head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2007年8月号掲載
 
 
 
レミーのおいしいレストラン
(ウォルト・ディズニー 映画/
ブエナビスタ配給 )
 
      (C)Disney/Pixar  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [7月28日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年7月6日 リサイタルホール(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  デザインは繊細,ストーリーは大胆,Pixar最高傑作!  
 

 本欄の長年の読者なら,和製セル調アニメ(ジャパニメーション)に点数が辛く,フル3D-CGアニメ,特にピクサー作品に高評価を与えがちであることに気づいておられるだろう。先入観や依怙贔屓は良くないと,厳しい目で観るのだが,毎度少しずつ予想を上回る向上や心憎い演出が見られるので,ついつい褒めてしまう。
 さて,『Mr.インクレディブル』(04年12月号)『カーズ』(06年7月号)とぎんぎんにアメリカ,アメリカしていた世界から,お洒落なパリに舞台を移したこの作品は,予想を遥かに上回る良質の作品だった。まさにピクサーの最高傑作,いやフルCGアニメ史上の最高の逸品で,来年のオスカー受賞は確実だろう。☆☆☆どころか,例外的に☆☆☆☆をつけたいくらいだ。
 まず,他社フルCGアニメが,動物たちの自然回帰だの極地のペンギンだのと,同工異曲のネタに終始しているのに対して,カー・レースの次はフランス料理をネタにするという発想の転換が憎らしい。企画下手で後手後手に廻っているSony Pictures Animationには,少しその知恵を分けてやりたいくらいだ。
 天才的な嗅覚と味覚をもち,いつかパリ一番のシェフになることを夢見るネズミと,一流レストランには入り込めたものの,料理が空っ下手という見習いコックの組み合わせが秀逸だ(写真1)。先月号で,人気シリーズの枠組みに縛られてストーリー上の冒険ができなくな った『シュレック3』の限界を論じたが,この作品はまさにその逆で,キャラ設定や物語展開の自由度を満喫し,スタッフ達のもてる企画能力,デザイン力の高さを存分に発揮している。それが1作毎にテーマをガラッと変えてくるピクサー作品の強みだ。
 クリエイティブ能力の高い人材を数多く抱えて,その才能を発揮させる分業体制も嬉しい悩みだろうが,パリの街を舞台にしたのも正解だ。町全体の眺望(写真2)も,窓越しに見える夜景も,セーヌ河畔をバックに繰り広げられるシーンも最高だ。雨に濡れた石畳の描写も素晴らしい。背景の繊細な描写に見とれて,思わず物語の展開を忘れてしまう。その意味では,絵作りを味わうなら,字幕版でなく吹替え版の方がいいだろう。  

 
   
 
写真1 一流レストランの厨房でのこの組み合わせが絶妙
 
     
 
写真2 随所に登場するパリの町は,まさに芸術的
 
  ()  
  キャメラワークや照明は伝統的映画技法を踏襲  
 
料理を描いた映画というので,久々に役の復活です。今回は料理好きの女子学生です。
楽しい映画ですね。厨房の様子や食材の描写がリアルなのに感心しました(写真3)。レミーがスープを作る際のスパイスの種類と組み合わせ,鍋に入れるタイミングやスピードも,料理の基本に忠実です。料理に合わせて,火加減もきちんと描き別けてありました。
原題の『Ratatouille(ラタトゥーユ)』は,フランスの家庭料理らしいね。その作り方も正しかった?
ナスやズッキーニといった素材はそうですが,作り方は斬新でした。普通はごった煮なのですが,野菜を薄くスライスして,盛りつけが綺麗でした。それでいて素材の味がしっかり生きていそうで,見事です!
フレンチの鉄人・石鍋裕氏が翻訳監修していますね。とにかく,どの料理も美味しそうでした。
美味しそうに見せる秘訣として,照明の当て方が上手だったように思います。今までのCGアニメにはない演出に見えましたが,新しい技法なんですか?
授業で教えた単純なレイトレーシングやラジオシティ法じゃ無理です(笑)。実写映画の照明術を取り入れていますね。CG空間をスタジオに見立てて,どこに何ワットの照明を置くのか,かなり工夫しています。
間接照明の使い方も上手いなと感じました。背景をぼかすズームレンズの効果も,多用されていました。
人間の目線の場合とレミーの目線の場合で,キャメラやレンズを使い分けている感じがしますね。普通に人物を捕らえていながら,最後に少し寄ったり,静止しているはずのシーンで,わずかにキャメラが微動したり,従来にも増して徹底的に実写撮影を模しています。
だから,普通の映画のように見やすいんですね。デフォルメされた人物(写真4)以外は,CGアニメであることを忘れて観てしまいました。
勿論,公開週末は『ダイ・ハード4.0』を抑えて米国No.1ですが,これだけの作品なのに,過去のピクサー作品に比べて興行的には今イチのようです。
味音痴の野蛮なアメリカ人には,この映画の良さが分からないんでしょう(笑)。日本じゃ大丈夫です。
 
     
 
 
 
写真3 厨房の様子も,一分の隙もなく描き込まれている
 
     
 
 
 
写真4 登場人物はデフォルメされていて,いずれも個性的
(C)Walt Disney Pictures/Pixar Animation Studios. All Rights Reserved
 
   
  (画像は,Web掲載可能なものだけに制限されています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br