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O plus E 2022年1・2月号掲載
 
 
でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』
(パラマウント映画/
東和ピクチャーズ配給)
      (C)2021 Paramount Pictures Corporation
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月21日よりTOHOシネマス日比谷他全国ロードショー公開中]   2021年11月26日 東宝東和試写室
       
   
 
大怪獣のあとしまつ』

(松竹・東映共同配給)

      (C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2月4日より全国ロードショー公開予定]   22021年12月9日&22日 東映試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  久々にメイン3本で,日米の巨大生物を比べる  
  本号では,3本のVFX多用作を紹介できる。CG描写の対象が「ゴースト」「巨大化した犬」「大怪獣」となると,どう組み合わせて語ろうか思案したが,大きさに着目して,後の2本を比較して語ることにした。
 1本はハリウッド・メジャーのパラマウント作品で,題名からすぐ分かるように,お子様連れを狙った典型的なファミリー映画である。もう1本の怪獣映画は邦画だが,松竹と東映がタッグを組んだVFX大作というのが気になった。第6波に突入したコロナ禍で,果たして満足な観客を確保できるのか,それも気になるところだ。
 
 
  名作絵本シリーズを生み出したCG向きの巨大犬  
  まず1本目は,楽しい童話のようなファミリー映画だが,原作は米国製の絵本だった。原題は映画も絵本も同じ「Clifford the Big Red Dog」だが,邦訳本には「クリフォード おおきな おおきな あかい いぬ」(あすなろ書房)の邦題がついている。邦訳は2021年4月に発行されたばかりだが,元の英語版は1963年に出版されている。ノーマン・ブリッドウェルなる児童文学作家は「クリフォード」シリーズで80冊もの絵本を出版している。これが,原点となるその第1作のようだ。
 映画のポスターやスチル写真では大きな赤い犬ばかりで,絵本の題からはいきなり巨大な赤犬が現れるのかと思ってしまう。映画の『でっかくなっちゃった…』から元は小さかったと想像でき,予告編では仔犬だった頃の姿がしっかり登場している。ただし,この設定は映画だけで,原作のシリーズには「クリフォード ちいさな ちいさな あかい いぬ (Clifford, the Small Red Puppy)」があり,小さな仔犬だった頃のことが語られている。即ち,映画はこの2作を合体させたものである。小さかった犬が突如デカくなるというのは,いかにもCG利用で映画化しやすいネタである。
 珍しい赤毛だったため,犬仲間からいじめを受けていた仔犬は,不思議な動物愛護者から少女エミリー(ダービー・キャンプ)に引き渡され,クリフォードと名付けられる(写真1)。彼女の深い愛情を受けるが,エミリーが無事に大きく育つことを願ったことから,一夜にして体高3mの巨大犬に変身してしまう(写真2)。市中で人助けをして一躍人気者になったクリフォードの商品価値を知り,悪徳企業の社長はクリフォードを中国の動物園に売り渡そうとする。エミリーは少し頼りない「ケイシー叔父さん」(ジャック・ホワイトホール)や中国系少年のオーウェンと協力して,彼らの悪巧みを粉砕する……,という物語だ。一見他愛もない話だが,物語の骨格がしっかりしていて,大人も楽しめる。
 
 
 
 
 
写真1 最初はまだこんなに小さく,可愛い仔犬
 
 
 
 
 
写真2 一夜明けると,こんなに巨大化していた
 
 
  以下,当欄の視点からの分析と感想である。
 ■ 巨大化したクリフォードは当然CG描写だが,仔犬から全てCGモデルで描いているようだ。そのためか,仔犬としての歩き方が少し不自然に感じられた。恐らく同じ幾何形状モデルを単純に縮小して使い,仔犬独特の骨格リグや歩様データを別扱いで作成しなかったからだろう。最近のCGなら,犬をリアルに描くことなどさほど難しくないが,アップになったクリフォードの目,鼻などの質感は流石だと感じた(写真3)。様々な動物をCGで描いてきたMPCなら,これくらいは朝飯前だ。
 
 
 
 
 
 
 

写真3 アップで見ると,目鼻や体毛はかなりの出来映え

 
 
  ■ 公園のシーンで登場する大きな透明のバブルボールは,クリフォードのお気に入りで,飛び付いて破壊してしまう。中に人間が乗っているが,転がるシーンは当然CGだろうが,破けた後の描写もCGだろうと想像している(写真4)。クリフォード自体がCGだから,破れたボールを実物にする必要はない。フリスビーのキャッチシーンも同様である。
 
 
 
 
 
写真4 バブルボールはクリフォードのお気に入り
 
  ■ 風変わりな科学者が,ラボで少し変わった動物を生成しているが,ここで登場する羊や鶏のような生物は当然CG製だ。オーウェン少年が飼っているパグは本物なのだろうか(写真5)? このパグがはしゃぎまくるシーンでは,CGであっても驚かない。VFXはMPC一社が受注し,PreVisはThe Third Floorが担当である。
 
 
 
 
 
