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O plus E誌 2011年9月号掲載
 
 
カンフー・パンダ2』
(ドリームワークス アニ メーション
/パラマウント ピクチャーズ配給 )
      KUNG FU PANDA 2 (TM) & (C) 2011 DreamWorks Animation LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月19日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開中]   2011年7月27日 GAGA試写室(大阪)
 
         
   
 
スマーフ』

(コロンビア映画
/東宝東和配給 )

      (C) Courtesy of Sony Pictures Animation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月9日よりTOHOシネマズ 有楽座ほか全国ロードショー公開予定]   2011年8月5日 東宝東和試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  続編もますます快調で,精緻な背景描写が大きな魅力
 
 

 本稿執筆時の現在,CG祭典SIGGRAPH 2001に参加のため,バンクーバーに滞在している。相変わらず,VFX,フルCGアニメのメイキングや新技術紹介のセッションは花盛りだが,LA開催でない分,業界の若手の参加がやや少ないので,聴講しやすい。土地柄,英国勢の発表は少なく,ILM,SPIW,Digital Domain,Disney/Pixarといった米国勢主体の運営だが,その中でも元気が良かった2作品をまとめて紹介しよう。
 まずは,DreamWorks AnimationのフルCGアニメ『カンフー・パンダ2』だ。完成度が高く,好評だった前作から3年ぶりの続編の登場だ。ピクサーと並ぶCGアニメ界の二大勢力となった同社が,『シュレック』シリーズに替わる看板に育て上げようという気概が感じられる力作で,完成度も高かった。今後の映画制作を変えてしまうのではという可能性を感じたほどである。
 主人公は小心者のパンダのポーで,なぜか「伝説の龍の騎士」に任命され,修行の末に「カンフーマスター」となったのが前作である。本作でも,カンフーの達人「マスター・ファイブ」と共に平和の谷を守る役目に就いている。ポー(ジャック・ブラック)とシーフー老師(ダスティン・ホフマン)の掛け合いが絶妙で,アンジェリーナ・ジョリー,ジェッキー・チェン,ルーシー・リューといった豪華な声の出演陣も健在だ。2作目ともなると脇役の性格付けも固まり,個性も生きてくる。本作では,ゲイリー・オールドマン,ミッシェル・ヨーまでが加わっていることからも,力の入れようが分かる。とりわけ,G・オールドマンが演じる孔雀のシェン大老(写真1)が出色だ。悪役がパワフルなほど映画は面白いというが,まさにその見本と言える存在感だ。孔雀ゆえに華があり,かつ強烈な個性の持ち主で,この物語をぐいぐい引っ張っている。

   
 
写真1 世界制覇を狙う孔雀。敵役のキャラ設定が見事だ。
 
   
 

 技術的進歩,表現力の向上は書き尽くせないが,以下要点だけを書き留めておく。
 ■ CGアニメは,各スタジオのR&D部門が競って新技術を導入し,髪の毛,水,炎,爆発,衣装,群衆などの表現は一作毎に向上しているが,本作でまず目についたのは,ライティング技術の進歩である(写真2)。映画的照明術をマスターし,かつ実写映画では表現できないレベルのライティングが随所で試されている。 光沢感を強調した表現も巧みで,3D上映で威力を増している。

   
 
 
 
写真2 まず,ライティング技術の向上が目についた
 
   
 

 ■ カンフー・アクションの動きもいい。既にセル調アニメの作風の呪縛から逃れ,自由自在の動きを演出できる域に入っている。カメラワークもしかりで,実写映画に学びつつも,CGならではの卓抜なカメラワークをマスターしたかのようだ。
 ■ そのカメラワークを支えているのが,背景描写の見事さだ(写真3)。広大で精緻なCG美術セットがあるゆえに,自在なカメラワークも達成できる。前作でも背景の描き込みは優れていたが,本作では一段とスケールアップしている。何と,大きな島1つ分を丸ごと設計することにし,その地形・地勢から都市部の区画や家一軒に至るまでを決めている。まるで精密な都市計画図だ。勿論,どの場所でも自在にプレビズできる。そこに,徹底調査した中国の伝統的な町の風景を描き込んでいるのだから,見応えがあるのは当然だ。この美術デザインは,実写映画の作り方を変える可能性を秘めている。

