head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
titletitle
 
O plus E 2022年3・4月号掲載
 
 
SING/シング:ネクストステージ』
(ユニバーサル映画/
東宝東和配給)
      (C)2021 Universal Studios
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月18日よりTOHOシネマス日比谷他全国ロードショー公開中]   2022年2月10日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
私ときどきレッサーパンダ』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C)2022 Disney/Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月11日よりディズニープラスで独占配信中]   2022年3月11日 Disney+映像配信を視聴  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  春休みを彩るCGアニメ界のライバル2社の最新作  
  例によって,フルCGアニメのライバル2作品をまとめて語るコーナーである。と言ったものの,コロナ禍でまともな映画興行ができなかったためか,『アナと雪の女王2』と『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を並べた2019年11・12月号以来のこととなる。
 以前は,鉄壁のディズニー&ピクサー組に挑むのはドリームワークス・アニメーション (DWA)作品であったのに,最近は「ミニオンズ」のイルミネーション・スタジオ作品であることが多い。本作もしかりだ。ただし,興行成績でこの2作の結果を比べることはできない。 『SING/シング:ネクストステージ』は普通に劇場公開されるのに対して,『私ときどきレッサーパンダ』は映画館での上映がなく,最初からDisney+でのネット配信だけであるからだ。
 同伴の保護者の入場料も当てにできる春休み興行はドル箱だと思ったのだが,Disney+で安定した定額配信料金で稼ぐ方が,営業戦略としては上位になるのだろう。
 本稿では,今回の興行収入までは考えず,純粋に映像コンテンツとしての出来映えを評価しよう。
 
 
  歌謡ショーアニメは人気も高く, 続編の品質も上々  
  前作の『 SING/シング』(17年3月号)の公開日は5年前の同一週であった。米国では前年のクリスマス・シーズンの公開を,本邦では春休みまで待機させるのは,本作も同じパターンである。別シリーズの『ペット』(16年8月号)は前年の夏休みの公開,『ペット2』(19年7・8月号)が3年後の2019年夏休み公開であったことを考えると,本作は一昨年の公開を予定していたと思われる。コロナ禍で劇場公開を自粛したというより,オンライン作業での製作が遅れてしまったようだ。
 5年前,筆者は前作の大ヒットを予想できなかった。当欄でカップリングした前週公開のディズニーアニメ『モアナと伝説の海』(17年3月号)を超えられないし,前々週公開の『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』(07)にも負けると思っていた。ところが,公開週にNo.1になっただけでなく,その後も4週間首位を明け渡さなかった。興行収入は51.1億円に及んでいる。
 読み違えたのは,いくら「ミニオンズ」で知名度が上がっていても,「ミニオンズ」自体が出てこない以上,日本では興行的に成功しないと思ったからだ。ましてや,別路線『ペット』がある以上,同じ動物ものは不利なはずだ。誰もが知る名曲の数々といっても,映画業界だけでなく,音楽業界も「和高洋低」の傾向がある以上,日本の市場ではアピールすると思わなかったのである。
 勿論,米国でも高い人気をキープしている。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年Web専用#1)というお化けヒット作があったため,首位は飾れなかったが,本稿執筆時点で本作は11週間連続Top10圏内にいる。「第94回アカデミー賞の予想」ページで述べたが,今年から映画ファンの人気投票部門が新設されている。その中間発表では,多数のノミネート作を押しのけて,堂々Top 10入りを果たしている。誰にも愛されるシリーズになっているということだ。
 当欄は前作を「キャラの造形と選曲のセンスの良さが光る」と評している。その特質は,この第2作目にも継承されている。倒産寸前の劇場を建て直した支配人(コアラ)のバスター・ムーンが,本作では,エンターテインメントの聖地レッドショア・シティに進出し,同地での公演を成功させようとする物語となっている。
 彼をはじめ,ヤマアラシのアッシュ,象のミーナ,ゴリラのジョニー,豚のグンターとロジータ,イグアナの老女のミス・クローリー等の面々はそのまま登場する(CGキャラはこういう時に便利だ)(写真1)。彼らは既に親しみをもって見ていられるので,同じ路線で新たに個性的なキャラを追加すれば,作品の完成度はますます上がる。その代表的な存在は,元ロックスターで,レジェンド的存在のライオンのクレイ・キャロウェイ(写真2)だ。妻の死後,隠遁生活を送っている彼を口説き落として出演させることが,公演を成功させる鍵というのが,本作の骨格だ。このライオンの造形や仕草の描写も見事だった。
 
