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O plus E誌 2000年3月号掲載
 
 
『トイ・ストーリー2』
(ウォルト・ディズニー映画
/ブエナ・ビスタ配給)
 
TS2@Disney/Pixar, TS@Disney
       
      (2000/1/25 ブエナビスタ試写室)  
         
     
  パート2としても大成功  
   ディズニーにとっての3本目の長編フルCG映画である。パート2作品は劇場公開せず,ホームビデオのみ発売という方針を採ってきたのに,この作品に限ってはその禁を破った。そうするだけあって,『007危機一発』(これが公開時の邦題)『ゴッド・ファーザーPart2』『ターミネーター2』のように,続編の方が上と言われる出来に仕上がっている。
 1999年11月,ポケモンの全米大ヒットで,「ディズニーを超えた!」との報道で賑わった。しかし『ポケモン・ザ・ファースト・ムービー』の3,103万ドルに対して,翌週の『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』が3,551万ドル,さらに翌週のこの『トイ・ストーリー2』が5,738万ドル(いずれも北米週末3日間興行収入)とNo. 1ヒットの額を更新した。もっとも,この感謝祭シーズンの好況は業界も驚くほどで,よくもまあアメリカ人は映画ばかり観ているなと感心する。ともあれ,ポケモンも大殊勲だが,まだまだディズニーの方が強かったということだ。
 じっくりCGのクオリティを見比べようと,試写会前日第1作目を見直していたら,『トイ・ストーリー2』がコメディ/ミュージカル部門で第57回ゴールデン・グローブ賞を受賞との報が入ってきた。確かに,受賞に値するだけあって,ストーリーもしっかりしているし見せ場もある。主役のウッディとバズは健在で,前作のオモチャ仲間たちも,新しいガールフレンドも登場する。主役と脇役の演出も巧みで,オモチャ達にしっかり感情移入できる。この映画の「子供に遊んでもらってこそオモチャ」という主テーマには,ディズニーの哲学が感じられる。悩めるウッディのこの結論には,思わず「では,自分の本分は?」と自問する観客も少なくないだろう。
 CGの出来栄えはというと,昨年の『バグズ・ライフ』のクオリティから推して,かなりのポリゴン数で来るなと予想されたが,期待以上だった。毎度感心してばかりだが,実際大したものである。
 4年間の技術進歩は顕著だが,前作でウッディもバズもかなりシンプルな顔立ちにしてしまったので,今更そのイメージは変えられない。それでも,動きは格段に良くなっているし,ウッディのシャツやジーンズの材質感がぐっと増している(写真2)。
 
 
(a)手書きスケッチ (b)まず,キャラクタのモデリングとレイアウト
(c)ライトを決めてシェーディングのテスト(d)質感を与えて出来上がり
写真2 『トイ・ストーリー2』のメイキング(TS2@Disney/Pixar, TS@Disney)
 
 もっと困ったのは,ご主人のアンディ少年や犬だろう。何しろ前作で思いっきり手を抜いてしまった。1996年4月号の評でも,「やればもっとリアルにできるのだが,主人公はオモチャだという主張だろう」と書いたが,ちょっと粗っぽすぎた。こちらも急に向上させられずに思案したに違いない。新登場の悪役(オモチャ屋のアル)の鼻の穴や口の中がリアルに描いてあるのは,せめてもの抵抗なのだろう。
     
  ピクサー社からのメッセージ  
   ディズニー作品といっても,実質的にはピクサー社の製作である。『バグズ・ライフ』から,オープニング・クレジットでも,ピクサーはディズニーとほぼ同等の扱いを受けている。『バグズ・ライフ』のビデオには,ピクサーご自慢の短編『ゲーリーじいさんのチェス』が付いていることは以前書いたが,『トイ・ストーリー2』の劇場公開には,本編の前に1986年製作の名作短編『Luxo Jr.』が付くようだ。J・ラセター監督の出世作であり,ピクサー社のシンボル・キャラクタ,Zライトの由来となった作品である。
 CG史に輝く名作ということで,筆者も大学の講義では必ず紹介するが,映画用スクリーンで見るとさすがに解像度の悪さが目立った。プロモーション用ビデオ作品だったのだから無理もない。もとはビデオ・フォーマット(4:3)だから,劇場用のビスタ・サイズ(16:9)で映すのに,上下がカットされてしまうのも残念だ。
 2分半程度の短編なのに,軽快なジャズに乗せたエンドロール・クレジットがついているピクサー社にはこうした洒落気がある。清く明るく健康的なディズニー・ブランドを守りながらも,CGクリエータやハリウッドの同業者たちに向けて「どうだ,見ろよ!スゴイだろう」と挑んでくる。これが実に楽しい。
 では,このピクサー社のメッセージも含めて,見どころを列挙してみよう。
 ■CG技術のアピールは,まず第一に布地や毛玉の材質感だろう。アンディの母親やバービー人形の髪の毛にも進歩の跡が表れている。ジェシーのご主人,エミリーのベッドルームの質感もすごい。
 ■もっと驚くのは,屋外の樹木,植栽,芝生の見事さだ。一瞬実写なのかと目を疑った。風にそよぐ枝や葉の揺れ,紅葉シーンを見て,ようやく幾何モデル・ベースのCGなのだと納得した。「これがCGか,よくぞここまで」と唸らせたいのが,よく分かる。
 ■スナック菓子,化粧品,住宅街,空港ロビーなどは相当なリアリティかと思えば,高層ビルや市中はイマイチである。やればいくらでもできるが,時間とコストを考えてほどほどにしたということか。
 ■クローズアップ・シーンでの背景のぼかしやライティングなど,実写映画の味付けを持ち込んでいる。カメラ・アングルやカット割りにも,アクション映画のクライマックスの演出法が感じられる。
 ■オモチャの修理屋役で登場するのは,アカデミー賞に輝くあのゲーリーじいさんだ。CGタレントはこうやっていくらでも再利用できる。今回は人間の役回りなので,顔のシワを増やし,眉毛をリアルにして登場させている。
 ■タイトル・シーンは,『スター・ウォーズ』『ディープ・インパクト』『スーパーマン』等のパロディだ。本編中にも『フォレスト・ガンプ/一期一会』の1枚の羽,『ジュラシック・パーク』のTレックスの追跡,『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』のダース・ベーダーの父親告白,『裏窓』のストロボ・シーン等々のパロディが埋め込まれている。エレベータ・シュートからエア・ダクトへの侵入シーンは『ミッション・インポッシブル』,空港でのアクションは『ダイ・ハード2』を想い起こさせる。映画ファンに「いくつ入っていたか,当ててみよう」と挑戦しているのである。
 という風に,一般観客もマニアも業界人も,十分楽しめる映画だ。1ヶ月にを2つも出したくはなかったが,ここまでのCG技術を見せられたのでは止むを得ない。いくらCPUが速くなったといっても,まだまだ家庭用ゲーム機にはここまでのクオリティは出せまいと言っているかのようだ。ハイ,その通りです。
 
   
   
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