head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2002年2月号掲載
 
 
star star purasu
『モンスターズ・インク』
(ウォルト・ディズニー映画
/ブエナビスタ配給)
 
      (c)DISNEY/PIXAR  
  オフィシャルサイト[日本語][英語   (2002年12月25日 ブエナビスタ試写室)  
         
     
  世界最高レベルの物理シミュレーション  
   昨年前半の大ヒット作品,ドリームワークス&PDIの『シュレック』を迎え撃ったディズニー&ピクサー組の新作である。長編フルCGアニメ史上では7作目,彼らにとっては4作目に当る。
 今回のテーマは,人間の子供たちを驚かせてその悲鳴のエネルギーを吸い取るというモンスターの会社だ。デザインされたモンスターは50種類というが,いかにも最初からキャラクター・ビジネスを想定した設定である。中でも,主役は実績No.1の怖がらせ屋のジェームス・P・サリバン(サリー)と親友のマイクのコンビで,今後も『トイ・ストーリー』のウッディとバズのような売り方をして行くのだろう(写真1左)。
 モンスターシティは魔法のドアで子供部屋のクローゼットの奥に繋がっているが,人間やその持ち物を持ち込むことは禁じられている。ところが,ここに人間の女の子ブーが紛れ込んで来たことからモンスターシティは大騒動になる。この推定年齢2歳というブーが実に可愛い。静止画で見るとそうは思えないだろうが,声が特に可愛く(声優は5歳のメアリー・ギブス),愛くるしい仕草と見事にマッチしている。この子を守ろうとするサリーに感情移入し,一喜一憂すること請け合いだ。最後はディズニーらしいハッピーなオチで,少し毒のある『シュレック』よりもファミリー向きになっている。
 監督は,これがデビュー作になる若手のピート・ドクター。『トイ・ストーリー』以来監督を続けてきたジョン・ラセターの秘蔵っ子で,今回ラセターと相棒のアンドリュー・スタントンは製作総指揮で後見役に回った。既にピクサー社はCGアニメの大ブランドとなったが,後継者育成も万全のようだ。
 この作品のメイキングは昨年のSIGGRAPHで聴いていたので,技術のセールスポイントは事前に分かっていた。それを考慮してもなお,下記のように細部の仕上げに感心させられた。本時評の読者には必見作品である。
 ■映画の出来もCG技術の先進性も『シュレック』と甲乙つけがたい。あちらはアウトドアに力点がおかれ,水,泥,木,群集の表現を得意としていいるが,こちらは屋内中心で,キャラクターのデザインに力が入っている。子供部屋の物の質感やラィティングの微妙さは『トイ・ストーリー』以来の伝統で,質的向上の結果がよく分かる。こういう競争は大いに結構だ。
 ■最大の見どころは,何と言ってもサリーの体毛の表現である。200万本以上の体毛を,よくぞまあここまで描いたものだ!毎度の感嘆詞であっても,改めてCG技術の進歩のほどに感心する。幾何形状モデルに28,000本の基本ヘアーを配置し,内挿で2,320,413本にする(写真2左)。ブルー基調のデザインも素晴らしく,縫いぐるみ人形としてもいい出来栄えだ。
 ■この毛は静止画で見ても凄いが,動画だともっと感心する。皮膚と毛の間はバネ・モデルで連結されているので,サリーの動きにフィットして揺れる。毛と毛の衝突も計算されている。1秒24コマ分を計算するのに約10分かかるそうだが,それだけで生成できるようになったのかとコンピュータの進歩にも感心する。サリー以外には別の毛色のモンスターとヒマラヤの雪男(写真1右)が毛むくじゃらで登場するが,これは,1種類だけじゃなく何でも作れるぞというアピールだろう。
 
     
 
写真1 (左)マイクとサリー,(右)ヒマラヤに住むイエティ
(c)DISNEY/PIXAR
 
     
   ■もう1つのウリはブーの衣服だ。わざと長めのニットのTシャツにして,皺やたわみを強調している(写真2右)。『シュレック』のフィオナ姫のスカートひらひらも良かったが,ブーのTシャツはかがんだりジャンプした時に威力を発揮する。ポリゴン単位で布にかかる力をモデル化し,布同士,布と身体の衝突まで計算するので,手法的にはこちらがずっと上だ。写実的な動きを描けるパワーを得てから,それをアニメ・キャラらしい動きにデフォルメしているというのも心憎い。
 ■体毛と衣服の表現は別の技法のように見えるが,もとは同じだ。短編『ゲーリーじいさんのチェス』で作った衣服シミュレーション・プログラムを全面改良したFiztなるダイナミック・シミュレータが用いられている。これを開発したのは3名の科学者(M. Kass, A. Witkin, D. Braff)で,MAYAのクロス・シミュレータも彼らが開発したソフトである。他にも,レースのカーテンや羽毛布団の動き,蒸気,ぶつかって弾むボールなどに,物理シミュレーションのレベルの高さを感じた。
 ■絵だけでなく効果音も素晴らしかった。ルーカスのスカイウォーカー・サウンドを駆使して,サリーの歩く音には重量感を感じるし,ロッカーの扉の開閉や雪玉が当ってくだける音にも物理現象を感じてしまう。
 
  ()  
     
 
写真2 ダイナミック・シミュレータFiztで 生成した体毛と衣
(c)DISNEY/PIXAR
 
     
  アカデミー賞でも両雄激突   
 
事前に写真で見ていた時よりも,サリーの毛は凄かったです。アップで見ると,毛が一方向に揃っているところや微妙に乱れてるところがあり,ちゃんと使い分けられているのに驚きました。
日本レストランの急須や湯呑み,ブーの部屋のフローリング,ロッカーの扉の傷や金具の汚れ,トイレのドアの欠けや蝶番,ヒマラヤの雪洞においてあった木箱など,細部もしっかり描き混んでありましたよ。
その中をジェットコースターのように駆け抜けるシーンは,アングルもスピード感も最高で圧巻でした。
凄すぎてスチルを提供してくれませんが,過去最高のCGアニメーション・シーンと言っていいでしょう。ディズニーランドのアトラクションに最適です。
そこまで褒めているのに,評価はじゃなくて,『シュレック』より下ですか?
う〜ん,迷ったんですけどね。『シュレック』は前作の『アンツ』との差分値で評価してしまうのに対して,こちらはピクサーの実力ならこれくらいは当然だろうと(笑)。いい映画ですが,インパクトは少なく,歴史に残るほどではないでしょう。
ちょっと真面目で,パロディやギャグも控え目でしたからね。アイデアはドラえもんの「どこでもドア」なので,モンスターが人間界でもっと失敗して騒動を起こした方が面白かったと思います。
私は,水木しげるの妖怪の世界を想像してたんです。モンスターが個性的でもっと活躍すると思ったのに,主役のコンビと敵役のランドール・ボッグス以外はあまり目立ちませんでした。でも,モンスター会社という設定だから,2作目には今は作れないモンスターを登場させてもいいので,もっと面白くできるでしょう。
そういう計画があるのですか?
いや,次回作は2004年公開の『The Incredibles』だそうです。今年からアカデミー賞に長編アニメーション部門ができたので,その行方によっては続編を割り込ませる可能性はありますね。
きっと『シュレック』との一騎打ちになるんでしょうね。楽しみです。  
 
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br