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O plus E誌 2003年12月号掲載
 
 
『ファインディング・ニモ』
(ウォルト・ディズニー映画/ブエナビスタ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年9月25日 梅田ブルク7(完成披露試写会)  
  [12月6日より全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  オモチャや怪獣から一転して,5作目は海の中  
   何という素敵な映画を作るのだろう。これぞまさにファミリー向け映画のお手本である。暴力もセックスもドラッグもなく,戦争もエイリアン襲来もカー・クラッシュも登場させずに,これだけ楽しい映画が作れるのだ。絵も脚本も素晴らしい。心が豊かになる。
 先月号で特徴のない『ティアーズ・オブ・ザ・サン』を評論家泣かせと言ったが,この映画は全くその逆だ。お馴染みピクサー社の5作目の長編フルCGアニメになる。1作ごとに向上の後が見られ,それが如実に分かるので,毎回褒めなければならない。心憎いばかりだ。
 『モンスターズ・インク』の紹介(2002年2月号)の最後に,次回作は2004年公開の『The Incredibles』だと書いたが,別チームがこの作品を製作していたのに気がつかなかった。本家ディズニー伝統のセル調アニメが最近不振なので,ピクサーのフルCG作品が完全にドル箱になってしまった。製作ペースが上がっても,質はかけらも落ちていない。
 元祖ジョン・ラセターは完全に製作総指揮に回ってしまったが,この映画は『バグズ・ライフ』(98)の共同監督であった右腕のアンドリュー・スタントンが監督だ。おまけに原案・脚本から,ウミガメのクラッシュの声まで担当している。他に脚本担当が2人いて,いつものように複数の脚本家が練りに練った物語は一部の隙もない。
 怪獣会社から舞台は打って変わって海の中だ。それもオーストラリアのグレート・バリアリーフという場所特定である。同じ描くなら世界一美しいサンゴ礁の海ということだ。興行的には『トイ・ストーリー3』か『モンスターズ・インク2』で確実な収入が見込めたのに,そうしなかったのがエライ。『トイ・ストーリー』(95)以前からスタントンが暖めていた企画だというから,引き出しはまだまだいくらでもあるのだろう。
 カクレクマノミ(Clownfish)というオレンジ色の魚の父子の物語である。400個の卵の中から,母が自分の命を捨てて奇跡的に守り抜いたニモは,父のマーリンに育てられる。ニモが6歳になって初めて学校に行く日,ダイバーにさらわれて人間の世界に連れ去られてしまった。「ニモに逢いたい」という一念から,途方もない広い海を探し回る父マーリンの旅が始まる。途中ナンヨウハギのドリーと出会い,ロードムービー仕立てで,親子の愛,魚仲間たちとの友情を描くこの物語は,見事の一言に尽きる。今やディズニーよりもディズニー的だ。筋立てそのものは子供向けの単純な寓話でも,そこに登場するキャラも背景も3D-CGのメリットを活かし切っているところが他の追随を許さない。
 ピクサー社のラセター・ファミリーは,全員プロ中のプロの集団で,人を楽しませるコツを熟知している。自分たちが愉しんで作り,満足の行くいいものが出来れば,必ず世界中の観客が喜んでくれるわけだ。『マトリックスレボリューションズ』のように背伸びしていないし,気負い過ぎでもない。志が高く,ハートがあり,かつ技術も高い。素晴らしいことではないか。
 親交が深い宮崎駿監督とスタジオ・ジブリもよく似た存在だが,宮崎アニメには少し気負いと説教臭さがある。本当は大衆向きでないのだが,難解でも「宮崎アニメが好き」と言うであろう日本人観客の性向を熟知している。その計算高さを私は好きになれない。ラセター・アニメも世界市場を意識した作りと言えるが,もっとシンプルでハートフルだ。待望のアカデミー賞長編アニメーション賞受賞は当確だろう。
     
  Oh, Beautiful!  
    こちらもSIGGRAPHでの印象も交え,見どころを列挙しておこう。
  ■サンディエゴ市開催のSIGGRAPH 2003では,3つあったSpecial Sessionの1つでこの映画のメイキングが紹介された。直前まで開場せず外で並ばせたために,ものすごい長蛇の列で,入場するのに10分近くもかかってしまった。演者が次々と入れ替わるいつものスタイルだが,最新のレンダリング技法の説明は少なく,この映画の企画からキャラ設定等の話や製作管理の話が多かった。徹底した分業体制(写真1)が印象的だったが,CGの祭典としては少し物足りなかった。
 
     
 
 
 
 
 

写真1 絵コンテから,モデリング,レンダリング,最終カットにいたるメイキング・プロセス。これが流れ作業で見事なまでに分業化されている。ピンクのクラゲの動きも見事だった。
(c)Disney/Pixar

 
     
    ■キャラ設定に時間をかけただけあって,この映画の成功要因はマーリンとニモを助ける仲間たちが活き活きしているところにある。『モンスターズ…』がもっと面白い怪獣を出せたのにと感じたのに対して,この映画のエイもタコもヒトデもウミガメも個性的に描かれている。自由度が高すぎない方が創造性を発揮しやすいということだろうか。キャラ毎のチームが競いあって,全体のレベルが高くなっている。
  ■上記の特別セッションの前後に,2度映画館に足を運んでこの映画を観た。公開後2ヶ月も経っていたのでさすがに観客は少なかったが,子供連れの母親たちも「Oh, beautiful!」「Very cool. Cute!」の連発だった。サンゴ礁の海底は芸術的と言えるほどに美しい(写真2)。ニモが捕まった歯科医の水槽内の造形も見事だ。特に,深夜の歓迎会の描写は形容のしようがないほど素晴らしい。子供たちに見せるなら,是非映画館の大きなスクリーンでこの美しさを見て欲しい。
  ■『モンスターズ…』のご自慢のレンダリングがサリーの体毛とブーちゃんの衣服であるなら,こちらは水面描写のリアリティの高さだ。写真3は控え目だが,もっともっとリアルさを感じさせるシーンが多々ある。すごいなと思わせるポイントを心得ている。目立たないだろうが,それに負けないレベルに空の雲も仕上げているし,海面での水しぶきや水中の泡も手抜きをせず丁寧に描き込まれている。ライバルのPDI社が水の表現を得意としているので,ここらで差を詰めておきたいという営業戦略も込められていると思われる。
  ■モーターボートや歯科医の自宅の家具など,ところどころハッとするほどリアルなタッチになっている。やろうと思えばここまでできるけれど,アニメだからわざとリアリティは落としているんだよ,という(いつもの)主張なのだろう。
  ■多数の魚が形作るシルエット・クイズは楽しかった.アイデア賞だ。ニモを助けるペリカンのナイジェルの曲芸飛行は昔懐かしいマンガ映画のドタバタの味を残している。楽しい。一方,アオウミガメたちとの水中の旅は,一服の清涼剤で癒し系だ(写真4)。多数のカメが海流に乗って泳ぐ様など,フルCGならではの威力もしっかりアピールしている。
 
     
 
 
 
写真2 まさに芸術的なサンゴ礁の描写。描いている方もさぞかし楽しいだろう。
(c)Disney/Pixar
 
     
 
写真3 水面もシドニー湾の眺めも素晴らしいの一言
(c)Disney/Pixar
写真4 海亀たちと旅するシーンは心が和む癒し系
 
 
 
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