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O plus E 2019年Webページ専用記事#4
 
 
ライオン・キング』
(ウォルト・デイズニー映画)
      (C)2019 Disney Enterprises
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [8月9日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年7月23日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  音楽は秀逸,CGは完璧だが,完璧過ぎてミスマッチ?  
  毎月のように大作,話題作を繰り出してくるディズニー配給網の今年の夏休み公開作は,1994年公開の大ヒットアニメ『ライオン・キング』(以下,「94アニメ版」と言及する)のリメイク作だ。ディズニーアニメの第2次黄金期の3部作のリメイクに関して『アラジン』(19年5・6月号)で触れ,「その最初の『美女と野獣』が2年前にCG/VFX満載の実写映画化され,成功を収めたからには,残る2作品も同じ道を辿るのは時間の問題だった。本作に続いて,実写版『ライオン・キング』は来たる8月9日公開である」と書いてしまった。この時点では,まだ他の2本のリメイク作同様の「CGを多用した実写映画」だと思っていたのである。一般観客の感覚からすればその通りなのだが,配給元は「超実写版」と称している。このことに関しては,後で詳しく触れよう。
 本作の主役のライオンや他の動物たちが,見事なCGで描かれていることは,予告編を観る前から容易に想像できた。いや,10数年前に『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(06年3月号) のCG製ライオンのアスラン王を観た瞬間から,これは『ライオン・キング』もCGでリメイクするだろうと予想し,期待していた。『ジャングル・ブック』(16年8月号)を観た時から,予想はもう確信に変わっていた。同作は「少年以外はすべてCG」であったから,少年も大人も,人間が全く登場しない『ライオン・キング』は,撮影も,実写とCGの合成も格段に楽になるはずだからである。
 今年になってからの『ダンボ』(19年Web専用#2)の象の母子,上述『アラジン』での猿のアブーを観れば,当欄の読者でない一般観客でも,本作のCG製動物のクオリティは予測出来たはずである。加えて,監督はジョン・ファヴロー,VFXスーパバイザーはロブ・レガート,CG/VFX担当はMPCとくれば,当欄が絶賛するレベルに仕上がっていることも確実であった。『ジャングル・ブック』と同じ布陣で,前作の技術蓄積を活用できる上に,この3年間の技術進歩も組み込むことができる態勢だからである。
 アフリカのサバンナにある動物の王国プライドランドが舞台で,牡ライオンの偉大な王ムファサに息子シンバが生まれたところから物語が始まる。王位を狙う邪悪な弟スカーの計略によってムファサは落命し,シンバも王国を追われる。やがて,成長して大人のライオンになったシンバが叔父スカーを倒し,荒廃した王国を救うという復讐物語である。『アラジン』と同様,アニメ版やミュージカル版にかなり忠実なリメイク作になっている。
 英語版のボイスキャストは,ムファサ役のジェームズ・アール・ジョーンズ以外,94アニメ版から一新されている。大人になってからのシンバの声はグラミー賞受賞のラッパーであるドナルド・グローヴァー,ヒロインである牝ライオンのナラの声は歌姫ビヨンセというキャスティングは,明らかに2人にそのまま名曲「愛を感じて」を歌わせる算段からだ(94アニメ版では,台詞と歌は別人だった)。
 94年アニメ版では,故郷を追われたシンバを助けるイボイノシシのプンバァとミーアキャットのティモンの凸凹コンビの存在が出色で,後に「ティモプン」と略称され,彼らが主演の続編アニメも作られた。本作では,コメディアンのセス・ローゲンとビリー・アイクナーが起用されている。ティモン役のB・アイクナーは全く知らなかったが,S・ローゲンとの息は見事に合っていた。
 作品全体の評価は最後に述べることにし,以下が当欄の視点からの評価と感想である。
 ■ まず,プライドランド王国の自然風景,同地に棲息する動物たちを描いた映像が流れ(写真1),そこに名曲「サークル・オブ・ライフ」がかぶさる。アフリカで撮影した実写画像にCG製の動物だけをVFX合成したと見てとれた。これは,まるで「BBCアース」か「ディズニー・ネイチャー」ブランドで公開されるドキュメンタリー映画だ。この技術を使えば,本当に動物の生態を長期間かけて撮影しなくても,いくらでも偽ドキュメンタリーが作れてしまうと思える。続いて,王国の祈祷師ラフィキが,王の後継者としてシンバを高らかに掲げる場面が登場する。94アニメ版そっくりのシーンだが,そのクオリティが圧倒的に違うことを実感できる(写真2)
 
 
 
 
 
 
 
写真1 物語の舞台となるサバンナの王国プライドランド。まず,この映像に圧倒される。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 王子シンバ誕生を宣言するシーンは,アニメ版(下)にそっくり
 
 
  ■ かつて感激したアスラン王よりも,さらにリアルなライオンが登場することは予告編で分かっていたが,どれだけじっくり観ても,正に本物のライオンである。その他の動物もしかりだ。その中で,子ライオンのシンバやナラが,とにかく可愛い(写真3)。モデルとなった実物の子ライオンの写真が公開されていたが,見比べても,全く区別がつかない。いやいや,劇中では,表情や仕草で,より可愛く見せる工夫が加えられていると感じられた。動きも完璧だ。シンバが崖を降りる動作などは,まるで動物番組のそのものだ。生きているライオンにMoCapマーカーを付けて観測したとは思えないから,筋肉モデル,皮膚モデルを与えたCGポリゴンに,人海戦術でこれだけの動きを与えているはずだ。進化したモデリング・ツール,レンダリング・ツールが存在するのだろうが,それにしても完璧だ。
 
 
 
 
 
