ばれず,映画全体の評価が高い有力作の中からばかりノミネートされている。このため,多部門ノミネート作が増えている訳だ。配給会社の事前運動,票集めの結果,有力作だけにアカデミー賞選考委員会の注意が向いているという気がする。
 昨年は,作品賞候補作8本で無冠に終わったものはなく,全作が何らかの部門で受賞していた。逆に言えば,最多が4部門受賞で,突出した受賞作がなかった。ある種の調整作業が働いていたと感じられた。今年も類似の結果になると予想しておこう。
 予想の印は,昨年と同様に下記である。今年は,同部門に◎と★を入れなかった。後で,いずれを「予想的中」とするのかの曖昧さを避けたためである。
 ◎:世評を考慮した比較的素直な予想での「本命」
 ○:同上の意味での「対抗」となる作品
 ☆:自分ならこれに投票する,これを選んで欲しいという「願望」
 ★:ひねくれ者のアカデミー会員ならこれを選ぶのではという,少し穿った「予想」

 
 
部門毎の予想と個人的願望

 
  ●作品賞部門:昨年は8本しかノミネートされなかったが,今年は以前と同様,9本がノミネートされている(規程は10本以内)。宣伝依頼だけで,試写案内を寄越さない『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(3月公開予定)だけが未見で,他の8本は見終えている。過去10数年間,前哨戦と言われるゴールデングローブ賞(以下,GG賞)で大本命が受賞した年は,へそ曲がり揃いのアカデミー会員はそれを外すことがしばしばあった。ところが,今年はGG賞のドラマ部門で,本命視されていた『アイリッシュマン』も,対抗扱いだった『マリッジ・ストーリー』(19年Web専用#6)も外れ,伏兵の『1917』が受賞してしまった。こうなるとアカデミー会員は,むしろGG賞の逆を行くか,さらに意外な候補作に向かうとも考えられる。そこで,一気に本命不在の混戦レースとなり,各誌や映画サイトの予想合戦にも熱が入っている。個人的には,前哨戦の映画祭で評判の高かった『アイリッシュマン』が最も重厚で,オスカーに値すると感じる。勢いは『1917』で,IMAX上映での評価が頗る高いという噂だが,試写は普通のスクリーンでしか観ていない。本邦では公開前なので,劇場でIMAX版を観るまでは正しい評価は下しようがない。ただし,「Netflix配信 対 IMAX上映」ならば,映画業界内では後者に分があるとも考えられる。一部で評価の高い韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(19年Web専用#6)も優れた作品だと思うが,これは「国際映画賞」止まりだろう。
 ●監督賞部門:『アイリッシュマン』に最大の評価を与えている以上,マーティン・スコセッシ監督を推すのが筋だが,既に『ディパーテッド』(07年2月号)で念願のオスカーを得ているので,再受賞はないと見る。未受賞者の中では,『ワンス・アポン…』のクエンティン・タランティーノに獲らせたいところだが,今回は対抗止まりで,GG賞で監督賞も受賞した『1917』のサム・メンデスを本命にしておく。
 ●主演男優賞部門:候補5本の内,『ペイン・アンド・グローリー』(初夏公開予定)だけ未見だが,アントニオ・バンデラスの演技がどうであれ,ここは『ジョーカー』のホアキン・フェニックスがぶっちぎりの大本命だ。競馬で言えば,単勝110円配当に相当する。『2人のローマ教皇』(19年Web専用#6)のジョナサン・プライスも素晴らしい演技だったが,対抗印はつけない。
 ●主演女優賞部門:世評通りで無難な予想と言われるだろうが,本命◎は『ジュディ 虹の彼方に』(20年1・2月号)で大絶賛したレネー・ゼルウィガーで揺るがない。単勝130円クラスの本命だ。『ストーリー・オブ・マイライフ』のシアーシャ・ローナンが少し気になるが,未見だから対抗の○印はつけられない。
 ●助演男優賞部門:世評ではGG賞を受賞した『ワンス・アポン…』のブラッド・ピットで,彼の生涯最高の演技と言われている。ここで獲れなきゃ,今後は候補にもならないなと思うが,演技力,存在感ともに『アイリッシュマン』のアル・パチーノ,ジョー・ペシの2人の足元にも及ばない。2人の内では,半引退状態だったジョー・ペシに獲らせたい。ついでに言うなら,同作の主役のロバート・デ・ニーロが,何で主演男優賞部門にノミネートすらされないのか,理解に苦しむ。
 ●助演女優賞部門:世評では『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンだが,個人的には最も獲らせたくない代表格だ。役柄が全く好きになれないためだが,演技もごく標準レベルであり,賞に値する名演技とも思えない。個人的願望としては,『ハスラーズ』(20年1・2月号)のジェニファー・ロペスに獲らせたかったが,ノミネートすらされなかった。次なる願望として,『リチャード・ジュエル』(19年Web専用#6)のキャシー・ベイツに肩入れしたい。
