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O plus E 2022年3・4月号掲載
 
 
THE BATMAN−ザ・バットマン−』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [3月11日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2022年2月10日 大手広告試写室(大阪) 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  新シリーズは,新たな側面と格調の高さを強調  
  誌上でのこの紹介記事が読者の目に触れるのは,映画公開の2週間後のはずだ。それからWebページに転載したのでは遅過ぎるので,校了後にフライングで加筆した記事をWebページにアップすることにした。他のメイン記事も同様である。本作の場合,マスコミ試写を観たのは公開日の1ヶ月以上前のことだったので,通常なら本誌掲載を待たず,Webページ専用記事にするところだが,そうしなかったのにはいくつか理由がある。
 配給会社は早めに試写会を実施してくれたものの,長い期間箝口令が敷かれたため,しばらく記事をWeb上にアップできなかった。そこまでするほどの大作なら,2週間後であっても本誌のトップ記事扱いで掲載しようと考えた。この数年,ディズニー傘下のマーベルスタジオのMCUに対して,ワーナー映画のDCEU(DC Extended Universe)は,興行的には押されっ放しであったので,ここらで乾坤一擲の新シリーズを投入するからには,必ずや大ヒットシリーズに育て上げると予想したからである。実際に試写を観たところ,(好き嫌いは別として)格調の高さでは抜群の出来映えであった。
 既に情報解禁後なので,ヨイショ記事も随所で散見される。スーパーヒーロー好きの当欄の愛読者なら,そうした記事を読んだ上で,当欄の評価がどうなるかを気にしているはずだ。それを前提として,以下,これまでのシリーズと比較しながら,当欄の評価と感想を述べる。

【過去のシリーズとその評価】  原作コミックの「バットマン」は,「スーパーマン」から約1年遅れの1939年5月に初登場し,共に80年以上の歴史を誇っている。記録を調べると,戦時中の1943年に全15章の実写映画『Batman』が見受けられる。その後,1960年代後半に連続TVドラマ化され,同じ主演俳優アダム・ウェストでの映画化作品もあったようだが,それ1作止まりに終わっている。
 本格的な大作映画のシリーズは,ワーナー・ブラザースが劇場用映画化権を得てからで,次の3シリーズが公開されている。
 ●第1シリーズ:『スーパーマン』シリーズ4作(78〜87)が大ヒットし,その終了後にティム・バートン監督,マイケル・キートン主演の『バットマン』(89)『バットマン リターンズ』(92)が製作された。当時のCG/VFXは未熟で,屋上からのジャンプと地上での着地をM・キートンが演じ,その間をCGで繋いでいるというだけで話題になっていた。3作目『バットマン フォーエヴァー』(95)はヴァル・キルマー主演,4作目『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(97)はジョージ・クルーニー主演で目先を変えたが,出来映えは芳しくなく,VFX的にも観るべきものはなかった。
 ●第2シリーズ:クリストファー・ノーマン監督,クリスチャン・ベール主演で,まずリブート作『バットマン ビギンズ』(05年7月号)が作られ,続く『ダークナイト』(08年8月号) が大ヒットし,『ダークナイト ライジング』(12)でトリロジーが完結した。当欄でも再三言及しているように,この3部作はアメコミ映画史に残る大傑作で,他作品に与えた影響も大きい。CG/VFX技術の大成長期であったので,1作毎に斬新な手法が適用され,それが重厚なドラマにマッチしていたため,VFX分野における貢献度も絶大であった。
 ●第3シリーズ:ベン・アフレックが演じたバットマンは,DCEU 2作品『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)『ジャスティス・リーグ』(17年12月号)に登場している。題名から分かるように,単独ヒーロー作ではなく,スーパーマン,ワンダーウーマンと結成した「ジャスティス・リーグ」としての登場である。ザック・スナイダー監督で,ヘンリー・カヴィルがスーパーマンを演じるシリーズに途中参加したとも言える。この2作品の後者は,CG/VFX的には見どころがあったので,当欄では高評価を与えたが,両作とも興行的には大失敗に終わっている。ちょっと驚いたのは,新シリーズが始まるというのに,B・アフレックが演じるバットマンは,まだこれから公開の『The Flash』にも登場するという。同作では,マイケル・キートンのバットマンも見られるというから,その手口は想像できるが……。

【本作の位置づけとその印象】
 新シリーズは,当初B・アフレック監督・主演が予定されていたが,その計画が消滅し,『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14年10月号)のマット・リーヴス監督,『トワイライト』シリーズ(08〜12)『TENET テネット』(20年9・10月号)のロバート・パティンソン主演という形になった。原題はシンプルな『The Batman』だ。「The」を冠してこう名乗る以上,当然このコンビでシリーズ数作を撮ることは確実だ。
 一体どういう1作目になるのだろうと注目したが,単なるビギニングものではなかった。富豪の御曹司ブルース・ウェインが夜だけ「バットマン」として活動することになって約2年で,まだ自己の存在意義を確立できず,逡巡している頃という位置づけだ(写真1)。「これまでで最もエモーショナルな作品」と監督が言うだけあって,心理描写が多く,繊細な作品に仕上がっている。
 
