head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 | CIFシネマフリートーク |
title
 
O plus E誌 2012年8月号掲載
 
 
マダガスカル3』
(ドリームワークス・アニメーション
/パラマウントピクチャーズ配給)
      (C) 2011 DreamWorks Animation LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月7日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開予定]   2012年7月3日 角川試写室(大阪)
       
   
 
メリダとおそろしの森』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C) Disney / Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月21日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開中]   2012年7月6日 角川試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  夏の恒例,フルCGアニメ老舗2社の揃い踏み
 
 

 この夏は,洋画メジャー各社にVFX大作が目白押しで,今月号は紙数が足りないのではと懸念したが,杞憂に終わってしまった。1本は製作が大幅に遅れて,完成は来年に延期,2本は日本公開が8月中旬以降で来月号に回り,2本は今月号に間に合わず,Webページのみ掲載にならざるを得なかった。結局残ったのはフルCGアニメ2本だけである。といっても,所詮は子供相手のマンガ映画と侮るなかれ。両作とも本欄のトップを飾るに相応しい力作である。夏の恒例行事,業界老舗のライバル,ピクサー vs. ドリームワークス・アニメーション(DWA)の真っ向からの激突である。
 日本公開は逆順だが,米国公開も試写も先に観た『マダガスカル3』から語るとしよう。今年のアカデミー賞長編アニメ部門に『カンフー・パンダ2』(11年9月号)『長ぐつをはいたネコ』(12年3月号)をダブル・ノミネートさせ,目下絶好調のDWAだが,年2作の量産体制を守った上でのこの品質は大したものだ。単発の『ヒックとドラゴン』(10年8月号)なる秀作もあったが,シリーズ作品が得意な同社である。予定通り,『マダガスカル』シリーズの3作目は,S3D (Stereoscopic 3D)作品としてやって来た。他作品は既にS3D化されているので,全く驚くに値しないのだが,この3Dの品質が期待以上の素晴らしい出来映えだった。
 前2作の脚本・監督を担当したエリック・ダーネル,トム・マクグラスが引続き監督を務め,新たにコンラッド・ヴァーノンが共同監督として参加している。主人公の動物たち,ライオンのアレックス,シマウマのマーティ,キリンのメルマン,カバのグロリアの4匹はそっくりそのまま再々登場だ(人間の俳優のように契約がこじれて降板することはあり得ないが)。特に個性的でもなく,正確に記憶すらできない4匹だが,改めて眺めても嫌味なく,バランスよくデザインされたキャラだと思う(写真1)。男性 3,女性1が織りなすギャグやセリフもよく練られているなと感心する。

 
 
写真1 さほど個性的でないが,味のあるこの主人公たち
 
 
 

 映像的には,まず冒頭からの3D表現が秀逸で,これは3D版で観なくては損をすると思わせるほどだ。どこが優れていると特定できないが,全般に見やすく,明るく,立体映像の魅力を感じさせる演出である。一時奥行き感表現だけがもて囃されたが,適度な飛び出し感を混ぜ,すっかり3D表現のコツを会得したなと思わせるほどだ。目の疲れを考慮してか,中盤は立体感は控えめになり,終盤に思いっきり盛り上げる(写真2)

 
 
 
 
 
 
写真2 終盤の見せ場では,立体感もぐんと増す
 
 
 

 次に,さりげない背景表現も意図的なロングショットにもアーティスティックなセンスの良さが感じられる。元々,1作目から動物キャラを漫画風にシンプルにした分,背景セットの精緻がウリであったが,一段とその重みが増している。物語としては,アフリカからNYに戻る途中,ヨーロッパに回り道してという設定だが,モナコを手始めに(写真3),ロンドン,パリ,ローマ等,町の描写の素晴らしさを堪能させてくれる(写真4)

 
 
写真3 手始めはF1レースでお馴染みモナコの町
 
 
 
 
 
 
 
写真4 さながら欧州観光を楽しむかのような光景の連続
(C) 2012 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
 
 
 

 中盤のサーカスの場面,終盤のNYのセントラルパークに戻ってからの大騒動も,ギャグ重視のアニメとしての真骨頂で,娯楽作品としての質の高さが感じられる。前者の演出には,あのシルク・ド・ソレイユの舞台を参考にしたという。

 
  題名どおり,メリダも森も驚くべき描画力で表現
 
 

