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O plus E誌 2016年7月号掲載
 
 
ファインディング・ドリー』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2016 Disney / Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月16日より TOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2016年6月13日 ディズニー試写室Oswald Theater(東京)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ピクサー復活を感じさせる入魂の一作。楽しい。  
  まず開口一番,評価から先に語るなら,長編フルCGアニメの元祖ピクサーの復活,大ヒット間違いなしのこの作品の公開が嬉しい。全体ストーリーも,個々の場面での演出も素晴らしく,かつフルCGで3D表現された海中や水族館内の描写が実に見事な出来映えだ。まさに大人も子供も楽しめる夏休み映画の登場である。
 当欄は,CG史に大きな足跡を残したピクサーの歴史を見守り,応援してきた。同社の発展期の3作『トイ・ストーリー2』(00年3月号)『モンスターズ・インク』(02年2月号)『ファインディング・ニモ』(03年12月号)は,フルCGアニメの確固たる地位を築いた。資本的にディズニーの傘下に入ってからも,『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号)『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)『カールじいさんの空飛ぶ家』(09年12月号)の完成度は圧巻で,3作すべてがアカデミー賞長編アニメ賞に輝くという黄金期であった。ところが,『カーズ2』(11)以降は不振で,迷走状態から抜け出せずにいると感じる。
 本作は大ヒット作『ファインディング・ニモ』の続編で,同作と『…ウォーリー』で2度もオスカーを得たアンドリュー・スタントンが,満を持しての3度目のメガホンである。「ニモ」は赤白2色の海水魚カクレクマノミの男の子で,人間に連れ去られて行方不明になったのを,父親のマーリンが探し出すハートフル・ドラマが前作であった。同作のヒット以来,大抵の水族館にカクレクマノミがいるが,子供たちのほぼ全員がこの魚を「ニモ」と呼ぶほど,その名前は知れ渡っている。
 本作の主役は,前作でマーリンがニモを探すのを助けたナンヨウハギのドリーである。何でもすぐに忘れてしまう,陽気な女性という設定であった。本作では,幼児期のドリーも登場するが,これが頗る可愛い。グッズ・ビジネスでも大人気となることだろう。物忘れは生まれつきらしく,記憶障害ではないかと思うほどだ。
 前作の舞台はオーストラリアのグレート・バリア・リーフの美しいサンゴ礁だったが,本作の大半は米国カリフォルニアの海洋生物研究所(MLI)に舞台を移している。今度は,ドリーが子供の頃に離れ離れになった両親を探し出す物語だ。記憶が曖昧なドリーが,わずかな手掛かりを頼りに,両親との再会を夢見ることが本作のミソとなっている。以下,当欄の素直な感想である。
 ■ 本編上映の前に,恒例の短編アニメがついていた。この『ひな鳥の冒険』(原題:『Piper』)のCG画質に驚いた。幼いシギのパイパーの物語だが,海辺の岩や砂,波の写実性が,過去に見たどのCG映像よりも優れていた(写真1)。シギの姿や飛ぶ様もリアルで,実写映像としか思えず,パイパーの表情を観るまではCGとは信じられなかった。文句なしに凄い。今夏のSIGGRAPHでのメイキング・セッションが,今から待ち遠しい。
 
 
 
 
 
写真1 実写としか思えない見事な海辺の描写
 
 
  ■ 映画本編も,この程度の写実性はいつでも可能と思わせておいた上で,デフォルメし,アニメらしいキャラを描いている。前作でお馴染みの水棲生物に加えて,新しいキャラも続々と登場する。その代表格は,ミズダコのハンク(写真2)とジンベエザメのデスティニー(写真3)だ。白イルカのベイリーやアシカのコンビ(写真4)も悪くない。セリフのない魚も,多種多様,物凄い数がモデリングされ,リアルな動きが付されている。MLIは研究実験設備の他に水族館エリアが付設されている設定なので,その中にいくらでも描き込める訳だ。エンドロールに描かれた魚たちだけでも,一見に値する。
 
 
 
 
 
写真2 新登場の重要キャラはミズダコのハンク
 
 
 
 
 
写真3 こちらはジンベエザメのディスティニー
 
 
 
 
 
写真4 ギャグ担当はアシカのコンビ
 
 
  ■ その水族館のセットデザインが素晴らしい。実物セットを作る必要がないのだから,屋内も屋外も,いくらでも魅力的に設計できる(写真5)。オープン・オーシャンやタッチ・プールといったゾーンも存在する。外の海を利用した水槽やその間を繋ぐパイプもあるから,その中をドリーやニモたちを縦横に配置することができる。それゆえ,脚本の自由度も増す。フルCGアニメの脚本がどんどん進化し,奥深い物語が描ける理由はここにある。ギャグやカーアクションを盛り込んだ上で,心温まるシーンもあり,緩急の付け方も絶妙だ。
 
 
 
 
 
写真5 MLI研究施設の内部
(C) 2016 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 音楽はディズニーアニメ風のベタな歌曲でなく,ジャズの名曲が登場する。激しいカーアクションが終わり,全員無事再会したところで,ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」。それなら「Hello,Dolly!」の方がピッタリだと思ったが,本作のドリーはDoryだった(笑)。エンドソングは,顔を出さない人気歌手シーアが歌う「Unforgettable」。歌詞の一言一言が胸に染みる。両親を慕う娘の心境なら,ここは故ナタリー・コールの歌で聴きたかったところだ。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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