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O plus E誌 非掲載
 
 
X-MEN: フューチャー&パスト』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2014 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月31日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2014年5月27日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  人気ヒーローの映画化権は従来のまま  
  人気シリーズの7作目だが,欧州では5月21日か22日,北米では23日公開で,日本での完成披露試写(ジャパンプレミア)が27日であったため,本誌6月号には全く間に合わなかった。試写を観た後,Webページ用記事をすぐ書きたかったのだが,この時期多忙で随分時間が経ってしまった。それでも当欄としては書き逃す訳には行かない作品なので,遅ればせながら記録に留めておこう。そうするからには,映画化権や過去のシリーズ各作品の整理もしておくことにした。
 本作は,『アベンジャーズ』シリーズや『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに負けじと,配給会社(20世紀フォックス)もかなり気合いが入っていたと感じた。ジャパンプレミアは,東京会場(TOHOシネマズ六本木ヒルズ)にウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンとミスティークの吹替え役の剛力彩芽が登場し,その模様が全国67箇所の試写会場に同時中継されていた。筆者が参加した大阪会場(TOHOシネマズ梅田)に至っては,同時双方向中継であり,大阪会場でのウエーブの様子や観客の声が六本木に送られていたという次第だ。「アベンジャーズを超える最大のオールスター集結」というキャッチコピーからも,ライバルへの露骨な対抗意識が伺える。
 21世紀に入り,CG/VFXの進歩でアメコミの人気作品が次々と実写映画化できるようになり,ブロックバスター映画の公開に伴って,原作コミックの売り上げにも大きな影響を及ぼすようになってきた。となると,上記の映画の宣伝合戦も,コミックの版元同士の競争意識の表われだろうと想像しがちだが,それは違う。『アベンジャーズ』に集結するする「アイアンマン」「超人ハルク」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」がマーヴェル・コミックのキャラクターなら,「X-Men」や「スパイダーマン」はDCコミック(「スーパーマン」や「バットマン」を有する)か,ダークホースコミック(「マスク」や「ヘルボーイ」を有する)かと思われそうだが,実は全員がマーヴェル・コミック所属なのである。元の版権と映画化権に関しては,契約上かなり複雑なのが現状である。
 かつて『ハルク』(03年8月号) はユニバーサル映画,『インクレディブル・ハルク』(08年8月号) はソニーピクチャーズ配給作品であったし,『アイアンマン』(08年10月号) 『アイアンマン2』(10年6月号) もそれぞれソニーピクチャーズ,パラマウント映画配給で公開されていた。この頃は,映画製作会社が個別に交渉して映画化権を得ていたようである。ところが,2009年にディズニーがマーヴェル・エンターテインメント社を買収して以降は,大半のマーヴェル・ヒーロー映画はウォルト・ディズニー映画配給網を経由してリリースされるようになり,同時に『アベンジャーズ』といったオールスター参加型作品が企画されるようになった。
 ところが,映画化で成功した既存の人気ドル箱シリーズだけは,映画会社の方が強く権利の継続を主張したようだ。このため,『X-MEN』シリーズは引続き20世紀フォックス映画,『スパイダーマン』シリーズはコロンビア映画(ソニーピクチャーズ・エンタテインメント)が,映画化権を継続して保有し,製作・配給している。その半面,各社が力を入れていて,独立したシリーズを構成しているため,この両シリーズでは,他作品との間でヒーローのクロスオーバーがないのが残念だ。
 という訳で,同じマーヴェル・キャラ同士で,熾烈な興行成績争いをしていることになる。それで各作品のクオリティが上がり,CG/VFXのレベルも向上するならば,当欄としては「もっと,やれやれ!」とけしかけたいところだ。
 
