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O plus E誌 2016年8月号掲載
 
 
ジャングル・
ブック』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2016 Disney Enterprises, Inc
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [8月11日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2016年7月8日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
ターザン:REBORN』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C) 2016 EDGAR RICE BURROUGHS, INC., WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月30日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2016年6月21日 GAGA試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  動物に育てられたジャングル育ちの少年と青年  
  今年の夏もCG/VFX大作が目白押しで,取捨選択も悩ましいが,まずは何をおいても,ジャングルものの名作のリメイクCG大作2本からだ。今回はまさに比較対照すべき2本がほぼ同時公開される。よって,それぞれを順に紹介するのではなく,久々に項目ごとに比較対照する形式で語ることにしよう。以下,『ジャングル・ブック』を『JB』,『ターザン:REBORN』(原題: The Legend of Tarzan)を『LT』と略記することにする。
 
 
  【原作と過去の映画化】
 共に良く知られた素材だが,知名度では「ターザン」の方が上だろうか。原作は,米国のSF作家エドガー・R・バローズの小説で,1912年から1924年の間に10巻が,1965年までに24巻が出版されているが,派生作品も数多く存在する。本名はグレイストーク卿ジョン・クレイトンなる英国貴族の血筋であるが,両親がアフリカに向けて乗った船で船員の反乱が起こり,彼らはアフリカ西海岸に置き去りにされる。父親は類人猿に殺され,やがて母親も死んで,雌ゴリラのカーラに育てられたターザンは野生児として動物たちと過ごす。動物語を理解できる上に,独学で英語も話せるという便利な存在で,後年は世界を旅したり,会社を設立したり,挙句の果ては第1次世界大戦にも巻き込まれるようだ。
 とはいえ,一般に知られるターザン像は,奇声を発してジャングル内を自由奔放に移動する野生児の姿だろう。映画化は1918年に始まり,数十本が製作・公開され,TVシリーズも何度も企画されていて,数え切れない。最も有名なのは,戦前から戦後にかけて,水泳の金メダリスト,ジョニー・ワイズミュラーが主演した作品群だ。筆者とて,リアルタイムで観た訳ではないが,後年,TVで何度もその姿が紹介されている。むしろ,筆者ら団塊の世代にとってのターザンは,子供の頃,紙芝居で観たジャングルの勇者の姿であった。
 最近はほとんど映画化されることなく,最新の映画化はディズニーアニメの『ターザン』(99年11月号) であった。デジタル技術を用いながらも,2Dのセル調アニメの特長を生かした作品だと記憶している。
 一方の『JB』の原作の方が古く,ノーベル賞作家ラドヤード・キップリングが1894年に出版した短編集の児童文学だ。翌年には,続編が出版されている。少年少女文学全集や絵本で目にした人も多いようだが,映像化はそう多くない。1967年公開のディズニーアニメ『ジャングル・ブック』(以下,アニメ版と略す)が圧倒的に有名で,前年逝去したウォルト・ディズニーの遺作として語られることも多い。本作『JB』は,その約半世紀ぶりの実写映画化である。
 こちらの主人公のモーグリは,黒ヒョウのバギーラに見つけ出され,母オオカミのラクシャに育てられた少年だ。ジャングル中の動物たちと会話できる。筆者は今回初めて知ったのだが,エドガー・R・バローズは小説「JB」を参考にしてターザン像を生み出したそうだ。

 【今回の映画化の見どころ】
 では,原点たる『JB』から語ろう。今回改めて67年のアニメ版をビデオで見直したが,極めて素直で,世界中の子供たちに好かれる物語展開だ。実写版『JB』は,物語の基本骨格や主要登場動物でアニメ版を踏襲している。そのアニメ版自体が,原作をかなり脚色して作り上げた長編であるから,そのままディズニー世界である訳だ。とはいえ,最近の映画らしくハイテンポであり,音楽も3D上映もメリハリが利いている。「実写映画化」と書いたが,確かにそう見える。実際は,後述するように,大半がCGで制作されている(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 50年ぶりの実写映画化というが,実はほぼCG
 
 
  一方の『LT』は,久々のターザン映画らしく,少しユニークな描き方で入って来た。ジャングル内から始めるのではなく,ターザンとジェーンが英国貴族として生活しているところから映画は始まる。イケメン男優,スーツ姿のターザンには驚いた。やがて,政府の要請で故郷のアフリカ・コンゴに戻るが,そこで陰謀に巻き込まれ,ジェーンも捕らわれてしまう……。前半は少し退屈な脚本であったが,舞台が中盤にジャングル,終盤海沿いの町に移って以降,生き生きとした展開になる。

