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O plus E誌 2017年3月号掲載
 
 
モアナと伝説の海』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2016 Disney.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月10日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2017年2月7日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
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SING/シング』

(ユニバーサル映画/東宝東和配給)

      (C) Universal Studios.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月17日よりTOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー公開予定]   2017年1月26日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  映像も音楽も上質の春休み用フルCGアニメ2本  
  今月のトップ記事は,春休み興行市場を意識したフルCGアニメ2本である。一方は老舗ディズニー・アニメーションの56作目であり,ディズニーの王道とも言える少女が主人公のミュージカル・ファンタジーである。もう一方は,興行成績でディズニー/ピクサー作品に迫る勢いのブランドとなったユニバーサル映画+イルミネーション・スタジオの新作だ。こちらは,ミュージカルと言うより,歌のコンテストそのものを主テーマとしている。別項のサントラ盤紹介コーナーでも,両作品の歌曲を取り上げたので,参照されたい。
 
 
  南の島の少女と美しい海の描写がベストマッチ!  
  長い伝統を誇るディズニー・アニメだが,過去作品一覧表を眺めると,好不調の波が感じられる。長い低迷の後,第30作『美女と野獣』(91)から『アラジン』(92)『ライオン・キング』(94)への3連発は起死回生であり,各々大ヒットした。その後しばらくは,第37作『ターザン』(99)以外に目立ったヒット作はない。ピクサーが傘下に入り,フルCGでの制作技術を学んだ後は,概ね良作が多いが,今度は1作毎に波があるように思える。秀作『ボルト』(08)の後の『プリンセスと魔法のキス』(09),50作記念の『塔の上のラプンツェル』(10)の後の『シュガー・ラッシュ』(12),大ヒット作『アナと雪の女王』(13)の後の『ベイマックス』(14)は今イチで,当欄の評価もの繰り返しであった。
 あえてこの反復を話題にしたのは,第55作『ズートピア』(16年5月号)と第56作の本作は,連続して甲乙つけ難い秀作であるからだ。米国では同じ2016年に公開され,この2本の間に「ディズニー/ピクサー」ブランドの『ファインディング・ドリー』(同7月号)と少年以外すべてCGという『ジャングル・ブック』(同8月号)があった。もの凄い製作・公開のペースであり,当欄はそのすべてに評価を与えている。
 さて,本作の監督は,『リトル・マーメイド』(89)『アラジン』『ヘラクレス』(97)『トレジャー・プラネット』(02)等を手がけてきたロン・クレメンツとジョン・マスカーのコンビだ。この人選で,伝統あるディズニー・アニメらしさを生かした物語であることが伺える。
 舞台は南太平洋の自然に恵まれた島で,海を愛し,海と深い絆をもつ少女モアナが主人公である。最近のヒロインは,3D-CGでの描画に適したルックスで,似たり寄ったりであったが,このモアナは南方系の目鼻立ちを感じさせつつ,可愛く,気品あるルックスにデザインされている。彼女の髪や衣装も,島の木々や南の海と見事にマッチしている。伝説の英雄マウイと出会い,女神テ・フィティの盗まれた心を取り戻す冒険を共にするというファンタジー・アドベンチャーである。
 ■ 当欄の視点で特筆すべきは,再三登場する海の表現の素晴らしさだ。逆巻く波や泡,波打ち際と砂浜,太陽光が反射した海面等々,本作を機に一段と表現力が向上したと言える(写真1)。『アナと雪の女王』で樹氷,氷柱,吹雪,雪崩等々の表現に新手法を開発したのと好一対であり,ますます引き出しの数が増えている。
 
 
 
 
 
写真1 海の表現力は,この映画で飛躍的に向上した
 
 
  ■ 巨漢のマウイのデザインも出色で,全身のタトゥが印象的だ(写真2)。その模様の変化から,彼の筋肉の微妙な動きが分かる。一部MoCapデータも使っているかも知れないが,複雑なリギングと筋肉モデルを導入し,アニメーター達が微妙な動きを付けているようだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 伝説の英雄マウイと神が授けた巨大な釣り針
(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.
 