 
 
 
 
写真1 夕暮れのゴッサム・シティ。これが本作の基本色調。 
 
 
 【登場人物とキャスティング】
 定番のパートナーの2人,執事のアルフレッドはアンディ・サーキス,警察側の協力者ジェームズ・ゴードン警部補はジェフリー・ライトが演じている。旧作では,それぞれ名優マイケル・ケインとゲイリー・オールドマンが演じていた役柄である。本作は,バットマンは元々探偵役というコミックの原点に基づいているので,後者の出番が多い。『ダークナイト』シリーズでモーガン・フリーマンが演じた科学者は,数々の新兵器を作ってくれたが,本作に彼の姿はない。まだバットマン活動が本格化していないためだろうか? 若い相棒のロビンもまだ登場しないが,こちらは間違いなく,次回作以降に出て来ることだろう。
 恋人のキャットウーマンは,『レゴ(R)バットマン ザ・ムービー』(17)でこの役の声を演じたゾーイ・クラヴィッツが配されている。かつて,ミシェル・ファイファー,ハル・ベリー,アン・ハサウェイなど,旬の女優が演じていた役柄だ。それに比べると,少し知名度が落ちる女優の起用だが,なかなか魅力的な女性で,バットマンとの相性も抜群だ(写真2)。この一作でブレイクすることだろう。一旦2人は別の道を歩むが,シリーズ中では是非再登場させて欲しいものだ。
 お馴染みの悪役では,連続殺人犯で警察とバットマンになぞなぞを出題するリドラー(ポール・ダノ)が,本作のヴィランだ。マスクを付けて登場したので,最初誰だか分からなかった(写真3)。裏社会のボスのファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)の子分として「ペンギン」も登場するが,まだ大物ではない。こちらは顔を見ても,誰だか分からなかった。特殊メイクのせいで,エンドロールを見るまで,コリン・ファレルが演じていることに全く気付かなかったのである。
極悪人の「ジョーカー」が次回作で登場しそうなことは,ポストクレジットまで見ていればすぐに分かる。
 
 
 
 
 
写真2 このキャットウーマンとは再会を希望したい
 
 
 
 
 
写真3 これが本作の敵となる連続殺人犯のリドラ―
 
 【ゴッサム・シティとバット装備類】
 両親を目の前で殺されたブルース少年が長じてバットマンとなり,荒廃した大都市ゴッサム・シティの治安を守るという大前提は継承されている(写真4)。ゴッサム・シティはこれまでも暗かったが,本作でも暗い。物語が暗いだけでなく,画質的にも殊更暗い。これじゃ,「ダークナイト」でなく,「ダークダークナイト」だ。
 
 
 
 
 
写真4 夜空に投影する「バットシグナル」はしっかり継承 
 
 
  シカゴがモデルというのが定説だが,NYのマンハッタンやLAのダウンタウンのように見えるシーンもある。CG描写に既存の幾何モデルを使ったためかも知れない。現地ロケは,ロンドンやリバプールでも行ったそうだ。
 バットマンが使う装備類で最も目を引いたのは,新型のバットモービルだ。旧シリーズでは戦車か装甲車を思わせる重々しい車輌だったが,本作では実にスタイリッシュな外観に変わっている(写真5)。リアの室外に配置された700馬力,V8エンジンが圧巻だ(写真6)。勿論,実際に走行できる車輌を5台特注生産したという。その一方で,CGモデルも作成し,利用していることは言うまでもない。
 
 
 
 
 
写真5 本作のバットモービルはぐっとスタイリッシュに
 
 
 
 
 
写真6 躯体リア部に露出したV8エンジンも圧巻
 
 
 【VFXの登場場面】
 公表されているスチル写真が殆どないため,CG/VFXの利用シーンは少ないと思われているが,そんなことはない。エンドロールのVFX担当のクリエーターを数えればかなりの数である。大半がインビジブルVFXの利用であるが,バットモービルのチェイスシーンや爆発シーンではしっかり使われている(写真7)
 
 
 
 
 
写真7 アクションは地味目だが,この程度はVFXで描写
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC
 
 
  印象的なのは,大きなケープを落下傘代わりにして,パラグライダーのように市中で飛翔するシーンだ。最近この種のシーンはあまりなかったが,昔は「怪鳥人間バットマン」と呼ばれていたくらいだから,原点帰りのつもりなのだろう。他のスーパーヒーローの超能力に比べると児戯に等しいが,シンボルとして,もっとこの飛翔シーンがあっても良いかと思う。
 (少しネタバレになるが)終盤でリドラーが仕掛けた爆破で,洪水が街を襲う。これがCG製であることは,誰の目にも分かると思う。本作のCG/VFXの主担当は老舗のILM社で,他にはScanline VFX, Weta Digital, Crafty Apes, Halon Entertainment等が参加している。
 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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