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O plus E誌 2016年8月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『カンパイ!世界が恋する日本酒』:題名通り,日本酒の魅力を世界に伝えようというドキュメンタリー映画だ。海外向けの洋画仕立てだが,監督・脚本・編集は小西未来で,スタッフも大半は日本人である。多数の酒造り関係者へのインタビューではなく,日本酒作りに魅せられた3人を中心に描いている。新時代を担う日本人の蔵元,英国人の杜氏,米国人の日本酒伝道師という組み合わせが面白い。この3人の個性がよく描けている。杜氏や蔵人を主人公にした小説やコミックも多いが,本作はドキュメンタリーの魅力が十分に出ている。ただし,95分という限られた尺の中,東日本大震災のエピソードまで入れる必要があったのだろうか? 観るのが,思い出すのがつらい。大震災の凄まじさ,地元産業に与えた多大な影響は他作品に任せ,本作には,日本酒の魅力だけに集中して欲しかった。
 『生きうつしのプリマ』:主人公はドイツ人の女性ジャズ歌手。ある日,亡くなった母にそっくりのオペラ歌手の存在を知り,彼女はNYへと向かう。母の隠された秘密を求めて,やがてイタリアへと……。ドイツ映画でドイツ語中心だが,英語,イタリア語の会話も登場する。殺人事件はないが,出生の秘密,家族関係の有無を探る,れっきとしたミステリーだ。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督自身の体験に基づく不思議な話とあって,脚本にも力がこもっている。ミステリーではあるが,謎の論理的追求より,女性監督らしい優しさに満ちていて,宮部みゆき作品のような趣きを感じた。NYで新たな恋人を作るという展開も,いかにも女性監督の視点である。主演女優のカッチャ・リーマンには熟女の魅力があるが,歌手としてもなかなかの実力だ。
 『ロング・トレイル!』:昨年紹介した『わたしに会うまでの1600キロ』(15年9月号)は,若い女性が自己再発見のため,自然歩道をひたすら歩く米国縦断の旅だった。同作が西海岸に近い「パシフィック・クレスト・トレイル」だったのに対して,本作は米国東部アパラチア山脈に沿った「アパラチアン・トレイル」を歩く老人男性2人組の旅である。製作兼主演は,1936年生まれで,今年80歳になるロバート・レッドフォード。1951年生まれの紀行作家ビル・ブライソンが40代後半に実体験したことを,この年齢で演じようというのに畏れ入る。老人バディものの相棒に選ばれたのは,1941年生まれのニック・ノルティ。見た目も性格もまるで正反対の2人の織りなすロード・ムービーは実に楽しい。そういえば,N・ノルティは元祖バディもの『48時間』(82)でのエディ・マーフィとの共演が印象的だった。本作は2日間よりずっと長く,贅沢な時間だ。
 『秘密 THE TOP SECRET』:邦画の意欲作で,短評欄で扱わざるを得ないのが残念至極な大力作だ。監督は『るろうに剣心』シリーズの大友啓史。さすがの出来映えで,スケールも大きく,少女コミックが原作とは思えない骨太作品である。死者の脳内に残存している過去の記憶を可視化して犯罪捜査に利用するという設定のSFだが,映画中では時代は明示されていない。原作では2060年前後,雰囲気は現代に近い。科学警察研究所法医第九研究室の美術セットがよくできているし,手術シーンの描写も極めてリアルだ。それゆえ残念なのは,脳内記憶をデジタル記録し,可視化するなら,直接映像モニターに出せるはずなのに,一旦別人物を経由するという設定にしたことである(これは,映画だけの演出)。主演の生田斗真と岡田将生のコンビは,原作に近いイメージで,いいキャスティングだ。大森南朋の刑事とリリー・フランキーの医師は映画オリジナルだが,彼らが物語に厚みをもたせている。
