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O plus E誌 2019年7・8月号掲載
 
 
ペット2』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C)Universal Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月26日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年6月18日 TOHOシネマズ梅田[完成披露会(大阪)]
       
   
 
トイ・ストーリー4』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C)2019 Disney/Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月12日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年6月25日 TOHOシネマズ梅田[完成披露会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  CGアニメ業界を牽引する両勢力の夏休み対決  
  恒例のCGアニメ2本を比較しながら語るスタイルである。既に何度か書いたように,長編フルCGアニメの始祖で,全作品をディズニー配給網で公開するピクサー社(以下,D&P)が圧倒的なブランド力をもつが,目下これに対抗し得る新勢力は「ミニオン」人気で興収面でも健闘しているユニバーサル映画傘下のイルミネーション・エンターテインメント(以下,U&I)である。今年の夏休み映画では,このD&P組とU&I組のシリーズ作品が真っ向から渡り合う。
 調べてみると,意外にも,当欄でこの両社の作品をまとめて紹介したことは一度もなかった。紹介月がずれたり,片方が本家Walt Disney Animation (WDA)作品だったり,もう片方がかつてのライバルDreamWorks Animation (DWA)作品であったためである。D&P組がその原点である『トイ・ストーリー』シリーズの自信作で臨むのに対して,新興のU&I組がどこまで対抗し得るのか,その観点から論じてみよう。
 
 
  前作に引き続きギャグは好調だが,相手が悪過ぎた  
  実を言うと,『トイ・ストーリー4』とのカップリングで紹介するのは,DWAの『ヒックとドラゴン3』だと思っていた。長らく日本公開が途絶えていたDWA作品が,『ボス・ベイビー』(18年3・4月号)以降,U&Iと同じ東宝東和が国内配給するようになっていたからである。同作は,既に2月22日に公開されていたのに,後回しになり,年末に『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』なる題名で公開される。となると,『アナと雪の女王2』と張り合う訳だが,それはそれで楽しみである。
 なぜ上記のカップリングを期待したかと言えば,『ヒックとドラゴン』『トイ・ストーリー3 』(10年8月号)の組み合わせで両シリーズの旧作を比べていたからである。いずれも秀作だったが,筆者は前者の方を高く評価した。世評もそうだったが,広報力の差か,アカデミー賞は後者が受賞した(それも予想通りだった)。
 9年後に同じ組み合わせにならなかったが,『ペット2』とのカップリングも,比較して論じるに値する。前作『ペット』(16年8月号)は,「飼い主の留守中に,ペット動物たちが会話している」というのがウリであり,まさに「トイ・ストーリーの動物版」とも言える設定だったからである。興行面で世界的に大ヒットしたのは,同時上映の短編『ミニオンズ:アルバイト大作戦』がかなり寄与していたとも思われる。
 そんな前作だが,筆者は殆ど印象に残らなかった。多数のペット動物は登場したが,人気が出そうなキャラが見当たらなかった。翌年公開の 『SING/シング』(17年3月号)は動物たちが歌うミュージカルだが,そこに登場するブタ,ヤマアラシ,トカゲの方が個性的に感じられ,『ペット』の動物たちの印象が一層薄らいだ。
 前作の評を見ると,終盤ようやく主人公のコンビが記憶に残ると書いている。そうだった。大人しいテリア犬のマックスと相棒の大型雑種犬デュークだった(写真1)。一見地味なマックスだが,じっくり見ると次第に可愛く見えてきた。ヒロインはマックスの彼女のギジェットで,出番がぐんと増えている(写真2)

 
 
 
 
 
 
 
写真1 思い出した。主人公はテリア犬のマックスで,相棒は大型雑種犬のデューク
 
 
 
 
 
 
 
写真2 マックスの恋人は白いポメラニアンのギジェット
 
 
  以下,当欄の視点での見どころと感想である。
 ■ 新登場のキャラは物語の鍵を握るホワイトタイガーのフーや農場犬のルースター等だが,後者の存在感が抜群だった(写真3)。声の出演が,あのハリソン・フォードだったからである。この声だけで,作品が一気に引き締まる。これに匹敵するには,日本語吹替版では今はなき石原裕次郎か高倉健を起用するしかないと思えたほどだ。悪役のサーカス団長や彼が飼っているオオカミたちはかなり極端な筆致で描かれている。

 
 
 
 
 
写真3 新登場の農場犬ルースターは存在感抜群
 
 
   ■ この団長だけでなく,人間の大人の脚は極端に細く描かれている(写真4)。怪盗グルー以来のイルミネーションの伝統だ。背景画像も,このかなりデフォルメしたキャラ造形に見合うレベルで描写されている。もはやCG描写のリアリティを競うつもりはなく,ギャグ・アニメに徹するという意思表示だろう。3つの物語が錯綜する筋立てで,ギャグのテンポも良い。ファミリー層対象のコメディとして悪くない出来映えだ。ところが,今回は相手が悪かった。どんな作品をぶつけても下記『トイ・ストーリー4』に太刀打ちできなかっただろう。

 
 
 
 
