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O plus E誌 2020年1・2月号掲載
 
 
アイリッシュマン』
(Netflixオリジナル映画 )
      Netflix映画『アイリッシュマン』
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2019年11月27日よりNetflixにて独占配信中]   2019年12月19日 シネ・リーブル梅田
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ギャング映画の名優3人が若作りで登場する大力作  
  新年のトップ記事には力作『1917 命をかけた伝令』を予定していたのだが,完成披露試写がたった1日違いで本号の締切に間に合わないことが判明した。代りはどうしようと迷ったところに,ひけをとらない力作,格好の話題作があった。米国のメジャー配給網,劇場チェーンを震撼させる威力のNetflixオリジナル作品である。
 何と,上映時間3時間29分の長尺だ。回転が悪いので劇場側は当然嫌がるが,ネット配信前提ゆえに,この映画の企画が通ったのだろう。北米では昨年11月7日から短期間限定劇場公開され,11月27日に世界中に配信されている。本邦では11月15日からの劇場公開だったが,今も単館系劇場で上映されている。他作品と違う別格扱いのようだ。よって,まずは上映中の映画館で観た後,自宅のPCで細部を何度も点検することにした。約3時間半の物語をそのまま映画館で観て,どう感じるのかを体験したかったからである。
 監督マーティン・スコセッシ,主演ロバート・デ・ニーロというのは,これが9作目のタッグとなる。時代は1955〜75年が中心で,主人公は実在したアイルランド系アメリカ人のフランク・シーランである。全米トラック運転手組合の支部長でマフィアとの繋がりがあった人物だ。同組合の委員長で,行方不明になるジミー・ホッファ役には,アル・パチーノが起用された。言うまでもなく,名作『ゴッド・ファーザーPART II』(74)の2枚看板の揃い踏みだ。それに加えて,マフィアのボス,ラッセル・ブファリーノ役でスコセッシ組の常連ジョー・ペシが参加する。ほぼ引退状態であったのに,監督が口説いて出演させたようだ。ギャング映画にはぴったりのワクワクするようなトリオだが,意外にも,A・パチーノはスコセッシ作品に初登場だそうだ。
 原作は,F・シーランの告白に基いてチャールズ・ブラントが2004年に出版したノンフィクション作品「I Heard You Paint Houses」だというから,上記3名以外も実在の人物であり,ほぼ実話のようだ。既に老人ホームで暮しているシーランが複数回登場し,過去の出来事を回想する形式である。回想の大半は彼の36〜55歳の時代であり,時代順に語られている。
 まさに噂通りの力作だった。スコセッシ監督の演出,スティーヴン・ザイリアンの脚本,3大スターの演技力の併せ技の産物である。音楽の使い方も上手い。確かに3時間半は長いが,流れに乗って観ていれば,心地よく運んでくれる。残り90分間は緊張感が維持され,ここは音楽なしでも物語に没入してしまう。ゴールデングローブ賞は逃したが,アカデミー賞では9部門で10ノミネート(助演男優賞候補に2人)を果たしている。
 そして,何よりも当欄にとっての関心事は,老舗ILMが開発した俳優の若返りのデジタルメイク(de-aging)技術の出来映えであった。以下,その論評である。
 ■ 昨年は若返りデジタルメイクのオンパレードだった。『キャプテン・マーベル』(19年3・4月号)では25年前のニック・フューリーが登場し,『 IT /イット THE END “それ”が見えたら,終わり。』(同Web専用#5)では,7人の少年少女のうち,成長の早い数人のアップの映像で,2年前の前作レベルに若返らせていた。極め付きは『ジェミニマン』(同上)で,主演のウィル・スミスを23歳若いクローンとして描き,しかも本人と併置させていた。これらはすべて,ある特定年齢の顔に若返らせているのに過ぎない。本作では,上記3名を約20年に渡って,様々なレベルでde-agingしている。登場人物同士の劇中での年齢差も考慮して,加工している(写真1)。圧倒的にその処理量が違う。印象としては全体の8割以上だったが,実際には1,750シーン,約2時間半分の場面で「CGメイク」した3人の若い顔が登場する。
 
 
 
 
 
写真1 約30歳若返ったロバート・デ・ニーロ(左)とアル・パチーノ
 
 
  ■ これだけの分量となると,他作品のように1枚毎に手作業でクオリティを上げることはできない。キーフレームはそうしても,残りはプログラムでほぼ自動処理しなくては終えられない。ILMは約4年かけて,専用ハードとソフトを開発したという。出来映えとしては,『ジェミニマン』の方が上だった。同作では,1時代だけで良いので,オフラインで事前にウィル・スミスの頭部3Dモデルを作り,本人のFacial Captureに応じて若きクローンの顔を生成している。これに対して,本作では,主カメラの両側に赤外線カメラを配して3D情報を取得しているが,これは目の下の弛みや法令線等の位置を抽出するためであり,基本的に各静止画の2Dの平滑化処理である。このため,所々で不自然にのっぺりした顔に見えるシーンがある。まだ技術的には発展途上だ。
 ■ 年齢に応じた加工用に,各人毎に4つの年齢パターンを用意されている(写真2)。劇中では同時には登場しないが,写真3のように並べてみると違いがよく分かる。現在の顔と比較してみても,なるほど若返っているなと感じる(写真4)。普通なら壮年期の俳優を起用し,老人顔だけ老けメイクするところだが,de-aging技術の採用により,老年の3大ギャングスターを起用できた訳だ。この技術で,監督の演出の自由度が増したことは言うまでもない。顔面と頚部以外では,同じ道路沿いの光景を30年前に戻すことにもVFX処理が駆使されていた。
 
 
 
 
 
写真2 1人ずつ4つの年代に応じた顔のCGモデルが存在する
 
 
 
 
 
写真3 年齢順に並べると,加工の差がよく分かる
 
 
 
 
 
 
 
写真4 共に現在76歳のロバート・デ・ニーロ(上)とジョー・ペシ(下)の[処理前→処理後]
Netflix映画『アイリッシュマン』11月27日(水)独占配信開始
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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