   
 
 
 
 
 
写真3 市街地も山間部も背景の描写が素晴らしい。東洋的なものをよく把握しているなと感心する。
KUNG FU PANDA 2 (TM) & (C) 2011 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
 
   
  物語は凡庸だが,スマーフの描写は一見の価値あり
 
 

 SIGGRAPHを支える米国CG/VFXの雄は,ILMとSony Pictures Imageworks (SPIW)で,最近インドに支社を設けるなど,SPIWの事業拡大も目覚ましい。そのSPIWが力を入れた最新作が『スマーフ』で,こちらは実写に大量のCGを合成したVFX作品である。SIGGRAPHに出発する前々日に試写を見て,会場で技術解説をじっくり聞いたという次第だが,正直なところ,映画そのものの評価は☆であり,お子様向き作品としても凡作としか考えられなかった。『カンフー・パンダ2』が大人の観賞にも堪える完成度であるのとは,大違いだ。
 実は,予告編では相当期待していた作品である。「スマーフ」とは,ベルギーの漫画家ペヨが描いた青色の妖精で,既にTVアニメ,ぬいぐるみ人形,お菓子のグミ等で世界的人気を博しているキャラだそうだ。白雪姫に登場する小人たちにも似ているが,もっと若くて可愛く,予告編で観た躍動感,実写映像との一体感は素晴らしい出来映えであった。
 物語はスマーフ村から始まるが,キノコの家に住むスマーフ達の生活はフルCGで描かれていた。お伽の国らしいカラフルな夢の国だ(写真4)。ある日,邪悪な魔法使いガーガメルに追われた6人のスマーフ達は,突然NYの街にワープしてしまう。ここからの人間との関わりが,実写映像との合成だ。これでは先月号の『イースターラビットのキャンディ工場』とそっくりではないか。物語的にも,超えるところが全くない。この映画の評価を下げているのは,彼らを見守る若いカップルに魅力が乏しく,敵役ガーガメルが全く冴えないことだ。この点でも,『カンフー・パンダ2』が数段勝っている。

   
 
写真4 スマーフたちの国は,フルCGで描写
 
   
 

 とはいえ,1,000以上に及ぶVFXシーンの出来は素晴らしく,技術的には観るべき点が多々あった。まず,比較的シンプルに見えるキャラクターは,相当な試行錯誤の結果の産物である。メイキング講演で観た映像では,初期の単純なモデリング結果は気味が悪く,歩き方もぎこちなかった。単純ゆえの難しさと言おうか,青い皮膚の質感,髪形等,100回以上の修正を得て,最終形になったという(写真5)。もう1つ特筆すべきは,SPIWもライティング技術を一作毎に進化させている。複数のHDR画像を使ったImage-Based Lightingで,実写映像との違和感をなくしている(写真6)。スマーフが手にしたり,絡んだりする物体も恐らくCGなのだろうが,実写と全く見分けがつかない(写真7)

   
 
 
 
写真5 背丈はリンゴ3つ分だが,形状だけでなく,質感も含めて難産の末のデザイン
 
   
 
写真6 陰影や写り込みのVFX処理は上出来
 
   
 
 
 
 
 
写真7 スマーフたちが絡む物体もCGのはずだが,実物と区別がつかない
(C) Courtesy of Sony Pictures Animation
 
   
 

 皮肉なことだが,この映画は,人間の出演者をなくし,すべてCGで描いた方が成功したのではないかと思う。監督の意図通りに演技できるか分からない俳優を使うより,どのような人物も設定でき,きちんとデザインすればそれだけ品質が上がるCGアニメの方が,表現力が上という時代になりつつある。

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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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