 
 
 
 
写真1 見覚えがある個性的な面々がそっくり再出演
 
 
 
 
 
写真2 伝説のロック歌手クレイの圧倒的な存在感
 
 
  継続出演の動物では,アッシュのステージシーンが魅力的だった(写真3)。存在感のある象のミーナのパワフルな歌唱も変わらず素晴らしいが,内気な彼女が恋をする。優しい青年アルフォンゾとのラブシーンが初々しく,微笑ましい(写真4)。映像的には背景の山と海背景の山と海のシーンが美しい。ステージのヴィジュアルも秀逸だった(写真5)
 
 
 
 
 
写真3 女性ロック歌手のアッシュのステージは人気の的
 
 
 
 
 
写真4 内気なミーナとアルフォンゾのラブシーン
 
 
 
 
 
写真5 ステージを彩るビジュアル演出も一見の価値あり
(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
 
 
  女性クリエーター達が生み出した青春アニメの逸品  
  本号の短評欄では女性監督作品にスポットライトを当てたが,最近の映画界では,女性が監督・脚本,女性が主人公の作品が面白く,勢いがあると感じている。単に女性の社会的地位が向上し,業界内での比率が増しただけではない何かがありそうだ。女性ゆえの物語展開,題材選択,女性ならこういう行動をとるという筋立てが,それまで男性主人公中心であった映画脚本に新風を送り込んでいるゆえ,男性観客が観ても面白いのだと推察する。本作などは,まさにその典型的な秀作だと思う。
 上記『Sing 2』(原題)のカップリング対象は,本家Walt Disney Animation Studios (WDA)の作品でなく,傘下のピクサー作品で,長編の25作目に当たる。「ディズニープリンセス」という称号まであるように,WDA作品では女性主人公の方が優勢だ。ところが,ピクサー作品では男性主人公が圧倒的だった。『トイ・ストーリー』シリーズのウッディとバス,『カーズ』シリーズのマックィーン,『モンスターズ・インク』シリーズのサリーとマイク等,全て男性キャラだ。単発ものも,カールじいさんルカも男性,動物までニモレミーは牡である。女性主人公は,過去24作中でメリダと(ニモのサブキャラの)ドリー,そして『インサイド・ヘッド』(15年7月号)の5人の内の3人に過ぎない。長編アニメの女性監督も,『メリダとおそろしの森』(12年8月号)の共同監督であったブレンダ・チャップマンただ1人である。
 そこに登場した本作の監督・脚本は,中国生まれで,現在はカナダ国籍のドミー・シーだ。ピクサーでは初の長編の単独監督の上,彼女が描いた世界は,1990年代のカナダ・トロント市にあるチャイナタウンである。主人公はそこに住む13歳の「マジメで頑張り屋な」女子中学生メイリン・リー(愛称:メイメイ)だ(写真6)。最近ディズニー系の映画では, 『ムーラン』(20年9・10月号)『ラーヤと龍の王国』(21年Web専用#1) 『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21年Web専用#4)と,中国ものが続いたが,遂にピクサー・アニメも中国系女性主人公の作品になった訳である。ネット配信で視聴すると,続いてメイキング映像が流れるが,本作の製作では,監督だけでなく,主要チームのリーダーは全員女性であった。
 