 【スタッフ&キャスト】
  『JB』の監督は,『アイアンマン』シリーズなどのジョン・ファヴロー。俳優としても活躍している。本作の出演人物はたった1人,モーグリ少年だけだ。2,000人の候補者から選ばれたニール・セディが,ブルーバックのスタジオ内で張りぼてや着ぐるみの動物相手に見せた演技は見事の一言に尽きる(写真2)。長髪,橙色の腰布1枚の姿は,アニメ版から飛び出して来たかのようだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 全編ほぼたった1人での演技
(上:スタジオ内撮影,中:背景をレンダリング中,下:完成映像)
(C) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  動物たちの声は,ベン・キングズレー,ビル・マーレイ,クリストファー・ウォーケンらベテラン男優が演じ,女優陣ではスカーレット・ヨハンソン,ルピタ・ニョンゴらが配されている。
『LT』の監督は,『ハリー・ポッター』シリーズの最後の4作を監督したデヴィッド・イェーツ。英国が舞台でVFX多用作となると,ぴったりだ。注目のターザン役には,スウェーデン出身のイケメン男優のアレクサンダー・スカルスガルドが抜擢された。スーツ姿もよく似合うが,後半,上半身裸になってからの肉体美には惚れ惚れする。ディズニーアニメ版のターザンにもルックスが似ている。ジェーン役は豪州出身のマーゴット・ロビー,助演陣にはクリストフ・ヴァルツ,サミュエル・L・ジャクソンらの芸達者が配されている。

 【動物の描かれ方】
 これは『LT』から語ろう。注目は,ターザンを育てたゴリラたちだ。『猿の惑星』シリーズから容易に想像できるように,類人猿はもはや全く違和感のないレベルで描くことができる(写真3)。その他,ライオン,ゾウ,ダチョウ,カバ,ワニがクオリティ高く描かれている。終盤の野牛の突進シーンも見事だった。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 もうこのレベルのCG描写は当たり前に思えてしまう
(C) 2016 EDGAR RICE BURROUGHS, INC., WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 
 
   試写は先に『LT』を観ていたので,上記で満足していたのだが,後日『JB』を観て,さらに上を行っていることに驚嘆した。まず,冒頭から,登場する動物の種類の多さ,数に圧倒される。まるで,動物ドキュメンタリー映画であり,CGだと気がつかない観客も多いと思われる。敵役のベンガル虎のシア・カーン(写真4)だけなら,『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)から高レベルが想像できるが,オオカミのアキーラ,クマのバルー等,それぞれに個性を持たせた上で,全動物をここまでリアルに描いた腕に感心する。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 敵役のトラ。CGもこれだけなら驚かないが…。
 
 
  実を言うと,しばらくの間は,動物たちがリアル過ぎて,言葉を話すことに違和感が有った。かなりデフォルメして,擬人化しているセル調アニメ,CGアニメのキャラには馴れているが,大げさな表情をさせないリアルな動物ゆえの違和感である。ところが,少し擬人化するだけで緩和される。S・ヨハンソン演じるヘビのカー(写真5)には色っぽさを感じたし,大きなオランウータンのキング・ルーイの言動はごく自然に感じられた。
 
 
 
 
 
写真5 ニシキヘビのカーは女性で登場。色っぽい。
 
 
   【ジャングル,その他の描写】
  「少年以外はすべてCG」というのが『JB』のキャッチコピーである。ここでいう「CG」は,実写の背景映像をデジタル合成する場合も含んだ表現だと思っていた。即ち,モーグリ少年のジャングル・セットでの演技にCG製の動物を配するパターンが主で,時にはグリーンかブルースクリーン中で演技させ,背景には屋外で撮影したジャングル映像を合成するという意味である。ところが,どうやらそうではないらしい。険しい崖,急流,滝がCGであるだけでなく,ジャングルのほぼすべてをCGで描いたそうだ(写真6)。そのクオリティの高さに驚いた。まさにこの数年で最高レベルのCG/VFX作品であり,来年のオスカーの大本命だと予想しておく。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 アニメ版で見慣れた光景も最高級のVFXで再現
(C) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  一方の『LT』は,対照的に大型スタジオ内に巨大なジャングル・セットを構築し,その中でターザンを縦横に活躍させている(写真7)。むしろこちらの方が,正統派の制作方法で,比べられるのは相手が悪かったと言える。終盤はジャングルを離れ,海沿いの集落(写真8)での闘いが展開される。そのVFXシーンも,映画前半の19世紀のロンドン市内の描写も相当高レベルだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 (上)巨大スタジオ内にジャングルを設営して撮影
(下)さすがに,こちらはVFX合成による産物
 
 
 
 
 
写真8 終盤は海沿いの集落を舞台とした戦いに
(C) 2016 EDGAR RICE BURROUGHS, INC., WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS NORTH AMERICA INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.
 