 ●脚本賞部門:Q・タランティーノの『ワンス・アポン…』は,この部門で本命にしておきたい。『パラサイト』も脚本的には秀逸なので,外国映画のハンデを乗り越えて受賞してもおかしくない。作品賞候補作以外からノミネートされた『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(20年1・2月号)も優れたオリジナル脚本だが,上記2本には敵わない。
 ●脚色賞部門:候補5作品はすべて作品賞の対象だ。映画を観ている時は,何がオリジナルで,何が原作有りなのか気にしていないが,候補5作を目にすると,無難なところで 『ジョジョ・ラビット』(19年Web専用#6)と『アイリッシュマン』を挙げておきたい。調整力が働いて『ジョジョ・ラビット』が何か受賞するとしたら,ここしかないだろうという思いで本命にしておく。
 ●撮影賞部門:ここは『1917』が大本命で,対抗馬はない。これしか考えられない。
 ●美術賞部門:以前は「Academy Award for Best Art Direction」であったが,第85回から名称が「Academy Award for Best Production Design」に変わった。日本語では「美術賞」のままだが,美的感覚だけでなく,「Production Design」となると,こちらも『1917』が断然だ。そもそも,この部門の候補に,作品賞候補作以外から選ばれていないのが不思議なのだが……。
 ●メイキャップ&ヘアスタイリング賞部門:昨年は候補作3本だったが,今年は枠一杯の5本がノミネートされている。それだけ,語るに値するメイクが多かったということになるが,『スキャンダル』(20年1・2月号)でシャーリーズ・セロンを人気キャスターのメーガン・ケリー化けさせたメイク技が頭1つ以上抜けている。即ち,日本出身のカズ・ヒロ(旧名・辻一弘)氏が,『バイス』(19年3・4月号)に続いて,2年連続で受賞することを期待している。
 ●編集賞部門:作品賞候補作の『フォードvsフェラーリ』(同Web専用#6)に何か与えるなら,この部門だろうという消極的予想であり,願望だ。
 ●録音賞部門:作品賞候補作以外から,『アド・アストラ』(同9・10月号)がノミネートされている。そう言えば,効果音は悪くなかったなと思い出した。ブラッド・ピットの存在感はこちらの方が上だったが,さすがに「主演男優賞候補」には到底届かない。視覚効果賞候補5本にも入らなかったから,せめてこの賞くらいはという「願望」での☆印だ。
 ●主題歌賞部門:珍しく本命なしの年だ。世界レベルでの観客動員数を誇り,劇場内での観客熱唱を招いている功績を評価して,『アナと雪の女王2』(19年11・12月号)からの“Into The Unknown”が無難な本命◎筋である。GG賞でこの賞を得た『ロケットマン』(同7・8月号)からの“(I'm Gonna) Love Me Again”もほぼ同等の対抗○印である。前者は「長編アニメ部門」にノミネートされず,後者はGG賞コメディ/ミュージカル部門の主演男優賞に輝いたタロン・エガートンがオスカー候補にならなかったので,いずれかがその埋め合わせをこの部門で果たすと予想しておく。筆者は『キャッツ』(20年1・2月号)でテイラー・スウィフトが歌った新曲“Beautiful Ghosts”が優れていると感じたが,ノミネートすらされなかったのは,映画本編が余りにも不評だったからだろう。
 ●国際映画賞部門:昨年まで「外国語映画賞」(Academy Award for Best Foreign Language Film)と呼ばれていたのが,今回から「Academy Award for Best International Feature Film」なる呼称に変わった。対象作品や選考基準は,従来通りらしい。候補作5本中,2本しか観ていないのだが,『パラサイト』が受賞間違いなしと確信している。
 ●衣装デザイン賞,作曲賞,音響編集賞部門: 全く優劣が分からず,3部門とも「予想なし」としておく。強いて言えば,本編は未見だが,予告編からは『ストーリー・オブ・マイライフ』が,少し有力かなと感じた。後の2部門で『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19年Web専用#6)がノミネートされている以外は,すべて作品賞候補の中から選ばれている。いくら何でも,もう少し幅広い対象から,個別分野で優れた技巧を発揮している候補作を選ぶべきだと思うのだが……。
 