   
  X-MENシリーズの変遷と新3部作  
  そのマーヴェル・コミックで最大の人気を誇る「X-Men」だが,アメコミが浸透しない日本では知名度は低かったが,映画シリーズの上陸とともに,固定ファンも1作毎に増している。それでも,シリーズ各作品の順序や関係がよく分からないといった声をよく聞く。この機会に,それも整理しておこう。
 今回が7作目だが,
1. 『X-メン』(00年10月号)
2. 『X-MEN2』(03年6月号)
3. 『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06年9月号)
までは,3年おきに製作され,比較的素直にパワーアップしてきた。この3部作で,登場するミュータントたちも増え,ストーリーも複雑になり,重厚さも増していた。2作目で死んだはずのジーン(ファムケ・ヤンセン)が3作目で蘇生して敵方に回ったり,プロフェッサーX(パトリック・スチュワートとマグニートー(イアン・マッケラン)の20年前を描くのに,VFXの力を借りて若いルックスで登場するなどの工夫もあった。3作目は明示的に完結編とされていた訳ではなく,まだシリーズは続くなと感じさせつつも,完成度の高い作品だった。
 このシリーズを複雑にしたのは,ウルヴァリンに焦点を当てた,2本のスピンオフ作品の登場である。
4. 『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号)
6. 『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年10月号)
スピンオフならば,ウルヴァリンやその兄だけが登場するだけの方が分かりやすいのに,ミュータント仲間のサイクロップス,エマ・フロスト,総帥のプロフェッサーXまで少し登場させている。ミュータントは年齢不詳の上に,ジーンまで夢の中で再三登場するので,一旦いつの時代なのかが分からなくなってしまう。
 そして,シリーズを再活性化するために,1,2作目の監督であったブライアン・シンガーに原案・製作を依頼することになり,新3部作が企画された。本作は,その2作目に当たる。
5. 『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年7月号)
7. 『X-MEN: フューチャー&パスト』(本作)
8. 『X-Men: Apocalypse(原題)』(次回作)
 新シリーの開始を「リブート」「リボーン」と呼ぶ場合には,『スター・トレック』シリーズ,『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのように,主演級のキャスティングを一変し,物語を初めからやり直すことが多い。また,最近の傾向として,『バットマン ビギンズ』(05年7月号)『007/カジノ・ロワイヤル』(07年1月号)等は,1作目の物語の始まりを,前シリーズの時代以前にまで巻き戻して再設定している。
 この新シリーズの場合,さらに異なった手口を使っている。新3部作の時代全体が,旧3部作より前なのである。「5.」が1940年代に始まり,50年代から60年代を描いていて,「7.」の本作では1970年代が中心であり,次回作の「8.」は1980年代の物語になる予定である。つまり,3作の全体が21世紀を想定した旧3部作の前日譚なのである。
 新3部作の最初の前作で,若き日のプロフェッサーX,マグニートー役には,ジェームズ・マカヴォイ,マイケル・ファスベンダーを新たに配してきた。ところが,彼らが歳をとると,従来のパトリック・スチュワートとイアン・マッケランになるという両睨みのキャスティングである。そして,主要人気ミュータントも,しっかりウルヴァリン=ヒュー・ジャックマン,ストーム=ハル・ベリーの配役を崩さないでいる。これでは全く「リブート」でも「リボーン」でなく,ましてや「リメイク」ではなく,時間軸上の往来を許せば,全員投入のオールスター集結が簡単にできる訳だ。もっとも,これを平然とやられるから観ている側は,シリーズ全体の俯瞰が難しくなっていると言える。
 新3部作に関して,20世紀フォックスは,『ハリー・ポッター』シリーズよりダークなファランチャイズ・ムービーにしたいと述べ,ブライアン・シンガーは,『ダークナイト』シリーズをお手本に,重厚なドラマ性を打ち出したいと語っている。折角人気シリーズの幕開けを担当しておきながら,『スーパーマン リターンズ』(06年9月号) 等で回り道したB・シンガーは,遅れてデビューし,同ジャンルの映画で大成功を収めた年下のクリストファー・ノーランを相当意識しているようだ。
 
   
  時間軸を往復し,新旧キャストを見事に使った傑作  
  さて,前置きが随分長くなったが,新3部作の2作目である本作について語ろう。前作の監督であったマシュー・ヴォーンが製作の1人に回り,満を持して,B・シンガー自身が監督に返り咲いている。脚本は,3作目と前作(6作目)を担当したサイモン・キンバーグの筆なる作品だ。もうこれだけで,従来の成功作(図らずも当欄での評価の2本)を前提にし,継続性を重視した物語だろうと想像がつく。
 前作では,ケネディ大統領の時代,1962年のキューバ危機がX-Men達の活躍の場として描かれているが,本作ではニクソン大統領役が登場し,公民権運動やベトナム戦争が社会情勢として大きな役割を占めている。既に主要な登場人物の紹介は前作で済んでいるから,キャスティングも物語の前提も前作を素直に踏襲しているのかと思えば,とんでもない仕掛けがしてあった。
 時代は近未来の2023年,センチネルと称するバイオメカニカル・ロボット軍隊の攻撃を受け,ミュータントや人間たちの社会は絶滅の危機を迎えている。X-Men集団の総帥プロフェッサーX(P・スチュワート)は,宿敵マグニートー(I・マッケラン)とも共闘せざるを得ない危機的状況の中にある(写真1)。その最終手段として,センチネル計画が始まった1973年の世界にウルヴァリンをタイムスリップさせ,センチネル開発そのものを阻止することを試みる。かくしてウルヴァリンは1973年の自分自身に憑依して覚醒し,同時代のチャールズ・セグゼビア/プロフェッサーX(J・マカヴォイ),エリック・レーンジャー/マグニートー(M・ファスベンダー)を説得して,センチネル計画を阻止し,未来を変えるミッションに着手する……(写真2)
 
 
 
 
 
写真1 何と,宿敵同士のこの2人が手を組んだ
 
 
 
 
 