 
 
 
 
写真6 主人公のメイメイは13歳の女子中学生
 
 
  彼女らの生み出した物語では,メイメイが朝目覚めたら,何と身長2mの赤いレッサーパンダに変身していた(写真7)。『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』(22年1・2月号)のシーンを思い出すが,あちらはペットが突然大きくなったのに対し,本作では主人公自身が変身する。すぐに周囲の人気者になることも,楽しい青春ファンタジー映画であることも共通だ。
 
 
 
 
 
写真7 ある朝起きたら,こんな姿になっていた
 
 
  邦題の『私ときどき…』は,語呂が良く,素晴らしいネーミングだ。それだけで,一体何が起こるのだろうと楽しい予感がする。ヒットしたCGアニメ『くもりときどきミートボール』(09年10月号) を模したのかもしれない。同作の原題は『Cloudy with a Chance of Meatballs』だったが,既に出版されていた絵本の邦訳名をそのまま使ったものだった。映画業界人より,出版業界人の方が言語能力が高いためか,しばしば素晴らしい意訳に遭遇する。
 本作の原題は単純な『Turning Red』だ。確かにメイメイの変身後の体毛は赤い。現実のレッサーパンダの体毛は赤褐色で,胴体部は黒に近いが,明るい赤の方が映画のキャラとしては適している。縫いぐるみグッズ市場で,人気することだろう。中国のシンボルとしてなら「ジャイアントパンダ」にすべきだとの声もあるだろうが,それじゃライバルDWAの『カンフー・パンダ』シリーズの後追いになってしまう。縫いぐるみも普通のパンダじゃ,何の新鮮味もない。その意味では,「レッサーパンダ」は実に賢い選択だ。
 最初は誰もが驚いたが(写真8),次第にメイメイは感情を抑えることで変身を部分的に留めることができ(写真9),やがて自由に変身を制御できるようになる。一躍人気者になり,一目見たい人々も増えてきた。となると,当初は驚いていた親友の3人とともに,この変身を資金獲得に利用することを思い立つ。人気のアイドルグループ「4★TOWN」のコンサートの入場料が足りなかったからだ。
 
 
 
 
 
 
 

写真8 最初は親友たちも驚いたが,やがて人気者に

 
 
 
 
 
写真9 ニット帽と体毛のモフモフ感が見事にマッチ
 
 
  友人3人の描き分けも好い出来だった。リーダー格のミリアムは,おそらく普通の西洋系のカナダ人,ブリヤはインド系,アビーは韓国系である。肌の色だけでなく,髪形,体型,性格や発言内容など,女性クリエーターたちが自分たちの友人を思い浮かべて類型化したのだろう。男性の級友たちに比べて,遥かにきめ細かく描かれている。
 一方,彼女らが夢中になるアイドルグループ「4★TOWN」は,5人組なのに,なぜかこの名前だ。歌って踊る様は,そうした分野に弱い(全く興味がない)筆者には日本のジャニーズ系と同じように見えたが,おそらくK-POPのスターたちを意識して描いているのだろう(写真10)
 
 
 
 
 
 
 

写真10 これが,憧れの4★TOWNのライヴステージ

 
  CGのレベル的にはもはや特筆するものはないが,演出的にはニットの質感,変身後の体毛のモフモフ感が素晴らしく,両者が見事にマッチしていた。眼鏡のフレーム等の金属の質感も素晴らしい。人物像は彩度が高く,背景の景観はパステル調のソフトフォーカスに統一していることも印象的であった(写真11)。1990年代後半のトロント市街やチャイナタウンの様子など,細かな事物や装飾まで丁寧に描かれていた。そうそう,メイメイの父ジンが作る中華料理が,実に美味しそうだった。
 
 
 
 
 
写真11 背景はパステル調のソフトフォーカスで描写
(C)2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 
 
  ()
 
 
  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
Page Top
sen  
 
back index next