 
写真4 お馴染みイルミネーション流の細長い脚
(C)Universal Studios
 
 
  シリーズ最高傑作,いやピクサー史上のベスト1  
   まさに,この派手な見出しに相応しい傑作,逸品である。映画誕生100周年の記念すべき年(1995年)に生まれた初の長編フルCC映画が『トイ・ストーリー』だったが,当時のピクサー社の経営状況やディズニー傘下に入るまでの実情は,「PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」(ローレンス・レビー著,井口耕二訳,文響社刊)に詳しい。ピクサー社のクリエイティブ面を語った書籍は何冊もあるが,ビジネス面を語った本書は実にユニークで,示唆に富んでいる。オーナーのスティーブ・ジョブズとCFOであった著者のやりとりは,抜群に面白い。誰もが,同社の技術力,創造力を信じながらも,映画興行的に成功するか,会社が存続するかは未知数だったようだ。
 そんな中で,アニメ作品の続編は劇場公開しないというディズニーの大方針に反して,『トイ・ストーリー2 』(00年3月号)を劇場公開したのは大英断だ。その後,CGアニメもヒット作はシリーズ化し,劇場公開するのは当たり前になっている。とはいえ,このシリーズは『トイ・ストーリー3』で終わるはずだった。完全にそう公言されていたのだが,ピクサー社の重鎮のアンドリュー・スタントン,ピート・ドクターらが,敢えて続編を作るに値する新しいアイデアを訴えたため,採用せざるを得なかったという。
 同社のクリエイティブ・リーダーだった御大ジョン・ラセター氏が再び本作を監督する予定であったのに,同氏がセクハラ騒動で退社したため,中断を余儀なくされた。結局,同氏が関与した脚本の3/4を書き直したという。監督には,過去数作品のストーリーボード・アーティストを務めたジョシュ・クーリーが起用されている。もう御大なしでも,これだけの傑作を創れるほど,ピクサー社の体制は盤石だということだ。
 原点となったオスカー受賞作の短編『ティン・トイ』(88)ではまだ赤ん坊だったアンディ君は,長編シリーズの公開年に合わせて成長する物語設定になっていた。さすがに本作では,大人のアンディ・デイビスまでは登場せず,彼は回想シーンで登場するだけである。『トイ・ストーリー3』の最後で,オモチャ達は4歳の少女ボニーに譲られる。本作はその続編で,引き続きボニーが持ち主であるが,引き続き4歳のままで登場する。
 ウッディとバズ・ライトイヤーの他,ジェシー,ポテトヘッド夫妻,レックス,ハム,スリンキー・ドッグ等,お馴染みのオモチャ達がボニーの持ち物として登場する。新登場のオモチャで,前半の主役は,先割れスプーンの「フォーキー」だ(写真5)。ボニーが幼稚園の工作の時間に作って持ち帰った物で,シンプルだが,可愛い(写真6)。その他,物語の進展につれ,アンティーク・ショップや遊園地で新しいオモチャが登場する。こうして見ると,ペット動物に比べて,オモチャの方がデザインの自由度が高く,クリエイティブ面を強調できるので得だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 前半の主役は先割れスプーンのフォーキー(映画中に登場した姿)
 
 
 
 
 
写真6 完成披露試写会で配られたグッズ。組み立てるのは実に簡単。
 
 
   以下,当欄の視点での要点と感想である。
 ■ 前半,フォーキーを励ましつつ,ボニーの通園に付き添うウッディの活躍の演出が素晴らしい。後半のヒロインは,ウッディの恋人のボー・ピープだ。『トイ・ストーリー2』まで登場していた電気スタンドに付属の陶器製の人形(写真7)だが,その後行方不明だったが,本作でウッディと再会する。ドレスを脱ぎ捨て,表情も豊かで,美しくなっている(写真8)。ルックスはディズニー・プリンセスだが,過酷な遍歴から,現代風の自立する女性に変身している。タイトなパンツ姿もなかなかセクシーだ。
 
 
 
 
 
写真7  『トイ・ストーリー2』のボー・ピープ。動きも少なく,表情も堅い。
 
 
 
 
 
写真8 美しくなったボー・ピープは,ディズニー・プリンセス風
 
 
   ■ CG描写では,冒頭の雨のシーンが秀逸だった。オモチャのCG描写の進歩は,細部まで見ないと分からないが,背景となる町,道路,崖,山々の描写がリアルだ(写真9)。アンティーク店や遊園地は細部に至るまで,きちんとデザインされている。夜の光景がうっとりするくらい美しく(写真10),とりわけ回転木馬と観覧車が絶品である。ここまでの描画力があるなら,そろそろ人間や犬のリアリティをもっと上げてもいいのではないか。そうでないと,アンティーク人形のギャビー・ギャビーと,少女ボニーやその同級生達とのレベル差がなく,どれが人形でどれが人間か,すぐには見分けがつかない(写真11)
 
 
 
 
 
 
 
写真9 まるで実写かと思う見事な背景画像の描き込み
 
 
 
 
 
 
 
写真10 (上)昼間の遊園地。しっかりデザインされている。
      (下)夜の遊園地がうっとりするほど美しい。
 
 
 
 
 
 
 
写真11 (上)アンティーク人形のギャビー・ギャビー,(下)ウッディ達の持ち主の少女ボニー。
あまり差がないので,人間はもっとリアルに描いた方がいい。
 
 
   ■ 何よりもストーリーそのものが素晴らしい。ギャグもアクションもあるが,後半のセンチメンタルな物語が胸を打つ。オモチャが主役の映画で,よくぞここまでのセリフを語らせたものだ。セリフが多いので,字幕版よりも,日本語吹替版の方がオススメである。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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