 
 
当欄にとっての主要2部門の予想

(2020年1月29日記)

 
  ●長編アニメ賞部門
 昨年まで,殆ど予想を外していない部門である。唯一,全く外したのは,5年前の第87回だった。有力作の『ヒックとドラゴン2』(14)は本邦公開されなかったので,英語盤DVDを輸入し,じっくり眺めた上で本命に推したのだが,結果はディズニー・アニメの『ベイマックス』(15年1月号)に敗れてしまった。因縁は,その4年前からあった。「第83回アカデミー賞の予想」(11年3月号)に「筆者の好みは『ヒックとドラゴン』だが,まだ同部門がない時代の1, 2の功績も加味して,『トイ・ストーリー3』が取ると予想しておこう」と書いたように,嬉しくない予想が的中したのである。
 こうした「ディズニー/ピクサー vs. ドリームワークス」の積年の因縁から言えば,今年は 『トイ・ストーリー4』(19年7・8月号)と『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(同11・12月号)の一騎打ちで,後者に肩入れするべきなのだが,今回だけは違う。断然『トイ・ストーリー4』のクオリティが高く,『ヒックと…』側にとっては相手とタイミングが悪かったと言わざるを得ない。同じディズニー系でも,『アナと雪の女王2』を入れずに『トイ・ストーリー4』を選んだのは,正しい見識だと評価したい。
 さて,ではこの2作が◎と○かと言えば,そうでもない。残る3本の内,GG賞受賞の『Missing Link』は,本邦公開が未定なので,当然未見であり,評価できない。残る2本『クロース』(20年Web専用#1)と『失くした体』(同)は,共にNetflix配信で既に紹介記事を書いた。技術的にも,前者が数段優れている。アニメ界のアカデミー賞と呼ばれるアニー賞で,『クロース』は7部門を制覇している。その勢いから,3D的な陰影を施したこの2Dアニメを,本命『トイ・ストーリー4』の対応馬としておきたい。
 ●視覚効果賞部門
 この部門こそ外しては行けないのだが,結果的に結構予想を外し,願望も達成できていないことがあった。VFX評価を専門と自負するあまり,思い入れが強すぎて,(アカデミー会員のレベルを把握しての)客観的な予想になっていなかったのだろう。今年の5候補作の内,技術的に最も高いのは『ライオン・キング』(19年Web専用#4)だが,第89回受賞作の『ジャングル・ブック』(16年8月号)の同工異曲,動物描写の発展形であるので,今年の受賞はないと読む。
 当欄としては,実在の老俳優のde-agingを,長尺映画の大半のシーンで使ったことを評価し,『アイリッシュマン』を本命◎としたい。技術的にはまだ改良の余地があるが,この技術なしに同作は有り得なかったし,映画制作を一変させる可能性を秘めていると考えるからである。
 全く異なった観点から,『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)を対抗○としておく。過去10余年間,MCU作品群は,CG/VFXをふんだんに駆使してアメコミ人気作の実写映画化を推進した。VFXで映画の一時代を盛り上げた功績を讃え,シリーズの象徴としての本作を推しておきたい。
 同じような集大成としては,『…スカイウォーカーの夜明け』をSWサーガの着地点と見て,応援したいところであるが,このEP9のスタンスが気にくわなかった。故キャリー・フィッシャーをデジタル技術で復活させて,レイア将軍をもっと重い役を担わせることは十分可能であったはずなのに,そうしなかったことが残念至極だ。もっとも,『アイリッシュマン』と『SW/EP9』のいずれが受賞しても,両作の主担当会社のILMとしては一向に構わないのかも知れないが…。
 
 
  --------------------------------------------------------
以上をまとめると,以下のようになる。
・作品賞:

☆『アイリッシュマン』

★『1917 命をかけた伝令』

・監督賞:

◎サム・メンデス ~『1917 命をかけた伝令』

○クエンティン・タランティーノ ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

・主演男優賞:

◎ホアキン・フェニックス ~『ジョーカー』

・主演女優賞:

◎レネー・ゼルウィガー ~『ジュディ 虹の彼方へ』

・助演男優賞:

★ブラッド・ピット ~『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

☆ジョー・ペシ ~『アイリッシュマン』

・助演女優賞:

★ローラ・ダーン ~『マリッジ・ストーリー』

☆キャシー・ベイツ ~『リチャード・ジュエル』

・脚本賞:

◎『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

○『パラサイト 半地下の家族』

・脚色賞:

◎『ジョジョ・ラビット』

○『アイリッシュマン』

・撮影賞:

◎『1917 命をかけた伝令』

・美術賞:

◎『1917 命をかけた伝令』

・編集賞:

☆『フォードvsフェラーリ』

・録音賞:

☆『アド・アストラ』

・メイキャップ&ヘアスタイリング賞部門:

◎『スキャンダル』

・主題歌賞:

◎『アナと雪の女王2』

○『ロケットマン』

・国際映画賞:

◎『パラサイト 半地下の家族』

・衣装デザイン賞,作曲賞,音響編集賞:

予想なし

・長編アニメ賞:

◎『トイ・ストーリー4』

○『クロース』

・視覚効果賞:

◎『アイリッシュマン』

○『アベンジャーズ/エンドゲーム』

 
 
◆付記:受賞結果を振り返って

(2020年2月11日記)

 
 ■ 今年は見事に大外れ!そう来るとは,思わなかった……。
 昨年より2週間早まり,日本時間で2/10(月)朝からの結果発表であった。会議も何もなかったので,午前10時過ぎから次々と決まる受賞結果を,一喜一憂しながら楽しんで眺めていた。昨年より外れは多いものの,まずまずこんなものかと思っていたのに,「監督賞」で愕然とした。そして,最後の「作品賞」で,完膚なきまでに「参った!」の敗北宣言であった。
 結果はご存知のように韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が両部門制覇し,4部門でオスカーを得た。「作品賞」はアジア映画としてはもとより,英語以外の映画としても初めての受賞であることが話題になっている。大本命がない年は「作品賞」「監督賞」が別作品になる傾向にあるが,そうはならなかった。
 まずは,外れた原因を分析してみよう。アカデミー賞がGG賞受賞作を避けて通る傾向は,この10年以上指摘してきたことである。ところが,そのGG賞ドラマ部門が,前評判が高かった『アイリッシュマン』ではなく『1917』を選んだため,業界内や巷間のアカデミー賞予想もかなり影響を受けてしまったようだ。筆者は,ここで逆に本格派の『アイリッシュマン』を贔屓するアカデミー会員と,そのままの勢いで『1917』を高く評価する連中に分かれると想像したのである。しかしながら,へそ曲がりのアカデミー会員たちが世評を覆すのに,一気に前例にないアジア映画を選ぶとは思わなかった。
 今でも個人的には,『アイリッシュマン』が最も優れた作品であり,アカデミー賞らしい米国映画だと思っている。少し早くから話題になり過ぎたので,それが却ってマイナスになったのかも知れない。あるいは,昨年同様,やはり最終的にはNetflix独占配信であることを嫌う会員が多かったとも考えられる。
『パラサイト』の脚本は頗る秀逸で,娯楽映画としての出来映えも超一級である。対抗や穴に推す予想も多かったし,脚本賞でも有力候補であることは分かっていた。名称を変えたばかりの「国際映画賞」の受賞は確実と思われたので,頑迷なハリウッド族は作品賞にアジア映画を選ぶことはないとの予想が大勢であった。筆者も全く同意見であった。その判断のもう1つの要因は,カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)受賞作との相性が悪かったことである。過去に両方受賞したのは,1956年の『マーティ』(55)だけだ。過去30年間を見ても,パルムドール受賞作が作品賞にノミネートされたのは,1993年の『ピアノ・レッスン』,1994年の『パルプ・フィクション』,2002年の『戦場のピアニスト』,2011年の『ツリー・オブ・ライフ』の4例に過ぎず,いずれも英語が中心の映画だったからである。両映画祭の性格が全く違うため,当然という気がした。今にして思えば,『パラサイト』がカンヌ向きでない娯楽映画であったとも言えるのだが……。
 さらに挙げるなら,今年のノミネートに対して,米国内で“Academy so white! So male!”と批判されていた影響もあると思う。即ち,数年前に非白人や女性への差別が話題になり,少し改善されたと思ったのに,また逆戻りで,白人男性ばかりだという批判の声である。数年前にアカデミー会員の構成比率が見直された。さらに上記の批判をかわすために,今年は敢えてアジアからの映画に相対的に高得点をつけた会員が多かったとも考えられる(「作品賞」は全候補作品に順位づけして投票する)。「America First」を掲げて国際秩序を乱す大統領に批判的な映画業界としては,その逆を行こうとする傾向が出たのかも知れない。
 そういう援護射撃はあったにせよ,『パラサイト』の作品賞受賞は,やはり快挙だ。こういう風に予想が外れたことを,素直に喜びたい。