 一方,CGアニメの世界を牽引してきたピクサー社だが,スティーブ・ジョブズ会長の逝去で,改めて世間一般の注目を集めるところとなった。その騒ぎとは裏腹に,同社にとって,昨年から今年にかけては,屈辱の1年だったことだろう。最新作『カーズ2』(Webページのみで紹介)は当欄でも酷評したが,アカデミー賞長編アニメ部門の受賞はおろか,ノミネート5作品の中にすら入らなかった。2002年の同部門の創設以来10年間に6度の受賞を果たしてきた同社の栄光の歴史にとって,最初の汚点だと言えよう。
 2006年以降,きっちり年1作のペースを守る同社にとって,本作はその名誉挽回の最初の機会であるが,ピクサー史上,初めて女性の主人公だという。あれっ!? そうだっけ? そーか,オモチャ,昆虫,モンスター,熱帯魚,クルマ,ネズミ,ロボットを擬人化してあっても,全部男性か少年で,例外はスーパーヒーローの家族で,普通の人間はカールじいさんが最初だった。
 それが,舞台はスコットランドで,ヒロインの少女メリダは王女であり,魔法をかけられ熊になってしまった母(王妃)を救うため,弓をもって戦うという。それでは,全くディズニー・アニメそのものではないか。完全小会社になったとはいえ,本家のディズニー・アニメーションのお株を奪うこともあるまいにと思った。全くのオリジナル・ストーリーであるが,予告編を見ると,幻想的な森の雰囲気は,まるでグリム童話の世界である。そうした他人の土俵に踏み込んでの挑戦は,よほどストーリーテリングと描写力に自信があるに違いない。以下,その見どころである。
 ■ 原題は『Brave』で,メリダの自立心と勇気を表面に打ち出している。スコットランドゆえに,メル・ギブソン主演の『ブレイブハート』(95)を意識しての題名かとも思う。邦題の方が秀逸で,この映画の描画の力点が集約されている。注目の的は,王女のメリダの長いソバージュ・ヘアで,この髪の毛の表現だけに,何年もかけて特別なシェーダーが開発されたと思われる(写真5)。メリダの顔立ちもシンプルながら,強い意志と優しさを見事に描き分けている。この存在感だけで,ディズニー流のお姫さまでない現代女性像を表明している。このメリダには,『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(12年4月号)の主人公に通じるものがあると感じた。

 
 
写真5 とにかく印象的で独創的なメリダのこの髪
 
 
 

 ■ 背景となる「おそろしの森」の描写も刮目に値する(写真6)。相当精緻に森全体をデザインし,1カット毎にキャラクターの立ち位置や光の当たり具合までプレビズしてからレンダリングされたことだろう。森の中の霧で霞んだ表現(写真7)も素晴らしい。これも専用のシェーダーが用意されたことだろう。森だけでなく,雪山,湖,城などの景観を描くシーンにも息を飲む。ここは実写だと言われても分からないくらいだ。いくら作業分担だとはいえ,背景だけにここまでやるとは恐れ入った。いや,背景とは失礼な言い方であった。この森の表現もまた,立派に主役の1つだと言えるだろう。今回は,この森の表現だけで☆☆☆を与えておこう。

 
 
写真6 この森のデザインと描画力にも,感心するばかり
 
 
 
写真7 易しそうに見えて,霧や靄の表現は難しい
 
 
 

 ■ ストーリーに熱中すると見逃しがちだが,衣装の光沢感,しなり具合にも,進歩のほどが感じられる(写真8)。食べ物や食器,室内装飾の小道具類にも目配りしておきたい(写真9)。いずれのチームも,素晴らしいクリエイティブ能力の持ち主たちだ。映像制作分野での最上級の創作者たちは,今CGアニメ業界に最も集まっているという評判を,納得せざるを得ない状況だ。

 
 
写真8 着衣の光沢やしなりの表現にも進歩の跡が見られる
 
 
 
 
 
写真9 食物や食器,その他の小道具の描写も見事
(C) Disney / Pixar. All Rights Reserved.
 
 
 

 ■ フルCGアニメの大半がそうであるように,当然本作も3D版が作られている。では,その評価はといえば……。大阪での試写はすべて2D版であったので,残念ながら3D版は未見である。 このため,『マダガスカル3』との比較はできないが,本作も随所に3D効果を感じさせるようなアングルやカメラワークがあった。
 ■ 魔法使いの老婆によってかけられた魔法を解くというシンプルな物語であるが,熊と化した母親とメリダの奮闘はギャグ交じりで,楽しく,力強い作品に仕上がっていた。父と息子の物語はクサいが,母と娘の方が素直に見ていられる。この一作だけでピクサー完全復活とは言い難いが,その兆しを感じる力作である。

  ()  
 
  (画像は,O plus E誌掲載分の一部を入替え,追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br