 
   ■ 明るい南の島を描いた映像は頗るカラフルだが,他作品よりも一段と高画質に感じた。これはどうしてだろう? フルCGならいくらでも解像度は上げられるので,最近なら最低限4Kレベルでレンダリングしているだろうが,最終的には映写機(プロジェクター)の性能で決まってしまう。普通の試写室で観たのだが,なぜ圧倒的な高画質に思えたのか,いまも原因は分からない。
 ■ 当欄では,CGアニメは日本語吹替版を勧めることしばしばだが,本作に限っては絶対的に字幕版を推奨する。その理由は,マウイ役の声優の違いだ。尾上松也は歌舞伎俳優だけあって,滑舌は良く,ミュージカル出演経験もあるのだが,マウイを演じるには声の重量感に欠ける。英語版の声優は,「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソン。筋肉量でも体重でも,この元プロレス・チャンピオンの俳優には到底太刀打ちできない。
 
 
  キャラの造形と選曲のセンスの良さが光る  
   天下無双のディズニーと国内アニメ映画市場で堂々と渡り合っているのが,「ユニバーサル映画+イルミネーション・エンターテインメント(以下,U&I組と略す)」の作品群である。世界市場ではドリームワークス・アニメーションが検討し,『シュレック』シリーズ終了後も『カンフー・パンダ』『マダガスカル』の両シリーズをヒットさせているのだが,日本国内興行は不振で,新作は劇場公開されず,ビデオ(DVD)スルーになっている。「20世紀フォックス+ブルースカイ・スタジオ」の『アイス・エイジ』シリーズもしかりである。
 その中で,U&I組のマーケティング力は光っている。怪盗グルーの脇役に過ぎなかった「ミニオンズ」を前面に出し,会社のマスコット・キャラにしてしまった。昨夏の『ペット』(16年8月号)はさしたる作品でなかったのだが,「ミニオンズのスタジオの新作」とのウリ文句で,興行的には成功を収めている。
 さて,そのU&I組の最新作は,ミュージカル仕様との前宣伝があり,大いに期待した。その期待通り,音楽も物語も素晴らしい作品に仕上がっていた。登場人物はすべて擬人化された動物で,人間役のキャラは全く登場しない(写真3)。各動物たちの性格づけやデザインも『ペット』よりも数段優れていると感じた。特に,ヤマアラシのアッシュのデザインは素晴らしい(写真4)。筆者のお気に入りは,トカゲのミス・クローリーだ(写真5)
 
 
 
 
 
写真3 大小取り混ぜて,登場人物が全員集合
 
 
 
 
 
写真4 キャラ造形で秀逸なのは,パンクロックを愛するアッシュ
 
 
 
 
 
写真5 最も個性的なのは,トカゲの熟年秘書ミス・クローリー
 
 
  物語は,低迷している劇場に活気を取り戻すため,歌唱コンテストが開催され,歌に自信がある動物たちが登場して,チャンピオンを目指すという設定である。動物たちが歌う際の振り付け,パフォーマンスは自然で違和感を感じない。決勝戦は,英国や米国で人気のオーディション番組を模していて,随所にパロディと思しき場面が登場する。コンテストで歌われる曲は名曲揃いで,歌唱そのものも楽しめる映画に仕上がっている。
 脚本・監督は,ガース・ジェニングス。自ら上述のミス・クローリーの声も演じている。主役の劇場主バスター・ムーン役にマシュー・マコノヒー。決勝戦に残る動物たちの声には,セス・マクファーレン,リース・ウィザースプーン,スカーレット・ヨハンソン等,歌唱力のある俳優を起用し,若手実力派歌手トリー・ケリーを繊細な10代のゾウ役にキャスティングしている。
 以下,当欄の視点での見どころである。
 ■ CG的には,安定した実力を発揮していて,余り大きな冒険はしていない。強いて言えば,衣服のシミュレーションが進化し,舞台での歌唱時の僅かな動きも見事に描いている(写真6)。質感・光沢に関しても同様で,写真7の革ジャンなどは,惚れ惚れする描写だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 衣服の質感と微妙な動きにも注目。
 
 
 
 
 
写真7 この革ジャンの質感が抜群!
(C) Universal Studios.
 
 
   ■ 何げないシーンの背景の細部も,しっかり描き込まれている。例えば,レストランの大きな水槽中の魚やイカがそうだ。このイカは個性的なデザインで,エンドロールでも再登場する。ミニオンズに続く人気キャラに育て上げるつもりなのだろうか?
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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