写真5 オーウェン少年の愛犬は本物か,CGか?
(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
 
 
  安直な野党連合で,観客の支持は得られるのか?  
  邦画の怪獣ものとなると,誰もが思いつくのが世界的な存在「ゴジラ」を擁する東宝作品だ。最近は,ハリウッドのLegendary Picturesと提携しての製作だから,CG描写も当たり前になり,その破壊力もハンパではない。それに対抗するのが,「松竹+東映」のタッグなのは珍しいなと思ったら,それもそのはず,両社の長い歴史の中でも初めての合作だそうだ。
 まだしも旧大映,現KADOKAWAには実績があるが,東映や松竹に「怪獣もの」の記憶がない。記録を調べたら,東映では,1966年公開の『怪竜大決戦』とやらが出て来た。半世紀以上前の映画だ。一方の松竹配給作品では,『妖怪大戦争』(05年8月号) 『ゲゲゲの鬼太郎』(07年5月号) の記憶があるが,「怪獣」とは言い難い。こちらも記録を調べたら,『宇宙大怪獣ギララ』(67)が出て来た。これも半世紀以上前の映画だ。こちらは同じ怪獣設定で『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)があったので,まだ少し実績がある。それでも,安定多数を誇る政権与党に対する無計画の「野党連合」の感があり,国民(観客)の支持が得られるのかと懸念した。
 映画の設定は,かなり気合いが入っていた。まず「大怪獣」と名乗るだけあって,その大きさはかなりのものだ。最体長380m,倒れた状態での全高155mというから,かなり大きい。勿論,体高3mのクリフォードの比ではない。ユニークなのは,この大怪獣を倒すまでの戦いではなく,その死体の「あとしまつ」を描くという。これは新しい着眼点だ。提案者に座布団1枚だ。
 監督・脚本は三木聡,主演は山田涼介と土屋太鳳だ。助演の筆頭は濱田岳だが,西田敏行,オダギリジョー,六角精児,二階堂ふみ,染谷将太,松重豊,笹野高史等,豪華キャストが出演している。怪獣映画となるとドラマが希薄だが,これは期待が持てるかなと感じた。
 結論を先に言えば,その期待は見事に外れた。ドラマというより,お笑いだ。よくもこんな怪獣映画を作ったものだ。ここまで来ると,笑いが止まらない。
 以下,VFX以外の視点も込めたコメントである。
 ■ 「あとしまつ」が主であっても,当然前半は大怪獣が大暴れし,その結果,中盤以降で死体処理が話題になるのだと思っていた。写真6のような市街地が炎上するシーンはあったが,怪獣の姿は全く見えない。既にある理由で死んでしまったらしいが,その死体自体がなかなか登場しない。死体処理に関わる議論が続くが,西田敏行演じる総理や取り巻きがまるで面白くない。
 
 
 
 
 
写真6 炎上シーンはあるが,大怪獣は登場しない
 
 
  ■ ようやく登場した怪獣の死体は片足を上げた奇抜な格好で,これは見ものだった。静止画(写真7)で観ると皮膚の質感は上々で,怪獣全体のデザインも悪くない。VFXスーパバイザー・野口光一,特撮監督・佛田洋,怪獣造形・若狭新一という一流どころを揃えているのだから,当然と言えば当然だ。ただし,怪獣を市中に登場させなかったので,数値的に巨大と言われても,その実感がない(写真8)。部屋や車に押し込められるクリフォードの方が,余程大きく感じた。演出力の差だ。
 
 
 
 
 
 
 

写真7 片足を上げたままで死亡。皮膚の質感は高い。

 
 
 
 
 
写真8 民家や自動車とかが近くにないため,大きさの実感がない
 
 
  ■ 死体から発生するガスが溜まり,写真9のような気球状の塊が体内にできてしまう。これが破裂すると死体から北西20km圏内に甚大な被害をもたらすというが,科学的根拠は希薄で,ロクな説明もない。
 
 
 
 
 
写真9 死体から発生した腐敗ガスがこんな大きさに
 
  ■ 終盤,写真10のような竜巻状の気流が発生し,やがて,主演の特務隊員・帯刀アラタの活躍で物語は終息に向かう。ネタバレになるので詳しくは書けない。いや,書いて構わなくても,バカバカしくて書く気にもなれない。「あとしまつ」を描く発想は悪くなく,助演陣が豪華だっただけに,勿体ない。全編500カット以上のVFXシーンも個々は質的に悪くない。一流の技術陣を集めておきながら,これも勿体ない。宝の持ち腐れだった。やはりポリシーのない「野党連合」では,政権をとれそうにない。怪獣映画に関しては完敗だ。

[注]ここまで酷評しながら,何で★評価じゃないのかと問われそうだが……。映画としては全くその通りで,ラジー賞確定級だ。しかし,静止画でCGクオリティを観れば,当欄としてはVFXチームに慰めのエールを送りたくなるし,予告編から上記の画像を切り出して下さった宣伝担当者にもお礼を言いたくなる。そこは,大人の対応だと理解して下さい(笑)。
 
 
 
 
 
写真10 終盤,上空に向けて竜巻のような気流が発生
(C)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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