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O plus E 2019年Webページ専用記事#6
 
 
フォードvsフェラーリ』
(20世紀フォックス映画)
      (C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
    2019年11月19日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  カー・レース映画史上に残る傑作で,撮影もサウンドも見事  
  何と素晴らしいカー・レース映画だろう。確実にカー・レース映画史上のベスト3に入る傑作だ。当欄では,『ラッシュ/プライドと友情』(14年2月号)を絶賛したが,それと同等か,少し上だから,史上最高峰と言えるかと思う。若い頃はとにかくスポーツカーに憧れ,四半世紀前にはF1レースに興じた筆者らの世代には,格別に痺れる映画だ。そうしたスポーツカー・マニアやF1ファンの目から観たら,何で大衆車メーカーのフォードなのか不思議だった。フェラーリに対抗するなら,ポルシェかマクラーレンじゃないかと思うだろう。本作で描かれているのは,各国を転戦するF1ではなく,イタリアの伝統ある「ル・マン24時間レース」の半世紀以上前の姿である。
 そう言えば,若い頃,スティーブ・マックィーン主演の『栄光のル・マン』(71)にも痺れた記憶がある。ただし,映画としてはさほど面白くなく,ただただレーサー役のマックィーンがカッコよかっただけだ。当時の青年はマックィーン映画ならすべてに憧れたが,自らレーシング・ライセンスを所有して,実際に1970年のレースにエントリーし,レースをこなしながら撮影したというので,公開前の人気も沸騰していた。
 本作で描かれているのは1960年代の中盤であり,1966年のレースが物語の中心となっている。フォードがフェラーリ社の買収に失敗し,その遺恨から,激怒した会長のフォード2世がル・マン参戦を決断という。ル・マンの歴代最多勝利獲得社はポルシェだが,当時はフェラーリが最強の座にあった。それに多額の投資をして挑んだフォードは,本作に描かれるような開発努力により,1966年以降,4回の優勝を果たしたという。日本の自動車メーカーが出場したのは1970年代だったので,当時の状況を我々日本人がよく知らないのも無理はない。
 監督・製作・脚本は,ジェームズ・マンゴールド。青春映画の『17歳のカルテ』(99),音楽映画の『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05),『X-Men』シリーズの『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年10月号)『LOGAN/ローガン』(17年6月号)等々を手がけていて,監督経験は豊富だ。  主演は「ボーン」シリーズのマット・デイモンと『ダークナイト』シリーズのクリスチャン・ベイルで,客を呼べる2大俳優のダブル主演だが,『ラッシュ…』のように主演の2人が年間チャンピオンを争う訳ではない。M・デイモンが演じるのは,ル・マン優勝経験がある元レーシング・ドライバーのキャロル・シェルビーで,引退後はレーシングカー・デザイナーとして自分の会社を設立し,フォード社のル・マン参戦を支える存在として登場する(写真1)。一方,C・ベイルが演じるのは,そのシェルビーに見込まれてフォード・チームに加わる破天荒な辣腕レーサーのケン・マイルズである。
 
 
 
 
 
写真1 元レーサーのジャック・シェルビーと彼が設計したACコブラ
 
 
  またまたC・ベイルのルックスには驚いた。前作の『バイス』(19年3・4月号)で18kg増量して,チェイニー副大統領に化けたばかりだというのに,もうすっかり痩身に戻っている(写真2)。平常体重から30kg減量した『マシニスト』(04)ほどではないが,+18kgからこの顔立ちにするには,やはり20kg以上の減量をしたに違いない。元々そうした増減が可能な身体なのかもしれないが,こんな急速な増減で命を縮めることになるのではと心配になる。
 
 
 
 
 
