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O plus E誌 2003年2月号掲載
 
 
『戦場のピアニスト』
(ステューディオ・キャナル作品/アミューズピクチャーズ配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年1月9日 東宝第一試写室  
  [2月15日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  効果的で印象的なピアノ演奏とVFXシーン  
   第2次世界大戦時,ドイツ占領下のポーランドで奇跡的に生き抜いたユダヤ人ピアニストの物語で,実話である。原題は単に『The Pianist』。『ピアニスト』という邦題は,昨年公開されたフランス&オーストリア合作の『La Pianiste』(01)に使われたばかりなので,この題になったのだろう。どこかにありそうだが,この映画の本質をついたいい題だ。こちらはポーランド&フランス共同製作で,監督・製作は『ローズマリーの赤ちゃん』(68)『チャイナタウン』(74)の巨匠ロマン・ポランスキー。ユダヤ系ポーランド人の同監督にとっては,この映画はマーティン・スコセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』に匹敵する渾身の一作だ。
 昨年のカンヌ映画祭パルムドール(最優秀作品賞)受賞作。いかにも文芸調のこの題からは,とても本映画評の対象作品だとは思わなかったのだが,Cinefex誌が突如リストアップしたので気がついた。正月第2弾公開の予定が,主要劇場での大型公開に変更され延期になったので,本号にも間に合った。
 主人公のピアニスト,ウワディクことウワディスワフ・シュピルマンを演じるのは,『サマー・オブ・サム』(99)『ブレット&ローズ』(00)のエイドリアン・ブロディ。あまり馴染みはないが,ノーブルな顔立ち,10数kg減量して臨んだという痩身は,肉体労働ができず危機を招いたという役柄にはピッタリだ(写真1)。
 物語は,いきなり1939年9月ナチス・ドイツのポーランド侵攻から始まる。ワルシャワのラジオ局でピアノを弾いていたユダヤ人のウワディクは,家族と共に壁に囲われたゲットー(ユダヤ人専用居住区)への移住を余儀なくされる。やがて家族全員が死の収容所送りとなる寸前,彼だけがそれを免れる。ゲットーを脱出し,知人の助けで隠れ家を転々として必死で生き延びるウワディクは,ある晩一人のドイツ軍将校に見つかってしまう……。
 大戦下で迫害に耐えて生き抜いたピアニストの話だというので,もっとスローな展開,静かに流れるピアノの調べを想像したが,生々しい「人間狩り」シーンの連続だった。ピアノ演奏のシーンもほとんどなかった。このまま終わるのかと思ったら,ピアニストであることを証明するため,ドイツ軍将校の前でピアノを奏でるシーン(写真2)は真に見せ場だった。印象的の一言に尽きる。映画史に残る名シーンに数えられるだろう。
     
 
写真1 10数キロ減量の結果、いかにも芸術家然としたやさ男に。 写真2 クライマックスはドイツ軍将校の前で弾くショパン。感動のシーン。
 
     
  視覚効果は,ドイツのダス・ヴェルグ社,フランスのエクレール・ヌメリック社,アメリカのインモーション・システムズ社などが担当している。飛来する飛行機の群れや大戦下のワルシャワの街を描くのに,デジタル合成が随所に使われているが,デジタル・マット画の出来は良くなかった。窓の外がいかにも絵だと感じるシーンがいくつかある。光線の処理が下手くそなためだ。
 VFXの真骨頂は,ウワディクがゲットーの壁から外に出て,廃虚と化した街をうろつくシーンだ。残念ながら,スチル写真の使用が許されなかったが,オフィシャル・サイトやポスターに使われている瓦礫の街である。この部分は,ミニチュア撮影とデジタル・マットの合成シーンに,モーションキャプチャのCG人物像を重ねていると思われる。技術的には特筆すべきほどではないが,壁を越えたら一転異次元の世界と感じさせる使い方が上手い。ウワディクの隠れ家の窓から見える光景が固定的であっただけに,ここで一気に拡がる視野とカメラワークが印象的だ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』とは逆に,ワンポイントだが実に効果的なVFXシーンと評価していいだろう。
 
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  監督の術にはまってしまった  
 
何となく,モノトーンで淡々とした映画を想像していたのですが,テンポも速く,映像もカラフルで生々しかったですね。
それは『シンドラーのリスト』(93)からのの先入観でしょう。。
『シンドラーのリスト』よりも,騒々しかったですよ。前半は銃やムチの音が激しかったし,銃口からの硝煙や火も強調しすぎという気がしました。
それが,自ら少年期にゲットーを原体験したこの監督の印象なのか知れませんよ。
いや,リアリティを通り越して,最近の映画の風潮でしょう。最近,DVDで『ゴッドファーザー』(72)を見直したのですが,昔すごく残虐と感じた銃撃戦や爆破シーンが大人しく感じたんです。音も映像もです。
30年間で映画もずいぶん変わったということですね。ドイツ兵のユダヤ人迫害でも,気まぐれの殺人には言葉も出ませんが,全体としてはいい映画でした。
それまでが騒々しかっただけに,クライマックスのピアノ・シーンは,静寂の中で流れるショパンが印象的で,感動ものでした。
完全に監督の演出にはまった訳ですね(笑)。これが実話というのが,すごいです。
実話ゆえに,ここで出会った2人のその後の運命の皮肉には,やるせなさを感じます。
何のことかは,じっくり映画館で見て下さい。
 
     
   
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