 『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』:フランス映画。高校1年生の落ちこぼれ学級で,真摯な女性教師が調査学習を提案し,コンテストに向かう目標を与え,心を1つにさせるという物語。それだけなら,ただの熱血教師の学園ものだが,ここで生徒達が調査する対象がホロコースト/アウシュヴィッツというので,またか…と少し引きたくなった。その分,エンタメ性は減り,重苦しいが,実話なら仕方ない。観終わって感心した点が2つある。1つは多民族国家フランスの移民の実態だ。この映画は6月23日(英国の国民投票の日)に観た。EUの苦悩が生々しく描かれている。もう1つは,荒んだ学級崩壊の模様だ。帽子,携帯電話,イヤホン,化粧,私語,居眠り…と,日頃筆者が教壇から目にするものばかりだ。洋の東西を問わず,ここまで同じとは! それらを全部含めて,これが実話だとしたら,やはりこの教師は凄い。普通なら,当然投げ出したくなる。
 『栄光のランナー/1936ベルリン』:主人公はヒトラーを怒らせた最強のランナーというので,ドイツ人選手かと思ったら,そうではなかった。米国人の黒人陸上選手で,1936年のベルリン五輪で4種目の金メダルを獲たジェシー・オーエンスを描いたドラマである。100m, 200m, 走幅跳,400mリレーでの4冠は,後年のロス五輪でのカール・ルイスと同じだ。そう言えば,彼はジェシーの再来と言われていた。ナチス・ドイツの人種差別に対する政治対立,裏取引が描かれているが,同時に米国内でもかなりの人種差別が存在したことも意味している。スポーツものとしては単純明快で,少し重みに欠けるが,CG/VFXの使い方は悪くなかった。1936年当時のNYやベルリンの街の再現は勿論,飛行船,オリンピック競技場やスタンドの大群衆の描写にも力が入っていた。メイン欄で取り上げて語りたかったのだが,残念ながら,今月号にはそれだけの紙幅がなかった。
 『ペット』:大ヒットした『ミニオンズ』(15年8月号)のCG制作スタジオの新作である。本編の前に短編『ミニオンズ:アルバイト大作戦』が付いていて,これだけで大満足だ。本編はと言えば,人間たちの留守中の,犬・猫・小鳥等のペットたちの生態を描いたコメディだというので,大いに期待した。言わば『トイ・ストーリー』の動物版であり,きっと個性的で,愛らしいペットが沢山登場してくるだろうと。その意味では違っていなかったのだが,前半さっぱり面白くなく,この物語に入り込めなかった。主人公の犬マックスが地味な上に,一度に多数の動物たちを登場させ過ぎだ。個々のキャラが把握できないし,感情移入もできない。ところが,後半から終盤にかけての盛り上げは見事で,マックスが大型犬デュークを救出するシーンは手に汗握る演出だった。結果的には,これでハッピー,ハッピー,主人公のコンビも記憶に残り,次回作も楽しみだ。
 『ストリート・オーケストラ』:ギャガ配給作品で,音楽ものというのは,本欄の定番の1つだが,外れが少ないことも大きな特長だ。本作も正しくその類いの映画で,この映画を見つけて輸入した担当者に,座布団2枚進呈したい。ブラジル映画で,舞台はサンパウロのスラム街,監督もスタッフもブラジル人だ。主演男優ラザロ・ハーモスはこのスラム街の出身で,実際の事件を経験しているエキストラが暴動シーンに登場しているというから,リアリティが高いのも当然である。物語は,挫折したヴァイオリニストのラエルチがスラム街で暮らす学生達に音楽の基本から教え込み,やがて交響楽団を誕生させるというもの。実話である。苦難を乗り越えて演奏会を目指す展開は,予想通りの感動ものだった。再起を期すラエルチが参加する交響楽団の演奏は,南米一のサンパウロ交響楽団によるものだ。劇中で何度かヒップホップも聴けるのも,粋な演出だ。
 
   
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