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O plus E誌 2010年8月号掲載
 
 
ヒックとドラゴン』
(ドリームワークス・アニメーション
/パラマウント ピクチャーズ配給)
      How to Train Your Dragon (TM) & (C) 2010 DreamWorks Animation L.L.C.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月7日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開予定]   2010年6月1日 GAGA試写室(大阪)
 
         
   
 
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トイ・ストーリー3』

(ウォルト・ディズニー映画)

      (C) 2008 WALT DISNEY PICTURES / PIXAR ANIMATION STUDIOS.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月10日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー公開中]   2010年6月25日 角川試写室(大阪)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  毒気がとれたドリームワークス・アニメの最高傑作
 
 

 口直しという訳でもないが,同じ配給会社が扱う良質のフルCGアニメに移ろう。もはやフルCGアニメというだけで紹介するのは止めたと何度か述べたが,やはりこの夏公開の2作は語らざるを得ない良作だ。
 まずは,『ヒックとドラゴン』。邦題も広報・宣伝も地味で知名度は低いが,3月下旬の米国公開でかなり評判が高かった一作だ。英国人作家クレシッダ・コーウェル作の児童文学が原作で,2003年から全8巻が刊行されている。原題は『How to Train Your Dragon』だが,2009年秋から出ている邦訳本(小峰書店刊)の題名をそのまま踏襲している。小学校低学年向けで,児童文学と言っても絵本に近い感じだ。
 監督・脚本は,『リロ&スティッチ』(02)のディーン・デュボアとクリス・サンダースのコンビだ。もうそれだけで,心暖まる優しい物語に仕上がっていると期待できる。前作だけでなく,彼らが過去に参加したアニメ作品からも当然ディズニー作品だと思ったが,これが何とライバルのドリームワークス・アニメーションの最新作だった。実写映画と違い,フルCGアニメは,有力なCGアニメ・スタジオの支えなくしては成り立たない共同作業であるので,これはかなり興味深い起用だ。
 舞台となるのは,バイキングと敵対する野生のドラゴンが暮らす神話の世界である。主人公は,バーク島に住む少年ヒックで,勇猛な族長の息子でありながら,気弱で冴えない生活を送っている。ある日傷ついて飛べなくなったドラゴンのトゥースと出会い,敵同士でありながら,誰にも知られず心を通わせる関係になるという物語だ。全く何ということのない,平凡そのものの子供向けの冒険ファンタジーなのだが,これが結構面白い。なるほど評判が好いというのも理解できる。語り口が上手いとしか言いようがない。
 ブランドを隠して見せたなら,ピクサー作品かと思う観客も少なくないだろう。ピクサーよりもピクサー的とも言える。アンチ・ディズニー,アンチ・ピクサーをウリにし,少し上の年齢層を狙って,スパイスの利いたセリフやブラック・ユーモアを交えたドリームワークスの姿勢はどうなったのかと感じるほどだ。皮肉なことに,毒のないこの映画が,ドリームワークス・アニメーションのこれまでの最高傑作ではないかと思う。
 完成披露試写を見損ねて,その後の2D版の試写で観たのだが,絵が綺麗で明るいというのが第一印象だ。3D版で光量が落ちることを計算しての配慮かと思われる。例によって,キャラクターはマンガ風にかなりデフォルメされているが,背景はしっかり写実的に描き込まれているという標準スタイルだ(写真1)。原作の絵に近づけたのだろうが,それにしてもドラゴンたちの造形はかなり誇張されていて,醜悪と思えるほどだ(写真2)。ただし,主人公のトゥースだけは大きな目の愛らしい風貌で,3枚目系のキャラである。この目の演技が素晴らしい。

   
 
写真1 キャラのデザインは素朴だが,背景の描写は結構リアル
 
   
 
 
 
写真2 ドラゴンのルックスはかなり醜悪
 
   
 

 森や岩の描写は精緻で,いつものように炎や水の処理も見事だ。闘技場でのドラゴンとの闘いのアクション・デザインも秀逸であれば,鎧・兜,盾,斧などの金属部分の光沢感など細部の描写もなかなかのものだ(写真3)。そして,2D版で観ていても,ここは3Dでの立体効果を意識したものだなと分かるシーンが随所に登場する(写真4)。その極め付けは,ヒックを背にしてトゥース(実は,伝説のナイト・フューリー)が縦横無尽に飛翔するシーンだ(写真5)。終盤の盛り上げ方として,見事としか言いようがない。『アバター』(10年2月号)にそっくりだと言われればその通りだが,『ハリー・ポッター』シリーズのクィディッチのシーンをも思い出す。大の大人が観ても十分楽しめる文句なしの良作だ。

   
 
 
写真3 兜や盾の金属部分の光沢感はなかなかのもの
 
   
 
 
写真4 2D版で観ても,3Dを意識した構図だと分かる
 
   
 
 
 
写真5 なるほど,確かに『アバター』に似ている
How to Train Your Dragon (TM) & (C) 2010 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.
 