写真3 何しろ,幼いシンバとナラが可愛い
 
 
  ■ プライドランドの動物たちのカメラワークを観て,「一体,このカメラの動きは何だ!?」と気付いた。アフリカで撮った実写の背景映像にポストプロダクションで,CG製の動物を加えたのではない。それなら,こんなカメラワークにはならない。あくまで,今走っている動物にカメラを必死で追随させている。ここで,こうしたシーンは,被写体となるサバンナをCG空間内に表現し,予めデザインされた動物たちの動きをリアルタイムに追って,そのカメラワークをディジタル記録しているのだと気がついた。即ち,ディジタルのVR空間内で映画をデザインし,制作しているのである。こうしたシーンが70〜80%に達しているのだろうと想像した。後日,Production Notesを見て,100%この手法で作ったフルCG映画だと知った。つまり,写真4のような背景の木々も草も石も,実写ではなく,すべてCGだったのである。恥ずかしながら,そこまで思い至らなかった。上述『ジャングル・ブック』の付記記事で,その制作方法を解説しているのだから,少年が登場しない本作では100%CGだと考えるべきだった。『ジャングル・ブック』よりもスケールが大きく,写真1のような広大な自然風景は,てっきりアフリカで現地撮影したのだと思い込んでしまった(アフリカで多数の写真やビデオは撮って帰ったのだろうが…)。なるほど,これは「超実写」と呼ぶに相応しい。
 
 
 
 
 
写真4 これがフルCGとは! なるほど「超実写」と呼ぶだけのことはある。
 
 
  ■ 動物のCG描写に関して言えば,ライオンがリアル過ぎて,父ムファサと大人になってからのシンバの区別がつかない。牝ライオンたちもしかりだ。物語中では,父と子だから分かるが,単独でスチル写真を見た場合は,見分けられない(写真5)。優れたデザインだと感じたのは,悪役の叔父スカーとハイエナたちだ。みすぼらしく,邪悪な感じを醸し出している(写真6)。よく見ると,ハイエナたちは一匹ずつ,顔立ちが違う。一方,マンドリルのラフィキは,比較的オーソドックスなデザインだった(写真7)。そして,お待たせで登場する「ティモプン」コンビは,しっかり個性的に描かれていた(写真8)
 
 
 
 
 
 
 
写真5 上:父ムファサとシンバ。親子だと分かるが…。下:両親なのか,シンバとナラなのか,識別できない。
 
 
 
 
 
写真6 邪悪な叔父のスカーとハイエナたち。良い出来だ。  
 
 
 
 
 
写真7 マンドリルのラフィキはオーソドックスな描写  
 
 
 
 
 
 
 
写真8 シンバを助けるミーアキャットの「ティモン」とイボイノシシの「プンバァ」
 
 
  ■ 背景デザインでの見どころは,シンバとナラが迷い込む「象の墓場」だ(写真9)。自然風景のロケでは有り得ない異様な光景を生み出している。そして,前半のクライマックスは,ヌーの大群の疾走シーンだった(写真10)。94アニメ版でも多頭数のヌーは,3D-CGで描き,それを2Dセル調アニメ化していたが,本作では,リアルなヌーの怒濤の疾走が,大音量のサウンドと共に登場する。大迫力だ。物語はほとんどコピーと言えるほど素直なリメイクだが,ビジュアルデザイン・チームは,相当頑張って,高レベルのアートデザインとCG描写の両方を達成したと評価しておきたい。
 
 
 
 
 
写真9 禁断の地「象の墓場」は,デザイナーの腕の見せどころ  
 
 
 
 
 
写真10 前半のクライマックスは,ヌーの大群の疾走
(C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.  
 
 
  ■ CG映像の出来映えは,当欄の満点☆☆☆では済まず,☆☆☆☆か☆☆☆☆☆をつけたいくらいなのだが,映画全体としては,ややもの足りなさを感じた。素直なリメイク過ぎて,物語が単純過ぎる。王位を奪った叔父を倒し,前国王の息子が復讐する話は,もうどれだけ舞台劇化,映画化されて来たことだろう。これだけの映像技術を手の内に入れたなら,もっと壮大な物語,人間も登場する物語で使って欲しいと感じた。シンバとスカーのラストバトルも淡泊過ぎた。リアル過ぎて,これじゃ本物のライオン同士が闘っているようにしか見えず,感激も感動もなかった。
 ■ 加えて,CGがリアルで完璧過ぎるゆえに,動物が言葉をしゃべることの不自然さが気になった。『ジャングル・ブック』の動物たちも言葉を話したのだが,本作の方が,より不自然に感じてしまった。これは,所謂「不気味の谷」現象の変形版だと言える。人間の場合,顔面描写がリアルになるにつれ,急に僅かな違いを「不気味」に感じる現象が生じるが,動物の場合は,顔立ちがリアルでも不自然に感じず,言葉を話すことに違和感を覚える。その意味では,ここまでリアルな「超実写」にはせず,デフォルメして,擬人化されていた方が,言葉を話すことに違和感がなくなる。本作の場合,極端な抑揚で台詞を話す「ティモプン」コンビは,挙動も大げさであったため,最も違和感が少なかったと言える。
 ■ 本作のMPC社は,CG/VFXの主担当ではなく,単独1社での担当である。最近の大作では珍しい請負形態だ。『ジャングル・ブック』でのディジタル資産もかなりあったはずだが,同作で約800人だったクリエーター達は,本作では優に1,000人以上に膨れ上がっていた。来年のアカデミー賞で,再度オスカーを得る最有力候補と言っておこう。ハンス・ジマー,エルトン・ジョンが再登板した音楽に関しては,サントラ盤ガイドのページをご覧頂きたい。
 
 
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