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O plus E誌 2020年1・2月号掲載
 
 
キャッツ』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C)2019 Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月24日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年12月24日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ビジュアルは不評だが,CG/VFX技術面では意欲作  
  言うまでもなく,元は世界中で大ヒットし,観客動員数累計は8千万人超という舞台ミュージカルである。ロンドン・ウエストエンドでの初演が1981年で約21年間,NYブロードウェイは1982年からで約18年間のロングランを記録した。日本では劇団四季が1983年から上演し,公演数は1万回を超えているという。
 大都会の中の逆境に生きる猫たちの物語で,人間は登場しない。舞台俳優たちは全員が猫に扮した衣装で歌い,踊りまくる。全員が全裸という「オー!カルカッタ」ほどの衝撃ではないが,異色の舞台設定で話題となった。猫たちは個性的で,1匹ずつ名前が与えられ,「ぐうたらな猫」「ワイルドな猫」「金持ちでグルメな猫」「不思議な力をもつ長老猫」等々の性格づけもされている。満月輝く夜に,年に一度の「ジェリクル舞踏会」が開催され,天に昇る1匹の猫が選ばれるという筋立てである。
 もう1つの特長は,アンドリュー・ロイド=ウェバー作の音楽の素晴らしさだ。「エビータ」(76)と「オペラ座の怪人」(86)の間の作曲であるから,まさに最盛期の名曲揃いである。本作中でも大半がそのまま使用されているが,エンドソングとして,テイラー・スウィフトが歌う新曲1曲が加えられるという。これも愉しみだった。
 監督は『英国王のスピーチ』(11年3月号)でオスカー監督となったトム・フーパー。ミュージカルの映画化も『レ・ミゼラブル』(13年1月号)で経験済みである。ヒロインの白猫ヴィクトリア役は英国ロイヤルバレエ団プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワード,助演はジェームズ・コーデン,ジェニファー・ハドソン,イドリス・エルバらで,ジュディ・デンチ,イアン・マッケランのベテラン俳優も加わった豪華出演陣だ。製作総指揮として,巨匠スティーヴン・スピルバーグも参加している。
 こうなると話題性は十二分で,大ヒット間違いなしと思ったのだが,北米では酷評されている。過去の大作では見たこともない,驚くべき低評価だ。他人の評など気にしないのだが,公開後にVFX処理結果を差し替えたという衝撃のニュースが飛び込んで来たのには驚いた。
 SNS上では「人間の顔をした小さなゴキブリ」「ホラーであり,忍耐テスト」「悪夢のような解剖学のレッスン」等の罵詈雑言が並んでいる。大別すると,「とても猫には見えず,気味が悪い」派が圧倒的で,「舞台版の演出を踏襲しただけで,新規性に欠ける」派が少しいる感じだ。冗談じゃない! 前者は舞台版を見たことがあるのか?『ライオン・キング』(19年Web専用#4)のようなCG品質の猫を登場させて,歌わせたかったのか? 製作意図を理解しない,全くの筋違いの批判だ。当欄としては,断固として本作のビジュアルを擁護したい。
 ではなぜ当欄も高評価ではないのかと言えば,ミュージカル映画として失敗作と思えるからだ。ミージカル大好き人間の筆者だが,『レ・ミゼラブル』同様,この監督の演出が全く好きになれない。音楽的にも,大きな映画館向きのサウンドになっていないと感じた。
 以下は,当欄の視点での本作のCG/VFX擁護論である。
 ■ 見どころは,全員が着ぐるみ着用ではなく,VFX加工したデジタル製の猫衣装で登場することだ。マーカー付きのタイトなスーツで演技し,MoCapデータに対して「Digital Fur Technology」で本物の猫の体毛を加えて質感を出している。舞台では顔面に色々描き込んでいたが,本作では俳優の顔はそのまま残している(写真1)。単純に一層分のCG毛皮を着せたのではなく,女性のバストや男性の股間は凹凸を控えめにしている。頭部の生え際の処理が見事だ。俳優の耳は消し,猫の耳を付加している(写真2)。CG製の尻尾には,着ぐるみでは有り得ない躍動感がある(写真3)。体毛の質感は抜群で,J・デンチ演じる長老猫は貴婦人の豪華な毛皮並みだ(写真4)
 
 
 
 
 
写真1 白い仔猫のヴィクトリア。F・ヘイワードの素顔よりも可愛く見える。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 俳優の耳を消し,CG製の猫の耳とヒゲを加えている。生え際の処理も見事だ。
 
 
 
 
 
写真3 ピンと立った尻尾は,CG描写ゆえの産物
 
 
 
 
 
写真4 毛皮のコートに見える体毛もすべてCGで描写
 
 
  ■ 本物猫らしく描くのは可能だが,それでは大ヒットミュージカルの映画化にはならない。なまじっか体毛の質感を上げたために,ある種の「不気味の谷」が生じた訳だ。舞台だと顔がよく見えず,歌と踊りに興じていれば良いが,俳優の顔がよく見える映画ゆえに,この描写が気に入らない批評家の酷評を受け,その後,褒めることが憚られるような風潮になってしまったようだ。
 ■ 猫のサイズに合わせて,背景中の物体は2.5倍の大きさで作ったそうだ(写真5)。もっと大きな背景中や激しい動きの表現には,デジタル合成が使われている(写真6)。最後のトラファルガー広場のシーンもしかりだ。膨大な量のCG/VFX処理の大半を担当したのはMPCで,Lola VFXが一部を補っているに過ぎない。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 猫のサイズに合わせて,他の物体は2.5倍で制作
 
 
 
 
 
写真6 さすがに,この猫たちのジャンプはCG描写か
(C)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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