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O plus E誌 2009年10月号掲載
 
 
 
くもりときどきミートボール』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [9月19日より新宿ピカデリーほか全国3D上映館で公開中]   2009年9月11日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  名作絵本の楽しい映画化だが,環境問題への警鐘も  
   今月は何をおいても,まずこの作品の紹介からだ。先月号の3D上映に関する特別記事でも触れたように,既にSIGGRAPH 2009でメイキングやSelected Scenesを観ていたので尚更待ち遠しかったが,日米同時公開のため,本稿の締切直前にようやく試写が間に合った。同時公開は時間的余裕がなく,字幕翻訳者泣かせだという。ところが,字幕が使えず,日本語吹替版だけにならざるを得ない3D上映だと,声優の確保と吹込みにも時間がかかるのでもっとハンデが大きい。後述の『ファイナル・デッドサーキット 3D』などは,字幕版も吹替版もなしで,英語のままの試写を観る破目になった。
 サマーシーズンも終りだというのに,なぜ敢えて同時公開に踏み切るのかと思ったら,丁度日本では5連休のシルバーウィークに当たっていた。そうか,それなら多数の家族連れ観客が見込める。3Dのライバル作品はないから,興行的にも有利だ。米国の映画業界は完全に3D映画製作に本気で,今回の立体映像ブームは一過性で終わらず,定着しそうな勢いである。これからもジャンジャン3D映画が海の向こうからやって来そうだから,日本の映画興行界も本気でその対策を練った方が良い。それには,この作品が大ヒットし,まだ様子見で重い腰の業界を覚醒させてくれることが一番だ。
 フルCGアニメでは後発のSony Pictures Animationだが,技術では追いついているのに,これまでどうも企画下手,商売下手だった。本作品では気合いが入っていて,国内では2D上映はなし,3D上映だけという思い切りの良さだ。作品自体もオリジナル脚本ではなく,児童書の名作を原作としている。原著は1978年発行の絵本だが,邦訳本は「ほるぷ海外秀作絵本」の1冊として2004年に刊行されている。脚本・監督は,この絵本を読んで育ったというフィル・ロードとクリストファー・ミラーの若手コンビである。
 発明好きの少年フリント・ロックウッドが開発した水を食べ物に変える機械により,ある日空からチーズバーガーが大量に降ってくる。その後もゼリーやアイスクリームなど,食べたいものを自由に降らせることができると,街は大騒ぎになり,フリントは一躍ヒーローとなる。ところが,次第に食べ物が巨大化し,コントロールが利かなくなって行く……という物語だ。発明少年なら『ルイスと未来泥棒』(07年12月号) ,食べ物と聞くと『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号) を思い出すが,食べ物を空から降らすという着想はユニークであり,いかにも3D映画に向いた楽しい設定である。
 3D上映での立体感の演出は,焦点面を一番手前にもって来て,交差法で奥行き感を与える最近の流行を踏襲している。手前に大きく飛び出す表現(写真1)はごく僅かで,シーン毎に丁寧に飛び出し感,奥行き感を調整している(写真2)。主要人物も丸顔だが,球状のアイスクリームなども立体視で質感を与えやすく,一層美味しそうに見える(写真3)。中でも,大きなゼリーの質感は抜群で,その中でフリントとサラが戯れるシーンは出色だった(写真4)。ともあれ,前半は何を観ても食欲が湧き,帰りにハンバーガーを食べたくなる(写真5)
 
   
 
写真1 時々ぐっと飛び出して来るから効果的
 
   
 
写真2 飛び出しを強調せず,巧みに立体感を演出
 
   
 
写真3 3Dで見るといっそうリアルで美味しそう
 
     
 
写真4 ゼリーの質感もライティングの色合いも絶妙
 
   
 
写真5 映画の帰りにチーズバーガーが食べたくなる
 
   
   中盤以降,マシンの故障からスパゲッティの竜巻が起こり,巨大なホットケーキ(写真6)が降ってくる頃には,食べ物が醜く見え,食欲も減退する(写真7)。これは,飽食への警告,環境問題への警鐘も盛り込んだ見応えのある社会派作品だ。骨格がしっかりした冒険物語でもある。この辺りでは,もはや3D映画であることを忘れて観てしまう。冒険度が高く,動きが激しい場面が続くと3D映画は目が疲れるから,演出面での加減が難しいところだ。  
   
 
写真6 マシンの故障でこんな巨大になってしまった
 
     
 
写真7 ここまで出て来ると,もはや食欲も減退
 
 
 
   この映画の3D試写では,初めてドルビー3D方式の立体映像を体験した。これは,偏光方式でも液晶シャッター方式でもない,独自の分光方式を採用している。触れ込み通りXpanD方式の液晶シャッター眼鏡よりも光量の低下は少ないが,そう大きな差ではない。明るさに関しては,SIGGRAPHの3D会場で使っていたソニー製の4Kデジタルシネマプロジェクターが抜群に明るかった。4K解像度を2K映像2枚として使い,これをRealD社の円偏光方式と組み合わせる3D化だから,ほとんど光量の低下がない。まだまだ高価格なのが欠点だが,米国ではかなりの数のバックオーダーを抱えているというので,日本でももっと普及して欲しいところだ。
 さて観賞後の帰路でだが,やはりチーズバーガーが無性に食べたくなった。空を眺めて口を開けて待っても何も降って来なかったので,Macに飛び込んでクォーターパウンダーチーズを注文してしまった(笑)。 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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