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O plus E誌 2009年12月号掲載
 
 
 
カールじいさんの空飛ぶ家』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
  (C) WALT DISNEY PICTURES / PIXAR ANIMATION STUDIOS
  オフィシャルサイト[日本語]][英語]  
 
  [12月5日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー予定]   2009年10月27日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  またもピクサーが生んだCGアニメの大傑作,絶品!  
 

 またまたCGアニメの大傑作が飛び出した。もはや,3D-CGによるアニメ映画は珍しくも何ともないと書いてから久しいが,毎年のように傑作が生み出される。それも,その賞賛に値する作品の大半がピクサー作品だ。この映画の評点も,観る前から最高の☆☆☆と分かっていた。作品毎に「褒めたくはないのだが……」と断りながら,いつも☆☆☆を与えざるを得ない上に,前評判で世界中から絶賛の声が聞こえていたのだから,☆☆+以下になる訳がなかった。
 何度も書いたので,本欄の読者なら『トイ・ストーリー』(95)以降の同社の栄光の歴史はよくご存知だろう。作品だけでなく,歴史に残る,比類なきクリエイティブ集団であることにもしばしば言及した。『WALL・E/ウォーリー』のDVD特典映像ガイド(09年6月号)に記したように,同社の軌跡を綴った約1時間半の映像は本当に素晴らしい。未見の人は是非観て欲しい。
 最近,同社に関する記事や書籍が多数登場している。「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたか」(エド・キャットマル 著, 小西未来訳,ランダムハウス講談社) は,キャットマル社長の講演録と訳者の補足記事で,そう厚い本ではない。一方,「メイキング・オブ・ピクサー ―創造力をつくった人々」(デイヴィッド・A・プライス著, 櫻井祐子訳,早川書房) は,かなりしっかりした同社の成長記録だ。ピクサー社自体も,長編アニメの10作目となるこの作品を機に,これまでの実績と創造力を積極的に対外アピールする広報作戦をとっている。
 本作の監督は,『モンスターズ・インク』(02年2月号)以来となるピート・ドクターである。御大のジョン・ラセターから監督を任されたのは,他に『ファインディング・ニモ』(03年12月号) 『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)のアンドリュー・スタントンと『Mr. インクレディブル』(04年12月号) 『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号)のブラッド・バードだけだから,秘蔵っ子3人組がこれで2度ずつ監督を務めたことになる。それでいて,どの作品にも次代を背負う人材を共同監督に据えているところが巧みだ。
 本作の主人公は,最愛の妻エリーに先立たれた78歳の老人の「カールじいさん」だ。かつて2人で夢見た南米のパラダイス・フォールをめざし,家ごと空飛ぶ冒険の旅へと出発するロード・ムービーである。相棒は8歳の少年ラッセルだから,人形やネズミやロボットではなく,初めて普通の人間が主人公となる物語だ。ただし,上手い仕掛けで動物がしゃべることを正当化している。原題はシンプルな『Up!』(空高く)なのに,この長い邦題はアカデミー賞短編アニメ賞を受賞した『ゲーリーじいさんのチェス』(Geri's Game)にちなんだものだろう。あるいは,宮崎アニメの『ハウルの動く城』あたりを意識したネーミングかと思われる。
 カール少年を圧倒する冒険少女エリーは頗る魅力的なキャラだ(写真1)。2人が結ばれ,共に暮らす日々の映像にはセリフがなく,パントマイム風に描かれる。微笑ましく,かつ凛々しい夫婦愛の姿だ。この映画の成功の一端は,この回想シーンにあると言って過言ではない。2人がめざした南米の地は雄大かつカラフルで,この選択が第2の成功要因だ(写真2)

 
   
 
写真1 エリーのキャラがとても魅力的 写真2 2人が夢見た伝説の場所パラダイス・フォール
   
   そして何よりも印象的なのは,家を釣り上げる多数の風船だ(写真3)。この数とカラフルさだけで,映画史に残るデザインになったと言える。単に空中に浮かんでいるだけではない。静かに浮かび上がり,ビルの谷間を抜け,空へと舞い上がる描写が秀逸だ。風船の数は約1万個。それが単に並んでいるだけではなく,個々の風船の動きが他の風船にぶつかり,互いに及ぼす影響を全部計算したという。それゆえのリアルな動きだ。  
   
 
 

写真3 カラフルな風船に持ち上げられて空飛ぶ家は,映画史に残る印象的なシーン

   
   設定も脚本も素晴らしいが,キャラクターのデザインもしっかりしている。騒々しい少年ラッセル,南米で出会った不思議な犬のダグ,カラフルな怪鳥のケヴィンは,驚くほどのデザインではないが,全体のバランスが良い(写真4)。桃太郎の供の犬・猿・雉,西遊記の孫悟空・猪八戒・沙悟浄を想い出す。ロード・ムービーの基本形をしっかり踏まえているのだとも言える。  
   
 
 

写真4 何やらお伽噺風のお供のトリオ

   
   夫婦愛を機軸にしたほのぼの物語だと思っていたが,嬉しい誤算があった。後半のケヴィンの救出作戦のアクション演出は,かなりの見せ場である。構図もアイデアも一級品だ。空中戦など,いかにも3D上映を意識したものだ(写真5)。本作品はピクサー初の3D作品である。今回の試写は2D版だったが,SIGGRAPHで代表的シーンを観た感じでは,3D表現の工夫は既にトップレベルだ。
 最後に付記しておくと,同時上映の短編『晴れ ときどき くもり』も絶品だ。何度観ても味があるし,こちらも3D上映の効果は抜群だった。  
 
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写真5 3D上映を意識した構図も随所に
(C) WALT DISNEY PICTURES / PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加しています)  
   
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