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O plus E誌 2020年9・10月号掲載
 
 
『ムーラン
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C)2020 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月4日よりディズニープラスのプレミアアクセスにて配信中]   2020年9月9日 Disney+のプレミアアクセスで視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  大スクリーンで観たなら,もっと迫力はあったかも  
  待ち遠しかったが,お騒がせな映画だ。伝統あるディズニー・アニメの実写リメイク企画は,この数年間に続々と登場し,CG/VFXの威力を見せつけてくれた。予告編で,リウ・イーフェイ演じる主人公ムーランが,赤いコスチュームを纏い,長い髪を揺らせて剣をふるう姿が頗る恰好良い(写真1)。この実写化の大成功を期待した。
 
 
 
 
 
写真1 アニメ版では髪を切って従軍したが,実写版はこの姿で登場
 
 
  公開時期に翻弄された映画である。1998年公開のアニメ版に対して,数年後に実写リメイクが企画されたが,数々の要因で製作が中断し,2018年11月の公開予定が延期となった。ようやく今年3月27日全米公開に向けて,3月9日にプレミア上映を終えていたのに,折からのウイルス感染急増のため,公開日は何度も延期された。日本では,9月4日公開が本決まりになって,マスコミ試写を待っているところに,驚くべき本社決定が伝わって来た。ディズニーは本作の劇場公開を行わず,全面的にDisney+でのネット配信に切り替えるという。それも月額700円の会費だけでは視聴できず,米国では$29.99,日本では2,980円(+消費税)の追加料金を支払わないと観られない。映画館入場料と比べても,この価格は高い。ファミリー来場者の合計額の基準で算出したのだろうか。映画界を席捲するディズニー流の殿様商売で,映画館経営者からも大ブーイングだ。
 その他にも色々ケチがついている。元は中国古来の伝説で,各種古典演劇では「花木蘭」として演じられていたが,本作の時代考証が史実と異なるという中国国内からのマイナス評価だ。続いて,新疆ウイグル自治区での撮影に対して,エンドロールに中国政府への謝辞があったことが,ネット上で政治問題視された。加えて,主演女優が香港問題で香港警察を支持する発言をSNS投稿したため,ボイコット運動が起こっている。ここまで袋叩きに遭うと,筆者などはまず応援したくなる。
 監督はニュージーランド出身の女性監督ニキ・カーロで,中国との縁はない。一方,主演のリウ・イーフェイは,9歳の時に渡米した中国系米国人だが,女優になるため14歳で中国に戻り,北京電影学院を卒業して女優デビューしているから,中国でも広く名前を知られているようだ。武漢市生まれというから,この映画がCOVID-19に翻弄されたのも何かの因縁だろうか。
 予備知識なく本編を観たが,助演陣が素晴らしい。ムーランの父親ファ・ズー役がツィ・マー,軍隊での上官・タン司令官役がドニー・イェンであることは直ぐに分かった。前者は最近『フェアウェル』(20年3・4月号)で主人公の父親役を観たばかりであり,後者もハマリ役の『イップ・マン 完結』(同5・6月号)の勇姿が焼きついている。一見して分からなかったのは,本作のオリジナル・キャラの魔女シェンニャン役のコン・リーと皇帝役のジェット・リーだ。2人とも,メイクと年齢で顔の印象が違った上に,今までにない役柄だったためだ。
 父の身代わりに,男勝りの娘・木欄が男装して従軍し,皇帝を守って敵を倒すという基本骨格は前作と同じだが,登場人物名は微妙に変わっている。アニメ版特有の赤竜やコオロギは登場せず,ミュージカル仕立てでもない。実写での豪華さ,リアルさを追求し,アクション・アドベンチャー色を強めたリメイクだと感じた。
 以下,当欄のVFXの観点からの評価と感想である。
 ■ 冒頭のムーランのファ家が住む町や衣装が眩しいまでの色彩で,その美しさに幻惑される。こうしたエンタメ作品に史実と違うというクレームは野暮だ。続いて登場する帝国の都(写真2)の緻密なデザインに感嘆する。皇帝の宮殿の外観,その表階段の威容に圧倒される。勿論CG描写だ。宮殿内も豪華だが,中国映画の大作には有りがちなレベルだが,一部はCGでの描写だろう(写真3)
 
 
 
 
 
写真2 細部まで見事にデザインされた帝国の都
 
 
 
 
 
写真3 宮廷内の庭園もそれらしい出来映え。金色の建物はCGだろう。
 
 
  ■ 魔女シェンニャンが変身して飛翔するハヤブサ(写真4)も多数の鳥も勿論CG製だ。ムーラン導く不死鳥や馬と併走するウサギも同様だが,リアルさよりも元がアニメであると感じさせる誇張が含まれていて,好い出来だ。中盤に登場する雪山の大雪崩も,大作ゆえに使えるCG表現だ(写真5)。CG/VFXの主担当はWeta Digital,副担当はSony Pictures Imageworksで,他にはFramestore, Image Engine Design等が参加している。
 
 
 
 
 
写真4 魔女シェンニャンが変身したハヤブサが都の空を舞う
 
 
 
 
 
写真5 迫り来る大雪崩に逃げ惑う兵士たち。大作ゆえのCG表現の採用。
 
 
  ■ ムーランが屋根の上を疾走するシーン(写真6)は躍動感があるが,全体的にアクションが少し物足りない。皇帝役のジェット・リーにカンフー演技させる訳には行かないだろうが,もう少し中国式武侠映画の味付けが欲しかった。ボーリー・カーン率いる大軍との戦い(写真7)はニュージーランドの山岳部で撮影したという。となると,『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のスケールを期待してしまったが,戦闘や甲冑のデザインは平凡だった。これは女性監督の限界か,それともディズニー流ファミリー映画の縛りだろうか?
 
 
 
 
 
写真6 ハヤブサを追って屋根上を疾走するムーランは躍動感がある
 
 
 
 
 
写真7 北方軍との戦闘はニュージーランドで撮影。『ロード・オブ・ザ・リング』を思い出す。
(C)2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 随所で感じたのは,元来3D上映を想定して撮影したと思われる構図とカメラワークだった。いや,3Dでなく平均的な大型スクリーンでも,本作の見せ場を堪能できたのではと感じた。ネット配信にしたことが,本作の価値を減じた最大の原因だと断定して良いだろう。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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