■ 予想印毎の結果
 17部門に印をつけて予想したが,概ね的中と言えるのは10部門に過ぎず,過去数年で最低である。いくらお遊びとはいえ,これでは情けない。
(a) ★が受賞:助演男優賞,助演女優賞
 3部門にこの★をつけて,2部門がそうなった。筆者の好みには合わないが,おそらく受賞するだろうと思っていた結果なので,何も驚きはなかった。

(b) ◎が受賞:

主演男優賞,主演女優賞,脚色賞,撮影賞,メイキャップ&ヘアスタイリング賞,国際映画賞,長編アニメ賞

 12部門に◎を入れて,7部門で的中した。「主演男優賞」「主演女優賞」「国際映画賞」「撮影賞」「メイキャップ&ヘアスタイリング賞」の5部門は,○を入れなかった単独◎であり,誰もがそう思う大本命だったので,的中して当然だ。
 それでも,「メイキャップ…」のカズ・ヒロ氏の2年連続受賞は嬉しい。当欄が特別視する「長編アニメ賞」は,アニー賞の結果から『クロース』の株が上がっていたが,完成度の高さから『トイ・ストーリー4』を推し続けていたので,この結果は満足で,少し誇らしい。

(c) ○が受賞:脚本賞,主題歌賞
 ◎をつけた12部門の内,○は6部門にしか付けていない。接戦を予想しての保険であったが,◎も○も無印も,受賞は2部門ずつであった。的中感は全くない。上述の通り,脚本賞の『パラサイト』は全く意外でない妥当な結果であり,主題歌賞のタロン・エガートンも,やはり埋め合わせの同情票が来たなという感じだ。

(d) ☆が受賞:編集賞
 5部門に「これを選んで欲しいという願望」で☆を付けたが,この「願望予想」が当たったのは1つだけだった。昨年はゼロだから,ましな方だ。

(e) 無印が受賞:作品賞,監督賞,美術賞,録音賞,視覚効果賞
 今年の予想が全く完敗である証拠が,この5部門の結果だ。少し惜しかったのは「録音賞」で,『1917』の紹介記事中でオスカーの有力候補部門と書いているから,○印くらいつけておいても良かったかと思う。
「美術賞」に関しては,「Production Design」という点では『1917』が断然優れているのだが,やはり従来の「Art Direction」の視点で選ばれてしまった気がする。その点では,『ワンス・アポン…』は1960年末のハリウッド周辺,映画スタジオ内の様子を見事に再現していて,業界内の票が集まりやすかったのだろう。
「視覚効果賞」は当欄にとっては特別扱いだが,「長編アニメ賞」に比べて的中率が低い。それだけ,独自の視点からの評価に思い入れがあるため,予想が外れがちなのかも知れない。受賞作『1917』の「ワンカットのように思わせる演出」では,「カット間の精巧な接合」「屋外長回し時に写り込んだ余計な事物の消去処理」等々に,かなりの分量のデジタル後処理が加えられている。それも見方によっては,ある種のVFXではあるが,高度なCG映像は殆ど登場しない。その意味で,少し目先の変わった作品が選ばれ,オーソドックスなVFX作品が選ばれなかったのが少し残念だ。「美術賞」と逆の結果になってしまった。
 
 
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