写真2 シリーズ全作品を通しての主役はこの人
 
 
  単に1973年にタイムスリップさせるだけでなく,ウルヴァリンは2023年の危機的世界との間を何度か往復する。何という巧みな設定だ。前作の主要な登場人物をそのまま使った上で,3作目までの配役もそのまま使うというダブル・キャスティングであり,X-Menの象徴であるウルヴァリン=ヒュー・ジャックマンだけは,そのまま両時代に登場できるという仕掛けだ。この脚本には原案があり,「X-Men: Days of Future Past」は1981年に出版され,1993年にはTVアニメ版も放映されているそうだ。その原作コミックでは1980年と2013年が交互に描かれていたのを,本作では1973年と2023年を往来するように脚色した訳である。
 未来から送り込まれたコマンダーという意味では,『ターミネーター』シリーズを彷彿とさせる。別世界との間を往復する下りは,『マトリックス』シリーズも思い出す。そうした著名SF作品のテイストを振りかけつつ,X-Menシリーズの人気キャラを随所に登場させ,ファン心理をくすぐる手口も使われている。さすが本シリーズの魅力を熟知している脚本家と監督であると感じる。
 まさにシリーズ中のオールスターの勢揃いであるが,とりわけ重要な存在は,エリック役のM・ファスベンダーとミスティーク役のジェニファー・ローレンスだ(写真3)。2人とも3年前の前作から出演しているが,その間に最も売り出した旬の俳優を前面に押し出すという戦術も見事だ。
 
 
 
 
 
写真3 売り出し中のこの2人の存在が目立つ
 
 
  多数のキャラの勢揃いでありながら,物語の流れは散漫ではない。アクション・シーンも満載だというのに,目まぐるしくて疲れることもない。物語の骨格がしっかりしていて,個々のシーンで活躍する人物がじっくり描けているからだ。ドラマ部分は,暗過ぎず,それでいてしっかり組み立てている。その感覚を助長しているのが,ジョン・オットマンの音楽だ。当欄ではしばしばハンス・ジマーの音楽を褒めてきた。彼の物語を盛り上げ,駆り立てるような音楽とは全く違っているが,本作のジョン・オットマンの音楽はさらに素晴らしく,物語を静かに支えている。彼が音楽と(映画自体の)編集の両方を担当していることも,プラスに働いているのだと思われる。
 そしてラストは,計画の阻止が成功し,ウルヴァリンが再び覚醒した時,2023年の世界は一変している。何という上手い(ズルい?)結末だ。SF映画ゆえの特権だ。これじゃ次回作以降何でもありで,今後どんな脚本の映画も通用することになる。色々なファクターを詰め込んで,それでいてファンを楽しませる様々な仕掛けも用意していて,間違いなく,シリーズ最高傑作だと評価できる。
 最後になったが,以下はCG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ まず冒頭の2023年のセンチネル軍とのバトルの描写が出色だ。原題CG/VFX技術も総動員で,ボリュームもたっぷり,質・量ともに見応え十分である(写真4)。本作のVFXは,MPCとDigital Domainの2社主担当体制だ。他には,Rhythm & Hues,Cinesite,Hydraulx,Method Studio等が参加し,プレビズは最大手のThird Floorが1社で担当している。
 
 
 
 
 
写真4 オープニング・シーケンスでの壮絶な戦い
 
 
  ■ 1973年のシーケンスは,随所でこの時代の描写の正確さに感心する。まだ40年前のことで,生き証人も記録映像もいくらでも存在するが,筆者のような同時代を実体験してきた人間には,懐かしさもひとしおである。室内の小物から,街全体をCG/VFXで加工している上での拘りも素晴らしい。とりわけ,ワシントンD.C.の種々の光景(写真5)は,実写映像をVFX加工したというより,ほぼ丸ごとCGで描いているなと感じることがしばしばである。
 
 
 
 
 
写真5 1973年の首都の光景が再三登場する
 
 
  ■ 全編CG/VFXシーンの連続であり,一々語ることもできないが,最もユニークで楽しいのは厨房のシーンだろう(写真6)。飛び散る食材や食器をCGで描き,静止させた銃弾を手で触れて弾道を変えるというお遊びは,思わず笑えてしまう。もう1つ上げるならば,エリックが自らのパワーで野球のスタジアムを破壊し,移動させるシーンだ(写真7)。その描写スケールにも,アイディアにも感心する。その他,パリでの平和サミット,ホワイトハウス前の庭でのセンチネル発表式典等々,CG/VFXの威力を感じたシーンは数え切れない。
 
 
 
 
 
写真6 厨房のシーンのCG/VFXは実にユニーク
 
 
 
 
 
 
 
 
写真7 エリックはスタジアムを破壊し,別の場所に移動する
 
 
 
  ■ 悪役であるセンチネルの造形も良くできている(写真8)。ミュータント側では,ビーストのCGメイク,変身シーンが良い出来だ。ミスティークの変身は多用されているし,各X-Menたちの超能力の表現も一段と向上している。2023年のシーンでも「どこでもドア」風の描写もなかなか楽しかった。
    
 
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写真8 悪役のセンチネルの造形も好い出来だ
(C) 2014 Twentieth Century Fox
 
   
   
   
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