 
   【CG/VFXスタジオ】
  『JB』の圧倒的なCG/VFXシーンの大半を,主担当MPC,副担当Digital Domainの2社で描き切っている。他にはWeta Digital, Legacy Effectsが多少参加した程度だ。PreVis作業もMPC内の部隊が担当している。
『LT』の主担当はFramestoreで,副担当がMPC,他にMethod Studios,Rising Sun Pictures,Lola Visual Effects等も参加している。英国勢のパワーが凄い。
 
 
 
 
  付記:『ジャングル・ブック』の吹替版とメイキング  
   当欄にとって,今年最大の話題作である『ジャングル・ブック』について,もう少し語ってみたい。

 【日本語吹替版】
 マスコミ試写は,3D上映で2度観た。まず字幕版を観て本誌原稿を書いたが,改めて日本語吹替版にも足を運んだ。日本語吹替版のキャストを聞いただけで,これは吹替版の方が上質なのではないかと想像したためである。
 バギーラ(モーグリの守護神たる黒ヒョウ)=松本幸四郎
 バルー(陽気な黒クマ)=西田敏行
 ラクシャ(モーグリの育ての母親)=宮沢りえ
 シア・カーン(敵役の残忍なトラ)=伊勢谷友介
というキャスティングは,あまりにも魅力的ではないか。
 当欄ではこれまでにも再三,生身の俳優が登場しないフルCGアニメは日本語吹替版の方が良質のことが多く,CG/VFXの質を凝視する上でも,字幕でない方が好都合と書いてきた。それゆえ「少年以外はすべてCG」という本作もほぼ同様ではないかと予想した。
 ところが予想に反して,吹替版はさほどではなかった。バギーラは,ベン・キングズレーの声の方が威厳があり,松本幸四郎の声には深みがない。最も適役だと思った西田敏行のバルーは,少し作り過ぎで,セリフに自然らしさがない。唯一,伊勢谷友介のシア・カーンだけが,英語版(イドリス・エルバ)と同等の出来映えだった。そして,唯一の出演者モーグリ少年の声は,やはり俳優の口と連動している方がぐっと自然だった。
 という訳で,本作は英語版(字幕版)をオススメする。

 【SIGGRAPH2016でのメイキング情報】
 今年もCG祭典SIGGRAPHに出かけた。開催地がカリフォルニア州アナハイム・コンベンション・センター(ディズニーランドのすぐ近く)だったためもあり,ディズニー,ピクサー,マーベル・スタジオ作品のメイキング情報が他を圧倒していたが,とりわけ本作は,その主役中の主役であり,聴衆の数も一番多かった。Production Session, Talk,その他でもメイキング情報が語られていたが,以下はそこで得た主な知見,感じたことである。
 ■ VFXのチーフ・スーパバイザーは,ロブ・レガート氏。『タイタニック』(98年2月号)と『ヒューゴの不思議な発明』(12年3月号)で2度オスカーを受賞したベテランである。彼は,常にアニメ制作に新技術を導入し続けたウォルト・ディズニーのマインドを,本作でも活かしたと語っていた。
 ■ 当代の最高レベルとも言える本作のCG/VFXだが,一朝一夕にして出来上がったものではなく,本作のメイキング映像に触れ,四半世紀かけて業界全体で築き上げてきたものであると実感した。水,火炎,爆発,毛髪,布,植物等の描画には,他作品でも新技術を次々と導入し続けているが,本作は自前技術に拘らず,高水準の市販ソフトも積極的に活用している。例えば,植物のモデリングとレンダリングに使われたのは「SpeedTree」で,『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)でも使われていたソフトのようだ。
 ■ 既存ソフトの利用とはいえ,その使い方が見事だ。ジャングルは,実空間換算で31平方kmにも相当する面積のCG空間を設定し,まるで都市計画のように地域に分けて開発・保守する管理を行なっている。その中を縦横無尽にカメラが移動でき,時間帯や天候を変化させたライティングまでシミュレートできる。CG/VFX主担当のMPC社だけで,ロンドン,ロサンジェルス,インドのバンガロールの3拠点があり,計約800人のクリエータ達が参加しているというから,マンパワーのかけ方も半端ではない。
 ■ 動物たちの動きの表現はと言えば,トラやクマの動きは3D-CGの骨格や筋肉をもちながら,従来のセル調アニメーション風の動きを加味している。その一方,キング・ルーイ率いる猿軍団の動きは,徹底してMoCapを利用し,人間の俳優が演じる動きをデータ化している。その担当はWeta Digital社。なるほど『キング・コング』(06年1月号)や『猿の惑星』シリーズで培った経験で,動きも表情も猿たちの表現はお手のものだ。その中でも,本作での見ものは,オランウータンのキング・ルーイのデザインだ。旧アニメ版では普通の大きさだったのに(付写真1),身長3.7mもの巨大な類人猿として描いている(付写真2)。格別目立つ存在だけに,体毛,表情,目の輝きまで,他の猿とは手間のかけ方も違う。
 
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付写真1 1967年のアニメ版では普通サイズで陽気な役柄
(C) Disney
 
 
 
 
 
 
 
付写真2 本作では,巨大な敵役として登場
(C) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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