写真2 肥満体の副大統領から,すっかり痩身になってレーサー役を演じるクリスチャン・ベイル(左)。
 
 
  題名は両社の対決図式だが,物語の大半はフォード社内での覇権争いや,シェルビーとマイルズの人間関係を描くことに費やされ,フェラーリ側の描写は少ない。会長のフォード2世(トレイシー・レッツ),マーケティング担当副社長のリー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル),モータースポーツ担当重役のレオ・ビーブ (ジョシュ・ルーカス)等々の描き方は,さすが米国大企業内の虚々実々の駆け引きだなと思わせる。ハリウッド映画らしく,マイルズ家内の夫婦愛,父子愛もしっかりと組み込まれている。その分,153分と長尺だが,ただのカー・レース映画でない深味を持たせることに成功している。
 以下,クルマやチームの歴史的再現,CG/VFXの利用を含めた当欄の視点からのコメントである。
 ■ カー・チェイスはアクション映画の華で,CG/VFXの活躍の場でもあるが,カー・レースとなると少し趣きが違う。極端で外連味たっぷりの演出よりも,レースらしいリアリティが必要となる。本作のような,半世紀以上前に実際にあったレースを再現するとなると尚更だ。『ワイルド・スピード』シリーズは,現代が舞台で,ストリートカー・レースを描いているので,マニア垂涎の実在するスポーツカーを揃えれば良かったが,1966年のル・マンに出場した車輌となると,そうは行かない。ほぼすべて実物大のレプリカを製作したという(写真3)。これらはただの据え置いて撮影するのではなく,それなりの高性能エンジンを積んで走行させなければレース映画にならない(写真4)
 
  ■ ル・マンに至るまでのいくつかのレースは,本物のサーキットを借り,実際に車輌を走らせて撮影したそうだ(写真5)。現在のル・マン耐久レースは,コースも観客スタンドも1966年当時とはかなり変更・改築されているので,田舎道の周回レース用にはジョージア州の片田舎を確保し,スタート&フィニッシュ時の観覧席の一部,ピット,VIPやプレス用のボックスは,私用空港を借りて実物大で建設したという(写真6)。レーサーが競技車に駆け寄って乗車する「ル・マン式スタート」が再現されているのも嬉しい(写真7)。バナー広告やピット内の道具類も忠実に複製されているようだ。
 
 
 
 
 
写真3 レーシングカーは,ほぼすべて実物大のレプリカを製作
 
 
 
 
 
写真4 車体は復刻レプリカでも,現在のV8エンジンを搭載して走行させている
 
 
 
 
 
写真5 本物のレーシング・サーキットを借り切っての撮影
 
 
 
 
 
写真6 観客席の一部やピットは,50年前の写真を基に建築し直した
 
 
 
 
 
写真7 全レーサーが一旦右側のスタンド前に整列した後,反対側の競技車に駆け寄って乗車するのが「ル・マン式スタート」
 
 
  ■ そうした複製や再現がなされている一方で,写真8 のようなVFX合成もしっかり使われている。雨中や霧のシーンにも,CGは威力を発揮している(写真9)。レース・シーンでは,かなりクローズアップを使って迫力を出している。それが実写なのか,CG/VFXの産物なのか,全く識別できない(写真10)。派手なクラッシュは,当然CGだろうが……。そのVFXの主担当はMethod Studiosで,Rising Sun Pictures, The Yard VFX, Halon Entertainment, Lola VFX等々も参加している。エンドロールには,Allan Padelford Camera Carsなる社名もあったから,カメラリグを取り付けて至近距離で走行する併走車が多用されていたのだろう。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 右側は実物だが,左側の大型スタンドや大観衆はCG製のようだ(写真7とは向きが逆)
 
 
 
 
 
 
 
写真9 夜間の霧中の走行シーンには,CG製の霧が付加されている
 
 
 
 
 
写真10 どこまでが実物か,まず見分けがつかない
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
 
  ■ 映像だけでなく,サウンドも極上だった。エンジン音,加速音,ブレーキの音,そしてクラッシュ時の激しい衝突音……。試写は普通の小さな試写室で観たが,IMAXシアターなら,迫力あるサウンドが堪能できることだろう。エンドロールで流れる“Polk Salad Annie”のインスト・ナンバーもかなりご機嫌なアレンジだった。
 
 
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