   
   
  満を持しての3作目は佳作だが,果して前作以上か?
 
 

 もうこの作品で来年のオスカー(長編アニメーション賞)は決まりだと感じたのだが,おっともう1本,強敵が控えていた。長編フルCGアニメの記念すべき最初の作品となった『トイ・ストーリー』の第3作目である。7月号には間に合わなかったので,Web 上だけでの紹介のつもりだったが,余りに世評が高いゆえに『ヒックとドラゴン』と並べて語ることにした。
 カウボーイ人形のウッディとスペースレンジャー人形のバズ・ライトイヤーの名コンビは,様々なCMに使われているので,キャラとしての認知度も高い。ピクサー制作,ディズニー配給のスタイルで映画生誕100年目の1995年に1作目が登場し,4年後の1999年に『トイ・ストーリー2』(00年3月号)が公開されている。当欄恒例の「年間ベスト5」で,最初にNo.1になった作品だ。それから3作目までに11年も経ってしまったのには,少し込み入った事情がある。ピクサーとディズニーの本数契約が切れ,提携が解消されようとした時に,このキャラの使用権をもつディズニーが,傘下のCGアニメ部門に『トイ・ストーリー3』を作らせようとしたと聞く。その後,両社の関係が修復し,ピクサーがディズニーの一部門となり,晴れてピクサー製の『トイ・ストーリー3』が作られることになったのは素直に喜ばしい。
 御大のジョン・ラセターは製作総指揮に退き,監督はリー・アンクリッチが任されている。『モンスターズ・インク』(02年2月号)『ファインディング・ニモ』(03年12月号) の共同監督であったから,経験は十分だ。2006年にこの発表があったから,それから4年も経つ。準備は万端のはずだ。今や3D版がメインだが,前2作を3D化したものが先に公開され,前人気を煽った。
 ウッディとバズの持ち主のアンディ君も17歳になり(写真6),大学入学のため,ウッディ以外のおもちゃは屋根裏部屋にしまって出発するという設定である。残念なのは,映画内の年齢と公開年の進行がずれてしまったことだ。短編『ティン・トイ』(88)時に乳児だった彼は『トイ・ストーリー』(95)時には7歳で,2作目までも同期がとれていた。そのままなら今年で22歳のはずだが,それでは物語を作りにくかったからか,5年も若い年齢で再登場させてきた。

   
 
 
 
写真6 17歳になったアンディ君は,まもなく大学生
 
   
 

 ママの間違いから,おもちゃ達はゴミ袋で捨てられそうになるが,危機を脱した後も託児所にもらわれて行ってしまう。刑務所さながらの託児所を舞台に,新旧のおもちゃ達の冒険物語が展開する。満を持しての製作だけあって,物語も構図もよく練られている。特に,1作目から登場しているキャラ達には,それぞれの個性に応じた出番が用意されている(写真7)。ミスター・ポテトヘッドの活躍は助演男優賞ものだ。衣類,頭髪,毛並みの描写も一段と進化している。悪役のロッツォは存在感も縫いぐるみとしての質感も抜群だ(写真8)。ゴミ袋,段ボール,トイレット・ペーパーなど,何気ない小物のリアルさにも感心する。大量のゴミの描き込みも凄いが,最高峰はアンディやボニーの自宅周辺の樹木や庭のデザインと精緻な描写だ。振り返って見れば,第1作目から街路樹はかなり描き込んであったが,この15年間のCG技術の進歩は歴然である(写真9)

   
 
 
 
写真7 お馴染みのキャラが,しっかり活躍する
 
 
 
 
写真8 悪役のロッツォは,質感も存在感も抜群
 
   
 
 
 
写真9 1作目から15年,CG表現の進歩が顕著だ
(C) 2008 WALT DISNEY PICTURES / PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
 

 そして,誰もが切ない気持ちになる感動のエンディング,そこに追い討ちをかけるように,エンドロールで流れる楽しいシーンの数々……。シリーズで順を追う毎に続編の質が上がるのは珍しいと,あちこちで高く評価されている。本当にそうか? そう語る批評家達は,前2作を隅々まできちんと観たのか? 本作はかなりの佳作であるが,作品としての完成度は『トイ・ストーリー2』の方が上だ。ほんの少しの差であるが,その前作に敬意を評す意味で,この映画の評価を☆☆+に留めた。
 では,筆者がアカデミー会員だったとすれば,来年,両作品のいずれを選ぶか? 私は迷いながらも『ヒックとドラゴン』の素朴さに一票を投じる。

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  (画像は,O plus E誌掲載分から入替・追加しています)  
   
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